作品タイトル不明
第486話 ヒモ
「うぉぉぉおおおりゃぁぁぁあああだべぇぇぇえええ!!!」
魔物の群れに単独で突っ込むビッグ。
「ちょ!? ビッグさん!? さすがに1人では!?」
俺が止めると、スキャルが笑って制す。
「まぁあれがビッグだ。あいつはちょっと特殊な体質でな。飯を食えば傷も早く治るんだ。回復薬ほどではないがな」
どんな体質だよ。
それよりなんでスキャルが一緒にいるかって? 異変が起きてしまった以上、状況を確認してから戻るとのこと。俺たちとしても皆が慕っているスキャルが一緒に行動してくれるのは助かる。
「でも、ビッグさんは何も喉を通らないんじゃ……」
「――――っ!? ビッグ! やめろ!」
慌ててスキャルがビッグの下に駆けるが、ビッグは構わず槌を振り回す。もう槌術とかって話じゃない。ただ単に力任せに振り回しているだけだ。
「ビッグさん大丈夫かしら?」
「腐っても元A級冒険者だしな。ちょっと注意して鑑定するようにはするよ」
ステータスを見る限り今までそういう戦いをしていたっぽいしな。これがクラリスたちであれば当然話は別なんだが。
「見てくれたべか!? オデの戦いを!?」
部屋の魔物を蹂躙してきたビッグがスキャルを連れ、意気揚々と引き返してくる。
「ええ。凄かったです。でも今は一刻を争う時。次からは僕たちも参戦しますよ」
「いやここはオデに任せるべ! 今のオデならなんでもできるべ!」
どうやらアドレナリンがドバドバらしく、ビッグはかなり興奮している。それを見かねたクラリスが、
「ビッグさん。知っている方が傷を負うのを見たくはないので、あのような無茶な戦い方はなるべく避けてくださいね」
優しく諭すと、ゆでだこのように真っ赤になるビッグ。なんかこいつかわいいな。
次の部屋に入ると、スキャルとビッグには俺が風魔法で浮かばせていたバッグを持ってもらい、【黎明】だけで戦う。
姫が加わったことにより少し隊列を変化させて、前衛にエリー、ミーシャ、アリス。中衛が俺とクラリス。そして後衛にカレン、姫。ハチマルは接敵するまでは前衛で、その後はカレンたち後衛を守るように動く。
俺とクラリスが中衛で前後のバランスを取り、いつでもラブラブヒールを唱えられる状態にしておく。
「な、なんだべ……このパーティは……魔物がいてもいなくても潜る速さが変わらないべ」
「な? 驚くだろ? 今は前衛3人とクラリスだけしか戦闘に参加していないが、後衛の3人もビックリするぜ? 当然マルスにも驚くだろうがな」
どこか誇らしげにスキャルが説明する。結局俺の出番はなかった。まぁ魔物の数はかなり多いが相手は脅威度D。奇襲をくらわない限りは後れを取ることはないし、エリーとハチマルがいる【黎明】にそんなものは通用しない。俺だってサーチがあるしね。
「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ! どれだけ急いでいるんですか!?」
【大胃王】のメンバーが俺たちに追いついたのはちょうど4層最後の部屋。つまり5層へ上がる階段がある部屋だ。
彼らが合流するのに時間がかかったのには理由がある。
俺たちが敵を倒すのが早いというのもあるが、最大の理由は彼らが持つ荷物の量だろう。大食いのビッグとともに迷宮に潜るというのはかなり大変なんだろうな。
あと彼らが皆、どこかスッキリとした表情になっていたということも付け加えておく。まぁそんなに時間はかかってないと思うが。
5層でも陣形は変わらず、俺たちが先頭に立ち魔物たちと戦う。
「す、すげぇ……クラリスの弓を引く姿……可愛いんだけど凛々しい」
「エリーってスキャルさんより疾くないか?」
「カレンのような美少女に一度でいいからシバかれたいよな」
「 妖精族(エルフ) で前衛って珍しくないか……? って 妖精族(エルフ) 自体も珍しいが」
「アリスはあれで11歳!? もしかして……いや、迷宮に潜るわけないか」
「ヒメリの尻尾触りたい」
「っておい! あの犬! 火を吐いたぞ!?」
女性陣の戦いに見惚れる冒険者たち。しかし、ここで1人の冒険者が疑問を抱くと他の者たちも続く。
「さっきからマルスさん何もしてないよな?」
「それどころか女性たちを特等席から眺めているだけ」
「安全地帯で剣を抜いたときって、みんなクラリスたちに釘付けだったよな? もしかして速いのは勘違いだったのでは?」
「A級冒険者昇格試験のときも、もしかして女性たちを使って……」
「確かに。観客席からクラリスたちが誘惑すれば対戦相手も試合どころではなくなりそうだからな」
俺がいなくても楽勝そうだから、俺は少しでも危ないと思ったところを助けようとしたのだが、ここでも出番なし。
結局クラリスたちが戦っているのを見ているだけだからこう言われるのは仕方ない。
でもこれだけは言わせてくれ。クラリスたちが誘惑しようものなら、間違いなく最初に釣られるのは俺だ。これだけは自信がある!
そんな冒険者たちの声を聞いたクラリスたちがあからさまに不快な表情を浮かべる。
「何よ! 好き勝手に言って!」
「……あいつら……殺す……!」
「爆散してやろうかしら?」
「許せない! マルスの悪口をいうやつは!」
「あの人たちには絶対に神聖魔法を使いません!」
「お、お主らがそれほどまでに怒るなんて……」
姫すら引くほどの怒りよう……これはなんとかしないとな。
「次の部屋からは俺1人で戦うから皆は手を出さないでくれ!」
【大胃王】のメンバーに聞こえるように大声を出す。すると俺がムキになったと思ったのかスキャルが慌てて俺を制す。
「ちょっと待て! 5層からは脅威度Cの敵もいるんだぞ!? ましてや初見の迷宮に初見の魔物。さすがに1人では危ない! お前たち! マルスを侮辱するということは、マルスに負けた俺すらも侮辱しているということだぞ!」
「そうだべ! マルスはオデに肉をくれたいい奴だべ! 侮辱する奴はオデが許さないべ!」
スキャルとビッグが擁護してくれる。
「す、すみません……つい……」
【大胃王】のメンバーは謝ってはいるが本心ではないようだ。
「いえ、皆さんが僕の力に疑問を抱くのは仕方のないことです。そして疑問を持った相手の命令など聞けるわけがありませんからね。いざというときは僕が指示を出すつもりなので、それに見合った力を示します。皆さんもいいですね?」
ヤバいと思ったらすぐに逃げる。無理して戦う必要はない。だからこそ俺がこの場の指揮を取るに値する人間だと認識させる必要がある。
迷宮に異変が起きるのにも関わらず、こんな身勝手なことをやってはいけないということは分かっているが、ここで力を示さなければならないのだ。
それに今やらねば女性陣が【大胃王】のメンバーに対してキレるのは時間の問題だろう。エリーに至ってはすでに相当な殺気を放っている。
雷鳴剣と氷紋剣を抜くと、
「そうか……気をつけろよ……ってなぜ剣を2本抜く!?」
問いかけてくるスキャル。
「これが本来の僕の戦い方なので。皆さん! 本気でやるのでしっかり見ててくださいね! クラリスたちも手出しは無用だ!」
「ええ。分かったわ」
「……マルス……楽勝……」
「一生マルスに変な口を叩けないように見せつけてやって!」
「マルス! 頑張ったらいっぱいご褒美あげるからね!」
「先輩! ファイトです!」
「楽しみにしておるのじゃ」
ハチマルも頑張れと俺をじっと見つめてくれる。
ここでやらなきゃ男じゃないよな。それに頑張ったらご褒美だ。自然と柄を握る手に力が入る。
「行くぞ!」
皆の期待と不安を背中に浴び、魔物たちが 犇(ひし) めく部屋の中に突入した。