軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第444話 双子

「うわぁ……ひろーい……」

「素敵です……一度でいいからこんなところに住んでみたいです……」

エントランスホールに入ると、ミーシャとアリスが感嘆の声を漏らす。姫に至っては、その光景に口を開け絶句している。

入ってすぐに目につくのは、2階へ通じる2か所の大きな螺旋階段。リムルガルド城の螺旋階段でオーガを倒したのはまだ記憶に新しい。

その向こうには騎士の間に通じる扉が。エントランスホールの左右にもそれぞれ扉が備えつけられている。

「マルスたちはここで待っていてくれ。カストロ公爵をすぐにお呼びする」

俺たちがエントランスホールを見渡していると、ゲイナードが螺旋状の階段を駆け上がる。

「リムルガルド城よりも明るくて華やかな感じがするわね」

確かにクラリスの言う通りだ。リムルガルド城はもっと暗く、禍々しかったな。

「そうだな。確か右の扉から進めば、礼拝堂へいけるはずだ。あとで一緒に行ってみないか?」

「え!? 嫌よ! だってあそこには……」

クラリスはあの時の記憶がまだこびりついているのだろう。俺の右腕を強く抱き、恐怖心を払拭しようとする。

「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ここもこれだけ綺麗だから、礼拝堂も綺麗なんだろうなって……一緒に見られたら幸せかなと思っただけなんだ」

謝りつつも、内心クラリスにぎゅっと右腕を抱きしめてもらって嬉しい俺。でも今の言葉に偽りはない。その気持ちが伝わったのか、クラリスが頬を染め、ぎこちない笑みを浮かべる。

「じ、じゃあ今度行ってみよっかな。でも絶対に私を離さないでよね……」

確かリムルガルド城でも同じようなことを言われたな。確かあの時は手を離すなと言わた気がするが、今度は手から私に変わっていた。どちらにしても、俺の答えは変わらない。

「当然。一生離すつもりはないよ」

一瞬にしてクラリスの曇りない眼に湖が張られる。その瞳は引力を持ち、徐々に俺の顔が引っ張られていく。

「お主ら! いつなん時、どんな場所で、誰が見ていようとも、構わず2人の世界に入るのはやめい!」

姫の声がエントランスホールに響くと、その引力から解放された。

確かに姫の言う通り、このエントランスホールにいる【黎明】以外の女性たちも、俺とクラリスのことを食い入るように見ていた。

ってか今ようやく気づいたのだが、ここにはかなりの女性たちの姿があった。メイド、女性騎士……そのすべての人たちに見られていた。さすがの俺も羞恥心から体温が上がるのが分かる……が、俺の腕を抱き、俯くクラリスの体温はもっと上がっていた。

「なんだぁ……いいところだったのに。ヒメリ、ああいうのは止めちゃダメなのよ?」

声がする方を向くと、螺旋階段から、ゲイナードと2人の女性騎士を従えて降りてくるカストロ公爵の姿が。

いつもは白いロングのサーキュラースカートのようなものを穿いていることが多いカストロ公爵だが、今日はかなり短めの白いスカート。クラリスと同じくらいの長さだ。

2人の女性騎士も鎧の下はスカートを穿いており、カストロ公爵よりは長いが膝小僧は見える……ちょうどミーシャくらいの丈だったが、俺の目は……いや、俺たちの目はそこに止まらなかった。

「双子!?」

2人を前にミーシャが驚く。

そう、この2人。目の色こそ緋色と空色で違うが、顔だけではなく体型、佇まいも瓜二つなのだ。寝癖なのか2人ともショートカットの青い髪の毛が跳ねているが、間違いなく街を歩けば皆の注目を集めるくらいには美人だ。

「そうよ。カストロ第一騎士団長のフランと副団長のフレン。緋色の目の方が姉のフラン、空色の目の方が妹のフレンよ。2人とも挨拶をしなさい」

「フランです」

「フレンです」

カストロ公爵に促され、頭を下げる双子。

「2人には私の警護をお願いするからよろしくね」

「え? 警護ってカストロ公爵も幻獣の森に!?」

思わずカストロ公爵に聞くと、さも当然かのようにカストロ公爵が頷く。

「当り前じゃない。あなたたちは幻獣の森のことを知らないでしょ?」

確かにそうなのだが、さすがに脅威度Bの魔物が出現する危険な場所に同行するのは想定外。それにこの2人、本当に大丈夫なのだろうか? いきなり鑑定すると失礼にあたるからやめておいたが、そう思ったのは俺だけではなかった。

「足手まといじゃから、お主ら3人はここで待っていたほうが身のためじゃぞ?」

姫のストレートな言葉に双子が反応する。

「失礼な! 私たちは足手まといでは……」

双子が腰に差してあった剣を抜こうとした瞬間、姫の瞳が妖しく光る。さすが姫、やることに全く躊躇いがない。当然双子は恐怖におののき、抜いた剣を地面に落とし、震える口に手を当てる。

「脅威度Bの魔物を舐めておるのか? 妾でも勝てぬかもしれぬのじゃぞ? 命を粗末にするではない」

もしかしたらこれは姫なりの思いやりなのかもしれない。そう思えるくらいには姫の口調は穏やかだった。

しかしそれをカストロ公爵が否定する。

「ヒメリの言うことも分かるわ。でも私たちは同行する。あなたたちが去ったあと、同じことが起きても、少しは私たちだけで対処できるくらいにはしておきたいの」

なるほど。できれば双子を強くしてほしいとのことか。であるならもう1つ聞いておきたいことがある。

「カストロ公爵はこのクエストをどのくらいの期間で終わらせて欲しいのですか?」

双子のレベルアップなんて悠長なことを考えているくらいだ。俺とカストロ公爵の意識にズレがあるのかもしれない。

「当然今すぐにでも幻獣の森の魔物をすべて倒してほしいわ。でもいくらA級冒険者のマルス君がいるとはいえ、怪我の1つや2つは負うでしょ? 神聖魔法使いの私が行くことによってあなたたちが負った傷をすぐに回復させることができるわ。これはあなたたちにとってもメリットのはずよ」

そうか。神聖魔法使いに対する俺たちの考えが特殊だというのを失念していた。

サーシャがリリアンを見ていたときに、神聖魔法使いは戦闘が行われるような危険な場所には行かず、街や宿で待機しているというのが常識で、強さよりもMP量が重要と教えられたな

だからカストロ公爵は、アリスが幻獣の森に同行するとは夢にも思ってないのだろう。

そんなことを知らないカストロ公爵がさらに続ける。

「2、3日で幻獣の森の周辺の魔物を倒して、それから少しずつ中に入る……遅くとも1か月後には幻獣の森の魔物を倒しきって 一角獣(ユニコーン) の安全を確保したいわね」

1か月か……普通であればこのくらいの時間がかかるクエストなのかもしれない。だが俺の考えは違う。遅れるとそれだけ 二角獣(バイコーン) になってしまう可能性が高まり、危険度も上がる。

「カストロ公爵。実はアリス、神聖魔法使いでもありますが、僕たち【黎明】の前衛を務める剣士でもあります。故に無理についてきていただかなくても……」

あまり強く言うと不敬にあたるかもしれないから言葉を濁したが、カストロ公爵にはしっかりと伝わったようだ。

「――――っ!? アリスが前衛!? そんなのありえないわ!」

神聖魔法使いのカストロ公爵だからこそ、驚きもひとしお。信じてくれるはずもなかった。

「オレンジよ。マルスの言うたことは本当じゃ。なんならそこの2人よりもアリスの方がステータスも特殊能力も上じゃ。じゃからお主らが来るのはある程度間引きが終わった後でも良かろうて」

再度姫が説得するが、首を縦には振らないカストロ公爵。このままでは埒が明かないな。

「分かりました。では今日のところは幻獣の森には入らず周辺の魔物だけ倒すということを前提に御一緒いたします。ですが僕たちの戦闘についてこられないと判断したら、その時は……」

俺の提案にようやくコクリと頷くカストロ公爵。

こうして俺たち7人とカストロ公爵と双子のフランとフレンを合わせた10名は幻獣の森へ向かうのだった。