軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第506話 マルスの価値

2032年11月1日 10時

「ま、マジか……手も足も出なかった……」

項垂れて戻ってくるドミニク。対照的にアリスが満面の笑みで俺の胸に飛び込んでくる。

「先輩! 見てくれましたか!? ドミニクに勝てました!」

闘技場でアリス対ドミニクの模擬戦を行ったのだが、ドミニクの言う通りアリスの圧勝。

一度はデアドア神聖王国の剣聖とも呼ばれたドミニクに、同国出身のアリスが喜ぶのは当たり前のこと。

当然俺だって嬉しい。まぁ嬉しいのはアリスが勝ったことだけでないんだが、敢えて理由をいう必要はないだろう。

「もちろん! これもアリスが毎日頑張ったからだ!」

いつもの調子でアリスを抱きしめると、レオナルドが、

「まさかアリスがこれほどまでにも強く……」

感嘆のため息をつく一方で、

「アリス! 女の子がはしたない! マルス様も困っておられるでしょ!」

シエラが苦言を呈す。

「まぁまぁシエラ。微笑ましい限りじゃないか。にしてもアリスがここまで強くなっているということはマルスも当然……」

教皇がシエラを宥め俺に視線を送ってくると、まだ俺の胸の中にいるアリスが声高らかに宣言する。

「マルス先輩は去年史上最年少A級冒険者になり、今年のランキングバトルで77位になりました! 数年後には1桁間違いなしです!」

ちなみにこのセリフは教皇たちと昨日食事をしたときに何度もしている話である。

最初は俺がA級冒険者ということを信じてくれず、結局は冒険者証を見せるハメになったのだ。

以上のことからデアドア神聖王国にまで轟く俺の勇名とは、女性関係の可能性が非常に高い。

まぁクラリスたちが信じてくれればそれでいいんだけどね。

「じゃあそのマルスの実力とやらを見せてもらえないか?」

教皇が俺に言うとアリーナ、セラフにレオナルドとシエラの視線が俺に集まる。

「分かりました。では誰と模擬戦を行えば……」

と、皆を見渡していると、闘技場の入口に4人の影が立つ。

その人たちを見た瞬間、敬意を表すために片膝をつくと、女性陣はすぐさま俺の後ろに回り込みカーテシーを披露する。

「お久しぶりです! フレスバルド公爵、セレアンス公爵、スザク様とビャッコ様も!」

それを聞いた教皇以外の者たちも俺たちのことをぎこちなく真似た。

教皇だけは片膝をつかなかったが、4人に近づき目線を下げて挨拶する。

「お久しぶりです。フレスバルド公爵にセレアンス公爵」

下から出された教皇の手をそれぞれ上から握り、

「ああ、久しぶりだな。思ったより元気そうじゃないか?」

「事情はマルスから聞いた。もう一昨年になるか……腕を切り落としたのは」

それぞれ挨拶を交わす。

リーガン公爵と教皇との関係を見ていれば分かったが、やはり教皇よりもこの2人の方が立場は上か。

当然レオナルドとシエラに限っては息をすることも憚れるほど緊張しており顔色が悪い。

その様子を見たカレンが、すぐさまフレスバルド公爵のもとに駆け寄り、挨拶もそこそこに耳打ちをする。

こんなにかわいい娘から耳打ちをされたフレスバルド公爵は上機嫌。

何度か頷くと、それを今度はセレアンス公爵に伝え、フレスバルド公爵が今も頭を下げているレオナルドのもとへ歩く。

「レオナルド、立て」

レオナルドは顔面蒼白になりながらも命令に従う。

一体何が起こる? 未来視(ビジョン) を使おうにもフレスバルド公爵は【爆炎】とも呼ばれた魔法の使い手。間違いなく気づかれる。

一抹の不安に駆られ注視していると、意外な言葉がフレスバルド公爵の口から放たれる。

「俺とここにいるセレアンス公爵、そしてお前はマルスを介してだが親族のようなものだ。我々の娘たちがマルスの婚約者であるうちは協力を惜しまない。これからよろしく頼む」

まさかの言葉にまたも膝をつこうとするレオナルドの手を、今度は強引にセレアンス公爵が握りそれを阻止する。

またもカレンが気を利かせてくれたのだろう。やはりこういうときはカレンに任せるのが一番か。

レオナルドの血の気が戻ってきたところでスザクが俺に問いかける。

「マルス、模擬戦の相手を探しているのか? だったら俺とビャッコの2人を同時に相手にするのはどうだ?」

どうやらスザクは教皇の声が聞こえていたらしい。

「ええ、よろしければ是非!」

そう答える俺にフレスバルド公爵とセレアンス公爵の2人が止めに入る。

「おいおい、いくらマルスとはいえまだ12歳。A級冒険者になりたてのマルスがスザクと……ましてビャッコの2人と戦うのはいくらなんでもハンデがありすぎだろう」

「左様。スザクはビャッコのことを見くびってはないか?」

さらに入口からもこんな声が届く。

「そうよ。私がマルス君とできちゃったからって、いじめないでほしいわ」

もちろん声の主はカストロ公爵。そのカストロ公爵の隣に立つ女性からはこんな声も。

「誰が好き好んで毒を飲むものですか」

当然隣で煽るのはリーガン公爵。

「毒壺の中の最後の1人にだけは言われたくないわ」

2人の綺麗な顔にくっきりと青筋が入ると戦闘開始。

やれやれといった表情でフレスバルド公爵とセレアンス公爵があきれていると、ビャッコからこんな言葉が。

「セレアンス公爵、それにフレスバルド公爵。スザク様と私の2人でマルスと戦うことをお許し願いませんか?」

いつにもまして真剣なビャッコに戸惑う2人にスザクが畳みかける。

「お2人は……いえ、ここにいる者たちは今一度マルスの力を見ておいた方がいいかと」

微妙な空気が流れたが、フレスバルド公爵がその空気を嫌った。

「よろしい。そこまで言うのであれば見せてもらおう。マルスの力を、価値を!」

「ありがとうございます、父上。では俺とビャッコ以外は全員観客席へ。リーガン公爵とクラリスにはいざというときには間に入ってほしい」

スザクの言葉に従い皆が観客席へ。

クラリスとリーガン公爵の2人は観客席の最前列でいつでも 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を唱えられるように待機してもらう。

「マルス、俺はミリオンダガーを使わせてもらうがいいか?」

戦う前にスザクから確認が入る。当然俺もそのつもり。

「もちろんです。よろしくお願いします」

そう答えるとスザクが早速ファイアバードを発現させこれが開戦の合図となる。

ビャッコは身を低くして駆け、その背後からはミリオンダガーに命を吹き込まれた1体のファイアバードが小刻みに羽を羽ばたかせながら宙を飛ぶ。

以前はこのファイアバードに対し、ウィンドインパルスを2発使い消滅させるのがやっと。それでもミリオンダガーの刀身は減衰することなく飛んできたが、今は俺の方が魔力は上。

(ウィンドカッター!)

未来視(ビジョン) で視た光景を信じ、1発だけウィンドカッターを放つと、風の刃はファイアバードを真っ二つに切り裂き、ミリオンダガーの刀身ははるか上空に弾かれた。

「「「なっ!?」」」

公爵たちの驚く声がここまで聞こえてくるが、スザクとビャッコは当然そうなるものだろうと予測していたのか、かまわず襲い掛かってくる。

何羽も飛んでくるファイアバードをウィンドカッターで切り裂きながら、ビャッコに触れさせることなく躱し続けていると、

「どけ! ビャッコ!」

と、スザクの声が闘技場内に響く。

まさか? と思い、 未来視(ビジョン) で視るとそのまさかだった。

「カイザーヴァーミリオン!」

巨大な炎の鳥が顕現し、ゆっくりと大きな翼を羽ばたかせ、火の粉をまき散らしながら迫ってくる。火の粉はファイアバードに変わり、さらにはスザク自身もファイアバードを唱え、ミリオンダガーで威力を増す。

巨大な炎の鳥と数十羽にも及ぶファイアバードが一斉に牙をむく。

持てる限りのすべての力を使ってきているのか……であれば俺もそれに応えるまで。

左手を前に掲げ、呼ぶは氷の嵐。

「ブリザード!」

氷の嵐は鳥たちを飲み込み、 小鳥(ファイアバード) たちの羽をもぐ。

が、カイザーヴァーミリオンだけは減衰こそしたものの、氷の嵐を抜けてなお羽ばたく。

厄介な魔法だ……でもここまで。

(ウィンドインパルス!)

(ウィンドインパルス!)

(ウィンドインパルス!)

ブリザードを維持しながら、ウィンドインパルスを連発すると、ついに巨大な炎の鳥は推進力を失い、氷の嵐の中に姿を消した。

「な、何が起こった……?」

「ビャッコをまるで赤子のようにひねるとは……」

フレスバルド公爵とセレアンス公爵が呆然とする。

それは2人だけではなく、リーガン公爵、カストロ公爵、それにデアドア神聖王国からきた者たち皆もだ。

しかし、俺の勝利を信じて疑わない者たちもいた。

「「「マルス!!!」」」

「先輩!!!」

もちろんそれはクラリスたち。

皆に祝福されているところにスザクとビャッコから一言ずつ。

「火傷一つ負わせることはできないとはな……完敗だ。つくづくマルスが味方で良かったと思い知らされた。カレン、マルスの心をがっちり掴んどいてくれよ」

「まったく動きについていけなかった。エリー様、いつまでもマルスの隣にいてください。その間我ら獣人は安泰でしょうから」

「もちろんよ! フレスバルド家のためだけでなく私のためにも!」

「……うん……地の果てまで追いかける……!」

2人がそう誓うと左右から力強く俺の腕を抱きかかえる。

【黎明】で1位、2位のグラマラスな2人に挟まれ俺の両腕は大喜び。

そこにリーガン公爵が近づいてくる。

「まさかまだマルスを過小評価していたなんて……でも私の目に狂いはなかった。マルス? 今日授業を終えたら教室に残っていてください。理由は分かりますね?」

VIPを一緒に迎えろということだろう。

「わかりました。ではまた教室で」

俺の言葉に満足したリーガン公爵は踵を返し闘技場を出ていくと、カストロ公爵もそれに続き、闘技場内は平和を取り戻した。