軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第429話 和平交渉

2032年6月16日 11時

「父上久しぶりなのじゃ!」

「会いたかったモン!」

「おお、ヒメリ! ポロン! 元気そうで安心したぞ。でもどうしてここに? 今日ここに来るなんて分からなかっただろうに」

人魔橋でビラキシル侯爵とコンザの姿が見えると、姫が一目散にビラキシル侯爵の胸に飛び込み、ポロンもそれに続く。

「お久しぶりです。1週間後にグランザムにお見えになると伺っていたのですが、なかなかいらっしゃらなかったので、数日前から毎日のようにここまでお迎えに……」

「マルス! それは言わない約束なのじゃ! 父上! 今のマルスの言葉は嘘じゃ! 妾の勘が働いたのじゃ!」

姫の言葉に苦笑いを浮かべるも、娘に会えてどこか嬉しそうなビラキシル侯爵。

「して、そちらの綺麗どころと……魔物……なのか……?」

ビラキシル侯爵が俺の後ろに立つ3人の女性と、行儀よくお座りしている魔物に目を向ける。

「はい、では紹介させていただきます。こちらはフレスバルド公爵家次女のカレン。こちらがフェブラント女爵家長女の 妖精族(エルフ) のミーシャ。そしてアリスとなります。またカレンの隣に座るのは確かに魔物ですが、カレンがテイム……従えているので決して人を襲ったりはしません。名をハチマルといいます」

俺が名前を呼ぶ毎にそれぞれが、片足を引き、もう片方の膝を軽く曲げ、スカートの両端をヒラっと持ち上げ挨拶をする。いわゆるカーテシーというやつだ。

ハチマルも紹介されると「ウォン!」と一度だけ鳴く。

なぜこの3人とハチマルを連れてきたかというと、屋敷で紹介すると時間がかかり、スムーズに本題へ移行できない可能性があるからだ。そしてその読みは当たった。

「フレスバルド公爵家!? それに 妖精族(エルフ) 、アリスとやらも2人に引けを取らない美しさ……さらにはテイムだと……?」

ビラキシル侯爵が目を丸くすると、ポロンがさらに補足する。

「ビラキシル侯爵! 驚くのはまだ早いモン! この3人はみんなマルスモン!」

誰がその言葉で分かるんだよ……しかしビラキシル侯爵はポロンの言葉にすぐに反応する。

「――――っ!? 金獅子のエリーは次期セレアンス公爵……そことフレスバルド公爵家が繋がるのか!?」

えっ? マルスモンで分かるものなの?

「まぁ悪魔族を討ったマルスであれば当然じゃの!」

姫が自慢げに語ると、泡を食うビラキシル侯爵。

「悪魔族!? どういうことだ!?」

「ディクソン辺境伯が悪魔族だったモン! マルスが言うにはディクソン辺境伯は幻夢眼でオイラたちに悪夢を見せていたんだモン!」

ちなみに姫とポロンにも、俺がディクソン辺境伯を討ったことを内密にしておくようお願いしておいたが、あらかじめビラキシル侯爵には伝えるつもりだと話していた。

アイクとビートル伯爵の3人で話し合うときに避けては通れないからだ。なんせディクソン辺境伯はグランザムとヘルメスを仲違いさせていた主犯だからな。

「なんと!? だとすると腑に落ちないところが多々ある」

ビラキシル侯爵が俺たちに説明を求めようとしたが、この様子ではいつまでたってもここで立ち話をする雰囲気だ。

「ビラキシル侯爵。グランザムで兄とビートル伯爵がビラキシル侯爵をお待ちしております。歩きながらでもよろしいでしょうか?」

「む……そうだな。ではグランザムまで案内願おう」

こうしてグランザムでの長い夜をビラキシル侯爵とコンザに説明しながら、歩き始めた。

グランザムの街に着くと、ブレアが騎士団を従えてビラキシル侯爵の到着を北門で待っていた。

これは人魔橋から一足先にハチマルを走らせ、アイクに伝えていたからできたことだ。

ビラキシル侯爵とコンザの2人はグランザムで住民たちに、罵詈雑言……もしくは直接的な攻撃を受けるかもしれないと思っていたらしいが、そんなことは一切なく、街の中に入っても警戒こそされてはいるが、特になにもなかったことに胸をなでおろしていた。

クラリスのおかげだろう。毎日のように魔族の姫とコディを連れ出し、住民たちと交流を図っていたからな。クラリスが言うには、コディも徐々に受け入れられているようだ。

「よくぞ来てくれた! 歓迎する!」

屋敷の前に着くと、そこにはビートル伯爵が。後ろにはクラリスとエリー、そして多数のメイドたちが笑顔で出迎えている。もっともエリーの笑顔は間違いなく俺にだけ向けられていたが。

「盛大なお出迎え痛み入る、ビートル伯爵」

まさかビートル伯爵本人が外に出て迎えてくれるとは思っていなかったのか、それともクラリスの笑顔に気を良くしたのか分からないが、ビラキシル侯爵の声がうわずる。

挨拶もそこそこにすぐに屋敷の中に入り、応接間に向かうと、そこには上座に座るアイクと、アイクに従うようにサーシャが立っていた。

そこに俺とビートル伯爵、ビラキシル侯爵の3人だけが入室する。

「メサリウス伯爵。こちらがビラキシル侯爵でございます」

ビートル伯爵がアイクに敬語を使ったことに対し、すぐに己の立場を表明するビラキシル侯爵。

「ビラキシル侯爵家当主フォル・クラマでございます。この度は大変お世話になりました」

やはりここでもトップはアイクだった。

「リスター連合国リーガン公爵家当主セーラ・エリザベス代理、メサリウス伯爵家当主のアイク・ブライアントだ。まずは席についてくれ」

アイクに促され、腰を下ろすビートル伯爵とビラキシル侯爵。

「さて、堅苦しい挨拶はもう抜きにして、これからのことを話しあいましょう。私がここに来た理由はグランザムとヘルメスの和解ですから」

アイクが言葉を崩すと、少しこの場の緊張が解れた。

「まずは私から謝罪させていただきたい。この度は我らのせいでビートル伯爵やグランザムに多大な迷惑をかけてしまった」

席を立ち、頭を下げるビラキシル侯爵。これにビートル伯爵も同じように席を立つ。

「いや、裏で糸を引いていたのは我がザルカム王国のディクソン辺境伯だった。こちらこそ申し訳なかった」

お互いが頭を下げる。やはりここに来るまでにビラキシル侯爵に説明しておいて正解だった。

それを見たアイクが2人に問う。

「今回は完全にディクソン辺境伯に嵌められた格好となったが、これを機にグランザムとヘルメスは手を取りあい共存することができる。そう考えても?」

「「はい」」

声を揃えて2人は誓う。

「よし、ではビラキシル侯爵。早速だが少し我らの悪だくみに付きあってくれないか?」

アイクの言葉に少し身構えるビラキシル侯爵。悪だくみという言葉に警戒心が生じる。

「そんな構えないでくれ。1つお願いがあるだけだ。ディクソン辺境伯を討ったのは、ビートル伯爵に依頼を受けた、ビラキシル侯爵とポロン、そしてビートル騎士団団長のブレアの3人でということにして欲しいのだ」

思わぬ言葉に動揺するビラキシル侯爵。

「なぜそんなことを?」

当然のように聞き返してくるが、俺がそれを説明する。ヨハンのことはもちろん伏せてだ。

皆で何度も議論を交わしたのだが、悪魔族を倒せる者などグランザムにはいない。では誰が? となるとやはりビラキシル侯爵や狸族の三巨頭くらいだからな。

「……そうか。分かった。だがそれだけの力を持ち、リスター帝国学校に在籍していれば安全だとは思うが……」

ビラキシル侯爵は俺たちの本当の意図が他にあると悟ったみたいだが、敢えてそれを口にせず乗ってくれた。

これだけは先にお願いするようにアイクに伝えていた件が通ると、ビートル伯爵がアイクにお伺いを立てる。

「メサリウス伯爵。明るいうちにビラキシル侯爵と少し外を歩いてきてもよろしいでしょうか? 友好関係を住民たちに印象付けようかなと思いまして。ビラキシル侯爵も長旅で疲れていると思うがいいか? 終われば今日のところは休むといい。本格的に今後のことを話すのは明日にしよう」

確かに混乱はなかったものの、住民に対してビラキシル侯爵の説明と、和解に関しては早期に説明したほうが賢明だ。

「そうだな。私としても早めに紹介してもらえると助かる。私とビートル伯爵2人でか?」

「……ふむ。マルス。クラリスと2人で一緒に来てくれるか? 2人であれば住民の覚えは抜群、不測の事態にも備えることができるし、なによりビラキシル侯爵にとっても心が許せるのではないか?」

「分かりました。僕は大丈夫です。ビラキシル侯爵もよろしいでしょうか?」

「もちろん。よろしく頼む」

ビラキシル侯爵の同意を得た俺たちは、早速4人で住民たちの前に姿を見せると、安堵の声と共に、街は歓喜の渦に包まれた。