軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第408話 心傷

2032年5月30日 20時

「うーん……どこかで会った気がするモン」

「だからさっきから何度も言ってるだろうが! それはお前の見間違いだ! いや、見間違えでもねぇ! エリーのようないい女がそこら辺に転がっている訳ねぇからな! 魔物化した時に頭がバグっちまったんじゃねぇか!?」

ヘルメスの西門でビサン男爵とコンザから荷物を預かった俺たちは、人魔橋の詰所で一夜を過ごすことにした。

行きよりも帰りの方が、時間がかかってしまったが、それはポロンの体調を考慮してのことだ。

今は風呂と軽食を済ませ、寝るまでの間、クラリスと姫を除く5人でテーブルを囲んでいる。

人魔橋に着くと姫がクラリスに話があると言い、それ以降ずっと2人で何かを話し込み、食事を終えた今もすぐに2人でどこかに行ってしまった。

「そんなこと……あるかもしれんモン」

ブラッドに強い口調で言われ、ポロンがシュンとなる。

「エリー? 実際の所どうなんだ? ポロンと会ったことあるのか?」

定位置に収まっているエリーに聞くと、少し考えてから答える。

「……かもしれない……」

「ほら! 言ったとおりだモン!」

エリーの言葉にすぐにポロンが反応すると、

「エリー、無理にこいつの話に合わせる必要なんてねぇんだぞ!?」

「……うん……違うかもしれない……」

エリーが曖昧に答える。

「金獅子族を見て会ったか分からないなんてあるはずがねぇ! しかもこの容姿だぞ!? 忘れる奴なんかいるか!」

ブラッドが断言するが、その言葉を聞いたポロンの雰囲気が変わる。

「金獅子族!? エリーは獣人なのかモン!? 耳も人族のものだし、尻尾は……」

ポロンが目でエリーに問いかけると、

「……無くなった……」

一言で答える。

「どおりで……じゃあエリーはあの時の……」

真面目な顔をして考え込む……が、少し考えるとポロンの瞼が重くなる。

「……頭を使ったらまた眠くなったモン。エリー、膝枕してくれだモン」

「嫌」

エリーにしては珍しく即答するが、ポロンが食い下がる。

「エリーに心臓を刺された傷がまた痛むモン。心の傷だモン。エリーに膝枕してもらえば絶対に治るんだモン!」

さすがにエリーもこれにはどう返答していいか分からないらしく、俺に助け舟を求めてくる。

当然そんなことは許さない。すぐにダメだと言おうとしたが、俺の答えを聞く前にポロンはそのまま頭をテーブルに打ち付け寝てしまった。

「ちっ! しょうがねぇな! マルス、こいつは俺とコディが引き取るからな。俺たちももう寝るぜ?」

ブラッドが席を立ち、寝ているポロンの首根っこを掴むと、コディと一緒に寝床へ向かう。

そしてブラッドと入れ替わるようにクラリスが部屋に入ってくる。

「ごめん。今日私は姫と寝るわね。1人で寝かせるには不用心だし、かといってマルスと一緒だと……ねぇ?」

「分かった。じゃあ俺はエリーと一緒に寝るから。おやすみ」

「うん。エリーもおやすみ」

クラリスは部屋に入ってきたと思ったらすぐに出て行ってしまった。

「じゃあ俺たちも寝ようか?」

俺の言葉にエリーが嬉しそうに頷いてくれる。

「……思い出した……ポロン……会ったことある……ビラキシル侯爵も……」

ベッドに入ると突然エリーが呟く。

「そうか」

俺は敢えて、いつ? どこで? とは聞かなかった。なんとなく想像がつき、それはエリーにとって思い出したくない過去だろうからな。心の傷をえぐる必要はない。

だがエリーは続ける。

「……どこかは分からない……でもいつか会ったかは分かる……」

「辛かったら思い出さなくてもいいんだぞ?」

俺の言葉にエリーは首を振る。

「……うん……大丈夫……マルスいる……」

エリーが真っすぐ俺を見つめながら続ける。

「……パパ……走れない私……守ってた……」

やはりその時だよな。その時というのは、エリーが呪われ、ライオンになった時だ。

「バーンズ様は誰からエリーを守っていた?」

「……分からない……あのまま……私死んでた……」

ん? 死んでた? この話の流れはちょっと意外だぞ?

「あのままというのは獣人のままということか?」

「……うん……小さい……足遅い……体力無い……」

確かにいくら獣人とはいえ、小さい頃はそんなに走れるわけがないよな。

「……私を 助けた(呪った) ……狐族と狸族……そこで会った……」

バーンズの口ぶりからすると呪われたと聞いたような……いや、そもそも直接バーンズからはその話を聞いてないな。

確かカーメル辺境伯とアルメリアの奴隷商のヘリクからまた聞きしただけだ。

「どういう経緯でそうなったか分かるか?」

「……分からない……気づいたら……ライオン……」

そこは思い出せないのか。でもまぁいい。恐らくビラキシル侯爵はこの件を俺に話したいのだろうからな。

だがエリーをそんな形で救ってくれていたとは。この恩はでかいな。

「エリーは自分を呪った人のことを恨んでないか?」

「……昔は恨んでた……でも思い出した……今は感謝……」

この話をビラキシル侯爵と話す前に、エリーから聞けて良かった。この話を聞かずにビラキシル侯爵の話を聞いていたら、俺はビラキシル侯爵を逆恨みしていたかもしれない。

「話してくれてありがとう。もう遅い。早く寝よう」

「……うん。おやすみ」

すぐにエリーが眠りにつく。

その顔はいつにも増して安らかだった。