軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第108話 下級吸血鬼と服用

「……治るのですか? 《邪気蓄積症》が」

喉の奥から枯れたような声を出すリリアン。

その様子からして、彼女も容易には治すことが出来ない病だと良く知っていたことが分かる。

ウンベルトはその反応を見て、元気づけるように、自分の言葉が確かに真実だと印象付けるように、力強く言う。

「あぁ。あんたもさっきぶつぶつ言っていたから知っているんだろうが、《邪気蓄積症》の治療には《竜血花》が必要だ。しかし、それはすでに手に入っている。また調合もすでに終えているのだ。あとは、貴女が決められた量を決められた回数、定期的に飲むだけだ」

どうやら、一度飲めばそれで完治、というものではないようだが、別にそれはどちらでも構わないだろう。

服用すれば治ることには変わりないのだ。

リリアンも、そのことには理解を示したようである。

けれど、苦しそうな表情で、

「……いえ、しかし、私にはそのお薬を購入するお金が……」

と首を振った。

しかし、ウンベルトは、

「金は必要ない。そうだな、ノーマン」

そう言って横に立つ小太りの男を見る。

話を振られた本人である薬師のノーマンはウンベルトの言葉に深く頷いて、

「その通りさ。なにせ、今回は最も高価な素材の材料費がかかっていないからね……他の材料についてはさしたる金額じゃないし、実のところその損失を十分に補填する利益もあった」

と答える。

利益があった、とは俺が渡した《竜血花》の余分でリリアンのためではない薬を製作し、誰かに売りつけたという所だろうか。

貧民街の者たちのために薬を作って配るような話をしていたが、すべてをそのようにする必要もない。

全く利益が出なかったらそんな活動もずっとは続けていられないだろうし、その辺りはうまくやっているのだろう。

あんまりあくどいことをしているようなら、やっぱり渡した《竜血花》は返せ、と言いたくなっただろうが、おそらくはそういうことはない……と一応信じておく。

身に付けているものからしてかなり困窮していることが分かるし、儲けはそれほどでもないだろうと想像できるからだ。

まぁ、変装としてそんな服装を持っているだけと言う可能性も考えられるが、そこまで言い始めるとキリがないしな。

「材料費がかかっていないって……《邪気蓄積症》の治療には《竜血花》が必要だとたった今、言ったではないですか。あれは購入には金貨が必要なものだったはずですよ。仮に自分の手でとってくるにしても……ウンベルトが昔、冒険者をしていたことは知っていますが、失礼ながら《タラスクの沼》を攻略できるほどの腕だったとは聞きませんし……」

リリアンは不思議そうに、また疑わしそうにウンベルトとノーマンにそう言った。

やはり、俺の予想通り、ウンベルトは冒険者を過去、やっていたらしい。

しかし、そこそこの腕だったようだ。

銀級下位程度だったのだろうか?

治癒術師だから、銀級上位くらいだったとしても、ソロでは行けるようなところではないが。

ウンベルトもリリアンの言葉に納得したようにうなずいて、

「当然、俺には無理な話だ。だが、今回は誰がツイていたのかは分からないが、運よく、《タラスクの沼》から格安で《竜血花》を採取して来てやるっていう、善意の冒険者がいたんだ……なぁ」

俺の顔を意味ありげに見ながらそう言った。

リリアンは唖然とした顔で、しかし、俺がもともとどういう理由でここに来たと言っていたのかを思い出したらしく、尋ねる。

「……レントさんが? けれど、孤児院の地下の魔物退治を引き受けてくださったと……」

確かに、リリアンにはそのように話していた。

しかしそれは、アリゼがあえてそう言っただけだ。

俺が依頼を引き受けても言わなかった理由はなんとなく理解できる。

あのとき、アリゼは俺のことを心底信じていたわけではなく、俺が本当に《竜血花》を取ってこられるかについて疑問を感じていたのだろう。

そして、そのことは別に間違った判断ではない。

その辺の冒険者に簡単にとってこられる素材ではないし、実際、俺はそこそこ苦労したのだから。

それについて、俺は説明する。

「あれは方便だ。そもそも、《タラスクの沼》の攻略自体、うまくいくかどうかも分からなかったからな。薬が出来るまで言わない方が良いだろうという配慮だったはずだ」

もちろん、俺のではなく、アリゼのである。

俺に依頼をする前に話していなかった理由としては、そもそも、依頼を出したはいいが、受ける人間がいるかどうかも分からないし、受ける冒険者が来たとて失敗する可能性もあったというのが大きいだろう。

ぬか喜びさせるくらいなら最初から言わない方がいい、とアリゼが思っていたわけだ。

そして、俺が依頼を受けてそれを貫いた。

それだけの話だ。

どうしようもなくなったときは、自らとってくるという覚悟を決めながら。

改めて考えるに、実に肝の据わった子供であるな、と思う。

どんなに思いつめてもそこまでは考えないだろう。

《タラスクの沼》は大人のそれなりの冒険者ですら率先しては絶対に行きたくないような場所だ。

そんなところに、たとえ一種の無謀であるとしても、自分が行くと決めると言うのは結構凄いことだと思う。

それだけ慕われているリリアンも中々だ。

「そう、だったのですか……でも、そんな、どうしてレントさんはそんな、《竜血花》などとってきてくださったのですか……?」

「それはもちろん、依頼だったからだ」

この際である。

全部説明するために、俺は言う。

「誰から……?」

「分かるだろう? 依頼者の欄には、マルト第二孤児院の孤児一同、って書いてあったぞ」

「あの子たちが……」

唖然とした表情をしつつも、リリアンの顔には同時に納得もあった。

この状況で、誰が依頼するのかは聞かずともなんとなくわかる。

そんなリリアンに、俺は続ける。

「特にアリゼは……さっきの俺たちの話につながるんだが、もし、誰も《竜血花》を採取してきてくれないようなら、いずれ自分が冒険者になってとりにいくつもりだった、とまで言っていたくらいだ。かなり慕われているんだな、あんたは」

「アリゼが、そんなことを……? なるほど、それで冒険者の話をしたのですね……」

リリアンは俺たちがアリゼが冒険者になりたがっていると聞いた、という話をしたことを思い出したのだろう。

納得したようにうなずいた。

それからウンベルトが、

「ま、その辺りの話は後でしてもらうとしてだ。とにかく、あんたの病気は治る。薬もしっかりとノーマンが作って来た。受け取ってくれるな?」

そう言ってノーマンを促す。

ノーマンは持っていた鞄から木箱を取り出して、リリアンに手渡した。

リリアンが恐る恐るそれを受け取り、蓋をあけると、そこには小指の先ほどの大きさの丸薬が数十個入れられている。

「これを毎日一粒、一月前後飲み続ければ、貴方の体の中に巣食う《邪気》は徐々に分解され、体の外に排出される。それで《邪気蓄積症》は治るんだ。まぁ、服用すべき期間は実のところ結構個人差があって、長引く場合もあるんだけど、まだ薬はあるから、足りないときは追加で出すから安心してほしい。少しずつ体が良くなっていくのを実感できるはずだから、毎日忘れずにこつこつ飲むようにね」

ノーマンがそう説明する。

それに対して、リリアンは丸薬を一粒取り出し、見つめながら、しみじみとした様子で、

「……本当に治るのですね……皆さん、本当にありがとうございます。この御恩は、一生忘れません……」

そう言って頭を下げる。

それから、ぽたぽたと、ベッドの上に涙が零れ落ちた。

そして、それと同時に、扉を叩く音がして、

「椅子をお持ちしました……って、あれ」

扉を開けたアリゼが、部屋の中の様子に驚いたように口を開いた。