軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第226話 山奥の村ハトハラーと帰路

「ええと、どこまで話したっけな……」

「お前にジンリンが将来は冒険者になりたい、と話した辺りまでだな」

「ああ、そうだった……」

ロレーヌの声に、確かにその辺りまで話したな、と思い出す。

なんだか遠い出来事を話していると、意識がぼんやりとしてくるというか、口が勝手に語ってしまうと言うか。

意識しなくなっていって、あれ、どこまで……という気分になるのだ。

楽しい思い出だが、辛い思い出にもつながっている話だから、余計に意識的には話せないようになっているのかもしれない。

ただ、体が覚えている記憶として、さらさらと俺の口から話が続けられる。

口の語る話は、徐々に破滅へと向かう。

思い出したくない、破滅へと。

◇◆◇◆◇

次の日は、もう出発だった。

どこに向かうかと言うと、ハトハラーの村だ。

宿で起きて、ジンリンとプラヴダと朝ごはんを食べてから積み下ろし場に向かうと、すでに父と母がそこにいた。

俺たちより早く眠ったのは、早くここに来て色々と作業やら手続きをしなければならなかったからだろう。

実際、昨日、積み下ろしをした物品の売却価格の査定もすでに終わっているようだった。

また、ハトハラー側が必要とする生活必需品などの物資についても、すでに馬車に積み込んでおいてくれていた。

あとは最後の荷物である俺たちを積み込んで、馬に鞭を入れるだけ、というわけだ。

「レント、ジンリン、出発するよ。早く乗り込みな」

プラヴダがそう言ったので、俺たちは頷いてさっさと馬車に乗り込む。

きびきびとした、上官に行動を命じられた騎士のような行動を二人そろってしているのは、昨日プラヴダにきつく叱られたことが大きく影響しているのは当然のことだった。

あんなに怒られるのはもう勘弁……。

俺もジンリンも、心の底からそう思っていたのは言うまでもない。

そんな俺たちの素早い行動のお陰かどうか。

出発の準備はかなり早く整い、御者台に座った俺の父ロクスタの声が響く。

「行くぞ。準備はいいな?」

荷台にはすでに俺、ジンリン、プラヴダ、それに俺の母メリサが乗り込んでおり、また荷物も積み込み終わっている。

それをメリサが確認して、ロクスタに言った。

「ええ、問題ないわ。出して」

「おう」

そして、親父が馬に鞭を入れた。

馬車がゆっくりと走り出す……。

短い滞在だったが、俺とジンリンにとってはこれで大冒険のつもりだった。

実際、大怪我をしかけたが、 妖精(フェアリー) なんてものにも会えたわけだし、子供にしては十分に冒険だっただろう。

冒険者になってから、 妖精(フェアリー) がどれだけ貴重な存在か、実感を伴って知ったしな。

帰り道で、プラヴダ婆さんが教えてくれたけど、貴重と言ってもサリアの花とかそれくらいのものだと思ってたんだ。

あぁ、サリアの花は、ハトハラー周辺に生えてる、特定の季節の満月の日にしか咲かない花な。

まぁまぁ貴重だよ。その代わり、たくさん採れるけど。

妖精(フェアリー) の方は本当は、そうそう会えるものじゃなかった。

村に戻ったら、ジャルやドルたちに話して自慢してやろう。

旅の空、ジンリンは特にそう思っていただろうな。

俺?

俺は俺でまぁ、色々否定的な言動をしていたわけだけど、それでも改めて町でのことを考えるとやっぱり楽しかったからな。

自慢、というほどではないにしろ、町に何があったのか、ジャル達に話そうくらいのことは思ってたよ。

ジンリンの大冒険と大失敗についても。

つまり、故郷への帰り道は、とても楽しいものだった、ということだな。

途中までは。

◇◆◇◆◇

「…… 妖精(フェアリー) を助けたって? それであんな危ないことをしたのかい」

馬車に揺られながら、俺とジンリンは、プラヴダに町であったことを説明した。

もちろん、彼女は驚いていた。

もしかしたら掘り返すことになって怒り出すかも、と俺なんかは若干震えていたけど、その辺り、ジンリンの方はあっけらかんとしているというか、全然問題なさそうに話していたよ。

いつもプラヴダに怒られているから慣れているのか、もともと度胸が据わっているのか……いや、その両方だっただろうな。

「うん。だって、タスケテっていうから」

素直に頷いて言ったジンリンに、プラヴダは呆れた顔で、

「 妖精(フェアリー) なんて滅多に会えるもんじゃないんだけどねぇ……村を初めて出てそんな経験をするとは。何かの星に愛されているのかね? ……まぁ、それはいいか。しかし、ジンリン、レント。 妖精(フェアリー) を次に見つけても近づくんじゃないよ」

そう言った。

その台詞は意外なもので、俺は尋ねる。

「あぶないことをするなってこと?」

しかし、プラヴダは首を振った。

「そうじゃない。いや、それもあるが……それ以上に 妖精(フェアリー) そのものに単純に近づくなってことだ。あいつらは、私たち人間と考え方そのものが根本から違っているからね。何をされるかわかったものじゃないんだよ。もちろん、個体差や種族差もあるから、一概には言えないんだが……実際接してみて、何かおかしい感じがしなかったかい?」

そう尋ねてきたので、俺とジンリンは顔を見合わせた。

そして思い出す。

……確かに言われてみれば、少し変だったかもしれない。

会話が通じない感じというか、人の事情を一切顧みない雰囲気と言うか。

あれをもって人間と考え方が違うのだ、と言われるとそうかもという感じだ。

「心当りがあるんだね?」

と、プラヴダは俺とジンリンに尋ねる。

どうやら、ジンリンも俺と同じ結論に達していたようだ。

プラヴダの質問に無言で肯定を示した俺とジンリンに、プラヴダは改めて言う。

「単純に木から落ちた。それだけが今回の危険だったわけじゃないってことだよ。 取り替え子(チェンジリング) には遭いたくはあるまい?」

そう言われて、俺たちは両親や親せきから、悪いことをすると 取り替え子(チェンジリング) されてしまうよ、と脅されていたことを思い出した。

誰が、とは言わなかったが……。

「あれって、 妖精(フェアリー) の仕業なの?」

プラヴダがそう尋ねると、彼女は頷いて、

「そうさ。人の気づかぬうち、人の子供を 妖精(フェアリー) のそれと交換してしまう。そんな習性が彼らにはある。人から見れば、自分の子供を他人の子供、しかも他種族と交換するなんてとてもではないが考えられないが……その辺りも、人と考え方が異なると言われる所以だね。彼らは私たちには理解しがたいものなのさ……」

そう言ったのだった。