軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 都市マルトの鍛冶屋

あれから、ロレーヌに俺の迷宮での成果である諸々の素材や魔石などを手渡し、 冒険者組合(ギルド) で換金してきてもらったところ、結構な金額になったので俺の懐は今、非常に温かい。

清浄なスライムの体液についてはロレーヌ自身が購入してくれたことも大きい。

冒険者組合(ギルド) でも中々な高値で引き取ってくれる品だが、別に他のところに販売してはいけないと規約で決められているわけでもない。

誰に売ろうと、基本的に冒険者の自由だ。

ロレーヌは錬金術の類にも手を出している器用貧乏な人間で、自ら調薬して色々な薬剤を作れるから、素材は色々と求めており、その需要に合致したものを持ってきたとき、彼女は結構な値で素材を引き取ってくれる。

冒険者組合(ギルド) から購入すると中抜きがあり、それを考えればむしろ安上がりだとの話だ。

ちなみに、今俺が何をしているかというと、街中をうろうろ歩いている。

もちろん、久しぶりに思える街の空気をただ浴びようと言うわけではなくて、しっかりとした目的があってのことだ。

それは、武具の購入である。

屍食鬼(グール) になってから、というか 骨人(スケルトン) のときからずっと、俺は俺が生前持っていた武具を使って来たわけだが、防具はともかく、武器の方にかなりガタが来ているのだ。

生前から、数年使っていて、だからこそ、というのもあるだろうが、それ以上に単純な腕力やその他の魔力や気の力が上昇した影響を受けて、傷みやすくなっているようだった。

それも当然で、元々、気の力など一日に一回使えればいいか、くらいの感覚だったし、魔力や聖気などを武具に込めることもまずなかったというか出来なかったから、そういう用途に使うためには出来ていない、安物の武具を使って来た。

それが、ここ数日の魔力や気、聖気の多用によって、強い負担がかかり、かなり傷みが進んでしまったのだ。

これはもう、仕方がない。

本来はあと一年くらいは使うつもりだったが、数日迷宮に潜りきりだったから碌な手入れも出来なかった影響を受けて修復不可能なほどに傷ついてしまった。

ただ、力の上昇のお陰で狩りの効率が上がり、結果として懐も温かくなっているし、リナがローブなどを買って来たおつりも返してくれたから、合わせると結構な金額を持っているのだ。

ここら辺が、武具の買い替え時だろう、と思った。

まぁ、そうはいっても、防具の方はまだ、買えない。

なぜなら、それを買うためにはしっかりと寸法を調整しなければならず、そしてそのためにはローブを脱いで寸法を測ってもらう必要があるからだ。

別に、裸になるのが嫌、というわけではない。

初心な若い娘ではないのだ。

しかし、そんな娘よりもさらに、肌を晒すわけには行かない理由が俺にはある。

こんな、 屍食鬼(グール) の枯れ切った体を、一体誰に見せられるというのだろう。

無理だ。

よほど信用できる人間でなければ。

そこまでの信用を持てる相手など、俺にはロレーヌくらいしかいない。

ロレーヌについては、細かいことを気にしない大雑把な性格をしている、というのも大きいが……。

そもそも、信用だけが問題なわけでもない。

俺が、こんなものであるとばれた時に、関わりを持っていると言うだけで問題が生まれてしまう。

だから、今のところはロレーヌ以外にこの体を見せるのは厳しいだろう。

したがって、今日購入するのも武器である剣だけだ。

俺はたどり着いた目的の場所の看板を見上げながら、覚悟を決めてその扉を開いた。

◇◆◇◆◇

「いらっしゃい! ……?」

俺が店内に入ると同時に、そう声をかけてきたのは一人の女性だ。

この店、鍛冶屋《三叉の銛》の店主クロープの妻であるルカである。

金色の髪に青い瞳を持ったまるで貴婦人のような容姿を持った女性で、なぜクロープの妻になったのかまるで理解できない。

そんな彼女の視線が、俺を目に入れて一瞬止まった。

おそらくは、ローブで全身を隠していて、かつ顔に不気味な骸骨の仮面など被っているからだろう。

そう思い、俺はルカに若干近付き、言う。

「……ぶき、みな、みためで……す、すま、ない」

しかし、ルカはその言葉に慌てて首を振って、

「いえ! 違うんです。そうじゃなくて……ちょっと知り合いの人に似ていらっしゃったものですから。仮面を被る人は冒険者にはさして珍しくないですからね。こちらこそ、おかしな視線を向けて申し訳ないです」

そう謝って来た。

まぁ、こういう怪しい客にも慣れているのだろう。

それからルカは、

「……ところで、今日のご用向きは? 《三叉の銛》にいらしたということは、武具をお求めでしょうか? それともお手入れを?」

「あ、ああ。あたら、しい、けん、がほしくて、な……これを」

そう言って、俺は鞘に入った剣を台の上に置く。

特に説明せずとも、ルカにはその意図が分かったようで、

「では、失礼しますね」

そう言って、剣を鞘から抜いて、見た。

彼女はこの店の鍛冶師であるクロープの妻だが、こうやって店頭で客の相手をする関係で、その目は確かだ。

武具の種類は言わずもがな、品質や痛みもある程度は見ることが出来る。

そんな彼女の目から見て、俺の持ってきた剣はというと、

「……これは、買い替えるしかなさそうですね。何かご希望はございますか? 剣の傷みから見て、何か魔術か気の使い手とお見受けしますが……?」

そんなに簡単に分かることではないはずなのだが、彼女の目から見ると自明らしい。

別に隠すことでもないので、俺は素直に告げる。

「あぁ……まりょく、も、きも、つかう……せいき、も。だから、そのすべ、てに、たえられ、るような、けん、に、してくれ……」

「……全部持ち、ですか。これはまた珍しい。貴方で二人目ですよ」

「でき、れば、ひみつ、に……?」

「それはもちろんです。お客様の秘密を守れないようでは鍛冶屋は務まりませんから。しかし、そのご注文ですと……料金の方が。それに日数もかかるかと思いますが……?」

まぁ、それはそうだろう、と思っていた。

なにせ、魔力も気も聖気も使える人間など滅多にいない。

二つくらいならいなくはないが、三つは相当に珍しいのだ。

そんな人間のための武器など、そうそう作っているはずがない。

それに、通常、鍛冶屋は魔力か気を使う者向けに武具を作る。

聖気持ちはそもそも少ないうえ、聖職者が大半だから、彼らが武具を欲するときは贔屓の店に直接発注するからだ。

つまり、俺は相当珍しい注文をしているのだった。

だから、金額が嵩むのも分かる。

「かま、わ、ない。ただ……これ、がおれ、のぜん、ざいさん、だから……」

そう言って、布袋に詰まったなけなしの財産を台の上に置いた。

金貨や銀貨がかなり詰まっていて、俺からすると一財産である。

もちろん、高位冒険者からすれば大した金額ではないのかもしれないが……。

ルカは中身を確認し、それから、

「……これだけお持ちなら、十分なものが作れるかと。しかし、お支払いにつきましては、今のところは半値で構いません。もう半分は、お渡しのときに、ということで」

「いい、のか?」

かなり特殊なものを作らせようとしているのだ。

仕入れにもそれなりに金がかかりそうだ、と思っての台詞だったが、ルカは、

「ええ。ですが、その代わりと言ってはなんですが……主人……この店の店主兼鍛冶師クロープにしばらくお付き合いください。クロープは凝り性ですので……おそらく、作っている最中、何度かお呼びすることがあると思いますので」

そう言った。

クロープは、俺が冒険者になってから大分長い付き合いの鍛冶師だ。

だから、その性格も知っている。

普通の剣ならともかく、俺が頼むようなものを作るとなったら、徹底的にこだわって試作を繰り返すようなところがあることも、である。

だからこのルカの言葉はある意味で予想していたと言ってもいい。

俺はルカに頷く。

「かまわ、ない……その、とき、は、がくしゃの、ろれーぬ、のところ、に、れん、らくを、くれ」

ロレーヌから、街にいるときは自分の家を宿代わりに使うといい、と言われていたので、そういうことになった。

ルカは、これが今までで一番驚いたようで、目を見開いていたが、すぐに営業スマイルに戻って、

「承知いたしました。では、まず、こちらはお返しします」

そう言って、半値を抜いた財布を俺に返し、それから、

「では、こちらへどうぞ。クロープから、これからお作りする武器について、色々とお聞きすることがあると思いますので」

そう言って、店の奥へと案内したのだった。