軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第232話 山奥の村ハトハラーと彼らの行方

「お前が 神銀(ミスリル) 級をひたすらに目指し続けていたのにはそんな理由があったわけか……」

ロレーヌがしみじみとした口調でそう言った。

俺は、昔から誰に対しても 神銀(ミスリル) 級冒険者になりたい、という目標を言うことに躊躇したことは無かったが、その根本的な理由についてまともに他人に語ったことはなかったから、当然初耳だっただろう。

言いたくなかった、というより語るのが難しい話だったからだ。

長くなるし、そもそも他人の不幸話なんてそうそう出来はしない。

冒険者同士なら、俺に限らず誰だって何かしらの不幸話を持っているものだが、そんな話には触れず、ただその日の酒と食事を楽しむことの方が優先なのが冒険者というものだからだ。

忘れているわけでも、くだらないと思っているわけでもない。

本人にとっては重要で、人格を形成するのに重大な意味を持った経験だが、他人にとってはなんとも触れ難い話で、そういうもので場の空気を暗くはしたくない。

辛い日々を、仲間たちと飲み明かして忘れようとしているのに、わざわざ古傷をえぐって見せびらかすこともない。

そんな気持ちだ。

にも拘わらず、今日ロレーヌに話したのは、なんでだろうな。

そういう気分だったからかな。

空を見上げると星が瞬いている。

マルトではもっと空は暗く、星も少ない。

向こうは夜でも火や 魔力灯(ライト) が点っていて、ささやかな星の光はかき消されがちだからだ。

ハトハラーにはそんなものはほとんどない。

今日は村の中心でかがり火が焚かれているけど、それでもこれだけ見えるのだから。

「……でもまぁ、それだけ気合いを入れて頑張り続けても、俺は結局銅級止まりだったけどな。人生はままならないものだよな……」

俺がそう言えば、ロレーヌは、

「ついこの間まではな。ただ、これからは分からん」

と返す。

それはその通りだ。

今なら、本当にいつかたどり着けるかもしれないと言う気がしている。

神銀(ミスリル) 級に。

まぁ、どこかで足踏みする可能性も低くはないけどな。

あくまで、今はまだ、天井が見えていないと言うだけだ。

小さなころの俺だってそういう気持ちでいたのだから、あまり期待しすぎるのも良くないだろう。

出来ることはすべてやっていくつもりだが。

それからロレーヌはふと、

「そういえば、話の中で出てきた魔物だが…… 神銀(ミスリル) 級と互角に戦えるほど強大なものが、この辺りには生息しているのか?」

と尋ねてきた。

確かにそれは気になる事実だろう。

そんなものがいれば、のんびり宴なんてしていられないからな。

俺は首を振って答える。

「いや、少なくともあれ以来、見ていない。そもそも……今の今まで、どんな地域でもあんな魔物は見たことない。図鑑なんかで調べても見たが、見つけられたことはない。ロレーヌにも聞いたことはあるだろう? 人の身の丈を遥かに超えた、巨大で、かつ体に闇の衣を纏ったような光が浮かぶ狼型の魔物って言ったらどんなのがいる?って」

「あぁ……そう言えば、確かに、だいぶ前に聞かれた記憶があるな。そんな理由があったとは知らなかったが。確か、そのときは…… 巨狼(ガドール・ゼエブ) やガルム、マウィオングなんかを挙げたか?」

「そうそう。よく覚えているな。まぁ……どれも結局違ったけど」

ロレーヌが挙げたものはいずれも図鑑で調べてみたが、あのとき見た狼とは別だった。

大きさや形状が違っていたり、またあの闇の衣のようなオーラはどれも纏ってはいなかった。

魔物なんて、そのすべての生態や存在が明らかになっているわけではないから、仕方のないことだが、全く手がかりがなさそうだと分かってしまったのが少し残念だった。

「新種か、特殊個体かということかな。そうなると探すのは難しいか。今まで誰の目にも触れなかったか、目にした者は全員が口封じされてきたかということになる。その 神銀(ミスリル) 級が何か知っている可能性はあるが……」

「……ヴィルフリートか。あの人は今、どこにいるんだかな……」

ロレーヌに言われて、俺はそう返す。

ロレーヌはその言葉に首を傾げて、

「……会いに行ったのではないのか?」

と尋ねてきた。

当然の疑問だ。

しかし俺は首を振った。

「いいや。あれ以来、会えてない。探してもみたんだが……この国にはいないみたいでな。となると他国にいるってことになるだろうけど、せめて冒険者としてのランクをもう少しあげてから会いに行こうと思って……」

「それで十年上がらなかったと」

「……まぁ、そういうことだ」

情けない話だが、ロレーヌが言ったとおりである。

銀とか金とかにせめてならないと、道中色々と厳しくなるのは目に見えていた。

パーティだったらまた別だろうが、一人だと流石にな。

護衛依頼なんかを受けて他国に渡るにも、ソロの銅級では中々雇ってくれる相手もいない。

銀級になればソロでも雇ってくれるんだけどな。

「……では、商会の方はどうだ? その御者のアゼルという人が作るとか言ってた、ゴート商会は……?」

「少なくともこの国でその名前の商会は聞いたことがないからな。やっぱり他国でやってるか、未だに行商人をやってるか、別の名前で商会を作ったか……どれだかな」

あの雰囲気からして未だに行商人、の可能性が一番高そうではある。

が、実際がどれなのかは分からない。

やっぱり他国で働いているのかもしれないな。

なにせ、ヤーラン王国は本当に田舎国家だから……金儲けに向いている土地柄ではない。

当時、あの二人がこの辺りに来たのは、別に商売しに来たわけじゃなく、他に理由がありそうだったしな。

出身は西方諸国ということだったが、冒険者で 神銀(ミスリル) 級となると出身地なんて関係なく世界中を飛び回る。

あまりその情報に意味はない。

それでもまぁ、一度行ってみてもいいかもしれないが。

何か分かる可能性はゼロではないからな。

「会いにこいと言ってたわりには見つけるのが難しそうな二人だな……」

呆れたようにロレーヌは言うが、冒険者と言うのはそんなものだ。

アゼルの方も、遍歴商人だから、居所が定まらないと言う意味では似たようなものだろう。

仕方がない。

「ま、それでも 神銀(ミスリル) 級だからな。探そうと思えば意外と簡単に見つかる……かもしれない」

「……逆ではないか? 神銀(ミスリル) 級ともなると、その情報は国家的に制限されていることも少なくないからな」

この場合はどっちも正しいだろう。

神銀(ミスリル) 級にも色々いるからな。

目立ちたがり屋だったり、極端な秘密主義だったり。