軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第472話 天啓

「お久しぶりです。ジオルグ王太子殿下! ミックさん!」

キカン棒と化しているが、そんなことは言っていられない。

片膝をつく格好でジオルグに敬意を示す。この体勢であれば色々ごまかせるからな。

俺に続くようにクラリスも片膝をつくと、カレンと姫以外の【黎明】女子が皆、俺に倣う。

「お久しぶりです。私は膝をつくわけには参りませんので」

いつものようにカーテシーで敬意を表すカレン。ビキニ姿でも様になっている。姫は状況が分からず、ぽかんと皆の様子を見ている。

「ああ、まさかここでマルスたちと会えるとは……まさに天啓」

「久しぶりだな。マルス。それにみんなも」

ジオルグとミックが返事をしてくれるが、ジオルグの言葉が気になる。天啓? 俺たちに会ったことが? どういうことだ?

「ジオルグ殿下。どうしてサンマリーナに?」

ジオルグはミックと違い、ラフな格好をしてはいるがバカンスというような雰囲気ではない。それにここには数年前バルクス王国が攻め込んだという話を聞いている。そんなところに王太子であるジオルグがいるなんて。

「ああ。色々あって停戦交渉にな」

停戦!? また戦争状態だったのか!? クロムがリスター帝国学校に入学してからというもの、いざこざはなくなったと聞いていたが。

まぁ停戦してくれたのであれば俺には関係のないこと……と思ったが、ジオルグは違ったようだ。

「マルス。その件でちょっと頼みたいことがある。聞いてくれないか?」

神妙な面持ちで問うてくるジオルグ。うーん……停戦の件ってことか?

厄介事には巻き込まれたくない。しかしジオルグのことは無下にできない。ジークやマリアに迷惑をかけるかもしれないからな。

「はい。僕にできることであれば」

こう言うしかない。

「おぉ! そうか! では今から着替えて一緒に来て欲しいところがある」

「着替えてですか……? 制服しか持っておりませんが……」

「ああ。制服で充分だ。クラリスたちはどうする?」

立膝をつくクラリスたちに目を向けるジオルグ。どうやらジオルグもクラリスたちの水着姿にやられてしまったようで腰を引く。

「私も同行させてください。マルスとは常に一緒にいたいので」

嬉しいことを言ってくれる。

「分かった。では昼食後、この街の南門で待ち合わせとしよう」

ミックを置いて1人踵を返すジオルグ。遠くに近衛兵と思われる者たちが見える。

「マルス。ジオルグと合流する前にちょっといいか? もちろんクラリスたちも一緒で構わない」

「分かりました。今ここででもいいですが……?」

ミックの提案に答えると、

「いや、着替えてきて欲しい。おじさんには若い娘たちの水着姿は毒だからな」

そうは言っても男性陣で背筋を伸ばしているのはミックだけ。他の者たちは背筋の代わりに鼻の下が伸びている。

え? お前は違う所もだって? まぁそれはお互い様だ。

「ジオルグはマルスにクエストを依頼するはずだ……もしかしたらジオルグからではないかもしれないが……」

宿に戻り風呂に入ってから、ミックと昼食を摂る。【黎明】女性陣、姫に【流刃】の3名となぜかゲイナードも。

その席でミックが口を開く。俺に依頼? それにジオルグからではない? まぁ誰からだとしてもジオルグの息がかかった者だろう。やるしかないよな。

「はい。そうだろうとは思っていました」

「そうか。迷宮都市フォグロスは知っているか?」

「名前だけなら」

かなり迷宮が大きいというのだけは聞いたことがある。

「そうか。フォグロスはここから南に数十キロのところにあるのだが、フォグロスの迷宮に 迷宮飽和(ラビリンス) の兆候が見られてな。戦争どころではないからとジオルグが停戦交渉に遣わされたのだ」

頭がキレるジオルグには停戦交渉はもってこいだろう。実のためなら、自分を低く見られても構わないという、この世界では珍しい人間だからな。

「だがマルス、今回はたまたまA級冒険者のマルスに相応しいクエストだったかもしれないが、バルクス王国側からすれば、マルスに依頼できればどんなクエストでもいいのだ。極端な話、お使いクエストでもな。どうしてか分かるか?」

ん? どうしてだ? 俺には分からなかったが、聞いていたカレンが答える。

「顔繋ぎ……でしょうか?」

「まぁおまけで50点といったところかな」

50点と言われればムスッとしてもおかしくないのだが、ミックの穏やかな口調と柔和な顔のおかげで、空気は悪くならない。

「当然カレンの言ったように顔繋ぎというのもある。しかしこっちが本命。なんでもいいからクエストを達成させて褒美として叙爵してしまおうとの魂胆だ」

「「「――――叙爵!?」」」

皆で顔を合わせる。

「どうした? そんな珍しい話ではないだろう? バルクス王国では優秀なA級冒険者には上級貴族の地位を与えることは周知の事実だしな」

た、確かにそうなんだが、俺はもうリーガン公爵から伯爵位を授かることになっているんだよなぁ……。

「実は……」

考えを巡らせているところにクラリスがミックに、俺がリーガン公爵から叙爵されることを伝えると、

「――――っ!? もう既に手は打たれていたのか!?」

驚きの表情を隠さないミック。

「だがすぐに諦めることはないと思うぞ? 何せジオルグのマルスに対する評価は最高だからな」

俺ってそんなに買われていたのか? お世辞にしても嬉しいな。

「評価が最高なのは当然よ。数百年ぶりのフレスバルド家次女の私をマルスに嫁がせるのだもの。父のマルスへの評価も最上級よ。それにお兄様の評価も」

フレスバルド公爵とスザクからも好印象なのか。この2人は家族になるから好感度はあればあるほどいいな。

「お母さんもマルスだから私の側室入りを認めてくれたんだろうなぁとは思っているよ。もしも他の人に嫁ぐ場合、絶対に正妻じゃないと許してくれなかったろうなぁ」

サーシャもミーシャを思う心はこれでもかというくらいに伝わってくる。そのミーシャを預けてくれたんだ。大切にしないとな。

ミーシャが続くと姫も続く。

「父上もマルスのことは認めておったからのう」

女性に囲まれた俺でも評判は上々のようだ。

「だろう? だからそう簡単にバルクス王国側は諦めないと思ってくれ。かなりあくどい手を使うかもしれないから気をつけるように」

ミックが俺たちに警鐘を鳴らす。

でも俺の心はすでに決まっている。

クラリスの両親のグレイとエルナはすでにリーガン公爵に属する貴族。

本来であれば次期セレアンス公爵当主のエリー。

リスター連合国筆頭公爵を父に持つカレン。

ミーシャの母でリスター帝国学校の教師であるサーシャもリスター連合国の人間。

5人の婚約者のうち4人がリスター連合国に縁がある。アリスも特別バルクス王国に縁があるというわけでもないだろうしな。

アイクもリスター連合国メサリウス伯爵となったのだから、何かあればアイクを頼れるというのも心強い。

誰もが俺の立場になればリスター連合国の貴族になった方がいいと思うだろう。

しかし、このあと俺の心が揺れ動く。まさかそういう条件を出してくるとは夢にも思わなんだ。そしてさらに1か月後のリスター祭で事態は大きく動いたのだった。