軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第150話 下級吸血鬼と金勘定

「では、今日の本来の本題ですね」

とニヴが言った。

一瞬、それってなんだったっけ、と思わないでもなかったが、覚えている。

タラスクの素材の売却だ。

色をつけて買ってくれるということだから……いくらになるのかな?

最近欲しいものが出てきて金欠気味である。

金はいくらあっても足りない。

大地竜(アース・ドラゴン) の《魔鉄》を使った武具に、今のものよりもずっと大きな魔法の袋……。

しかし、

「買ってくれるつもりはあるのですね? 少し意外でした」

単純に俺をおびき寄せるための方便かもしれない可能性も考えていたが、そうではないようだ。

ニヴは、

「ええ、普通に買いますよ。タラスクの素材はそれなりに貴重ですからね。特に毒腺はいいです。 吸血鬼(ヴァンパイア) に良く効きます」

と答える。

「タラスクの毒に 吸血鬼(ヴァンパイア) は……?」

「あまり知られていませんが、 吸血鬼(ヴァンパイア) は高い耐性を持つ魔物ですが、タラスクの毒はよく効くんですよね。 下級吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア) であれば体が麻痺してしまいます。上位になればなるほど、効きにくくはなるのですが、それでもないよりはあった方がいいものです」

……俺は効かないのだけどな。

先ほどの聖炎によって判別もされなかったし、俺はやはり通常の 吸血鬼(ヴァンパイア) とは大きく異なっているのだろう。

そもそも 吸血鬼(ヴァンパイア) なのかどうかも疑うべきところなのかもしれないが……。

しかし、どんな魔物なのか確実に判別する、なんていうのは見た目とか特徴から見て、今まで集められた知識と照合して判断するしかない。

その結果として、俺は 吸血鬼(ヴァンパイア) だ、となったのだ。

もうこれ以上は調べようがないな……。

まぁ、それはそれで仕方がないか。

今気にしてもどうしようもないのだし。

それよりタラスクの値段だ。

「ニヴ様くらいのランクの冒険者なら、タラスクくらい狩れると思うのですが」

貴重は貴重だが、ニヴくらい強ければそうでもないだろう。

その分、金額は下がるのかなと若干不安に思っての質問だ。

ニヴは、

「狩ろうと思えば狩れるでしょう。ただ、タラスクは……どの地域でもそうですけれど、あんまり足を踏み入れたくない沼地に棲んでいますからね。準備も大変ですし、そんなことをしているくらいなら私は 吸血鬼(ヴァンパイア) の方を狩りたいです。幸い、たまにこうして狩ってくれる方はいるものですから。むしろ、レントさんはよくああいう場所に行く気になりますね?」

と尋ねてきた。

タラスクの住処はタラスクの分泌する毒によって、あのタラスクの沼のような有毒地帯になってしまう。

したがって、どんな地域でタラスクを探そうとしても、必ずああいうところを通らなければならない。

それは嫌だと言う話は理解できる。

いかにニヴでも毒と汚泥に塗れながら進むのは勘弁願いたいのだろう。

俺はどうかと言えば……。

まぁ、俺も好き好んでいきたいわけではない。

ただ……。

「色々と理由があって、採りに行かなければならない素材があったものですから。そのついでというか……」

この言葉に、ニヴは少し考え、それから、

「……ふむ、タラスクの住む沼地にしかない素材と言えば……《竜血花》に《毒浴鳥》、あとは……《タラスクの毒石》といったところでしょうか。お、どれかのようですね。なるほど」

表情に出したつもりはないが、なぜかニヴには今のでそう理解できたらしい。

ミュリアスは、

「……雰囲気や仕草に全く変化などなかったと思いますが……」

と俺の様子を評価したが、ニヴには分かってしまったらしいのでダメだ。

修行が足りないようである。

「さて、雑談はこんなところにしておいて、そろそろ商談と参りましょうか。シャール殿、今回のタラスク、オークションでは、いかほどで売れる予定でしたか?」

ニヴがシャールにそう尋ねると、彼は頷いて答える。

「通常、タラスクの素材は部位によって値段はまちまちですが、一匹丸々で言うと、平均から行って金貨60~から200枚の間で売却されています。ただ、今回のものは狩り方や解体に全く無駄のない、綺麗な素材でしたので……最低落札価格が金貨100枚から始めることになったでしょう。そこからどこまで上がるかは時の運だったでしょうが、今回出席される方の顔ぶれからして、金貨300枚よりも上がることは無かっただろう、と思います」

うーん、聞けば聞くほど俺のような一般庶民感覚からすると額がとてつもない。

タラスクはデカかったから、その分、一匹から採れる素材も多く、値段もつきやすいのかもしれないが、それにしても……という感じだ。

やっぱり場所が場所だから、中々出回らないのだろうな……。

「なるほど、でしたら……予定では落札価格の倍額で購入するという話でしたから、金貨600枚だった、というところから始めましょう。ただ、もしかしたら酔狂な人がいて、金貨4、500枚になった可能性はないではありませんよね」

イヴがそう、シャールに言うと、シャールは難しそうな顔をして、

「まぁ……そうですな。あまりないことですが、上げ幅の見通しを間違えて、10枚上げるところを100枚上げて青くなる方もいらっしゃるくらいですし。ただ、そういうことは起こっても一度でしょうな。ですから、金貨四百枚以上は絶対なかった、と言えるかと」

「では、倍額とは金貨800枚ということで。それで、それに加えて私の誠意ですが……通常、他人の生命を理由なく侵害した場合、賠償額は平民の場合はいくらでしたか?」

「……金貨10枚から50枚の間が多いですな。職業にもよりますが……私が殺された場合でも、金貨50枚は超えないでしょう」

これは俺も知っている話だ。

平民の命の価格は低い。

まぁ、それでもそれだけあればたとえば遺族が主を失って生活が安定するまでの時期を乗り越えてやっていくくらいには十分事足りる額でもある。

しかし、都市マルトにおいて、これだけ大きな商会の主であってもその額ということは、俺の場合は……。

まぁ、もっとずっと低いのは間違いないだろうな。

なにせ、明日をも知れぬ冒険者だ。

とはいえ、そういった場合の賠償額は領主が決めるのが普通で、建前上、同じ身分間では命の価値に差はないとされているから、額にあまり大きな差はない。

シャールが死んだ場合と俺が死んだ場合とでは、社会的損失に大きな違いがあるだろうが、そういうことはあまり考慮されないのだ。

これが貴族が死んだ場合となるとまた大きく話は変わってくるのだが、まぁ、それは今はいいだろう。

ニヴは言う。

「では、レントさんが殺された場合の遺族に対する賠償額は金貨50枚だったということにしましょう。私はそのようなことをしようとしていたわけで、しかも結果的に問題なかったとはいえ、だまし討ち紛いのことをしているわけですから……これも、その倍額ということにいたしましょうか」

つまりは金貨100枚を賠償額だと仮定すると。

高いなぁ、と思う反面、タラスクをこれから何体も狩れたのに殺されてその可能性をゼロにされてたわけだから、まぁ、妥当と言えば妥当か。

領主によって判断される、通常の場合には考慮されないところなので、良心的であろう。

「……合計金貨900枚、ということですか」

ううむ、それだけもらえれば俺の欲しいものは全部手に入りそうだ。

まぁ、魔法の袋で大半消えて、残りで武具を買うくらいになるだろうが……。

魔法の袋は高すぎるんだよな。

それでも今持っている奴の三倍くらいの容量の奴しか買えないだろうから。

タラスクくらい入る奴は……うーん、前オークションで見たときは、金貨1800枚くらいの値段がついてたなぁ……無理だな。

ニヴの提示に不満という訳ではないが、これからそのために金貨の貯金をするか、それとも諦めて小さめの魔法の袋を買うかで迷って、妙な雰囲気を出してしまったらしい。

ニヴはそれを勘違いしたのか、

「……足りませんか? まぁ、そうですよね……では、こうしましょう。キリよく金貨千枚、ということでいかがです?」

と、いきなり百枚上げてきた。

どんだけ金を持っているんだ、こいつは……。

いや、 吸血鬼(ヴァンパイア) 狩りの報酬はかなりいい。

それを頻繁にこなしているだろうことを考えるとおかしくはないか。

しかし……そんなにもらっていいのだろうか?

俺はちょっと悩む。

別にお金が嫌いな訳じゃない。

そうではなく、ニヴからあまり大量のお金をもらうと……なんだか繋がりの糸みたいなのが強くなっているようで出来れば避けたいなと思ってしまうのだ。

まぁ……連絡先もらっているのだから、今更なのかな?

いやいや、でもなぁ……。

と悩んでいると、ニヴはさらに勘違いしたのか、仕方なさそうに笑い、

「全く、交渉上手ですね、レントさんは……分かりました。さらに倍、出しましょう。金貨二千枚、これ以上はもう出せませんよ。流石に私にも今後の生活がありますからね」

と言って、机の上に白金貨を二十枚並べる。

……白金貨。

こんなに。

はじめてみた……。

心の中では唖然としていた俺である。

しかし、雰囲気には出さない。

今度ばかりは鉄の意志で表にはどんな雰囲気も出さなかったため、ニヴにも分からなかったようで、

「銅級ですのに、これを見てもそこまで不動の人は中々いませんよ。レントさんは 吸血鬼(ヴァンパイア) でこそなかったようですが、やっぱり、かなり稀有な人のようですね」

と妙な方向に感心していた。

ニヴの隣のミュリアスは、まさに唖然とした顔で口をぽっかり開けている。

シャールの方は、何か頭を振って、呆れたような顔をしていた。

ニヴの財力にか、ここまで額面を上げさせたように見える俺の態度にか……。