軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 屍食鬼の気づき

剣を振るって、何体目になるかもう数えていない、目の前の 骨人(スケルトン) を倒す。

生前の戦いの厳しさが嘘のように、軽々と 骨人(スケルトン) の背後を取り、真っ二つに出来てしまう。

信じられない。

別に、剣術の腕が変わった、という訳ではない。

ただ、身に宿る力――魔力や気、聖気の量が魔物を倒すごとに増していっている。

それらを使って体を強化すると、今まで重たかった体が、俺の意思通りに綺麗に動いてくれるのだ。

生きていたころは、頭にどう体を動かすか、よくイメージをしながら素振りをしていた。

血豆が出来、つぶれ、それでもなお素振りを続けて、けれど俺の体は俺の思考通りに動いたことなどなかった。

なのに、今はどうだ。

イメージすれば体はその通りに動いてくれる。

体がぶれることも少ない。

相手の動きもよく見えるし、感覚も鋭く働く。

きっと、俺よりも上に行くような奴らは、こんな風な世界が見えていたのだろう。

生きているときの俺には一切見えなかった世界が、今の俺には見えていた。

出来ることなら生きているときにこんな風になりたかったものだが、結局それは無理だったわけで……。

まぁ、それでも、死んでもこうやって意思を持って戦えているのだから良しとしよう。

これなら、いずれ 神銀(ミスリル) 級冒険者になれるかも知れないし……。

と、そこまで考えたところで、今更ながらに、ふと思った。

俺って、冒険者稼業を続けられるのだろうか、と。

冒険者と言うものは、基本的にどんな人間でもなれる。

もちろん、これはなるだけなら、という意味で、俺のようにクラスを上げられずに辞めていく者も多いわけだが、ただ冒険者として登録するだけならそれこそ年齢が十五になれば誰でもなれるのである。

けれど……。

果たして、魔物が冒険者になれるのか?

と聞かれると……。

なれるわけないだろ、という常識的な答えが俺の頭の中に浮かんできた。

考えてみれば分かる。

ある日、一匹の 屍食鬼(グール) がとことこと、 冒険者組合(ギルド) に入ってくる。

そして受付まで足を引きずるように進み、それから受付嬢に枯れた肉をつけた腕を伸ばし、呻くような声で言うのだ。

「お、おでを……ぼう、げんじゃに、じで、ぐだ……ざいっ!」

……ホラーだ。

絶対に受付嬢は、はい、とは言わないだろう。

受付の机裏にある緊急連絡装置のボタンを押して、強力な冒険者、もしくは 冒険者組合長(ギルドマスター) を呼び、そのまま、はい 屍食鬼(グール) 一体討伐しました、となって終了というのが目に見える。

しかし、だからといって、

なんだよ……俺、冒険者続けられないのかよ……。

とか考えるのはやめておこうと思う。

それよりも、続けられる方法を考えるべきだ。

なぜなら、俺は絶対に 神銀(ミスリル) 級冒険者になるのだから。

せっかく、最もネックだった才能の方について、魔物になったらしいことで解決の目途が立ってきたのだ。

それなのにそれが原因で冒険者を続けられないなんてことは困る。

ただ、やっぱりすぐにはこの状態で冒険者を続ける方法を思いつくことはできない。

何度も言うようだが、 冒険者組合(ギルド) は確かに誰に対しても冒険者の道への門戸を開いているが、魔物相手に開いているわけがない。

あの少女冒険者リナに体を隠す服を頼んだが、実際に彼女が俺にローブなりなんなりを買ってきてくれて、この枯れ切った体の大半を隠せたとしても、近づけば明確に顔が見えてしまうだろうし、書類を書いたり金銭や素材のやりとりをするときにはどうしても腕が見えてしまう。

今の俺の腕を見てみた。

……枯れている。

どうしようもないほど、枯れている。

少し前までちょっと色が茶色な感じの枯れた肉だったが、今では何だか黒みを帯びていて怖い。

こんな腕が目の前に差し出されて、特に何の反応もしない人間なんていないだろう。

もしかしたら、色々と考えたうえで配慮して触れないでいてくれる人はいるかもしれないが……。

いや、ダメだ。

俺、レント・ファイナという名前の冒険者は大した腕を持っていなかったが、それでも結構顔は広かった。

万年銅級冒険者として生きていても、すぐにやめろと言われないように色々と俺は努力していた関係で、知らない顔は少ないのである。

つまり、俺の容姿は 冒険者組合(ギルド) に所属する人間の大半が知っている。

そんな俺がある日突然、こんな腕を見せたら、絶対に色々と尋ねられるに決まっている。

別に興味本意というだけではなく、心配して、とか、迷宮で何か危険な魔物が蠢いている可能性なども考えて、情報収集のためにも尋ねられるはずだ。

そうなるともう……ローブは剥ぎ取られる可能性が高い。

腕だけならまだなんとか言い訳はつくかもしれない。

ちょっと変な魔物に生気を吸われて枯れてしまったんだとかなんとか。

しかし、顔を見られたら終わりだ。

鏡がないから分からないが、触り心地からして確実に 屍食鬼(グール) のそれになっているのだ。

どうやっても、何らかの理由で俺が魔物へと堕ちた、討伐しなければ、という話になってしまうだろう。

考えれば考えるほど詰んでいるな……。

そう思わずにはいられない状況である。

改めて決意が揺らぎそうだ。

しかし、一度決めたのだ。

とりあえず問題は見た目だけだし……見た目をどうにかすればまだ、何か開ける気もする。

やはり、当初の予定通り、存在進化を目指していこう、というところに落ち着く。

街に行っても、見た目がどうにかなるまでは、 冒険者組合(ギルド) には近寄らない方がいいかもしれないな……いや、しかしそうすると稼ぎの方がなぁ……。

色々難しい問題について思いを馳せていると、ふと、遠くから声が聞こえてきた。

「……レントさーん! ……レントさーん! どこですかー!?」

それは、昨日、服を購入してくれるように頼んだ、あの少女冒険者リナの声に間違いなかった。

◇◆◇◆◇

「……ひっ!?」

俺が近づくと同時にそんな声を上げたのは、やはり紛うことなき、あの少女冒険者リナである。

出会い頭に口にするものとしては酷い気がする飲み込んだような悲鳴であるが、今の俺の容姿を考えれば仕方がないだろう。

そもそも、リナは恐る恐るこう尋ねたくらいなのだから。

「……あ、あの……れ、レントさんで、よろしいでしょうか……? それとも、別の、 屍食鬼(グール) の方だったりします……?」

もちろん、剣を構えながらである。

まぁ、無理もないだろう。

屍食鬼(グール) の個体差を見かけで判断しろと言われても普通に考えて無理なのだから。

同じような色の同じような枯れた死体のどれが誰だか判別しろと言われても無理に決まっている。

だから、俺はリナの質問に答えた。

「……そ、そうだ。おれが、レントだ……」

若干、喋りがうまくなっているのは、あれから練習を重ねたためだ。

ちょっとだけ音声がクリアになっていて、聞き取りやすくなっているような気がする。

気がする、というのは実際に人に対して話していたわけではなく、独り言をぶつぶつ言っていただけだから、客観的にどうなのかが分からないからこその評価である。

しかし、リナは、

「……あ、よかった……。違ったらどうしようかと……ん? なんだか、お喋り、少し上手になったような……」

そう言ってくれたので、俺の感覚は間違いではなかったようだ。

「……れ、れんしゅう、した……もっと、はなせるように、なり、たい……から」

「そうなんですか! それはいいことですね。これから、街にも入られる予定なんでしょうし……あっと、そうだった。こちら、ご注文のお品と、お釣りです!」

そう言って、リナは足元に置いていた荷物を差し出してきた。

色々なものの入ってそうな袋だ。

もちろん、俺の注文の品ということは、そこには服が入っているのだろう。

俺はわくわくしながら、リナの方に近づこうとしたら、リナは袋を置いて若干下がった。

少しショックを受けたように俺が止まる。

すると、リナは、

「す、すみません……あの、まだ、ちょっと怖くて……慣れるまで、もう少し、もう少し時間を下さい!」

そんなことを言う。

……いや。

まぁ、仕方あるまい。

そもそも、こんな風に魔物にしか見えない俺とコミュニケーションをとってくれるだけで十分にありがたいのだ。

俺は、

「……い、いや……きに、しなくて、いい……それより、ふく、かくにんして、も……?」

そう言うとリナは、

「ええ! どうぞどうぞ! 服以外にも色々必要そうなものも購入してきたので、ご確認ください!」

そう言ったので、俺は袋に近づき、その口を開いた。