軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第419話 紅蓮の絆

「マルス。もう少しアイクとの時間をくれぬか」

ガルが俺にアイクのアズライグを斧で受けながら……いや、弾かれながら聞いてくる。

アイクとガルの攻守は完全に入れ替わっていた。

ガルを狙っても無駄だと悟ったアイクは、ガルが斧を振りかぶった瞬間に斧を目掛けてアズライグを突き出す。

アイクの正確無比な一突きでガルは斧を振り下ろす前に弾かれ、ガルは攻撃手段を失い、完全に手詰まりとなっていた。

「ええ。気が済むまで」

クラリスたちが気になるといえば気になるが、死人相手に後れを取ることはないだろう。

俺の言葉に気を良くしたガルが、すぐに昔を懐かしむように口を開く。

「こうやって戦っているとリスター帝国学校の入学当初を思い出すのう」

「そうだな。あの時は確か序列2位争いだったか?」

序列2位? 1位じゃないのか? 俺の疑問をよそに2人の会話は続く。

「アイクはそう思っておるかもしれんが、儂は違うものも争っていたんじゃよ」

「違うもの?」

アイクが聞きなおすと、ガルが少し照れながら答える。

「エーデへの想いを伝える権利じゃ」

「「っ!?」」

突然の告白にアイクの動きが止まると、ガルの斧が襲い掛かり、またも攻守が入れ替わる。

「ほれ。油断するな」

「す、すまない。でもまさかガルが……エーデを?」

まさかの言葉にまだアイクが動揺している。

「そうじゃな。当時のエーデはちょっととっつきにくかったが、それでも綺麗じゃったからのう。当然アイクに心を溶かされた今のエーデの方が魅力的じゃがの」

アイクに心を溶かされたって……当時の眼鏡っ子先輩はどんな女性だったんだ?

「アイクが序列1位になり、【紅蓮】を結成した時じゃったかのう。この指輪をエーデから貰ったのは」

さらに当時を振り返りながら右手に嵌められている守護の指輪を見ると、アイクも自身の左手に嵌めている守護の指輪を見ながら答える。

「そうだな。エーデが【紅蓮】には何度束縛眼で動きを止めても諦めないバカばかりだから心配だと言って、皆に配っていたからな」

「それはアイク、お主だけじゃ。儂らは魔眼持ち、特にエーデのような魔力の高い者には絶対に勝てないと思っていたからのう。アイクにだけに渡そうと思っていたのじゃろうが、気持ちを隠すために皆に配ったのじゃろう」

ということは入学当初の序列1位は眼鏡っ子先輩だったのか。確かに束縛眼で動きを封じられたら近距離戦が得意な者は何もできないだろうな。

「まさか……」

ガルの言葉を受けてアイクが少し考え込むが、それを無視しガルが続ける。

「でも儂は嬉しかった。【紅蓮】に誘ってもらえたのも。この指輪を貰ったことも。アイク、この指輪は儂が」

ガルに最後まで言わせないようアイクが食い気味に答える。

「その指輪は【紅蓮】のメンバーにエーデが配った物だ。当然ガル。それは今でもお前の物だ。そうだろう?」

ガルはアイクを見つめ無言で頷く。その表情からは感謝の気持ちが見てとれた。

「マルスたちから聞いているかもしれないが、エーデは今……」

少しバツが悪そうにアイクが切り出すと、

「聞いておるぞ。妊娠したのじゃろう。めでたい限りじゃ。本当は儂も……イッショニ……」

ガルの声のトーンが一段上がるが、すぐに様子がおかしくなる。

「ガルっ!?」

「ガル先輩!?」

ガルの声が急に無機質になり、まさかと思い声をかけると、

「……ココマデノヨウダ……ディクソン……近づいてきているみたいじゃ」

ガルもなんとか抵抗しながら答える。

「まだだ! まだ俺はお前と話を……」

アイクがガルに詰め寄ろうとするが、それを振り払うかのようにガルが斧を振り下ろす。

「アイク、儂もそうしたいがムリダ……儂が儂でいるうちにトドメヲ……」

ディクソンが近づくにつれて、ガルの膂力が上がっているようで、アズライグでガルの斧を弾き飛ばしてもノックバックしなくなっていた。

「アイク兄! このままでは! 僕が止めを……ホーリーを撃つのでアイク兄は下がってください」

ディクソンに必死に抵抗するガルから思いもよらぬ言葉が出てくる。

「ホーリーというのはエキシビジョンマッチでクラリスがリーガン公爵に使った神聖魔法じゃな。キモチハウレシイガ……アイク、サイゴハオマエニタノミタイ」

アイクに? どうやって?

しかしガルの言葉は……想いは余すことなくしっかりとアイクに届いていた。

「……当然だ。マルス、ガルの最後は俺にやらせてくれ」

アイクの表情はすでに覚悟を決めた顔をしていた。

「で、ですが……どうやって……?」

「知れたこと。俺にはこれしかできないからな」

俺の質問に答えると、ガルから距離を取り、アズライグを左手に持ち替え、右手を前に掲げる。

え? まさか?

ガルの方を向き直ると、ガルもそれを望んでいたようで笑顔を見せる。

「まさか!? 火魔法を!?」

俺の言葉にガルが頷く。

「すまぬな。どうしても最後には目標であり、憧れであり、友であるアイク。お前の手で葬って欲しくての」

アイクがガルから距離を取ると、ガルがアイクを追いかける。その為ディクソンからの距離が離れ、再度いつものトーンに戻っていた。

「覚悟はいいか?」

アイクは自分自身にも問いかけているようだった。

「もちろんじゃ」

ガルが精一杯の笑顔で答えると、2人の間に刹那の時が流れ、アイクが大きく深呼吸をすると右手に魔力が流れていく。

「フレア!」

アイクの手から放たれた紅蓮の炎が、仲間との最後の時を惜しむようにゆっくりとガルに向かう。

ガルはその炎を愛おしむように見てから、俺に視線を移す。

「マルス。ディクソンを見くびるではないぞ」

俺の心を透かしたガルが忠告をすると、返事をする前にアイクに視線を向け、最後の言葉を残す。

「アイク。結婚、妊娠おめでとう……もし次に会う機会があれば……その時は……最後まで……」

優しい炎がガルを包むと、その炎は一瞬でガルを焼き尽くす。

ガルの最後はどの死人よりも安らかな表情をしていた。

「ガルゥゥゥウウウ!!!」

ガルが燃え尽きると同時に小康状態だった雨が激しく降り注ぐが、アイクの涙を隠すことはできなかった。