軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第200話 旅と同業者

「……子供、か?」

ロレーヌが森から現れたその存在を見て、そう呟いた。

しかし、そんなはずはない。

「こんな何にもない整備されてない街道のど真ん中に子供なんているはずがないだろ」

だから俺はそう言って否定する。

絶対にありえない、とまでは言えないかもしれないが、十中八九、そんなわけはないのだから。

大体、その《子供》には際立った特徴があった。

その《子供》は、俺たちの前に立つと、口を開く。

「…… 腐肉歩き(ゾンビ) どもをこちらに逃がしてしまったと思うとったが、お主たちが倒してくれたのかの?」

物凄い、時代がかった話し方だった。

俺たちの祖父母の時代、それよりも前の時代の言葉遣いである。

とは言え、何を言っているのかはわかるので、特に意思疎通に問題はない。

ロレーヌがその《子供》の言葉に返答する。

「あぁ……一応、私が倒した。そこに積もっている灰がそれだな」

と、積み上げられた灰を指さす。

《子供》はなるほど、と言った様子で頷き、

「灰に……ということは魔術師か。確かに見れば魔力も優れておる様子。それであればあの程度の 腐肉歩き(ゾンビ) など物の数ではあるまい。が、こちらにあれが来たのはわしが討ち漏らしてしまったからじゃ。悪かったのう……」

としおらしい様子で謝られた。

しかし、打ち漏らした、ということは、あの魔物たちはこの《子供》の討伐対象か何かだったのかな。

気になって俺は尋ねる。

「あの 腐肉歩き(ゾンビ) どもは……?」

「おぉ、あれはな、この辺りで四十年ほど前に滅びた村の村人たちの成れの果てよ。奴らは特に食事の摂取が不要じゃからの。誰かが討伐しない限りは、いつまでもそこにあり続ける。まぁ、村のあった辺りにはそれ以来誰も入ってなかったようじゃから、ほとんど休眠状態じゃったがの」

腐肉歩き(ゾンビ) たちは、食事の摂取が不要な代わりに、その活動は鈍く、また周囲に襲うべき生き物がいないときには完全に停止する。

その状態をもって休眠と言うのだ。

何かのきっかけで活動を再開するわけだが、おそらく今回はこの《子供》が廃村に入ったために活動し始めたのだろう。

なんというか、その状態に俺は何とも言えないものを感じる。

不死者(アンデッド) であるというのは、つまりそういうことなのだなぁと思って。

《死なない》ことと《生きている》ことはやっぱりどうしてもイコールで繋がらない。

ただあり続けたって、思い出す人間がいなければいないも同じなのかもしれないと。

……悲観的すぎか。

そんな表情が顔に少し出たのかもしれない。

《子供》が何を勘違いしたのか、言う。

「なに、すべて葬ってやったからもう現れん。流石にあの状態のまま、放置しておくのは不憫じゃしの。これでもわしは聖術師じゃから、邪気を払うのも得意じゃ。その灰の邪気も払って……むむ?」

言いながら、《子供》がロレーヌが燃やし尽くした 腐肉歩き(ゾンビ) の灰に近づく。

話の内容から、あ、ちょっとやばい、と思ったがもう後の祭りだ。

大体、本当に聖気を使えるというのなら隠しようがない。

そして、それは事実だ。

《子供》の手に聖気が満ちているのが見えるからだ。

なるほど、大量の 腐肉歩き(ゾンビ) を簡単に狩れるわけだと深い納得があった。

「……これは、すでに邪気が払われておるの? 魔術で焼き尽くしてもこれだけ灰にして集めれば消えるものでもあるまいし、聖水でも持っておったか?」

その言葉にロレーヌが懐から聖水の瓶を出して、

「あぁ、こういうときのためにな」

と言うと、《子供》は納得したように頷き、

「ほほう、最近の冒険者にしては殊勝な心がけじゃ。 不死者(アンデッド) はどこにでもおるが、倒したあとの処置を怠ると災害になるからのう。昔は誰でも聖水くらい携帯しておったもんじゃが、最近は……っと愚痴になってしもうたな。許せよ」

「いや……」

確かにここにも 不死者(アンデッド) はいるなぁ、と思いながら曖昧にそう返答する。

別に隠匿しているというほどでもないが、積極的に聖気使いだと喧伝したいわけでもないから、このまま流してくれれば、と思った俺だった。

しかし、《子供》は、

「しかし綺麗に浄化されておるのう…… 斑(むら) もない……聖水ではこれほどまでには出来んはずじゃが……やや!? これは……草? なぜ灰に……しかも、これは聖気を発しておる! の、のう、お主ら、何かわしに隠していることは無いか!?」

と慌てた様子になって尋ねてきた。

警戒して距離をそこそことっていたはずなのに、即座に詰められた。

冗談でもなんでもなく、聖気があるなしに関わりなく、かなりの手練れなのだとそれで分かる。

それでも、仮に攻撃されたら反撃するくらいの間はとれそうなので、まだ大丈夫だ。

それに、特に今のところ敵意は感じないため、武器を抜くわけにもいかない。

とりあえず、とロレーヌが《子供》の言葉に答える。

「……隠しているも何も、何もまだ話していないからな。お互いに名前すら」

至極全うな答えだ。

実際は確かに俺が聖気を使え、それによって浄化をした、ということを隠しているわけだが、別に嘘は言っていないのだからいいだろう。

ロレーヌの言葉に《子供》は納得したようで、

思える。

「……そうじゃったな。まだ自己紹介もしておらなんだ。お主らの警戒もそれが理由か?」

無邪気なようでいて、そんなことはまるでないことは、たった今見せた、その無駄のない動きでわかる。

頭の働きも早そうだしな。

俺とロレーヌが頷くと、

「……ううむ、やはり最近では中々見ない、骨のある冒険者じゃの。お主らの名前が知りたくなった。とは言え、まずはわしからじゃ。わしの名は、アルヒルディス。しがない冒険者じゃ。これで金級じゃぞ! ほれ」

と言って、冒険者証を掲げた。

なんだかんだ言って、冒険者証の提示が冒険者同士が出くわしたときにもっとも簡単かつ信頼性の高い身分証明方法であることは論を俟たない。

輝かしい金色に光るその冒険者証は間違いなく本物のようだ。

《子供》……アルヒルディスは未だ警戒を解かない俺たちに、親切にも冒険者証を投げ、

「気が済むまで確認すると良い」

とまで言ってくれる。

ここまでして偽物、ということもあるまい。

ただ、たまにいるからな。

冒険者証を偽造して冒険者のふりして襲い掛かってくる盗賊とか。

ここまででは、かなりその可能性は薄いが……。

しかしそれにしても俺もロレーヌも疑いすぎな感じはあるが、それもこれも結構仕方がないのだ。

いつもだったらここまで疑わない。

しかし、アルヒルディスと名乗った《子供》の容姿が大きく問題なのだ。

矯めつ眇めつ見て、どうやらやはり本物、と判明した冒険者証を投げ返してから、ロレーヌが言う。

「……疑って悪かった。しかし、こちらの気持ちも理解してほしい。エルフなど、こんな辺境では滅多に見ないものでな」

そう。

アルヒルディスの容姿は、際立って珍しかった。

特にこの辺境では。

それはそう言う意味だ。

輝かしいミディアムボブの金色の髪に、空よりも深い青の瞳、人よりも長く尖った美しい流線型の耳に、十歳前後にしか見えない容姿の割に、湛えている雰囲気は老成した何者かだ。

いくら愛らしい少女にしか見えないとはいえ、疑わない方が不可能、というものだろう。