軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 都市マルトの夫婦

案内された店の奥、そこは鍛冶場であり、かなりの熱気に満ちていた。

そこでひたすらに槌を振るう筋肉質ではあるが、細身の男が一人いて、一心不乱に剣を打っている。

それを見て、あぁ、これはしばらくダメそうだな、と俺は思った。

案の定、案内してくれたルカも、

「……申し訳ありません。これは、少々お時間がかかるかも……。一時間ほどすればお話しできる状態になると思いますので、それまではどこかで時間を潰していただければ……」

と、それこそ申し訳なさそうに言った。

しかし、俺はこんなクロープの姿は見慣れている。

彼は、武具を打つとなると、大抵こんな風になってしまう。

そしてそうなると、大抵話しかけても無駄だ。

場合によってはこちらに槌の一撃が飛んできかねないくらいで、こうなった彼については作業が一段落するまで放置しておくしかない。

それが分かっていた俺は、

「……い、いや、かまわ、ない。ここで、また、せて、もらって、も?」

するとルカは、

「ええ、構いませんが……むしろ、よろしいのですか? ここには面白いものは何もありません。退屈では……」

そう尋ねてきたので、俺は、

「かじ、しご、とをみる、のは……たいく、つ、じゃ、ない……」

そう答えた。

ルカは少しだけ驚いたような表情をしたが、すぐに通常のものに戻り、それから若干微笑んで、

「でしたら、そちらに椅子がありますので、ご見学ください。お飲み物をお持ちしますね」

そう言って去っていった。

実際、俺は人の仕事を見るのが好きだ。

どんなものでも、一流の人間のすることには何か大いなる流れのようなものがあって、見つめているとそれが分かってくる気がするからだ。

クロープは間違いなく一流の鍛冶師であり、その仕事には一種の美しさのようなものが感じられる。

それを見て、退屈だ、などとは俺は思わなかった。

◇◆◇◆◇

しばらく経って、断続的に聞こえていた鍛冶の音が鳴りやみ、鍛冶場に満ちていた緊張が霧散する。

クロープが今まで打っていた剣を見つめて、笑った。

おそらく、満足した出来になったのだろう。

いいことだな、と俺が思うと同時くらいに、クロープが振り返って、

「すまんな。待たせたらしい」

そう話しかけてきた。

どうやら存在に気づいていなかった、というわけではなく、鍛冶に集中していたかったが故の無視だったようだ。

途中で手を止めるわけにはいかない作業だから、むしろそれで当然であり、問題はないだろう。

だから俺は答える。

「……い、いや、かまわ、ない……。おもしろ、かった……」

その答えに、俺の目の前にいる、男、クロープはにやりと笑い、

「ほう、ルカがここに連れてくるとは珍しいことだと思ったが……面白そうな奴だな?」

そう言った。

クロープのその表情は、鍛冶師というよりかはまるで、敵を見つけた戦士のように不敵ですらあるが、それが似合ってもいる。

顔立ちは若くはなく、四十代手前、という感じだろう。

ルカよりもかなり年上に見えるが、実際のところ、二人の年齢は大して変わらないらしい。

らしい、というのはルカに直接年齢を聞ける人間がいないからで、クロープがかつて言った「あいつは俺の幼馴染だぞ」という言葉だけが彼女の年齢を推測するただ一つの材料だった。

ちなみに、直接年齢を尋ねたものの行方は杳として知れない……わけではないが、威圧的な笑顔に質問をひっこめざるを得なかったらしい。

つまり、教えてくれないという訳だ。

「おも、しろい、か、どうか、は、わか、らない、が……けん、を、つくってくれ、ると、きい、た……」

「あぁ、オーダーメイドか? だが、店頭には結構な種類の剣を並べておいたはずだが……。どれも自信作だ。わざわざ値の張るオーダーメイドを頼まなくても、探せば合う品があるはずだ」

クロープのこの言葉は、その口調が若干ぶっきらぼうなため、聞きようによっては断りの台詞にも聞こえるが、実際にはただ無駄遣いしなくてもいい、と言っているだけだ。

顔立ちも視線も鋭く、人を見つめるだけで泣かすことが出来そうな男であるだけに、話す言葉はすべて脅しか恫喝に聞こえてくるほどである彼だが、その中身は意外と優しいことを俺は知っている。

だから、俺は彼に気負わずに返答する。

「あそ、こに、ならんで、る、しな、だと、せい、きに、たえ、られ、ないか、ら……」

「せいき……聖気か。なんだお前、その見た目で聖職者か? だったら馴染みの鍛冶師がいるんじゃ」

「せい、しょくしゃ、でも、ない……ま、りょく、も、き、も、つか、える」

「まさか、全部持ち、か!? ……そうか、なるほどな。それなら、店頭の品じゃ、無理だな……ルカが通すわけだ。金は持ってるんだな?」

「てん、いん、が、いうに、は、じゅうぶん、なもの、がつく、れる、と」

「ルカが言うならそうなんだろうな……よし、分かった。早速だが、相談に入ろうぜ。予算の方も含めてな」

クロープはそう言って、どこからか椅子をもう一脚持ってきて、小さなテーブルに一緒につき、話を始めたのだった。

◇◆◇◆◇

「……ま、こんなところだな。あとは細かく調整していく必要があるから、その都度、連絡するが、いいか?」

「かま、わ、ない」

「よし。じゃあ、商談成立だな。よろしく頼むぜ」

クロープはそう言って手を差し出してきた。

握手を、ということなのだろう。

俺はどうしたものか、一瞬迷った。

この手は、不死者の手だ。

触れると色々と問題がありそうな気がした。

しかし、その逡巡も一瞬のことだった。

クロープには、俺が不死者だ、などとは話せない。

ただ……。

俺はクロープの手を握り返し、

「まか、せ、た」

そう言ったのだった。

◇◆◇◆◇

扉からお客様が去っていく。

変わったお客様。

ローブに仮面の。

しかし、その後姿には、ついこの間までこの店によく来ていた青年の面影があった。

けれど……。

「おう、ルカ。どうした。妙な顔して」

後ろから、私の主人であり、この店の主でもあるクロープが渋い微笑みを浮かべながらそう、話しかけてきた。

私は振り返り、答える。

「……分かってるでしょ? あれは……」

途中で言葉を切った私に、クロープは、

「……まぁ、な。最近街や酒場で見かけねぇし、どこ行ったのかと思ってたが……随分厄介なことになってるらしい」

「どうして、頼ってくれないのかしら? 私たち、そんなに信用がない?」

悲しくなって思わず言った言葉に、クロープは顎をさすり、答える。

「そうかもなぁ……おっと、冗談だ、冗談」

涙が出そうになった私に気づいたクロープは慌てて手を振り、弁解する。

では、どういうこと、と視線だけで訪ねると、クロープは、

「……迷惑かかると思ってるんじゃねぇか? なんであんなローブ着て、仮面つけなきゃならねぇのかはわからねぇが、何か呪われてるのかもしれねぇ。あいつが呪われたってなると、うちの武具の性能にケチをつけるやつも出てくるだろうし、そもそも、そういう客が来る店を揶揄する輩ってのもいるからな。誰だか分からない、呪われてるなんて知らなかった、もう二度と入れねぇ、って、後で俺たちが言っても問題ないようにとか、そんなこと考えてるんだろうよ」

「そんなことって! 貴方、そんなことしたりしないわよね?」

ずずい、と威圧感を持って迫る私に、クロープは、

「……当たり前だろ。別に俺はどうでもいいやつに何言われたって気にしねぇよ。ただあいつは、そういう水臭いところのある奴だってだけだ。ま、いいだろ。生きてることがわかったんだ。しばらくはあいつの好きなようにさせておけ。そのうち吐かせればいいんだよ……少なくとも、正体を匂わせるようなことは言ってくれただろ。断言はしなかったが、その辺りがあいつの譲歩の限界だったんだろう……それに、うちには変わらず来てくれるつもりみたいだしな」

言われて、私はそうだった、と思う。

かなり珍しい魔力、気、聖気の全部持ちで、かつ、ロレーヌちゃんの家に出入りしている。

それだけでも、相当なヒントだ。

それを私たちにわざわざ言ったのは、そういうことだった、ということに違いない。

ただ、もちろん、それだけでは、何があったのかは分からない。

人にとても言えないことがあったのかもしれない。

それでも、武器を求めにうちに来てくれたのは……それくらいの信頼はあるからだ、と思っても許されるだろう。

私は、それを理解させてくれた夫に、

「そうね……そうよね」

零れ落ちそうな涙をぬぐいながら、そう言ったのだった。