軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 屍食鬼のフィッティング

ごそごそと袋の中を覗くと、まず、目的のもの――つまりは、俺の体全体を隠すためのローブがそこにあるのが見えたので引き出す。

たたまれて収納されていたらしいそれを広げてみると、色合いは完全な漆黒で、フードまでついたタイプのものであるようだった。

主に魔術師などが好んで着ることの多いもので、以前の俺であれば、まず、店に置いてあっても手に取ることはないような品だ。

ただ、今の俺にとってはその誰も目を向けないような地味な色合いと、体全体を頭のてっぺんから爪先まで隠せる形状が素晴らしく、金貨を出しても問題ないなと思ってしまうほどに魅力的だった。

服を買ってきてくれ、の一言でこれを選べる少女冒険者リナの確かなファッションセンスに拍手を送りたい気分である。

……ともあれ、とりあえず着てみることにしよう。

実際に袖に腕を通してみると、中々にいい生地を使っているらしく、触り心地が結構良かった。

こんな枯れ切った肉しかない体で触覚が生前と変わらず働くことは極めて不思議なのだが、冷静に考えなくても俺は魔物なのだ。

きっとそういうものだと思っておこう。

また、着心地以外にも、一応冒険者としてまだまだやっていくつもりの俺としては、動きなどを阻害しないかが問題である。

確認してみると、確かに頭まですっぽり覆ってしまうと視界が少し悪くなったが、それでも十分に前方は見えるし、周囲もある程度は確認できる。

流石に敵に囲まれてしまっているような場合には、フードはどうしても取らざるを得ないだろうが、魔物の一匹や二匹とならこの状態でも十分に相対できそうだった。

「……どうですか? お気に召していただけましたか?」

「……おぉっ……び、びっくりした……」

いつの間にやら近くにやってきていたリナが、俺にそう尋ねる。

さっきまで俺の容姿に大分怯えていた割に、距離がかなり近かった。

構えていた剣も一応持ってはいるが、今は俺に向けていない。

もう慣れたのだろうか?

そう思って、

「……き、きにいった……それにし、ても、おれの、こと……こわく、ない、のか……?」

「いや、まだまだ全然怖いですよ。ただ、色々人間っぽくない部分が隠れましたからね……なんとかこれくらいの距離には近づいても大丈夫です」

まぁ、近くと言ってもまだ三歩ほどの距離はある。

リナの剣の間合いのぎりぎり外側、くらいな感じだろうか。

何かがあっても対応できるくらいの距離をとっているあたり、警戒心は薄れていないのは間違いない。

それでもかなりの進歩ではあった。

そんなリナの行動を見るたび、思う。

龍に突然遭遇したり、食われたりした上、 骨人(スケルトン) にまでなった、客観的に見て極めて運のよくない俺だが、リナにあったのは本当に僥倖だったなと思わずにはいられない。

確かに命は救ったかもしれないが、それでもここまで先入感なく魔物とコミュニケーションをとる人間など、普通いないのだ。

未だにこの少女がなぜ俺にここまで協力してくれているのかは謎だが、ありがたいことこの上ない話である。

「あっ、そうそう。まだまだ色々買って来たものがあるんですよ……ほら、靴とか手袋とか。やっぱり街に行くとなると、その手足を見せびらかしてしまうとまずそうですもんね?」

リナはそう言って、袋から靴と手袋を取り出し、迷宮の地面に置く。

どちらも革製の仕立てのいいものだ。

色合いは両方ともやはり地味なもので、目立たないようにと選んでくれたことが分かる。

これは、非常にうれしいことである。

なにせ、そもそも俺はリナに服を買ってきてくれとしか頼んでいない。

だからローブだけを買ってくるのだろうな、と思っていたのだ。

それなのに、リナは俺の意図を汲んでくれ、色々なことを考えてこうして他にも必要そうなものを買ってきてくれたのだ。

どこの世界に魔物のために服を選んでくれる年頃の女の子がいるというのだろうか……。

魔物になってから初めて受けた親切に、涙が出てきそうな気分になる……いや、この体じゃ無理か。

ともあれ、靴と手袋もしっかりと装着する。

手も足も正直、生身と違って完全に乾いているので、通常の人間用に仕立てられたそれらがしっかりと嵌るのかどうか微妙だった。

しかし、最終的にはどちらも一応、身に着けることは出来たので良しとする。

ただ、靴については紐でぎっちりと結ぶことで無理やりフィットさせたが、手袋の方はぶかぶかである。

これでは剣を握るのは難しそうであり、少し悩むが、まぁ、街に行くときだけ着けることにすればいいだろう。

「おぉ、中々……迫力がありますね。なんだかそうしていると、 塚人(ワイト) みたいですよ? ……あっ、鏡もあるんですけど、どうですか?」

どこかの店の店員のような台詞をリナが言い(塚人みたいですよ、が褒め言葉になるかどうかはあれだが)、それから鏡を袋から取り出し、地面に置いて少し下がった。

……それにしても、これだけフランクに接しておきながら手渡しはしてくれないらしいことに若干傷つくが、仕方ないか……。

しかし、鏡まで持ってきてくれるとは本当に気が利くな。

骨人(スケルトン) になってからずっと、自分の顔がどうなっているのかは触って確認することしかできなかったから、気になっていた。

もちろん、元々の生身のときの、二十五にもなって十代に間違われてしまうような童顔ではないことは分かっていたし、かつての顔にそれほどの未練もない。

恐ろしげな顔貌になっていたとしても問題はなかった。

そう考えながら、俺はその金属を磨いた鏡を手に取って、見てみる。

すると、そこに映っていたのは……。

「……こ、これ、は……」

まぁ、概ね、想像通りと言っていい。

枯れた死体の顔だ。

目が落ちくぼんでいて、眼球が片方しかないのが少し予想外だったくらいだろうか。

それでいて俺の主観からは両目でものを見ているように見えているのだから謎だが、まぁ、こんな容姿なら両目か片目かなんて大した問題ではない。

どっちにしろ、死体面である。

ただ、もう一つ予想外だったのは、その顔に奇妙かつ複雑な刺青が刻まれていることだった。

しかも、それはなぜか淡い青色に発光している。

ぼんやりとした光は美しく、見ていると何か不思議な感覚を覚えるものであった。

神秘的な感じがしないでもないし、これが俺を魔物に変化させた理由と関係しているのかもと思わないではなかった。

けれど、それ以上に、まず、これは非常に困る。

なぜなら、こんなものがあったらせっかくの俺の変装が台無しだからだ。

端的に言って、目立ちすぎる。

ただ単純に刺青があるだけならそれでも別に気にしなくてもよかったかもしれないが、ここまで派手に発光しているのは流石に……。

フードを深くかぶってどうにか見えないように出来ないかと鏡越しにしばらく努力してみたが、まるで改善できない。

結果どうなったかと言えば、フードの中が青色に明滅する恐ろしげな 塚人(ワイト) が誕生したに過ぎなかった。

……いやいや。

困るんだけど。

どうすりゃいいのさ!

俺がそんな気持ちになって頭を抱え始めた時、

「あっ、そうそう。これ、頼まれてないんですけど、ちょっといいかなと思って買ってきちゃったんです……どうですかね?」

リナがそう言って、袋からまた何か取り出してきた。

次々に袋から色々なものを出しているが、そんなにものが入りそうな袋に見えないのだが……。

魔法の袋なのかな?

いや、今はそれはいいか。

それよりもリナが取り出したものだ。

それは、仮面だった。

顔全体が隠れそうな、骸骨を象ったおどろおどろしい感じの、仮面だ。

「……そ、それ、は……?」

それは、どんな意図で買って来たのか、という意味での質問だったが、リナはこれに明快に答える。

「レントさん、そのうち街にも入りたいでしょうし、そうしたら、その顔は隠したいんじゃないかと思って……流石に顔が光る人は街には入れてくれなさそうですもんね?」

まさにその通りである。

本当に気が利くな、この子は、と再度目頭が熱くなりかけたが……やっぱり涙は出ない。

頑張れば泣けるのか、それともなんとなく泣けそうな気がしているだけなのかは謎だった。

ともかく、俺は、例によってリナの気遣いによって購入されたその仮面を、置かれた地面から拾い、そして顔に近づける。

目の部分と口の部分にはしっかり穴が開いており、視界で困りそうな感じはしない。

これなら、被ってもいいかな……。

そう思ったところで、なぜか、仮面から物凄い吸引力を感じ、顔がぎゅぎゅっと引っ張られた。

「……うぁっ!」

妙な声が口から出る。

そして、気づいた時には、仮面は俺の顔に張り付いていた。

「わぁ~。似合いますね?」

リナの、妙に能天気な褒め言葉が聞こえて、俺も鏡を見てみた。

鏡には、骸骨の仮面を被った、怪しげな魔術師が映っていた。

……確かに、似合ってはいるような気がする。

まぁ、つい先日まで、俺は実際に骨だったのだ。

骨の仮面が似合わないはずがないだろう。

そう思う。

しかし、それにしても随分とすっぽり嵌ったな?

外せるのかな?

急にそんな不安が襲ってきて、俺は仮面に手をかけて外そうとした。

そうしたら……。

「……は、はずれ……ない……」

「えっ……」

俺の言葉に、リナの唖然とした声が響いた。