軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第116話 下級吸血鬼と割り込み

「おぉ、来たか」

解体場に辿り着くと、ダリオがその入り口で俺たちを出迎えてそう言った。

どうやら待ちわびていたらしいことがその雰囲気で分かるが、一体どうしたのかと疑問に思う。

シェイラの雰囲気からして、まだタラスクの素材の売却が終了した、という感じではなさそうなのだが……。

「何かあったのか?」

俺がそう尋ねると、解体場の主であるダリオは、

「まぁ、とりあえず入れや」

と解体場の中を示して俺たちを促した。

特に断る理由もなく、また何か込み入った話がありそうなことは察せられたので、素直に頷いて俺は後をついていく。

◇◆◇◆◇

「……それで、何かあったのか?」

俺、シェイラ、そしてダリオが解体場の中に設けられた事務所の椅子に座ったのを確認し、俺がそう口に出すと、ダリオは悩みつつ答える。

「あぁ……ま、大したことじゃねぇんだが……」

その話始めは大したことでないようにまるで聞こえないが、俺はその続きを待った。

ダリオは言う。

「お前の持ち込んだタラスクなんだけどな、とりあえず解体も終えて、品質を見る限り、オークションにかけるのが一番高値が付くだろうと思って、提携してるオークショナーに持っていくことにしたんだが……そこでちょっとあってな」

ちょっとって一体なんだ?

何か文句がついたということだろうか。

しかし、あのタラスクは、ダリオがパッと見で判断する限り、十分な品質、いや、かなり高品質なもので、滅多にみないとまで言ってくれたものである。

素材が悪いという文句をつけられるような筋合いの品ではないように思うが……。

そう考えると、ダリオもその点については、

「いや、品質に問題があったわけじゃねぇんだ。むしろ逆だ。品質が良すぎてな……オークショナーの方が、顧客に直接、持っていきたいって言い始めたんだ」

そう言う話か。

まぁ、ないでもない。

オークションにやってくる者は、色々な者がいるが、その中でも頻繁に利用し、かつ大金を常につぎ込むような人間というのは限られている。

たとえばラトゥール家のように、権力と財力の両方を持ち合わせている者だ。

そしてそういう者は、かなりの割合で、特殊な趣味を持ち、そのためには金に糸目をつけずに物品を購入する傾向がある。

ラトゥール家の魔道具収集がそのいい見本だろう。

同様に、どんな理由かはわからないが、タラスクの素材については強い執着を見せるだろう顧客に、そのオークショナーは心当たりがあったのだろう。

だとすれば、それは俺にとっても悪い話ではない。

そして、ダリオにタラスクの素材の売買については全権を委任している以上、高く売れるとダリオが判断するのなら自由にしてもらって構わないはずだが、なぜ、わざわざこんな相談をしているのだろう。

そう思って、俺は、

「……別に好きなように売却してくれて構わないが?」

そう言ったが、ダリオは難しそうな顔で首を振る。

それから、

「……売るのはいいんだ。それはあんたに任されたことだからな。それは好きにやらせてもらうさ。あんたが最大限利益を得られるように。ただ、今回のことはそうはいかねぇんだ」

その言い方に俺は大きく首を傾げる。

意味が分からない。

そう思ったからだ。

ダリオは続ける。

「……条件が付けられたんだ。オークションで予想される売却金額、その倍額で購入する代わりに、タラスクを狩って来た冒険者を紹介するように、ってな」

「それは……」

確かに、ダリオの一存では決められない話だ。

オークションというのは、良くも悪くも匿名であるのが基本だ。

売却する方も購入する方も、オークションの場において自らの身分を晒すことは基本的にしない。

それは、非常に価値が高く、珍しい品を扱うのが常のオークションであるため、そこで購入者や売却者の身分が明らかになれば、後々、襲われたり、脅迫されたりする危険性があるためであり、そのためにオークショナーは細心の注意を払っているという訳だ。

もちろん、オークショナーは購入者と売却者の身分を把握しているが、それを外部に漏らすことはまずない。

それをしてしまえば、オークショナーとしての信頼を完全に失ってしまうからだ。

例外は、本人の許諾を得た場合のみである。

そして、今回は、俺の許諾が必要だ、とそういうことなのだろう。

しかし、不思議だな。

俺を紹介してほしい、というのは、つまりタラスクを狩れるような冒険者を探しているという訳で、それくらいなら見つからないわけでもないだろう。

オークションでの推定落札価額の二倍も躊躇いなく払える財力があるのなら、別に普通に冒険者組合に行って金級を雇えばいいだろうに、わざわざ探しているのは……理由が分からない。

そんなことを考えていると俺の雰囲気から察したのだろう。

ダリオは言う。

「……かなり目の肥えた人らしくてな。一度、ここに来て、お前の狩ったタラスクを見せたんだが、その品質に感動したらしい。しっかりと根元から首を断ち切られているタラスク、他に傷はほとんどなく、ほとんど完璧な状態と言っていい。タラスクを狩れる冒険者は星の数いるけれど、ここまで素材としての良さを殺さずに持ってこれる冒険者はかなり少ないだろう、自分はその人物と知己を得たい、とそう言うんだ」

なんだか、べた褒めである。

確かに、結果としてタラスクの素材として重要な部分をほとんど傷つけずに手に入れることは出来たが、それは運が良かったという部分が大きいことを俺は知っている。

しかし、その人物は、俺がこれをあえて、良質な素材を得るために困難な方法にチャレンジしたと捉えているように思える。

だとすれば、過大評価も甚だしいのだが……。

そんな状態で会うのは、極めて不安である。

会った後で期待外れだ、やっぱり買うのはやめる、と言われたら困るのだ。

出来るだけ顔も名前も実力も広めたくない俺である。

そんな、財力も権力もありそうな人物と会うからにはそれなりのリターンがなければいやだ。

お金は大事なのだ。

なければ一欠のパンだけで数日を過ごさなければならない羽目になるのだ……あぁ、駆け出しのころが懐かしい。

あの頃は、よく腹を満たすために森の山菜を一生懸命採取していた。

冬場は凄い辛かったなぁ……。

「……おい、急にぼんやりとしてどうした?」

ダリオが唐突に自分の世界に入った俺に、心配そうにそう尋ねてくる。

俺ははっとして顔を上げ、答えた。

「いや……ちょっと考え事をな。なぁ、その人は、俺が会ったら購入を撤回したりはしないのか? こんなこと言いたくないが、タラスクをあれだけ綺麗に狩れたのはほとんど偶然だぞ?」

ここで嘘や見栄を張っても仕方がないので、正直に話す。

するとダリオは、

「別にそれくらいは俺も、向こうも分かってるよ。ただ、うまく狩れたことは運が良かったにしても、少しも素材の品質のことを考えなかったってわけじゃないだろう? いくらなんでもそれくらいは分かるぞ」

「確かにそうだが……」

ことさらにタラスクの鱗を傷つけたりしないで、最初から首の根元一本を狙って攻撃していることが傷から分かることを言っているのだろう。

そしてそれは事実だ。

ダリオは俺の答えに満足したようにうなずいて言う。

「たぶんだが、先方の求めているのはそういう、気遣いの出来る冒険者だろう。金級でも、いくらそういう話をしても理解できない阿呆は割といるからな。そういうの関係なく、見つけたらとりあえず知己を得ておきたいんだろうさ。だから、会ったからと言って、買わないとは言わないと思うぞ。そもそも、そこまで条件出して買わないというのは、そういう権力者にとっては恥をさらすに等しいからな。他に心配がないなら、会ってみたらどうだ?」