軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第516話 オークション

2023年11月6日目

コスプレ喫茶は皆メイド服着用に代わり、午前中からミーシャとお化け屋敷へ。当初は午後から行く予定だったのだが、どうやら午後からコスプレ喫茶を締めてイベントをやるとのこと。聞くところによると学校主催でオークションをするらしい。

「いやぁ楽しみ! 久しぶりだよ! お化け屋敷!」

朝からハイテンションなミーシャに手を引かれて受付に行く。受付の生首が上から落ちてくると、ミーシャは絶叫しながらも身体が波打ったように笑う。

恐怖よりも好奇心が勝るミーシャらしい反応に、思わず俺も笑みがこぼれるが、それはここまでだった。

なんとミーシャお化け屋敷に入った途端、絶叫と笑い声を響かせながら暴走魔法で駆け抜けたのだ。

キャスト側もこれには困惑。なぜなら驚かす前にミーシャはものすごい勢いで風と共に去っていく。しかも至ることころに身体をぶつけながら走り抜けていくものだから怪我することも考慮しておかなければならない。

結果、キャストは驚かすことをあきらめ、ミーシャはリスター帝国学校お化け屋敷史上最速のタイムを叩き出した。

「楽しかった! もう一回行こう!」

全身あざだらけになりながらも屈託のない笑みを見せるミーシャ。しかし、止めなけれならない。なぜならお化け屋敷は今、ミーシャの暴走魔法のせいでかなりの被害を受けているからだ。

「い、いや……お化け屋敷側も大変だからまた今度にしよう」

「えー……マルスがそういうのならしょうがないなぁ……じゃあ次はあそこに行こう!」

どうやらミーシャはウィンドトラベルやウォータートラベルといった絶叫系アトラクションが好きなようで悲鳴を上げ、けたけたと笑いを浮かべる。

結局午前中ずっとミーシャと校内を回り、コスプレ喫茶に戻った時にはもう皆が制服に着替え、オークション会場に出発する準備ができていた。

俺としてはあまり興味がなかったが、皆は乗り気だった。

「なぁ? オークションって何が出品されるんだ?」

クラリスに問うと、彼女は首を傾げ、代わりにカレンが答えてくれる。

「お義兄様たちが卒業して使わなくなった物を売ったりすると言っていたわよ。どうせ捨てるのであれば少しでもお金になる方がいいってリーガン公爵が仰っていたわ」

なるほど。それはいい考えだ。皆と一緒にオークション会場へ向かうと、ここも客であふれかえっていた。俺たちは安全を考慮され別に設けられた席に招かれる。

俺たちが席に着いたのを待っていたかのようにオークションが始まる。

「私、オークションってあまりいい思い出がないから嫌なのよね……」

隣の席に着いたクラリスが俺の膝の上に手を置く。まぁ俺たちも出品されているからな。クラリスの言うことはもっともだ。

ミーシャもそうなのか、俺の後ろでサーシャにべったりとくっついている。

そして皆の期待と不安が交差する中、オークションが始まった。

出品される商品はくたびれた机や椅子などが主で、すべての商品鉄貨1枚からスタート。どれも銀貨1枚くらいで取引される中、ある商品が出品され、皆の注目を集める。

「さぁこちらは去年のリスター帝国学校5年生のSクラスの制服です。これはもしも制服がほつれたりしたときのための物で当然未使用品! サイズも10人分しっかりと作られております!」

出てきたのはアイクたちが着用していた紅いラインの刺繡が入った制服だった。これを着て犯罪行為などされたらリスター帝国学校の株が落ちるのではないか? という疑念もあったが、そこはさすがに考えていたようで対策済みとのこと。身分照会に譲渡禁止、さらには犯罪した時の罰則まで事細かに誓約書を書かせられるらしい。

期待に応え、制服は驚くべき値を付けた。中でも人気だったのがアイクモデルの制服で落札額は金貨50枚。落札したのはマダムでアイクにサインをせびっていた。

そして次に値を付けたのが眼鏡っ子先輩モデルの制服。まぁこれは予想通りだったが、ガルの制服も予想外の値段を付けた。

他の制服と同じく金貨5枚程度で取引されると思っていたが、金貨10枚という声が上がり、即落札。そして落札したのはこの男だった。

「ふぅ……よかったよ。ガルの制服は欲しかったんだ」

安堵の表情を浮かべるアイク。やはりガルに対する思い入れは人一倍あるのだろう。それを見た眼鏡っ子先輩の表情も満足気だった。

その後も様々なものが出品された。学校にまつわるものだけでなく、リーガン公爵の屋敷や他貴族の屋敷で使っていた調度品や、剣や鎧など。

高いものは金貨50枚という値を付ける中、最後の商品が壇上に運ばれてきた。

「さて、最後の商品となりました!」

ステージに持ち込まれたのは――クラリスが着ていた魔女っ娘のコスプレ衣装だった。

俺の脳裏に嫌な予感がよぎる。

隣に座るクラリスも「あっ!」と小さく声を漏らした。

「こちらの商品は、ミス・リスターことクラリス・ランパードが今日まで着ていた魔女っ娘のコスプレと――まったく同じものとなります! ここで大事なお知らせがありますので、必ず読ませていただきます。一度もクラリス様がこの衣装に袖を通したことはございません!」

今の言葉にクラリスと共に胸を撫で下ろす。すると、後ろに座るカレンが一言。

「まぁ、さすがに今のマルスの気持ちを逆撫でするような真似はしないでしょうね。だからこそ、あのセリフは必須だったのだと思うわ」

確かに。オークショニアの言葉には信憑性がある。

「とはいえ、今のところ世界に二着しか存在しない貴重な衣装! さらに今回は、クラリス様の直筆サイン付きでお届けいたします!」

その瞬間、会場の視線が一斉にクラリスへと集まった。

「ま、まぁ……サインくらいなら……」

ぎこちなく笑いながら答えたクラリスの言葉を皮切りに、オークションが開幕する――

「金貨10枚!」

「金貨20枚!」

「金貨30枚!」

怒涛の勢いで値が跳ね上がっていく。

「ば、馬鹿なの……? リスター帝国学校の制服ならともかく……銀貨1、2枚で買える品じゃない?」

カレンが呆れたようにぼそりとつぶやく。その言葉はもっともだ。それでも競りは止まるどころか、なおも過熱していく。

「金貨55枚!」

「金貨60枚!」

「金貨70枚!」

残っているのは五人。どの男も身なりからして相当な上級貴族と見て間違いない。クラリスがどれほどの熱狂的ファンを抱えているのか、改めて実感させられる。

そして、ついに――

「金貨100枚!」

会場が一瞬、静まり返った。

無理もない。金貨100枚、すなわち日本円にして1000万。たかが衣装一着に、ここまでの金額が飛び交うとは誰も予想していなかったのだろう。

別の男がさらに手を上げようとしたその時、リーガン公爵がゆっくりと口を開いた。

「これだけ高額となると、即金でお願いします」

この世界にカードの引き落としなんてシステムはない。公爵の言葉は至極もっともだ。貴族同士でも信用はあるかもしれないが、お金が絡めば話は別。慎重になるのは当然かもしれない。

その一言が決定打となり、結局、金貨100枚で落札が決まった。

リーガン公爵が壇上に上がり、落札者を招く。

やがて、一人の男が立ち上がり、公爵の前へと進み出る。その顔を見た瞬間、公爵は深い溜息をついた。

「はぁ……なんであなたが落札するのですか……? 最も近いところでクラリスを堪能しているではありませんか」

そう――落札者は俺だった。

「……あ、頭では分かっているんです。でも、クラリスが絡むとどうしても……」

会場からは非難のブーイングが飛び交ったが、なんとかオークションは無事に閉幕した。

リスター祭四日目を終え、寮へ戻ろうとしたその時――まるで夜風に溶けるような甘美な声が俺の足を止めた。

「マルス! 待って!」

振り向くと、クラリスがこちらへと駆け寄ってくる。

「どうした?」

俺も彼女のもとへと歩み寄る。

「うん……これ、さっきの――」

クラリスが差し出してきたのは、一枚の羊皮紙。

「あ、ありがとう」

それを受け取ると、クラリスは少し照れながら、

「……私もありがとう。マルスが落札してくれて、嬉しかった。高すぎだとは思うけど……」

はにかみながら微笑む。その笑顔に、俺の胸が熱くなる。

「じゃあ、送っていくよ」

リーガン騎士団が警戒を強めて巡回しているとはいえ、婚約者の安全は俺が守りたい。

クラリスを女子寮の前まで送り届け、おやすみのキスを交わしてから、自室へと戻る。

部屋に戻り、すぐに魔女っ娘のコスプレと、クラリスが書いてくれたサインを丁寧に飾る。そして、唇に残る彼女の温もりを思い出しながら、視線を落とす。

そこに綴られていたのは――

『世界で誰よりも愛してます』

その言葉を噛み締める俺に――まるで、この幸せを破るかのように、死神の鈴の音が迫っていた。