軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第453話 オーバーワーク

2032年9月4日早朝

部屋の中にいたハチマルが扉に向かって唸り始め、しばらくすると扉がノックされる。同時に可愛らしい女性の声が扉越しに響く。

「マルス様。お迎えに上がりました」

扉を開けるとそこには予想通り双子の姿が。双子は幻獣の森へ行く恰好をしており、鎧の下にはスカートという出で立ちだった。

「おはようございます。訓練を始める前にお2人に話しておきたいことがあります。カレン頼む」

カレンがハチマルを連れて双子の前に立つと、

「「おはようございます。カレン様」」

2人が俺には向けてくれない笑顔をカレンに向ける。

「ごきげんよう。幻獣の森に行くあなたたちには紹介しておくわね。この子はハチマルといって私のペットなの。頭が良くて鼻も利く。 女淫魔(サキュバス) 対策に連れて行くから、あなたたち2人のことを覚えさせるけどいい?」

「はい、喜んで」

2人とも動物が好きなのかハチマルを見て破顔する。

そのハチマル、やはり双子の匂いを覚えるためにいつもの儀式を行う。

「っ!?」

当然困惑する2人。俺はその儀式を見てはいけない気がして後ろを振り向き、時が過ぎるのを待つ。

「マルス。いいわよ」

カレンの声で振り向くと、双子はスカートを押さえ恥ずかしそうしていた。大丈夫ですか? とかどうでした? なんて聞けるはずがないので、何事もなかったかのように話を続ける。

「早速ですが、訓練の方をしましょう。今日はどのくらい体力があるのか、基礎的なところを見させてください。取り敢えず30分くらい走ってから、素振りを見させてもらおうと思います」

「分かりました。中庭でよろしいですか?」

「そうですね。今日は中庭でやりましょう。でも慣れてきたら外で。中庭だと狭いので」

双子の後を追い、中庭へ向かう途中で、タンクトップに半ズボンの装いをしたゲイナードが合流する。

「すまない。ちょっと手間取って」

タンクトップの下から覗く筋肉はパンプされ、皆に見せつけるようにポージングを取る。見せるために先に筋トレしてきたな? あとでお灸を据えてやるか。

騎士の間を抜け、中庭に着くと、昨日騎士の間で見かけた5人の騎士団員が待ち構えていた。

「「「団長! フラン様、フレン様! おはようございます!」」」

ボディービルダーのような体を見せつけながら挨拶してくる騎士団員。

「ああ、ごくろう」

返事をするゲイナードに、目も合わさず無視を決め込む双子。仲が悪いのか? まぁ気にしても仕方ない。

「では今からランニングを始めます。フランさん、フレンさん。鎧を外していただけますか?」

アルメリア迷宮でクラリスに脱いでと言ったら勘違いされたことがあったからな。誤解のないように伝えると双子が頷く。

「今日の所はゆっくり走りますが、もしも遅いと思ったら僕を抜かしていただいても結構です。では行きましょう」

俺とハチマルが先頭になって走り始めると、双子、ゲイナードの後を5人の騎士団員たちも続く。なんだ? こいつらも一緒にやるのか? まぁ邪魔しなければ別にいいが。そして最後尾を走るのは女性陣。

「お、おい……ちょっと速くないか? 張り切りすぎだろ?」

走り始めてすぐにゲイナードが音を上げる。

「いえ、いつもよりはだいぶ遅いペースです。なぁみんな?」

最後尾を走る女性陣に声をかけると、代表してカレンが答える。

「そうね。これであれば魔法使いの私でもついていけるわ」

その声にはまだ余裕があったが、騎士団員たちは違った。

走って1分せずに息が切れ、大汗をかきながら苦悶の表情を浮かべているのだ。エンジンが大きいからガス欠を起こしやすいとはいえ、さすがにバテるのが速すぎるだろう。

結局2分持たずに騎士団員たちはリタイアし、ゲイナードも意地で5分ついてきたが、チアノーゼをおこしてぶっ倒れた。まぁランニングが終わるころには回復するだろうからそのままにしておくか。

「フランさん、フレンさん。大丈夫ですか?」

後ろを走る双子もきつそうではあったが、しっかりとついてくる。このまま誰も脱落せずに走り切れるかなと思ったら、

「も、もう無理じゃ! お主らおかしいのではないか?」

次は姫だった。そういえば姫は学校にいたころも朝のトレーニングには参加していなかったな。【暁】に参加するのであれば、体力をもっとつけてもらわないといけない。

「姫は休んでいてくれ! でも学校に戻ったら毎朝マラソンだからな!」

絶望の表情に染まる姫。ちょっと言い過ぎたかもしれないが、これも姫を思ってのことだから仕方ない。

しっかり双子は30分間走り切った。途中で風魔法で涼しい風を送りはしたがナイス根性。さすが努力好きというだけのことはある。

「よく頑張りましたね! さすがです!」

大の字で仰向けになる2人の頭に水を置き、手を差し伸べる。

「はぁっ……はぁっ……ありがとう……ございます」

「はぁっ……これも……マルス様の……はぁっ……おかげです」

払いのけられないか不安だったが、フランが右手、フレンが左手握り、体を起こすとそれぞれ逆の手で水を飲む。

「休みながら僕たちの訓練を見ててください。10分後に訓練を始めましょう」

双子の目がまだ死んでいないことを確認してから、アリスに介抱され、ご満悦なゲイナードの所へ向かう。こいつもしかしたらアリスのことも……?

「さてゲイナードさん。次は素振りです。まずはゲイナードさんの素振りを見せてもらってもいいですか?」

「……分かった。リスター帝国学校時代から、毎日素振りはやってきていたからな」

向上心はあるようだ。もしかしたらかっこいいところを見せたいのかもしれない。

ゲイナードが訓練用の剣を握ると、皆の前で素振りを披露する。

「ふっ! ふっ! はぁあ!」

剣を振り下ろすごとに筋肉が綺麗に見えるポーズを取る。しっかり腰も入り、剣に力が伝わっているがポーズが無駄で戻りが遅い。頼んでもいないのに5人の騎士団員も同じように素振りをしている。

残心という言葉を知らないのは仕方ないが、剣を振ったらすぐに戻り次に備えるのが基本だろうに。

「ゲイナードさん! 戻りを速く! 1本1本腰を入れてしっかり剣に力が伝わるように!」

俺に煽られどんどん素振りが速くなるが、すぐにバテる。

「もうこれ以上は無理だろ!? 見本を見せてくれ!」

またもゲイナードが音を上げる。捨て台詞のように吐いた言葉に応えてやる義理はないが、双子の手前、口だけ番長と思われると今後の稽古に響いてくるかもな。

「分かりました。では見ていてください」

中庭の中央に立ち、早速素振りを始める。

俺の素振りは大きく振りかぶって、つま先の前まで大きく振り下ろす素振り。リズムよく高速で繰り返すと様になるが、剣速が遅いとだらしなく見えてしまう。しかしそこは【剣王】ライナーに仕込まているからな。だらしなく見えることはないだろう。

「は、速い……」

「剣先が見えねぇ……」

「風を斬る摩擦音がすげぇ……」

「どこまで振り下ろしているんだ?」

「惚れるわぁ……」

俺の素振りに騎士団員たちが湧くが、ちょっと最後の一言が怖い。ゲイナードも目を丸くしていた。

ちなみにだが、いつもはこれに 火精霊の鎖(サラマンダーチェーン) を地面に這わせるのと、魔法の訓練を同時にこなしている。

「どうですか? やればできるということが分かりましたか?」

ゲイナードたちに問うても返事がない。頷くとやらされるのが分かっているのだろう。

本当はもっと追い込んでやろうと思ったが、これ以上やると怪我するかもしれないしな。今日のところはこれくらいにしてやるかと思っていると、それを見ていたカレンが一言。

「あら? もうギブアップ?」

カレンだったらもっと徹底的に蔑むかと思ったのだが、意外にも軽い。

「まぁしょうがないね。走り込んでなさそうだし」

ミーシャも続くと、姫をマッサージしていたクラリスも、ゲイナードの心配をする。

「あまり無理すると、お体に障るので今日のところは部屋に戻ってゆっくりと……」

「何を言っているんですか! 俺たち第2騎士団は諦めない漢です! 素振りの1万や2万は朝飯前です! なぁ! お前ら!」

女性陣の言葉に感化され、ゲイナードが膝を叩いて立ち上がると、団員も続く。

男って単純だと思うだろ? きっと俺もこうなんだろうなと思いつつ、双子の所へ向かう。クラリス、カレン、ミーシャ、アリスは4人を鼓舞しているので、ハチマルと遊んでいるエリーを連れて休んでいる双子のもとへ向かう。

「どうですか? 少しは回復しましたか?」

「「はい」」

双子が返事をし、立ち上がる。

「では素振りを見せてください」

俺に促され訓練用の剣を握り早速剣を振る2人。

2人はまるでダンサーのように動きがぴったりと重なっていた。特に打ち合わせとかしてないように見えたが、さすが双子。美女ということも相まって絵になるな。

体力が限界を迎えているのか、辛そうな表情を見せるが、それでも弱音を一切吐くことなく懸命に剣を振っている。ゲイナードに爪の垢を煎じて飲ませたい。

しばらく双子の素振りを見ていると、後ろからクラリスの声が聞こえた。

「綺麗な素振りね。シンクロみたい」

確かにシンクロにも見えるな。

「もうあっちはいいのか?」

「ええ。もう本当に腕も上がらず、立つこともできないみたいよ」

ゲイナードの方を見ると、騎士団員含めて全員が力尽き、地面に口づけをしていた。完全に出し尽くしたんだな。

視線をゲイナードから双子に戻した瞬間、限界を迎えた双子が同時にバランスを崩す。ヤバいと思った時にはエリーがすぐに2人を抱きかかえてくれた。

「ナイス! エリー! 助かった」

「……うん……2人……頑張った……限界……」

エリーが2人の努力を褒める。エリーに支えられながら、なんとか立つのがやっとの2人。

「ねぇ……そういえば今日ってこれから幻獣の森に行くのよね?」

頑張った双子を見ながらクラリスが不安そうな表情を見せる。

「ああ。そうだけど?」

「フラン様とフレン様も一緒よね……?」

「ああ、一緒だけど……あっ……」

2人の頑張りについつい熱が入ってしまった……どうしよう?