作品タイトル不明
第422話 暗黒魔法
「ヨハン? どうしたのだ? てっきりお前が名無し君の首を刎ねると思い泳がしておいたのだが? カミラはどうした? ラースからはお前とカミラが来ると聞いていたが? なぜヴァカロに止めを刺した? あいつにはまだ使い道があったというのに」
ディクソンが爪の射出をやめ、俺の前に立つヨハンに問う。
「ああ。こいつは僕の友達なんだ。ウリゴールも知っているだろう? 僕がリスター帝国学校の元生徒だってことを。カミラは逃げたよ。ヴァカロは邪魔だったからね」
ヴァカロって誰だと思ったが、ここにもう1人いたことを思い出した。封印の杖を持ち、俺が左腕を斬った奴だ。すでにもう奴の首は刎ねられ、ヨハンの持つ鎌からはヴァカロの血と思われる赤い液体が滴っていた。
「カミラが逃げた? あれほどの女がか? 唯一他種族で認めていたのだが……それで? お前はなぜ名無し君の前に立っている?」
「ここに来た理由はラースに命令されたからだけど、カミラは僕と一緒に行動するのが嫌なようでね。マルスの前に立つ理由は決まっているじゃないか。助けにきたんだよ? マルスは同じ志を持つ僕のパートナーだからね」
同じ志? 確かにパートナーと言った気もするが……。
「クックック……ヨハン? お前何を自分で言っているか分かっているのか? お前ごときが我に勝てるとでも?」
「まぁそうだね。僕1人じゃウリゴールに勝てないけど、どのみち僕の目的はマルスがいないと達成できないからね。であるとすればマルスを助けるのは必然だと思うけど? それにこうやって 悪魔の爪(デモンズネイル) を喰らっても、なお普通でいられるマルスはどう考えても異質。強くはないけどどこか期待しちゃうんだよね」
ヨハンでもウリゴールに歯が立たないのか? この 悪魔の爪(デモンズネイル) というのはもしかして毒でも塗ってあるのか? 2人の会話を聞きながら情報を整理する。
「ヨハン。お前はよほど説教部屋が好きみたいだな。そうだ! いいことを思い付いた! ヨハンのパートナーというマルスにも説教部屋に入ってもらおう! 悪魔の爪(デモンズネイル) を受けてなお生きているのであれば、もしかしたらマルスもお前と同じで暗黒魔法適合者かもしれないしな! まぁ適合者でなければ、あのバカ姉弟みたいにラース……」
愉悦に浸り、饒舌なディクソン。
「アーリンとヨーゼフの話はやめろ!」
ヨハンの怒りの咆哮が暗闇に響く。
――――アーリンとヨーゼフは姉弟なのか!?
「ヨハン、この 悪魔の爪(デモンズネイル) というのは一体……」
MP消費を抑えるために 未来視(ビジョン) と 風纏衣(シルフィード) を解き、なおも昂っているヨハンに質問すると、あの時のコンビニ強盗の目がこちらを向く。ダメーズとはまた別の意味で逝ってる目だ。
「ああ、それは暗黒魔法だ。血で作った爪だけど……マルス君はどこまで暗黒魔法のことを知っている?」
ディクソンを警戒しながら俺の問いに答えるヨハン。少しずつ落ち着きを取り戻してきている。
「まったく……暗黒魔法というのも初めて知った」
嘘も方便。俺は暗黒魔法やヨハンのこと、それにラースのことも知らないふりをして通すつもりだ。ボロが出て転生者とバレるのを避けたいからな。
「そうか……まぁ普通に生活していればお目にかかることのない魔法だからね。血を媒体とし、その黒い血には暗黒蟲という蟲が宿っている。暗黒魔法を喰らうと、暗黒蟲が傷口から体内に入ってしまい、増殖したり、臓器を喰い散らかされたり、体を蝕み死に至る。その 悪魔の爪(デモンズネイル) にも蟲が宿っていて傷口から入り、普通であれば今頃マルス君の体内で暗黒蟲が臓器を喰い散らかし、死んでいるはずなんだけど……ちなみに魔法によって暗黒蟲の種類も変わるから覚えておくといい」
――――なっ!? 早く言えよ! 急いで 悪魔の爪(デモンズネイル) に刺された箇所を見るが、ただただ血が流れているだけ……が、今まで興奮状態で痛みを感じなかったのだが、血を見た途端急に激しい痛みが襲ってくる。
その痛みに思わず屈むと、視界には今にも死にそうなグロい2匹の蟲……さきほどのヘルファイアに宿っていた蟲とは明らかに違い体長10cmくらいの小さい蛇のようなものが。これが 悪魔の爪(デモンズネイル) に宿っていた蟲か。
でもなぜこの暗黒蟲は瀕死なのか? 疑問とともに激しい痛みが。もう我慢できない……こいつらにだけは見せたくはなかったが、このまま放っておくと下手すれば死んでしまう。
左肩と右太腿に刺さった 悪魔の爪(デモンズネイル) を抜き、すぐにヒールを唱える。
「ヒール」
「ヒール」
「ヒール」
気づかれないよう小声で唱えたが、神聖魔法の柔らかな光が暗闇を照らしてしまう。ハイヒールにしなかったのはバレたときに初級しか使えないという体にするためだ。
「――――ま、マルス君!?」
「――――神聖魔法だと!?」
「っ!?」
神聖魔法を見た2人は驚くが、俺もあることに驚く。
悪魔の爪(デモンズネイル) を抜いた際に血が噴き出したのだが、その血が暗黒蟲にかかると、弱っていた暗黒蟲が死んだのだ。
俺の血は毒なのか? まぁ今考えることでないが、俺の血が誰かに付着するのにも気をつけないといけない。
「あの剣技に鑑定、無詠唱風魔法……それに神聖魔法? マルス君、君はどれだけの才能に愛されているんだ? 嫉妬してしまうよ」
やはりヨハンにも無詠唱風魔法がバレていたか。対ヨハン戦の接近戦の切り札と思っていたのだが。
「神聖魔法はつい最近覚えたんだ」
ヨハンの疑問に答えながらもヒールで回復し、傷口は完全に塞がった。
「マルスは神聖魔法使いだったのか……どおりで暗黒蟲が体内に入るのを拒むわけだ……さてどうするか。神聖魔法使いは暗黒魔法に耐性があるから、ラースは発見し次第殺せと言っていたが……こんなに面白いサンプルなど二度と現れないかもしれない……」
ん? 神聖魔法使いが暗黒魔法……暗黒蟲には耐性があるということか! だから俺の血で暗黒蟲が死んだということだな!
「マルス君。過信はしない方がいい。暗黒魔法の中には神聖魔法使い関係なく殺せる魔法もあるとラースが言っていた。その魔法はどんな装備の効果をも打ち消すんだと……」
「ああ……蟲に喰われはしないが、こうやってダメージは受けているからな。で? どうする?」
「僕にもね。とっておきがあるんだ。まだ誰にも見せたことのないとっておきが。警戒心が高いディクソンでも初見では間違いなく倒せるはずだ……まぁラースには試す前に 未来視(ビジョン) で見抜かれたんだけどね」
そうか……未来が視えるラースには何をしようとも無駄ということか。
「分かった。俺はどうすればいい?」
俺の問いにヨハンは顔を歪ませ、愉快そうに耳打ちしてくる。
その作戦は作戦とは言えないほど酷いものだった。