軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第221話 山奥の村ハトハラーと許嫁の少女

「レント、それにジンリン、もう準備は出来た?」

俺の母さん……メリサが、俺と、村長の娘に向かってそう言った。

馬車に色々荷物を積み込むのは親父と村の若い男たちの仕事で、俺と村長の娘、ジンリンのすることなんて大してなかった。

でも、まぁ、色々出発する前にやることもあるからな。

すべて終わったのか、という意味で聞いたわけだ。

「うん、終わったよ」

「終わりました! いつでも大丈夫!」

俺と、ジンリンがそう言うと、母さんは笑って、

「じゃあ、馬車の荷台に乗りなさい。そろそろ荷物も積み込み終わるころだと思うし」

そう言ったから、俺とジンリンは馬車の方に向かった。

「ねぇ、レント、隣町ってどんなところなんだろうね? 村から出るの初めてだから、私、楽しみ!」

歩きながらジンリンがそう聞いてきた。

けど、村を出たことがないのは俺も同じだ。

基本的に村の子供っていうのは大概が十歳越えるくらいまでは村の中から出ないからな。

魔物や盗賊の危険があるから。

まぁ、ハトハラー周辺程の田舎加減となると、盗賊も中々来ないが、どっかの盗賊団から追い出されたはぐれ盗賊が地味に稼業に励んでいることもある。

それに魔物は儲けなんて関係なく襲ってくるから、旅は危険だ。

大人ならそれほど強くない魔物相手なら逃げられるし、子供は留守番という訳だ。

でも、例外もあって……。

将来、村の指導者なんかになる予定の子供は、親や親族に早いうちから連れられて、外に行くこともある。

ジンリンはその口だった。

俺の両親は指導者ってわけじゃないが、親父の方がもとはよそ者でな。

村に落ち着くまで旅をしていた人みたいで、こういう、村の外に行かないとならないときは代表としていくことが多かった。

母さんもそれについていきたがって、で、俺だけ残しておくのもあれだろう?

まぁ、どっかに預けるって手もあっただろうし、そのときまではそうされてたんだけど、五才にもなったし、そろそろお前も旅に慣れとけってことだった。

つまり、いずれ親父に代わって俺がこういうときに村の外に出る役目を負うことを期待されてたんだな。

とは言え、それでも俺はまだただの子供だ。

ジンリンに説明できる内容なんてなかった。

「僕も知らないよ。でも、外なんて怖いからなぁ……魔物とかに出くわさないといいね」

「レントは弱虫だね。魔物なんか俺が倒してやる! くらい言えないの?」

当時、ジンリンはなんというか、女の子にしてはやんちゃというか、男勝りなところがあって、木登りとかちゃんばらごっことか率先してやるタイプの少女だった。

対して俺はと言えば、引っ込み思案でな。

言葉遣いでもなんとなくわかるだろう?

家で静かに積み木でもしてる方が好きだったよ。

◇◆◇◆◇

「また、意外な……お前と来たら、その時分から木剣でも振って毎日修行していた者だと思っていた」

ロレーヌがそう言ったので、俺は笑う。

「まさか。いや……まさかってこともないか。そのすぐ後には修行し始めたからな。だけど。ともかくそのときまではそんな子供だったよ、俺は」

「かわいらしい、引っ込み思案の?」

「俺としては不本意だったが、顔立ちも女顔だったみたいでな。今はそうでもなくなったが、髪を伸ばしてると女の子みたい、とよく言われたよ。動きもおどおどとして、遊びもあんまり俺の方は木登りの類なんてしなかったしな」

思い出すに、女々しい性格だったように思う。

……今もそれはそれほど変わっていないか?

しかし、そのときの俺を見て、将来この子は冒険者になる、なんて予測できる人間はいなかっただろうな。

「つくづく意外だ。まぁ、顔立ちの方は……黙っていれば確かに、今も女顔かもしれんな。ただ、冒険者として年季が入っているから、多少険しくなって野性味が出てきているから打ち消されている、と言う感じか」

「お、俺の顔にも冒険者の貫禄が出てきているのかな?」

と冗談めかして言えば、

「……貫禄があるとしても今は良く見えんがな。仮面で」

と返された。

まぁ確かにその通りだ。

俺は首を振り、

「……残念だ。ま、ともかく、話を続けようか……」

◇◆◇◆◇

「おや、ジンリンは魔物を倒すのかい?」

俺とジンリンが話している後ろから、にょきりと顔を出してそう尋ねたのは、そのときの旅の供である婆さん、プラヴダだ。

それに振り向いてジンリンが言った。

「そうよ! この間、ジャルとドルと一緒に冒険者ごっこをしたの。二人はゴブリンで、私は冒険者の役をしたわ。ちゃんと倒せたもの」

「……本当かい、レント?」

とプラヴダが俺に聞いてきたので、俺は頷く。

「うん……僕は 冒険者組合(ギルド) の受付役だったよ」

と言った。

プラヴダはそんな俺たちの話を聞いて首を傾げながら、

「……役どころがレントとジンリンで逆なんじゃないかい……?」

と言っていたが、確かに今思うとその通りだよな……。

俺もジンリンもやりたい役をやっていたので何も文句はなかったが。

ジャルとドルはなぁ……文句しかなかっただろうけど、じゃんけんいつも負けるんだから仕方ないよな。

あいつらいつも同じ手しか出さなかったから。

その辺りを見抜いてジンリンはいつも勝ってた。

なんというか頭の妙に回る奴だったんだな。

俺?

俺はジンリンに指示された手だけ出してたからいつも勝ってたんだ。

談合じみてるよな。

それでも楽しかったけど。

プラヴダはそれから、ジンリンに言った。

「ジンリン、魔物ごっこは簡単に勝てたかもしれないけど、本物の魔物は恐ろしいんだ。もし、本当に襲われることがあったら、必ず逃げるんだよ。いいね?」

とかなり強めにだ。

プラヴダはいつもは穏やかな優しい雰囲気の婆さんだったけど、このときばかりは結構厳しめに言っていたな。

内容を考えれば当然だ。

それは、ジンリンも分かっているみたいで、

「……うん。昨日も聞いたもの。大丈夫!」

と素直に頷いていた。

「レント、あんたは……あんたは言われなくても逃げそうだね」

「当たり前だよ。命が大事だからね」

「……それでいい。ただ、男の子にしては覇気が足りない気もするねぇ……ジンリン、この子のどこがいいんだい?」

プラヴダがジンリンにそう尋ねると、

「レントは勇気があるから好きなの」

とさらりと答えてた。

当時の俺にそんなものがあるとは思えなかったんだけど、妙にすっきりした台詞で、プラヴダの婆さんも面食らった顔をしてたよ。

それからしばらく俺の顔を見つめて、

「……分からんね? 面白そうな子だとは思うが……勇気か。ま、あんたが言うならそうなんだろうさ。さ、そろそろ出発だ。馬車に乗るよ」

そう言って俺たちを急かした。

俺たちは前を進むプラヴダについて、馬車に乗った。