軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第487話 慎重な男

マルスが1人で挑むと言って突入した部屋。そこは5層でもかなり難易度が高い部屋で脅威度Cの鉄の皮を纏うアイアンブルが3体、ブラッディ―モーが10体。それにエアロバットが20体というB級冒険者を擁したBランクパーティ以上でないと攻略は難しいと言われている部屋だ。

さすがにマルス1人では危ない。攻略することは可能かもしれないが、かなりダメージを受けるだろう。だから俺はマルスから預かったバッグを地面に置き、短剣を片手にいつでも加勢できる準備をしていた。

それは俺だけではなく、ビッグの手にも鎚が握られ、いつでも参戦できるように心配している。

が、それは杞憂に終わった。それどころか目の前で起きていることに理解がおいつかなかった。

アイアンブルを一刀両断する奴は今までも見たことがある。剣術レベルが高い前衛であれば、B級冒険者でもできる芸当だ。

それを両の手にそれぞれ持つ剣で成し遂げるのは見たことはないが、きっとこれは努力の賜物。訓練し続ければできることなのかもしれない。

しかし、ここからが分からない。

なぜエアロバットのウィンドカッターをまともに食らっても涼しい顔をしている? 耐久値の高いビッグですら無傷ではいられない。しかしマルスはウィンドカッターを気にも留めていない。

もう1つはなぜ魔物たちが真っ二つに斬られた瞬間、右半身と左半身で左右別々の壁に吹っ飛んでいくんだ? ただ普通に斬っているだけではないのか? 斬りながら魔法でも唱えているのか?

そんなことはできないはず……そういえば、マルスはさも当然のように歩きながら風魔法でバッグを浮かばせていたな。いや、それとこれとは次元の違う話だ。

ビッグも持っていた槌を手放し、口を開けながらマルスの動きに見入っている。ビッグも俺と一緒でなんとかマルスの動きについていけている程度だろう。

だが【大胃王】のメンバーは俺たち以上に何が起きているのか分かっていないはずだ。

俺ですらマルスの剣先は見えない。だからマルスの腕を見ながら予測しているが、その腕すら残像しか見えないことがある。

柄を握る手と背筋に冷たい汗が流れる。怖い。俺はこんな奴とランバトをしていたのか……と、同時にマルスさえいればこの先どんな敵が現れようと大丈夫という安心感が生まれていることに気づく。

バカな!? 俺はA級冒険者だぞ!? なぜこんな弱気に!?

そう思わせるほどマルスの戦いは凄かった……しかし、これはまだ序の口。数分後にもっと信じられない光景を見せられるとは俺もビッグも【大胃王】のメンバーたちも知らなかった。

部屋の中にはアイアンブルという鉄のような体毛に覆われている脅威度Cの牛の魔物が3体と、ブラッディーモーが10体、無数のエアロバットが天井にぶら下がっていた。

俺が部屋の中に足を踏み入れると、エアロバットは翼を広げ一定距離を保ちながらウィンドカッターを撃ち、アイアンブルとブラッディーモーが突進してくる。

エアロバットのウィンドカッターに対しては、試してみたいことがあったので敢えて避けたり、斬ったりすることはしなかった。

風纏衣(シルフィード) を全力で展開し、エアロバッドが放つウィンドカッターの軌道上に左腕を掲げ、 未来視(ビジョン) を発現させる。

結果、 風纏衣(シルフィード) は風のバリアの役目を果たし、予想通り俺の左腕には何一つ傷がない未来が。

やはり脅威度Dクラスのウィンドカッターではこんなものか。いや、同じ脅威度Dでも魔法タイプの魔物であればダメージを受けたかもしれないが、エアロバットは飛行タイプだから脅威度が高いだけで、ステータス自体は脅威度Eクラス。だからこそダメージを受けなかったのかもしれない。

これであればエアロバットの攻撃は怖くない。例え 風纏衣(シルフィード) を貫いてきたとしても切断されるようなことはないし、そんなやわな鍛え方をしてはない。ステータスも圧倒しているしね。

空気同然のエアロバットは放っておくとして、あとはアイアンブルとブラッディーモーを処理するだけ。

しかし、ここで普通に倒すだけならスキャルやビッグでもできるだろう。だからちょっとしたパフォーマンスを行う。

斬ると同時にウィンドで真っ二つになった魔物を壁に吹っ飛ばすのだ。

魔物が壁に叩きつけられる音が部屋中に響き渡る。

時間にして10秒も経っていない。アイアンブルとブラッディーモーを処理すると、あとは蚊トンボと化したエアロバットだけ。近づくのが面倒なのでウィンドカッターを撃ち戦闘終了。部屋の入り口に固まっている皆の下へ戻る。

「大丈夫?」

真っ先にクラリスが駆け寄ってきてくれ、ウィンドカッターを食らったであろう部分に手を触れると、女性陣が続く。

「……信じてた……」

「なんでウィンドカッターを食らっても無傷なのよ」

「ご褒美のために頑張っちゃった!?」

「先輩! 手取り足取り剣術を教えてください!」

「魔法無効かえ!? ポロンが魔物化したときを思い出したのじゃ!」

先ほどまでの殺気立っていたのが嘘のように表情は柔らかく、声も愛らしい。1人1人と抱擁を交わすと【大胃王】のメンバーたちに問いかける。

「どうでしたか? 僕のことを少しは認めてくれましたか?」

が、問いかけるも、呆然とし何のリアクションを示さないメンバーたち。すると彼らの代わりにスキャルが口を開く。

「ああ。正直予想を遥かに超えていた。こいつらはきっと何が起きているのか分からないというのが本音だろう。俺ですら分からない部分も多かったしな」

「んだべ! とにかく速すぎだべ! A級冒険者上位クラスでもあんな動きする奴いねぇべ! オメェたちも何か言うことがあるべ!」

ビッグに背中を叩かれようやく我に返った冒険者たち。

「す、すみませんでした」

「スキャルさんの言う通り、何が起きているのかあまり分からず……」

「でも何か凄いことをしているというのだけは分かりました!」

ちょっと気合を入れ過ぎてしまったのかもしれないが後悔はない。力を示さなければならない状況だったしな。

「分かりました。今後この迷宮で何かあったら僕が指揮をとります。先に1つだけ言わせていただくと、僕はかなり慎重なので、ここで撤退するの? ってところで撤退の指示を出すかもしれませんが、そこだけは譲れないので予め頭に入れておいてください」

素直に頷く冒険者たち。

うん。これでよし。

そう思ったときだった。突然ハチマルが通路に向かって吠え始めたのは。

「どうした? ハチマル。何かあるのか?」

ハチマルはずっと先の通路に向かい唸っている。するとエリーも何かに気づく。

「……魔物……来てる……多い……」

やはりこの2人がいると安心だな。

皆で部屋の先の通路を警戒すると、 一角獣(ユニコーン) よりも一回り体が大きく、立派な角を生やした1体の魔物の姿が。

「ヤバい! グレイトホーンだ! その後ろにはかなりいるぞ! マルス! 魔物の数は10や20ではないようだ! ここは撤退しよう! 撤退しながら糸を張り巡らせ頭数を減らす!」

スキャルがアドバイスを俺にくれると、【大胃王】のメンバーたちは荷物を持ち、我先にと部屋を後にしようとする。

そこまでの相手か……だとしたら逃げる一択だな。でも後続の魔物たちとは少し距離がある。一匹だけでも鑑定しておくか。

【名前】-

【称号】-

【種族】グレイトホーン

【脅威】B-

【状態】恐慌

【年齢】1歳

【レベル】8

【HP】152/152

【MP】6/6

【筋力】55

【敏捷】72

【魔力】5

【器用】5

【耐久】36

【運】1

グレイトホーンを鑑定すると、俺の決断は早かった。

「皆さん! 撤退はなしです! 僕の後について来て下さい!」

部屋に入ってきたグレイトホーンを斬り捨てながら叫ぶと、冒険者たちだけでなくスキャルの顔にもこう書いてあった。

どこが慎重だよ。