軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第484話 フォグロス迷宮4層

4層の安全地帯の広さは2層と同じ。そこにはビッグ含め冒険者が10名ほど休んでいた。このくらいの人数であれば、パーテーションで区切って場所を確保しても文句は言われないだろう。

が、2層では空いていた上級者専用と思われるスペースにはビッグたちが陣取っていた。

それを見たスキャルが開口一番ビッグに命令する。

「色々話したいことがあるが、まずはこれからだな。ビッグ、お前たちの寝床は上級者専用じゃない。一般に移れ」

「なんでだべ? こういうときはいつも一緒だべ」

そうか。スキャルとビッグは仲がいいからこういうときはビッグと一緒に過ごしているのか。

「いつもだったらそうなんだが、俺が連れてきた【黎明】はAランクパーティ。そして【黎明】リーダーのマルスは、昨日俺がランバトで負けた相手だ」

「っんな!?」

ビッグが驚きのあまり立ち上がる。ってかこれだけの大男が興奮すると怖いな。

「んなわけあるわけねぇべ! 小っちぇがスキャルの強さは本物! なんかの間違いだべ!」

「本当だ。先に糸を張り巡らせていたが手も足も出なかった。今日もここまで一緒に来たが、本気を出されなくて良かったと安堵しているくらいだ。ミックさんが認めた男って言うのも付け足しておくぜ」

「ミックさんが!? こんなめんこい奴……分かったべ」

ミックの名前を出すと、興奮状態のビッグが落ち着きを取り戻す。

「オメェら。一般へ移動するべ」

荷物をまとめすごすごと一般と言われるスペースへ移動するビッグたち。

それを見たスキャルがさらに冒険者たちに注意喚起をする。

「もう1つ絶対に約束を守ってもらいたいことがある。【黎明】には女性メンバーが多い。見てわかると思うが、とびっきりの美女、美少女が揃っている。だが変な気は起こすな。もしこの女性たちに変なことをしようとする者がいたら誰であろうと命はないものと思え。数か月ここに潜っている者からしてみれば、生殺しかもしれないが耐えろ」

これを言ってくれて助かった。クラリスたちがここに入った瞬間、何名かの目は血走っていたからな。

まぁスキャルが言ったところで暴走する奴は暴走するだろうから気を引き締めないといけない。

「マルス、別に自己紹介なんてする必要はないが何か言うことがあれば今のうちだ」

そうだな。しっかり言っておくか。

「皆さん初めまして。A級冒険者のマルスと申します。僕からの願いは1つ。スキャルさんからもありましたが、女性たちに嫌な思いをさせないこと。もしもそのようなことがあった場合は……」

俺の言葉にさっきから涎を垂らしながらクラリスを見ていた冒険者が茶々を入れる。

「嫌な思いなんてさせねぇよ。しっかりと気持ちよくさせてやるから……」

恐らくこいつは俺を舐めているのだと思う。スキャルにはそんな口を利かないだろうからな。であれば分からせるしかない。

不快な言葉を並べている間に 風纏衣(シルフィード) を展開し、冒険者の前まで駆ける。と、同時に雷鳴剣の腹を頬に当てる。

皆の反応からするに俺の動きについてこられたのはスキャルとビッグだけ。他の者たちは、不快な言葉を発した者を含めて呆然としている。

「最後に言い残すことはありますか?」

「……あ、いや……え……?」

まだ自分が置かれている状況を理解できない冒険者。

「何もないようですね。では来世で会いましょう」

雷鳴剣を90°回転させ、切っ先が冒険者の頬に触れると、血が伝う。

「う、うわぁぁぁあああぁぁぁ……」

頬から流れる血を見てようやく状況を把握した冒険者が、一瞬悲鳴を上げるが、恐怖のあまり気絶する。

「す、すみませんでした! こいつにはよく言って聞かせますので!」

同じパーティと思われる男が割って入ってくる。まぁ今のでよほどのバカじゃない限り手を出してこないだろう。

「分かりました。では僕の我儘を1つ聞いてください。上級冒険者専用のスペースに仕切り壁を作ります。僕も余計なことに神経を使いたくないので。いいですか?」

周囲を見渡すと皆が頷く。

「ありがとうございます」

軽く頭を下げると、早速パーテーションを作る。

「 石壁(ストーンウォール) 」

分厚い壁が安全地帯の上級冒険者専用スペースを囲むように発現する。ちなみに少し……いや、だいぶ一般のスペースも奪ってしまっているが、誰も文句は言わない。

「おいおい……まさかと思ったが土魔法までも……しかもこんなにも分厚い 石壁(ストーンウォール) なんて初めて見たぞ?」

スキャル同様、この場にいる者全員が俺の土魔法に驚く。

が、そんなことに構っていられない。俺たちの専用のスペースの中にもう1つパーテーションを発現させ、浴槽も作る。今日は3層から4層まで風魔法で荷物を運んでいない分、MPにも余力がある。

しっかりベッドまで作り、女性陣が風呂に入っているときに冒険者の監視も兼ねてパーテーションの外に出ると、楽しそうに談笑するスキャルとビッグの姿が。

「マルス。こっちに来て一緒に話でもどうだ?」

スキャルが俺を誘ってくれる。ちょうど聞きたいこともあったしな。パーテーションの入り口をハチマルに任せてスキャルたちの下へ歩く。

俺が脅しをかけた冒険者の仲間とみられる者たちは、俺が近づくと明らかに表情が強張る。まぁ仕方ないな。

「どうも改めまして。マルスと申します。よろしくお願いします」

ビッグたちに頭を下げてからスキャルの隣に臀部を落とす。

するとビッグ以外の冒険者たちから早速質問攻めにあう。

「どうやってあんな美女たちと出会ったんだ?」

「誰と付き合っているんだ?」

「本命は誰だ?」

彼らの質問に適当に答えるが、ビッグだけはあまり興味を示さず、ひたすら鞄の中から携帯用の干し肉を取り出し、夢中で頬張っている。

見た目通り食べ物にしか興味がないのか?

皆の質問に答えたところで、今度は俺から冒険者たちに聞く。

「すみません。【若星】という冒険者パーティをポーターとして雇っていたのはビッグさんたちでよろしいですか?」

「んだべ」

口の中に肉を一杯詰め込んだビッグが食べカスを飛ばしながら頷く。

「【若星】のメンバーが予定通り切り離されたと言っていたのですが、これは4層から帰らせるということでよろしいでしょうか?」

今度はビッグだけでなくメンバー全員が頷く。

「どうして切り離したのですか? 彼らは3層で死にかけていました。彼らには3層で戦う実力は備わってないと思うのですが?」

「――――っ!? あいつら大丈夫だべか!?」

予想外のリアクションを取るビッグ。あれ? こいつら切り離して見捨てたんじゃないのか?

「え? あ、はい。なんとか一命をとりとめることはできましたが……」

俺の言葉にホッとした表情を浮かべる冒険者たち。するとビッグのパーティメンバーと思われる冒険者が口を開く。

「そりゃあ俺たちだってあいつらのことは心配だったさ……けど、あいつらがいるとうちらも共倒れするからな」

「共倒れ……ですか?」

なぜ? と思う俺にスキャルが説明してくれる。

「そうか……マルスたちには考えもつかないことかもな。食糧問題だよ。ここに残るメンバーが多いとそれだけ食料の消費が早いだろ? マルスたちは女性メンバーばかりでその問題に直面する機会が少ないかもしれないが、ビッグたちのパーティに関しては死活問題だ」

なるほど! 言われて初めて気がついた。俺含めてエリー以外みな小食。エリーも決して大食いというわけではく、普通の女性よりかは少し食べる程度だ。それでもかなり食料を運び込んできているから、俺たちには食糧問題なんて皆無だが他のパーティは違うのか。

「だとしたらもっと強いパーティ……自力で帰ることができるパーティを雇えば無駄に命を落とす必要はないではないでしょうか?」

「確かにそうだが、そのほとんどのパーティがこの迷宮に潜っている。潜っていないパーティがいるとしたら、それはメンバーの誰かが負傷しているとかそういう理由だ。それにあの【若星】にも金以外のかなりのメリットがあるんだぞ?」

メリット? 首をかしげるとすぐにスキャルが答えてくれる。

「ああ。パワーレベリングだ。マルスの言った通り、あいつらにはここまで来られる実力はない。だから3層の魔物でパワーレベリングをさせてやるんだ。俺もそうやってレベルを上げてきたからな。お前らもそうしてやっているんだろう?」

スキャルがビッグたちに問いかけると、当然のように頷く冒険者たち。

「当然ですよ。若手が育ってくれないとこっちも深層に潜れませんからね。だから俺たちは可能な限りパワーレベリングに協力しています。今回は深層で 迷宮飽和(ラビリンス) の兆候があり、急いでいたのでそこまで付き合うこともできませんでしたが」

さらにスキャルも続く。

「それにな。あいつらの背負っていたバッグの中身はほとんどが魔石だ。潜るときは食料を詰め込み、帰るときは魔石を詰め込む。前払いで報酬を貰い、ビッグたち【大胃王】が倒した魔物の魔石も貰える。駆け出しにしては危険だがとてもいい仕事なんだ」

うーん。なんかこの人たちなりにはしっかりと考えているということか。でもこれはなかなか受け入れがたいな……なんとかできないものか。

と、思慮を巡らせていると、パーテーションの扉が開く音が聞こえた。

振り向くとそこには扉からちょこんと顔を出すクラリスが俺を手招きしている。

「どうした? もうお風呂に入ったのか?」

近づいてから尋ねるとと、クラリスが頷く。

「ええ、マルスも入っちゃって。あとビッグさんに食べ物を渡さなくていいの?」

そういえばスキャルがビッグに食料を渡せば色々スムーズにいくと言っていたな。準備がいいクラリスの手には干し肉が握られていた。

「ビッグさん! ちょっと来ていただいてもよろしいでしょうか?」

俺に呼ばれたビッグは何の警戒心もなく近づいてくる。

「なんだべ?」

「もしよろしければこれを。食べることが好きというのをスキャルさんから聞いたので」

クラリスから干し肉を受け取りビッグに渡す。

「おう! マルスはいい奴だべ! 何か困ったことがあればオデに言うといいべ!」

子供のように喜ぶビッグ。食べ物1つでここまで喜んでくれるとは。

「では僕たちはもう休ませてもらいますね。おやすみなさい」

俺は気づかなかったんだ。パーテーションの扉を閉める際、天使の笑みがビッグの心を射止めたことを。