軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第143話 下級吸血鬼と商会

「では、気を付けて行って来い。商人というのは抜け目がないからな」

そう言って、ロレーヌが俺を見送る。

「あぁ。十分に分かっているつもりだが……」

人間だったときだって、貴重な品物を手に入れたことくらいは何度かあり、その際に大店の商人と話したこともある。

だからそう言ったのだが、ロレーヌは首を振って、

「前のときとは違うんだ。お前はその身自体が貴重品だからな。白金貨百枚くらい持っているつもりで用心しろ」

そう言った。

まぁ……確かにそうか。

吸血鬼(ヴァンパイア) が目の前にいたら、とりあえず捕獲か退治かってなるものだし、商人だったら捕獲一直線で動くだろう。

彼らには護衛などの関係で腕利きの冒険者との伝手も強かったりするし、そういうのを呼ばれているとやばいのは間違いない。

よくよく用心しなければならないと気を引き締めた。

……別に用心しないつもりだったわけではないぞ。

思っていた以上に、というだけだ。

「わかったよ……じゃあな」

そう言って俺はロレーヌに手を振り、街へと繰り出した。

◇◆◇◆◇

大通り沿いの目立つ位置に存在しているステノ商会の本店は、流石この街において上から数えた方が早い商会だけあって、かなり大きい。

五階建ての石造りの建物で、二階までが店舗部分、それより上は商会の事務所や倉庫となっているようだ。

店舗部分には常に人が出入りしていて、客足が尽きない様子が一目で理解できる。

生活雑貨から冒険者用の道具に至るまで、ありとあらゆるものを扱っているというだけあって、客層も色彩豊かだった。

まぁ、その中でも俺はかなり浮いているが……ローブはともかく仮面はそれほどいないからな。

全くいないわけでもないが、流石に髑髏の描いてある派手な仮面をつけている奴はいない。

大半は怪我や火傷などで顔を直接見せられないからつけるものであり、そういう事情から少し負い目を持ってしまう者が多いらしく、派手な仮面は敬遠される傾向にあると聞く。

それでも稀にど派手な仮面を身に付けている者もいるが、そういう者は今度は服装まで派手だったりするからな。

ローブは仕立てがいいけれど地味なのに仮面は派手に主張しているという、どっちつかずな俺はやっぱり目立つ。

だからと言ってどういうというわけでもないが……改めてこうやって昼間の街中でこういう大きな店の入り口前に立っていると、果たして俺が入っていいのかな?という気分になる。

それだけ夜とか早朝とか昼間でもあまり人通りが少ない目立たない時間を狙って行動してきた俺にとって、こういう人ごみは久しく味わっていないもので、そこでの作法というか、振る舞いに変なところが出ないかと緊張してしまうのだ。

これならまだ 大地竜(アース・ドラゴン) の前の方がどきどきしないかも……いや、そんなわけないか。

あんなものと相対したのだから、今更、一般人の人ごみ程度でびくびくするなよ、レント、と自分に言い聞かせ、俺はステノ商会の店内へと突入した。

「いらっしゃいませ、お客様。今日はどのようなご用件でしょうか」

店に入るとほぼ同時に、物慣れた雰囲気の細身の男が素早く寄ってきてそう尋ねてきた。

走ったわけでもないのに、その速度は冒険者のそれと勘違いしそうなほどに素早い。

流石、大店は勤めている従業員も質が違うな、と思う。

その辺の店だと入っても適当だからな……そっちの方が俺には気楽だが、高級品を買うならこれくらいの方が安心できるかもしれない。

任せておけば全て適切に選んでくれそうな物慣れた雰囲気がある。

まぁ、在庫を押し付けられたりする場合もないとは言えないだろうが、それをすればこれくらいの店となると後々客足が逃げることも理解しているだろう。

「あぁ……ええと、俺はレント・ヴィヴィエという者だ。この間、タラスクを持ってきた者なのだが……」

名前を名乗った時点で、男の顔には納得の表情があり、俺が言葉を切ると即座に、

「伺っております。こちらへどうぞ」

と言って店の奥へと案内してくれた。

店舗部分ではなく、事務所部分に当たる上階に昇降機を使って先導してくれる。

「……最近は来ていなかったが、こんなものまであるのだな」

俺が昇降機を見て驚いてそう言うと、男は、

「ええ、つい最近導入致しまして……王都の魔道具職人の手によるもので、このマルトにおいては当店のみにしかございません。しかし、当店にご来店されたことが? 失礼ですが、いつ頃……?」

王都の魔道具職人か。

昇降機は以前、ロレーヌの本で読んだことがあるくらいで、現物を見たのは初めてである。

西方の技術により開発されたものらしく、ヤーランに入ってくるのはいつ頃かな、と思っていたが、すでに入ってきていたらしい。

辺境の辺境であるここマルトにまで来ているということは、王都の店には沢山あるのだろうか?

いや、でも王都の職人でないと作れないと言うことはそこまで普及しているわけではないのかもしれない。

この店の、営業能力を見せるための施設といった所だろうか。

また、俺がいつ来たのか尋ねているのは、この男が客の大半の顔と名前を憶えているからかもしれない。

俺の方はと言えば、どの店員と話して買い物したのかすらあやふやであるが、それくらい出来ないとこの店の店員としては失格なのかもな。

しかし、その質問は俺には困るのだ。

適当に誤魔化しておくことにした。

「……いつ頃だったかな。他の店と勘違いしているのかもしれん。マルトホオノキを買いに来たんだが……」

「あぁ、そちらでしたら、ウィータ商会の方でしょうね。あちらは冒険者の方向けに多くの質のいい商品が扱われておりますから。もちろん、当店も負けるつもりはございませんが」

と言われた。

マルトホオノキの葉は確かにマルト第一の商会と言われるウィータ商会の方に売っている品で、こちらのステノ商会にはないものだ。

もちろん、あえてそういうものを口にしたのだ。

男の納得は得られたようで、俺は安心する。

ちなみに、あれはあまり儲けの多くないもので、売るかどうかは店によって差がある。

俺たち冒険者にとっては必須であるので、ウィータ商会は昔から売っているが、あまりにもそこの印象が強いので、他の商会はあまり売ろうとしていない。

仕入れるのもその辺に生えているので簡単なんだが、大体がウィータ商会の方に行ってしまうから、意味がないのだろう。

他の品で客寄せはするということだ。

実際、十分な客が来ていることから、それで問題ないのだろう。

「……着きましたね。こちらが当店の五階です。応接室はこちらに……」

昇降機を降りると、男は再度、先導して歩き始めた。

そして一つの木製の高級そうな扉の前で止まる。

……高級そうな、ではないな。高級だろう。

なにせ、かなり細かい装飾が施されているし、ノブは銀製だ。

応接室だから気合いを入れているのか、それともそれだけ儲かっているのか……。

どっちでもいいか。

「では、どうぞ」

がちゃり、と扉を開き、中に入るよう促されたので、俺は入室する。

続いて男も入ってきて、扉を閉めた。

それから、

「こちらにおかけください」

とソファをすすめられ、さらに部屋にある棚から茶器一式を持ってきて、優雅な仕草で目の前に出してくれた。

温かい香りが広がる。

「当店で仕入れております紅茶でございます。よろしければ、こちらのお茶請けとご一緒にどうぞ。私はこれから主人を呼んでまいりますので、その間、お楽しみくださいませ」

そう言って、男は深く頭を下げ、部屋を後にした。

「……お、うまいな。こっちのお菓子も」

遠慮せずばくばく食べていると、こんこん、と扉が叩かれたので、俺はびくりとして慌てて茶器などを置き、出来るだけ冷静に聞こえるように細心の注意を払いながら言った。

「……どうぞ」