軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第413話 百鬼夜行

死人だと!? ロアは死んでいるのか!?

死んでいても実際目の前のロアは動いている……何が起きている?

「……マルス……騎士団員……死にそう……」

ロアに気を取られてしまい、ロアに刺された騎士団員のことをすっかり忘れていた。

2人刺されたうちの1人はまだ大丈夫そうだが、もう1人はエリーの言うようにこのままでは死んでしまう。

一刻も早く神聖魔法を唱えなければ。それにこの件をビートル伯爵に……アイクにも伝えなければならない。

「すみません! 僕たちは一旦ビートル伯爵の下へ戻ります! ロアは僕が完全に無力化しておくので、皆さんはこのまま住民の避難をお願いします!」

ロアを 火精霊の鎖(サラマンダーチェーン) でしっかり拘束し、住民を避難誘導している騎士団員に伝えると、

「あそこまでやってもらえば大丈夫だ! 後は任せろ!」

と騎士団員が胸を張り大声で応える。

それを聞いた俺は瀕死の騎士団員の下へ走る。

「こちらの人は重傷なので、クラリスに診てもらってきます。連れて行ってもいいですか?」

瀕死の騎士団員を一生懸命介抱している住民に聞くと、

「剣聖様! こいつはいい奴なんだ! よろしく頼む! 聖女様にも伝えてくれ!」

どうやら騎士団員と既知の仲だったらしい。

「分かりました! 必ず助けるので避難してください! エリー! エリーは……」

瀕死な騎士団員をおんぶし、エリーに指示を出そうとすると、エリーはもう1人の騎士団員をおんぶしようとしていた。

エリーに男をおんぶさせるわけには……いや、ここで私情を挟むのはダメか。エリーも自分がどうしたらいいのかを考えて行動している。

普通であれば、エリーも一緒に騎士団員をクラリスの下に連れて行くのが最適解だ。

「よし! エリーも頼む! それでは皆さんよろしくお願いします!」

周囲の騎士団員にそう伝え、ビートル伯爵の屋敷に向かう。

当然戻る途中で誰にも見られないように、騎士団員2人にヒールを唱え、危ない状況からは脱した。少なくとも全ての傷口は塞いだので失血死ということはもうない。

それでも事が事だけに急がなければ……ようやくビートル伯爵の屋敷が見えてきた時だった。

どこからか、重い何かが動く音がした。この音ってまさか……。

「……西門……開門した……」

エリーが街の西側を見て呟く。

やはりそうか! なぜこのタイミングで開門した!? もしかしたら……。

最悪なことが頭を過る。

先に西門に行くべきか迷ったが、このまま屋敷へ戻ることを選択した。

もう俺とエリーだけではやりきれない。

起こしたくはないが、MP枯渇しているクラリスたちの力を借りなければ……。

ビートル伯爵の屋敷の前に着くと、そこには数名の住民が押しかけていた。

住民たちは早口で何かを騎士団員に捲し立てているが、興奮状態のため、何を言っているのか聞き取れないようでビートル騎士団員たちも困っていたが、俺たちを見て騎士団員の表情が強張る。

「マルス! 後ろにおんぶしているのは!?」

「はい! ロアという人に刺された騎士団員です! 応急処置はしましたが、クラリスに治してもらうので屋敷の扉を開けてもらってもいいですか!? あとビートル伯爵に取次ぎをお願いします!」

「分かった! そいつらを頼む!」

住民たちも状況をすぐに察してくれ、道を開けてくれる。

屋敷の中に入り、エントランスで騎士団員を下ろすと、俺とエリーの制服は騎士団員の血で真っ赤になっていた。

警備をしていた騎士団員の1人が急いで屋敷の中を駆け、ビートル伯爵の寝室へと向かう。

ビートル伯爵へ取り次がれるまで多少時間はかかるだろう。何しろこんな夜更けに急にだからな。

「エリー、風呂に入って着替えよう」

今後のことを考えると、風呂にだけは入っておきたい

エリーも賛成らしく、すぐに部屋に戻る。

「ハチマル! 俺だ! マルスだ! 開けてくれ!」

部屋の中でクラリスたちを守ってくれているであろうハチマルに声をかけると、さきほどと同じようにドアを何度か引っ掻く音がし、開錠される。

ハチマルは本当に優秀だな。

部屋に入るとすぐに着替えを持ち、風呂を済ませると、いつもは俺と同じくらい、それか俺よりも早く風呂からあがっているエリーはまだ風呂に入っているようだ。

エリーを待つことなく寝室に向かう。

部屋に入ると、すぐにクラリスの布団をはぎ取る。

クラリスもエリーと同じようにブカブカの俺のシャツの上下からピンク色が覗く。

あまりもの美しさに目と心を奪われそうになる……いや、とっくに心は奪われているのだが、しっかり俺の為すべきことを為す。

「ラブエール」

クラリスに覆いかぶさりラブエールを唱え、クラリスのMPを全快にしてからクラリスの体を揺する。

「クラリス! クラリス! 起きてくれ!」

だが、いくら揺すってもクラリスは起きない。

仕方ないここは……クラリスの薄い唇にキスをすると、ゆっくりクラリスが目を開ける。

「……うん……? マルス? どうしたの?」

夜這いかと思われても仕方のないシチュエーションだが、クラリスは騒ぐことはしなかった。

信用されているのか、それともヘタレだからそんなことはしないと踏んでいるのかは分からないが、すぐに事情を説明する。

「死人!? それに重傷者!? 分かったわ! 着替えてからすぐに……」

そこまで言うとようやく自身の格好に気づいたのだろう。

慌てて俺がはいだ布団で体を隠す。

「ゴメン。ラブエール使うのに俺が布団をはいだんだ」

「そ、そう……なら仕方ないわね」

「俺はこのままカレンたちを起こすからクラリスは着替えてもらっていいか? そっちの方は見ないようにするから」

クラリスが頷くと、すぐにカレン、アリス、ミーシャの順番で起こす。

カレンを起こし終わった時にはクラリスはもう着替えを済ませており、エントランスへ向かっていった。

「なんだ? 夜這いかと思ったじゃん。それにラブエールでMPを注入されるのではなくて、違う物を注入されるかと思っちゃったよ」

最後に起こしたミーシャが俺を揶揄うように言うと、急いで着替えているアリスも同意する。

「そうですよね……少しだけ期待しちゃいました」

「不快な思いをさせて悪い。今度思いっきり罵ってもらっていいから」

俺の言葉に着替えを済ませたカレンが、

「ちゃんと聞いてた? 期待しちゃったって言っているんだからいいのよ。私の場合はもう少し大人になってからがいいけど……」

ミーシャの着替えを手伝いながらフォローしてくれる。

「……ごめん……遅くなった……」

ミーシャが着替え終わった時にちょうどエリーが風呂から上がってくる。

「いや今みんな着替え終わったところだ。みんなはハチマルと一緒にエントランスホールに向かってクラリスと合流してくれ。俺は今からアイク兄を起こしてくる」

4人は頷き、ハチマルを連れエントランスホールへ、俺はアイクの寝室へ向かう。

「アイク兄! マルスです。失礼します!」

アイクの寝ている寝室に入ると、予想通りアイクは寝ていた。

アイクにラブエールは唱えられないので、アイクの肩を何度か揺らすとすぐに目を覚ます。

「どうした!? 何かあったのか!?」

察しのいいアイクが、起きてすぐに聞いてくる。

「はい……実は……」

簡単に事情を説明すると、

「分かった。俺も顔を洗って着替えてからすぐに行く! マルスたちはエントランスで待っていてくれ!」

アイクの指示に従いエントランスに戻ると、2人の騎士団員はすっかり回復しており、顔色も先ほどより良くなっている。

なによりこんな状況にも関わらず笑顔が絶えず、先ほどまで生死をさまよっていたとは思えぬほどだ。

どうやらミーシャがバカ話を混ぜながら、先ほど起こったことを聞いているようだ。

「遅くなってすまない! 状況を説明してくれ!」

ビートル伯爵が急ぎ足でエントランスに来ると、皆で説明を始めた頃にアイクも加わる。

「そんなことが……確かにロアが戻ってきたとなれば開門するのは当然だ。それに西門までも開門というのは……どういうことだと思われますか? メサリウス伯爵?」

説明を聞いたビートル伯爵がアイクに意見を求める。

「内部で意図的に門を開けたものがいるか、もしくはさらなる帰還者がということも考えられる。いずれにしても街の東と南を守る騎士団員には誰が来ても開門しないように指示を出すことが先決だと」

そうか。確かに更なる開門を防ぐのは必須だな。

「分かりました。騎士団員を派遣して東門と南門を開けぬよう指示を出します」

アイクに言われたことをすぐにビートル伯爵が実行する。

グランザムとヘルメスの交渉をする時のみ、アイクの立場が上かと思ったのだが、ビートル伯爵はここでも下手に回った。

まぁこうしてくれた方が、現場で動き回る俺たちとしてはやりやすいからいいんだけどね。

「次にブラッドを起こしてきてくれ! ポロンが体調不良の時は呼ぶな。バロンとコディもMP枯渇で調子が悪そうであれば連れて来なくても構わないが、ブラッドだけは叩き起こすように!」

なぜブラッドだけ? そう思ったが、次に出てくる言葉で理解が出来た。

「マルスとクラリスは常に一緒にいるように! 最初は俺と一緒に西門に来てくれ。怪我人が増えた時の回復は2人に任せる。カレン、ミーシャ、アリスは北門へ向かってくれ! カレン、北門はカレンの魔眼が頼りな所もある。エリーはブラッドと一緒に行動し、2人の機動力で北門と西門の情報伝達を頼みたい! 走り回ることになるが頼む!」

そういうことか。アイクは俺に配慮してくれたのか。

いくらエリーとはいえ、夜中に1人で行動させるのは怖いからブラッドを付けるのか。アイクの信用を勝ち取るなんてブラッドも本当に出世したな。

アイクが指示を出したところで、白い尻尾を振りながら話に割り込む者がいた。

「騒がしいと思い起きてみたら何事じゃ? 楽しそうだから妾も参加するぞ!?」

姫がゆっくりこちらに歩いてくると、その後ろにはサーシャが続く。

そうか。姫も監視対象だからサーシャを同室にして見張らせていたのか。姫のことは信じてはいるが100%ではないのだろう。

「助かる。ではヒメリとサーシャにも北門を任せる。カレンたちをサポートしてくれ!」

アイクが指示を出し終え、少し待つとブラッドがコディとポロンを連れてやってきた。

「アイクも俺様の強さにようやく気付いたか! で? 何をすればいい?」

「クラリスがどこかに行くのであれば、俺も行くぞ!」

ブラッドとコディが意気揚々とやってくるが、ポロンだけは調子が悪そうだ。

「なんか起きたら顔がベタベタして臭いモン……温泉に入りたいモン」

まぁブラッドとコディにクラリスと見立てられて、顔中舐め回されていたからな。調子も悪くなって当然だ。

それを見たアイクが俺にポロンはどうする? と目配せをしてきたので黙って頷く。

アイクはあの部屋での出来事は知らないからな。

そういえばバロンはどうしたのだろうか? さすがにブラッドもあの高尚な姿を見て声をかけられなかったのかもしれない。

「よし! ではブラッドたちは俺と一緒に西門へ来い! 向かいながら事情は説明する! エリーも初動は西だ! 行くぞ!」

アイクの号令に皆で応え、勢いよく屋敷を飛び出すと、西の方からは悲鳴や怒声と思われる声が聞こえてくる。

やはり何かあったんだな。

俺が先頭に立ち、最短ルートで西門を目指す。

道中西の方から逃げ惑う住民たちには、ビートル伯爵の方へ避難するようにと伝えた。

そして、住民たちが口を揃えて話す。

「この街の冒険者たちが戻ってきたと思ったら、急に暴れ始めたと」

今度は1人ではないのか……本当に何が起きている!?

逸る気持ちを抑え、ようやく西門へ着き目にしたものは、死人と思われる顔色が悪い者たちが、騎士団員や住民に襲い掛かっている光景だった。