軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第101話 奇妙な依頼と羽の力

ダメージはない。

もう一度言う。

ダメージはない。

「……なんなんだ……」

壁から頭を引き抜くと、パラパラと壁の残骸が落ちてきて顔にかかる。

かなりの速度で突っ込んだからか、壁の残骸は粉になっていて、俺の仮面を白く染めた。

「その台詞は私が言いたいところだが……ともかく、無事か? 物凄いスピードで突っ込んでいったぞ、お前」

振り返ると、ロレーヌが何とも言えない顔でそう言った。

彼女からすればそんな貌もしたくなるだろう。

空を飛ぶ実験をしていたのに、いきなりその場から掻き消えるようにすっ飛んで壁に激突したのだから。

「あぁ……存在進化したお陰なのか、全く痛みはないからな。怪我もないと思う」

そう言った俺の体をロレーヌは観察し、

「たしかに、無傷だ。……この家の方が大けがと言ったところか。まぁ、直しておこう」

そう言ってロレーヌは呪文を唱えだし、俺が突っ込んで大穴をあけた部分をものの数秒で修復してしまう。

壁はレンガで形作られていて、それを魔術で修復することは不可能ではない。

しかし、攻撃用の魔術ではないが、かなり高度で複雑な構成が必要なはずの魔術だ。

ただ、ロレーヌはむしろそういうものの方が得意で、鼻歌交じりにやってしまう。

こういった魔術を身に付けているのは、王都で貴族などの依頼を受けて城や邸宅を作る建築家集団に所属する魔術師くらいであり、かなり珍しいものだ。

身に着けるのが大変だし、身に付けても使い方が難しいからである。

それなのに、ロレーヌは……。

学者を辞めてもどこでも食べていけそうでうらやましい限りだ。

俺はなぁ……あぁ、 冒険者組合(ギルド) が職員として雇ってくれるかな。

シェイラがそんな話をしていた。

まぁ、別に冒険者をやめるつもりはないけれど。

「……こんなものだろうな。で、さっきのことだ。あれはやはり、羽に気を込めたから、ということでいいのか?」

壁を修復し終えたロレーヌが、俺に改めてそう尋ねてくる。

俺は頷き、答える。

「そうだな。ただ、魔力をたくさん込めて大して浮かばなかっただろ? だからこんどは一気に込めても大丈夫かなと思って……」

「……お前は、用心深いのか考えなしなのかたまに分からなくなるな……。別に一気にやらなければ死ぬわけでもあるまいに」

ロレーヌはあきれ顔でそう言う。

まぁ、確かにその通りで、本来なら魔力のときと同じく少しずつ力を込めていくべきだった。

ただ、空を飛びたいという気持ちが強すぎて、気が急いてしまったところがあるのも否めない。

「……次は気を付けることにする」

「それがいいだろうな……で、今度こそゆっくり気を込めてみたらどうだ?」

そう言われたので、俺は頷いてその通りにしてみる。

また吹き飛んでは問題なので、出来るだけ部屋の中心に行く。

壁に背を向けて端っこの方がいいのかもしれないが、どっちに吹き飛ぶのかすら正直分からないからな。

まぁ、さっきみたいな無茶をしない限りは、あんな吹っ飛び方はおそらくはしないだろうというのもある。

事実、少しだけ気を込めると、前方に向かう推進力が羽から発せられたのが感じられたが、その程度だった。

やはりさっきのはやりすぎだったということだろう。

気の込め具合を徐々に増やしていくと、推進力は徐々に強くなっていき、これ以上は部屋の中では危ないな、というところでいったん止める。

これはここではこれ以上試すのは難しそうだ。

俺のそんな様子を見て、ロレーヌは、

「魔力では浮遊が出来て、気で推進力が発生するということかな? 魔力だけでは進めないのか?」

「いや……そういうわけでもないな」

俺はそう言って、実際に今度は魔力を込め、浮き、そして前後左右に動いて見せた。

あまり速度は出ていないが、動けないわけではない。

歩くくらいの速さというところだろうか。

「魔力と気を併用して飛ぶことは出来るのか?」

「それはまだやってみてないな……どれ」

両方を同時に扱う技術はそれなりに難しい技術とされていることは、魔気融合術の関係で言われていることだが、俺には一応それが出来ている。

精度や威力などを見れば、きっと正しく修行を積んだ人から見ると甚だ怪しい技術レベルかもしれないが、慣れてはいるのだ。

つまり、羽に魔力と気、その両方を注ぐことは出来る。

不安があるとすれば、さっきみたいな急加速が起こらないかと言うことだ。

これは魔気融合術の効果を考えるとそういう話になるからこその不安だ。

剣に魔力と気を注ぐと、それが命中した相手は内部から破壊されて爆散するからな……。

俺の羽が爆散とかは勘弁願いたいと思うのも当然の話だ。

よくよく注意しなければ……。

そんなわけで、かなり怯えつつ、びくびくしながら魔力と気を羽に注いでみた。

すると、意外なことに爆散はしなかった。

それどころか、しっかりと前に進めている。

気を込める量で、速度も調整が出来、中々悪くない。

俺、飛べてる!

そんな感じがする。

まぁ、浮かんでいる高度は何も変わらず低空なので、ちょっとあれだけどな。

気を強めに注いで、高度を高く上げることは出来そうだが、当然、そこから徐々に高度が下がっていくため、出来て滑空と言うことだろうか。

俺はモモンガに存在進化した!

いや違う。そうじゃない。

なんで 屍鬼(しき) の次にモモンガにならなきゃならないんだ。

しかしそれにしても、なぜ爆散しないのか……と思って意識を集中してみれば、羽に注がれた魔力と気の流れが感じて理解できた。

羽に流れている魔力と気、それは魔気融合術を使ったときのように、混じり合ってはいないのだ。

俺の蝙蝠のような羽には、膜の部分と、それを支える骨のような部分があるのだが――ロレーヌ曰く、蝙蝠の羽だとすると、膜の方は飛膜、骨の方は指骨というらしい――魔力は飛膜の方に流れ、気は指骨の方に流れている感じがするのだ。

反対に流せるかを試してみるが、無理なようで、やはり魔力と気が混ざらないようになっているようだった。

やっぱり混ぜると爆散するから、あえてそういう作りになっているのだろうか?

魔物の体のつくりはよくわからないな……。

ロレーヌに感じたことを説明してみれば、

「ほう、それは面白いな……魔気融合術のことを考えると、それが合理的なのかもしれん。詳しい理屈はもっと調べてみないと分からないが、とりあえずのところはしっかりと飛べているようだし……これでその羽が何の役にも立たない、ということはなくなったようだ。よかったな」

と微笑んで言う。

それから、ロレーヌは続ける。

「最後は、聖気だが……」

そうだ、魔力と気が流せた以上、聖気でも試しておく必要があった。

聖気は、色々な意味で特殊な力だ。

強力なのはもちろんだが、加護を与えた存在によってその効果もかなり異なる。

俺の場合は、修復した祠の主だっただろう精霊が、おそらくは植物系の加護をくれたのだろう、とは鍛冶師クロープの予想だが、それをこの魔物の羽に流すとどうなるのかは、もはや特殊な事情が重なりすぎていて前例などあるはずがなく、予想がまるでつかない。

しかし、それでもやるしかない。

なぜなら、これで出来ることがいずれ命を左右する可能性があるからだ。

出来ることが何なのかは、しっかりと把握しておくこと。

それが冒険者の生き残るためのコツの一つであることは、長く冒険者として生活した者ならだれでも分かっていることだ。

俺は深呼吸をし、それから覚悟を決めて、聖気を羽に流した。

すると、

「……きれいだな」

と、ロレーヌが妙な台詞を口にした。

「え?」

「いや……なんだか、お前の羽、光ってるぞ」

その台詞に、当然俺は驚いた。