軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第499話 リーガンへ

???

「相変わらず地面を舐めるのが好きなようだな?」

ギルバーン迷宮のボス フ(・) ロ(・) ア(・) でラースが俺を見下す。

「それではウリゴールの後釜は務まらんぞ? 1時間休憩をやる。あと5体だ」

リポップしたアークデーモンがデーモンたちを召喚し、一斉に魔法を放つが、ラースはそれを躱すことなく最短ルートでアークデーモンを葬る。

脅威度S……災害級とも呼ばれる魔物をこうも簡単に……まさかこれほどとは。

化物め――――

「本番ではこいつらとも街中で戦うこととなる」

そう、アークデーモンを転移させるのはフォグロス迷宮だけではない。

俺すら予想だにしなかったまさかの場所に転移させようとしているのだ。

「ヨハン、またリーガンに行ってもらうが、それまでにもう少しまともに戦えるようになっておけ」

煌めく光を放つ鎧を身に纏い、笑みを浮かべるラース。

今に見ておけ。必ずお前の首を狩り取ってやる――――

そう誓ったのはリーガンへ出発する数日前のことだった。

☆☆☆

2032年10月5日 リーガンへ向かう道中

「大丈夫か? 痛くないか? やめてもいいんだぞ?」

「ううん。痛いどころか マルスの温もりを感じられて幸せ。もっと強くして」

「分かった。でも痛くなったらすぐに言うんだぞ?」

言われるがまま出力を上げると、クラリスの口から嬌声のような吐息が漏れる。

「大丈夫か!?」

再度問いかけると、

「うん。しばらくこのままで……」

繋いでいた手を強く握りしめ、真っすぐ俺を見つめてくる。

「ねぇ? 私たちがいることを忘れてない?」

対面に座るミーシャからは不満の声が。

「そうですよ! なんかいやらしいです!」

「そ、そんなことないわよ! これもマルスの訓練のためなんだから!」

アリスの言葉に、顔を真っ赤にして否定するクラリス。

俺とクラリスが何をやっているかって?

それは鎖の訓練しかないだろう。

雷光の鎖を手に入れたとき、迷宮内で鎖を試そうとしていたのだが、クラリスがそれに待ったをかけた。

雷光の鎖に縛られ……巻かれたいとクラリスが立候補したのだ。

次にエリーが手を挙げ、カレンやミーシャも続いた。

そして今、リーガンへ向かう馬車の中でクラリスに巻きつけたのだが、雷も流してほしいとのリクエストがあったのでそれに従ったまで。

いつ、いかなるときも訓練は大事だからクラリスには感謝だ。

ちなみに馬車の中には俺以外にも鎖の訓練をする者がいる。

カレンだ。

カレンの持つ火精霊の鎖に繋がれているのは言わずもがなゲイナード。

「ま、マルス! 助けてくれ! こんなはずじゃなかったんだ!」

クラリスとは対照的に、先ほどからゲイナードの口からは後悔の言葉と悲鳴しか出てこない。

「うるさいわね。今度こそちょうどいい出力でやるから安心しなさい」

火精霊の鎖にカレンの魔力が伝うと、ゲイナードからは焦げた匂いを発しながら気絶した。

「あら? まだ強かったのかしら? ゲイナードくらいの相手にはもう少し弱めがいいということね。アリス、悪いけどまたお願い」

アリスがヒールを唱えゲイナードを起こすと、また火精霊の鎖に魔力を込めるカレン。

「も、もうそろそろやめてあげたら? 何回も謝っていることだし……」

繰り返される惨劇にクラリスが同情するが、カレンはまだ試したいことがあるようだ。

「何言っているの? これからが本番よ? ヒメリ、今度私が魔力を伝わせると同時に幻魔眼でゲイナードにいい幻でもみせてあげて……そうね、クラリスの水着姿とか」

「うむ。おもしろそうじゃな!」

カレンの言葉に乗っかる姫に、

「ちょっと!? やめてよ!?」

慌てて止めるクラリス。

「まぁ任せるのじゃ。マルスが嫌がるようなポーズはせぬのじゃ!」

再度カレンの手から魔力が伝うと、クラリスの水着姿が見えたのか悦びの表情とともに気絶するゲイナード。

「威力を抑えるのは難しいわね。でも効果はバッチリ。アリス、ヒメリ、何度もやるわよ」

繰り返すたびにゲイナードの悲鳴に悦が帯びていく。

もしかしてカレンはゲイナードを二重スパイにでもするつもりなのかもしれない。

もう何回ゲイナードが気絶したか分からない……が、いつしかゲイナードは幻見たさに火精霊の鎖に魔力が付与されるのを待ち望むようになっていた。

と、そのとき、馬車が止まり馬車に近づいてくる者たちの気配が。

外にはハチマルがいるが、特に吠えたりはしていない。

それに俺の隣にいるエリーの表情は穏やか。ということは警戒するような者たちではない。

「マルス、ちょっとこっちの馬車に来て……」

やってきたのは近衛兵を従えたジオルグ。

しかし、左腕に鎖が巻かれたクラリスと、全身を縛られ恍惚の表情を浮かべるゲイナードを見て表情が曇る。

「お、お前たち……? 何をしているんだ?」

いくら物分かりが良いジオルグとはいえ、説き伏せるまでにかなりの時間を要したのは言うまでもないだろう。

その後ジオルグに呼ばれ、次の宿泊先まで馬車の中、2人で対話を重ねた。

――――その夜

「ジオルグ殿下と何の話をしていたの?」

俺とジオルグの会話が気になったのか、ベッドで横になっている俺の右手を握ってくるクラリス。

「ああ、セレス様と会って改めて婚約者としてどうか聞かれたよ」

「……なんて答えたの?」

体を俺に向け、まっすく見つめてくる。

「そんな心配しないでくれ。ちゃんと断ったから」

「……うん。でもだいぶ長かったじゃない?」

「まぁね。一緒に暮らさなくてもいいし、なんなら王都付近に寄ったときに会うだけの関係でもいいと言われた。それも含めて全部断ったんだけど、ただ……」

「ただ?」

不安なのかその声は今にも消え入りそうだ。

「俺とクラリスの子を殿下の子として迎えたいと……養子縁組をしたいと仰ってね」

「――――えっ!?」

まさかの提案に驚きを隠せないクラリス。

「もちろん断ったよ。でもなかなか引き下がってくれなくて。クラリスの子がダメならエリーかカレンとの子が欲しいと仰ってね。当然こっちも断った」

「そっか。よかった……まさか私たちの子供を欲しいだなんて……」

ジオルグからは、俺とクラリスの間にはたくさんの子供ができるだろうから1人くらいはいいだろうとも言われた。

でもこれを言うとクラリスにプレッシャーをかけてしまうかもしれないから、心にとどめておいた。

ちなみに養子縁組は貴族であればよくある話らしい。

「最後に叙爵の件だけど、リーガンに行ったら、リーガン公爵を含めてすぐにでも話し合いたいから時間を空けておいてくれとも言われた。リスター祭の準備で忙しいかもしれないけど、そのときクラリスには同席してほしいんだけどいいか?」

「もちろん。マルスが断りづらくても私であれば断れるようなこともあるかもしれないしね」

ようやく笑顔を見せるクラリス。

「マルスにもね、リスター祭で見てもらいたいものがあって……楽しみにしててね」

恥ずかしいのか目を閉じ、布団を被るクラリス。

きっとコスプレ喫茶の衣装を披露してくれるのだろう。

期待に胸を膨らませながら目を閉じる。

これが…………最後のリスター祭とは知らずに――――