軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第451話 幻獣の森

「マルス君! あなたが頼りだからね! みんなも準備はいい?」

幻獣の森を前にカストロ公爵が口元にハンカチを当てながら皆に確認する。

「はい!」

威勢よく答えたのは俺だけで女性陣は双子含めて皆、口元にハンカチを当て頷くにとどまった。

というのも、幻獣の森からは 女淫魔(サキュバス) の匂いが漂い、その強烈な臭いにハンカチなしでは 嘔(え) 吐(ず) いてしまうのだ。

クラリスに毎朝2枚ハンカチを渡してもらっているのだが、そのハンカチをクラリスとエリーが使い、いつもクラリスが持ち歩いているクラリスとエリー用のハンカチを、カレン、ミーシャ、アリス、姫が使っている。

男の俺は賢者様と手を繋いでも、 女淫魔(サキュバス) の匂いは変わらずいい匂いなのでハンカチは必要ない。煩悩だけを取り除いてくれる賢者様に頭が上がらない。

これだけ匂いがきついのであれば予め教えてくれよと思ったのだが、カストロ公爵曰く、ここまで幻獣の森が臭いのは初めてのこと。確かにカストロ公爵自身も 嘔(え) 吐(ず) いていたので本当なのだろう。

俺を先頭に幻獣の森へ入る。後ろには賢者様の実力を知らない双子。かなり離れて【黎明】女子と姫がカストロ公爵を囲むように歩く。

「フランさん、フレンさん。僕に何かしてほしいことがあれば、すぐに言ってくださいね。できる限りのことはしますので」

ポイントを稼ぐために話しかけるが、

「ありがとうございます」

「その心遣いだけで十分です」

一瞬、目を合わせては逸らされる。

まぁあまりしつこいとさらに嫌われてしまうからな。今日のところはここまでにしておこうと思っていると、甘い匂いが突然濃くなった。

匂いを辿ると、黒いボンテージを纏った女性が、こちらに息を吹きかけるかのような仕草を見せている。

誘惑されずともなかなかどうして。だがこいつらがクラリスたちを苦しめている。それに鑑定するとやはり魔物だ。

躊躇うことなくウィンドカッターで一閃すると、断末魔を上げる間もなく 女淫魔(サキュバス) は真っ二つになった。まぁ脅威度Eだからこんなものかと思うと同時に、 女淫魔(サキュバス) を倒せてホッとした。

女性っぽいからもしかしたら本能的に体が 女淫魔(サキュバス) を倒すのを拒否するかと思ったからだ。

女淫魔(サキュバス) を倒し、すぐに焼き払う。それを遠く離れたクラリス、ミーシャ、アリスの誰かが消火する。

少しは匂いが落ち着いたが、まだまだ 女淫魔(サキュバス) の匂いがまとわりつく。

このままの調子で倒していけば直に匂いも消えるだろう。しかしあまり悠長なことは言っていられない。

何故かというと後ろを歩くエリーの様子が少し変なのだ。

目は充血し、顔は青い。恐らくだがエリーは 女淫魔(サキュバス) の匂いに体がアレルギー反応を起こしているのだと思う。サキュバスの匂いに人一倍 嘔(え) 吐(ず) いていたのはエリーだったからな。

クラリスもそれに気づいているようで、カストロ公爵と少し距離を取り、バレないよう無詠唱の神聖魔法でエリーの体調を気遣っている。

「カストロ公爵! 予想以上に 女淫魔(サキュバス) の数が多いので風の範囲魔法を唱えます! 魔力に反応して魔物が襲ってくると思うので気をつけてください! みんなも頼むぞ! 匂いをできるだけ散らすから頑張ってくれ!」

「ちょっと!? こんなところでファイアストームやトルネード、ダウンバーストのような激しい魔法は使わないでよ!?」

「分かってます!」

カストロ公爵の言葉に頷き、魔法を唱える。唱えるは当然攻撃魔法ではなく、索敵魔法だ。

「サーチ」

魔力を帯びた風が匂いを飛ばしながら周囲を舞うと、 女淫魔(サキュバス) の他にも羽を休めていたアーリマンもサーチに引っ掛かった。

「来るぞ!」

サーチに気づいたアーリマンが一斉にこちらに向かってくるのを、俺が中心となり撃破していく。

俺が中心となって戦う理由は簡単。みんな左手が塞がっているからな。クラリスも 魔法の弓矢(マジックアロー) を持たず、水魔法でアーリマンを撃破している。

ミーシャも水魔法で、カレンは鞭で応戦し、姫がサポート。地上に落ちてきたアーリマンにアリスが止めを刺しているが、エリーだけは動けていない。よほど体調が悪いのか、警戒することも難しいようで、アーリマンに不意打ちを喰らい、肝を冷やした場面もあった。

女淫魔(サキュバス) を倒したいのだが、襲ってくるのはアーリマンのみ。 女淫魔(サキュバス) はサーチに引っ掛かるものの、襲ってくる気配がない。弱いから俺のサーチに気づいていないのかもしれない。

厄介な……俺1人で倒しに行くというのも考えたが、エリーの具合も気になる。

何度か神聖魔法を唱えてもらって回復はしているが、精神的にも参っているのかもしれない。今はもうハンカチを手にせず、贅沢にも生クラリスを独り占めしている。

「カストロ公爵。今日の所はこれで帰りましょう。明日はもっと準備を整えてから挑むので」

「ええ。そうね。これだけアーリマンを倒せたのだもの。上出来よ。それに私も考えが甘かったわ。まさか 女淫魔(サキュバス) の匂いがこれほどまでとは……慣れてないあなたたちが拒否反応を起こすのも無理はないわ」

まぁ匂いに関していえば、嗅げば嗅ぐほどダメになるという者もいるからな。幻妖花みたいに慣れることができる類いの匂いであればいいが、エリーの反応を見る限りはそうではないと思う。

迫るアーリマンを倒してから幻獣の森を後にした。