軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第490話 見上げた先に

「マルス! ブッカたちの意識が戻った! 帰ってきてくれ!」

助けた冒険者たちがなかなか眠りから覚めないため、6層の魔物を間引いていたところにスキャルから報告が上がった。ブッカというのは6層に取り残された冒険者の1人だろう。

「分かりました! みんな、スキャルさんの言う通りこいつらを倒したら戻ろう!」

今までアリス、姫、ハチマルを中心に魔物を倒していたが、俺の命により皆が参加し、あっという間に戦闘を終える。

「皆がマルスの作ってくれた寝床に感激していたぞ? 迷宮でこんなにぐっすり寝られるなんて思いもしなかったって。ビッグなんてまだ寝ているからな」

みんな喜んでくれたようで何より。ビッグに関してはクラリスのおかげで睡眠不足というのと、昨日張り切りすぎたのだろう。

が、嬉しい報告だけではなかった。

「あとな、助けたメンバーの内1人が精神的に壊れてしまった。今は気絶させているが、またいつ発作が起きるかは分からないからそのつもりで」

「発作……?」

「ああ、目を覚ました途端、うずくまり、頭を抱えながら、殺さないでくれ、助けてくれ、帰りたいと連呼してな。しまいには自身の体を引っかきまわして絶叫する始末。自傷行為があまりにも酷かったので仕方ないから気絶させている。申し訳ないが戻ったらヒールを頼む」

やはり耐えられない者もいたか。

急いで安全地帯に戻ると、【大胃王】のメンバーが取り残されていた冒険者たちから事情を聴いていた。

「で? 3パーティでローテーションを組んでいたところに 迷宮飽和(ラビリンス) が発生し、部屋で戦っていたシャギさんのパーティが全滅し、ヨルムさんたちが逃げ、ブッカさんたちがここに取り残されたってことか」

【大胃王】のメンバーの言葉に力なく頷く冒険者たち。

ちなみにローテーションとは何パーティかで組み、1パーティが部屋で戦っている間にほかのパーティが休み、次の部屋は休んでいたパーティが戦い、前の部屋で戦っていたパーティが休むというもの。

これによってより安全に、より迅速に潜ることができる。

しかし、デメリットもある。

やはり宝箱が出た場合だ。

宝箱を巡って、パーティ同士で殺し合いが始まるというのは周知の事実。

だからローテーションを組む相手は慎重に選ばないといけない。

まぁ今回に限ってはバルクス王が買い取るという方針のため組んだのだろうが。

項垂れる冒険者たちに【大胃王】のメンバーが続ける。

「その逃げたヨルムさんたちも3人が魔物たちに飲み込まれ、ヨルムさんも亡くなった」

ということは、ヨルムさんのパーティっていうのは、4層の安全地帯で会った2人のことか。

「そんな……ヨルムさんまで……」

しばらく安全地帯を沈黙が支配したが、冒険者が切り出す。

「スキャルさん。すみませんが俺たちを脱出させてくれませんか? 魔物はしばらく見たくない……」

「分かった……これからどうするんだ?」

冒険者に寄り添うスキャル。

「当分の間休むつもりです。仲間を失ったのはこれが初めてではない……ですが、さすがに今回は……」

魔物たちに襲われた光景を思い出したのか震える冒険者たち。

これ以上思い出させるのは酷だと思ったのか、スキャルがすぐに指示を出す。

「そうか……悪いがビッグを起こしてくれ」

スキャルの指示に従い【大胃王】のメンバーがビッグの寝ている部屋の扉を開けると、業務用掃除機のような音が安全地帯に響き渡る。

「な、なに? この音?」

あまりもの騒音にミーシャの顔が強張る。ほかの女性陣も不安の表情を隠せない。

「ああ。これはビッグの鼾だ。ビッグと一緒に野営するとき耳栓は必須。でも悪いことばかりじゃない。この鼾のおかげで野営をするとき弱い魔物や臆病な魔物が寄ってこないからな。さすがにフォグロス迷宮6層の魔物には通じないがな」

ビッグと宿が一緒になった場合は注意が必要だな。

【大胃王】のメンバー全員でビッグを起こし、事情を説明する。

「何言ってんだべ! オデも残る! こいつらはオデ以外の人間で……」

興奮して顔を真っ赤にしたビッグだったが、【大胃王】のメンバーたちの不安そうな表情を見ると態度を変える。

「……分かったべ。オデも戻る。でも必ず戻ってくるからな!」

ビッグはちゃんと仲間を思いやれる人間だったらしい。

その決断に【大胃王】のメンバーもほっと胸をなでおろす。こんな状況下でビッグに切り離されたらたまったもんじゃないだろうしな。

一刻も早く冒険者たちを脱出させてやろうとすぐに安全地帯を後にするビッグたち。

「あの人たち大丈夫ですかね……?」

ビッグたちと別れ、7層への階段を目指し、アリスたちの戦闘を見守りながらスキャルに尋ねる。

「あいつらも仲間を失うのは今回が初めてではない。飲む打つ買うの生活をしていればそのうち立ち直るさ」

まぁ確かに4人のうち3人は昨日クラリスたちに釘付けだったからな。兆しはある。

「今はあいつらの心配ではなく自分たちの心配をするぞ。ほら、この通路を抜けたら7層への階段だ」

スキャルの言葉に緊張感が走る。

「分かりました。ではまた僕が先頭に立ちます。みんなも警戒を頼む」

7層への階段がある部屋もやはり大部屋。

通路から探るように大部屋内を見渡すが、特に変わったことはない……いや、ある意味変わっているのだが。

「変ねぇ……この部屋だけ魔物がいない?」

クラリスも俺の肩に手を乗せ、肩越しから部屋を覗き込む。

「ああ……もしかして罠とかあるのかもしれないな」

そう思い天眼で視るも罠などなかった。

「どうやら大丈夫そうだ」

ゆっくり大部屋の中に入ろうとすると、突然エリーが俺の腕を握る。

「……気をつけて……! 階段の上……! たくさん……! 強いのも……!」

階段の上ということはやはり7層か。

たくさんということは、やはり 迷宮飽和(ラビリンス) なのか?

恐る恐る階段の下まで近づき、上を見上げると、そこには紫色の肌の人型の魔物が下卑た笑みを浮かべながら俺たちを見下していた。