軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第100話 奇妙な依頼と空への憧れ

「……まぁ、だからと言ってどうしようもないわけだが。せいぜい驚かないように頑張るしかないだろうな……」

ロレーヌがそう言って見放した。

酷い話である。

が、何か方策が見つかりそうな問題なのかと聞かれるとまるで思いつかないと答えるしかない類の話だ、これは。

驚かないようにする、なんていうのはかなり難しいだろうし……。

出来ることとすれば、驚いて出てきても即座にしまうくらいだろうか。

あとは、常に背中に気を配っていれば防げるかもしれない。

その程度だ。

「頑張ってどうにかなるといいんだけどな……」

「街中でくらいなら、なんとかなるんじゃないか? 迷宮などをソロで探索しているときは周囲にお前の背中を凝視している冒険者でもいない限りは問題ないだろうしな」

まぁ、確かにそれはそうである。

そもそもローブの中に着ている服を破ることはあっても、ローブの方は破れないだろう。

羽は結構な勢いで飛び出すようだが、魔物の攻撃すら通さない防御力の前に、いくら勢いが良くても攻撃という訳ではない以上、破るほどの威力があるわけではないからだ。

「……ところで、その羽、もしかして使ったら空を飛べたりするのか?」

ロレーヌがふと、そう尋ねてきた。

背中に突如生えた存在に、現実的な心配ばかりが浮かんできていたが、確かに用途の方についてはまだ検証していない。

実際どうなのだろうな、というのは俺も気になった。

そもそも、どう見ても、羽、なのだから普通その用途は空を飛ぶためにあるのではないだろうか。

世の中には飛べない鳥というのもいくつかいて、彼らもまた羽を持ってはいるのだが、その事実についてはあえて無視していきたいところである。

「とりあえず、試してみるか……」

俺はそう言って、とりあえず上着を脱ぎ、自分の背中の羽を広げる。

大きさは広げてもさほどでもなく、これを羽搏かせてもどう見ても空を飛べそうには見えない。

が、空を飛ぶと言うのは一種の浪漫である。

飛行魔術など使えない俺が空を飛ぶためには、飛空艇に乗るか、この羽の能力によって飛ぶかくらいしかないのだ。

ぜひにも、その可能性を俺に見せてほしく、そのために俺は一生懸命、羽を羽搏かせる。

……が。

「……なるほど、次の検証に移ろうか」

ロレーヌは俺の様子を見て、無慈悲にそう言い放つ。

その意味は明確だった。

俺は飛べていない。

頑張ってはいるけれども、全然浮けていない。

ふわふわとした風を辺りに起こしているだけだ。

「いや、まだだ。まだ、本気は出していない。絶対に、この羽には何か能力があるはずなんだ……」

そう言いながら、諦めきれずに羽を動かし続ける俺。

ロレーヌは、

「夏場、重宝しそうではあるな。ちょうどいいそよ風だ」

と涼んでいる。

ちくしょう。

そんなことしかできないのか?

俺の羽は。

いや、そんなわけない。

出来るはずだ、空を飛べるはずなのだ。

今出来ていないのに、何かが足りないだけで……何か?

うーん……そう言えば、竜なんかは、別に羽を羽搏かせるだけで空を飛んでいるわけではない、という話を聞いた記憶があるな。

あの巨体を、いかに大きいとはいえあの翼だけで浮力を得るのは難しいとかなんとか。

となると……俺にもそれは可能なのではないか?

そう思っていると、ロレーヌも、

「ま、冗談はさておき……巨体を持つ空飛ぶ魔物の類は魔力や気の力を使って浮力を得ているというのは良く言われる話だ。細かいやり方については分かっていないが……それは試してみた方がいいかもしれないな」

と、助言をくれる。

どうやらさっきまでのは冗談だったらしい。

そりゃそうか。

試せるものは全部試そうと考えるタイプだし、俺が思いついたようなこともすぐに頭に上っていただろうしな。

俺はロレーヌに頷いて、羽に魔力を注いでみることにした。

すると、

「……おぉ。やはりか」

ロレーヌが俺を見て、感嘆の声を上げる。

その反応からも分かる通り、俺は確かに浮いていた。

つまりは、実験成功、である。

魔力を羽に注ぐ、というのは正しかったようだ。

ただ、

「……もう少し高くは飛べないのか?」

ロレーヌが直後、そう聞いたくらいに、俺が浮いている高度は低空である。

具体的にどのくらいかと言えば、そう……分厚い本が二冊挟まるくらいだろうか。

飛んでいると言うより、ちょっと浮いてるレベルだ。

ロレーヌがそう言いたくなる気持ちも分かる。

もちろん、俺だって飛ぶとなれば、大空を自由に駆け回るものと考えているので、こんな高度で満足など出来るはずがない。

頑張って高度を上げようと、魔力を強めたり、体を捻ったり、色々とやってはいる。

しかし、残念ながら、何をしても高度は変わらなかった。

「これが限界みたいだ……」

酷く肩を落として残念がる俺の肩を、ぽん、とロレーヌが叩く。

「ま、まぁ……地面にある罠などはそれさえ出来れば避けられるわけだし、悪くはない結果ではないか? 落とし穴の類は単純ながら最も多くの冒険者の命を奪って来た罠の王だとも言うくらいだし」

明らかに慰めである。

が、彼女の言っていることにも一理ある。

実際、迷宮などに存在する罠のうち、最も沢山の冒険者の命を奪って来たものはどれかと聞かれれば、それは落とし穴であると言われる。

数が多いというのはもちろんだが、あまりにも単純すぎて、かえってみつかりにくいのだ。

足を踏み入れると槍が飛び出してきたり矢が飛び出してきたりするものや、踏み抜くと何かが稼働して襲い掛かってくるような罠などは、慣れてくるとぱっと見で違和感が感じられて察知しやすいのだ。

しかし、落とし穴は……。

どのようなところにも存在する可能性がある上、見つけにくい。

俺も何度引っかかりかけたことか。

いや、引っかかったこともあるか。

それで死んでないのは、穴の底に落ちる前にリカバリーが出来たからだ。

そういう場合に何とかできるように、かぎづめ付のロープなどを持っているので出来たことだが、一歩間違えたら死んでいただろう。

思い出したくもない話だが……それを避けられる、となると確かに間違いなくこの羽は有用ではある。

「だけどなぁ……もっと高くびゅんびゅん飛び回りたかった」

悲しくなって、飛空艇の 操縦器(コントローラー) に手が伸びる。

俺の飛空艇は俺なんかよりもずっと美しく早く高く空を飛び回っていた。

自由な飛行である。

俺はあれが欲しかった……。

そう思いながらいじけ始めた俺に、ロレーヌは、

「いやいや、まだ出来ることはあるだろう。今度は、魔力じゃなくて、気か聖気を込めると言うのはどうだ?」

と提案してきた。

確かに、それはまだやっていない。

つまり、俺の空への可能性はまだ、閉じられていない。

俺は黙って飛空艇を着陸させ、 操縦器(コントローラー) を置き、羽を広げた。

それから、ロレーヌの頷く顔を見ながら思い切り気を注ぎ……。

そして、次の瞬間、しゅん、という音が耳に聞こえたと思ったら、俺は頭から壁に突っ込んでいた。

「レ、レント! 大丈夫か!?」

壁に頭をめり込ませた俺の耳に、そんなロレーヌの声が響いた。