軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第404話 処罰

ん? ここはどこだ? それにこの感触、この匂いは……。

どうやら俺は気を失っていたようだ。ベッドに寝かされているのが分かる。

隣でエリーが俺を包むように添い寝してくれているのも分かる。恐らくエリーは夢の中だろう。

ゆっくり目を開けると、ヘルメスの街の地下にある元迷宮の天井が見えたが、すぐにいい匂いがする手が俺の目を覆う。

まるで、「だーれだ」と恋人が後ろから目を覆うようだ。

「マルス? 起きたの? 大丈夫? どこか痛いところない?」

このいい匂いの手の主、つまりクラリスが聞いてくる。

「ああ。大丈夫だよ。俺は気を失っていたのか?」

「何が起きたのか覚えてないの?」

何か起きたのか?

「まさか!? ポロンが!?」

思わず大きな声を出すと、

「マルス、声が大きい。隣でエリーが寝ているんだから」

クラリスに注意されてしまう。

「ご、ごめん」

すぐに謝るとクラリスがくすっと笑いながら、

「ポロンはもう大丈夫よ。ちょっと信じられないことになってはいるけど……それより本当に何が起きたのか……何を視たのか覚えてない?」

信じられないこと? 視た? どういうことだ?

「いや本当に覚えてないんだけど……」

正直に答える。

「そう。じゃあ手をどかすから、ゆっくりと目を開いて」

もう少しこのままでも良かったのだが、言われるがままゆっくりと目を開けると、吐息がかかるくらいの距離で俺の目をじっと見つめるクラリスの顔があった。

「ちょっ?」

驚く俺をよそにクラリスが喋る。

「うん。大丈夫そうね。色々説明するから起きて」

びっくりしたぁ……まだ心臓がドキドキしている。だがとても心地よい。

隣で寝ているエリーを起こさぬように体を起こし周囲を見ると、土魔法で作られたパーテーションで囲われていた。

「ここはビラキシル侯爵と初めて会った場所よ。きっとマルスはエリーの寝顔を他の男の人たちに見られたくないかなと思って、コディにお願いしてパーテーションを作ってもらったの」

クラリスが俺の隣で寝ているエリーを見ながら話す。

コディがこのパーテーションを作ってくれたのか。

四方のパーテーションは天井まで届いており、パーテーション自体もかなり分厚いのか、外の音が聞こえてこない。

「ああ。見られたくないな。ありがとう」

隣ですやすや寝ているエリーの頬に触れながらお礼を言うと、クラリスがそれを見ながら続ける。

「ポロンはマルスが人造魔石を砕くと、体がどんどん萎んでいって、今では最初に会った時よりも小さくなっているわ。神聖魔法で進行を止めようと思ったのだけれども、効いたのかどうか分からないの」

「っ!? またヨーゼフの時のように記憶が!?」

ポロンには聞きたいことがたくさんあったのに……。

するとクラリスが安堵の表情を浮かべながら答える。

「ヨーゼフと同じく幼児返りというか、子供返りみたいなことはおきているわ。でもポロンの年齢が元々高かったせいか、それとも人造魔石に侵された時間が短かったからかは分からないけど、話すことはできたわよ。少なくもポロンが眠りにつく前の話だけど」

まずは一安心だな。

「そうか……ちなみに俺はどのくらい気を失っていたんだ?」

「6時間くらいね。ここまではブラッドが担いできてくれたのよ」

そんなに? ということは、外はもう暗いのか。

それにブラッドに運んでもらったのか。あの2人には感謝だな。

「ブラッドとコディは?」

「ビラキシル侯爵と姫の2人に連れられて街の修復に出かけたわ。できれば狸族とも話し合ってくるとも言っていたけど」

地震(アースクエイク) でかなりの損傷が生じてしまっているから大変だろう。

それにビラキシル侯爵にとってはこれからが大事だ。狸族にどのような処罰を下すのか。これからどのように付き合っていくのか。

甘いとまた謀反を企てられてしまうかもしれないし、厳しいとこの街から出て行かれてしまうかもしれない。

「そういえばどうしてクラリスは俺の目を見ていたんだ?」

俺の質問にクラリスが答えづらそうにする。若干恥ずかしがっているようにも見えるのは気のせいだろうか?

「マルスが気を失う前にね。私が駆け寄ったの覚えてない?」

「ん? 全く覚えてないや。ポロンにありがとうとだけ言われた気がするんだけど……」

俺の言葉にクラリスが胸をなでおろす。

「良かった……多分マルスは透視眼が発現すると目の色が変わると思うの。それに気づいたのは駆け寄った時で、私を見てからマルスが気を失ったのよ」

目の色が変わる!?

「血走るとか、ギンギンになるとか!?」

俺の言葉がよほど面白かったのか、必死になって笑いをこらえようとするが、我慢ができなかったらしく、クラリスから笑い声が漏れる。

「そうじゃないのよ。マルスの瞳の色は金色でしょ? でも駆け寄ったときはピンク色っぽかったの。ポロンの人造魔石を貫いた時、剣の軌道を変えたのが見ていてわかったから、きっと透視眼で視えたんだなと思って。そしてそのまま私を視たからもしかしてと思ったんだけど……」

確かに気を失う前、俺は倒れているポロンに押しつぶされ、見えるはずがない人造魔石が視えていた。

ということは何か? 俺はクラリスに透視眼を発動したにも関わらず何も覚えていないということか!? なんてこった……。

俺のリアクションにクラリスが恥ずかしそうに笑いながら、

「だからマルス。変なことをしようとしても分かるんだからね!」

またも顔を近づけて、俺の目をじっと見つめてくるが、さっきと違うのは唇が触れたことだ。

この幸せな時間が永遠に続けばと思った瞬間、パーテーションで区切られた部屋のドアが乱暴に開けられた。

「クラリス! ポロンが……」

部屋に入ってきたのはコンザだった。

コンザが部屋に入ってくると、すぐにクラリスは俺から離れ、今までしていたことをごまかそうとする。

「ま、マルス。目のごみは取れたわよ」

クラリスは明らかに動揺しており、顔が真っ赤になっている。当然コンザも俺たちがキスをしていたことに気づいており、

「取り込み中、すまない……」

と申し訳なさそうに謝る。

いや本当だよと言ってやりたかったが、

「で? どうしたのですか?」

紳士的な対応をすると、コンザが俺とクラリスの顔をチラチラ見ながら、ぼそぼそと話す。

「ポロンが起きたんだ。クラリスに起きたら教えてほしいと言われていたから来たんだけれども……」

「分かりました。僕も一緒について行ってもいいですか?」

俺の言葉にコンザが頷く。

「クラリスはどうする? ここで待っているか?」

恥ずかしくて俯いているクラリスに聞くと、下を向いたまま答える。

「私も行く」

「分かった。エリーはどうしようか?」

隣で寝ているエリーを見ながらクラリスに聞く。ちなみにコンザが部屋に入ってきた後に、エリーの顔に軽く布団を被せている。

「そうね……寝かせといてあげたいけど1人でここに残すのはちょっと……」

そこまで言うと、コンザがクラリスの言葉を遮る。

「じゃあ俺が部屋の外で見張っているから2人で行ってきてくれ。邪魔した詫びだ」

「じゃ、邪魔したって……そんなんじゃないんです……」

コンザの言葉にクラリスが否定するも、尻つぼみになっていく。

うーん……コンザに任せていいものか……色々やらかしているようだしなぁ。少し考えてからコンザに質問する。

「ポロンはどこにいるのですか?」

「同じ部屋の反対側だ」

そういえばここは元迷宮の大部屋で、その大部屋にパーテーションを設けているだけだったな。

まぁそれだけ近ければ問題ない。サーチを使うまでもないな。

「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます。でも女性がいる部屋にノックもせずに入るのはやめたほうがいいですよ」

「わ、分かった。今度からはそうする」

コンザには先に部屋から出てもらい、幸せそうに眠るエリーの顔を見てから俺たちも部屋を出る。

部屋を出ると、元迷宮の大部屋の中にもう1つパーテーションで区切られた部屋があり、その部屋の扉の前には狐族の男と思われる者が2名立っていた。

「マルス、あのパーテーションの中にポロンがいるわ」

クラリスの言葉に頷き、部屋の前まで行くと、狐族の男たちが俺たちに頭を下げて、「どうぞ」と言い、俺たちを扉の前まで通してくれた。

「マルスです。入っていいですか?」

部屋の扉をノックすると、子供のような高い声が返ってくる。

「入っていいだモン」

今の声はポロンか? それにモンって?

「失礼します」

ゆっくり部屋の扉を開けると、そこにはベッドで寝ているポロンと、ビサン男爵、以前ビサン男爵と一緒にいた従者が立っていた。

クラリスの言うとおり、ポロンは萎んでおり、子供のような印象を受けるが、一番変わったのは目元だ。

あれだけ深いクマがあったのに、綺麗になくなっていた。

「おお、マルス。目が覚めたか。では私たちはビラキシル侯爵にポロンが目覚めたことを伝えてくる。2人は誰かくるまではここに居てくれ」

ここに居てくれというのは、ポロンを見張ってくれということか。

「分かりました」

返事を聞いたビサン男爵が従者と一緒に部屋から出ると、すぐにポロンが俺に向かって頭を下げる。

「まずはマルスにお礼が言いたいだモン。救ってくれてありがとうだモン」

途中から殺すつもりで戦っていたので、ポロンの感謝の言葉が痛い。

「いえ、頭を上げてください。念のため鑑定をしてもよろしいですか?」

ポロンが頷くとすぐに鑑定をする。

【名前】ポロン・マラカス

【称号】土王

【身分】魔族(妖狸族)・平民

【状態】良好

【年齢】54

【レベル】65

【HP】99/99

【MP】260/260

【筋力】44

【敏捷】51

【魔力】59

【器用】60

【耐久】39

【運】1

【特殊能力】体術(Lv3/D)

【特殊能力】呪術(Lv6/C)

【特殊能力】土魔法(Lv10/A)

ヨーゼフの時と同じで全てのステータスが下がっていた。

しかし特殊能力は体術が下がった以外変わらない。称号も【土王】がしっかりと戻っていた。それに状態が良好になっている。

「オイラはどうなっているんだモン?」

不安そうな表情でポロンが聞いてきたので、正直に答える。

「残念ながらステータスは下がってしまいましたが、どうやらこれ以上下がるということはなさそうです。健康状態も良好そうですし」

俺の言葉にホッとした表情を浮かべる。

「あと今の言葉で気になったことがあるので教えていただきたいのですが、救ってくれてありがとうというのは、どういうことでしょうか? 人造魔石を飲むと魔物化するということは知らなかったのですか?」

気になったことを聞く。

「人造魔石!? あれは魔石だったのかだモン!? そんなの知らないに決まっているだモン! ディクソン辺境伯からは副作用が重いから、どうしようもない時にだけ飲めと渡されていたんだモン!」

額面通り受け取るかどうかは別として、ポロンと繋がっていたのはディクソン辺境伯だったのか。

さらにポロンが続ける。

「魔物になるにつれて、人を憎むようになり、同族に酷いことをしてしまったモン。あのままいけば姫様にも危害を……いや殺していたんだモン」

そう言うとポロンがまた頭を下げる。

嘘を言っているように見えないのだが……クラリスの方を向くと、クラリスはただ頷くだけだった。

クラリスもポロンの言っていることは本当だと信じているようだ。

「では次にディクソン辺境伯の件についてお聞きしたいのですがいいですか?」

「なんでも答えるんだモン」

少し眠くなったのか、俺の言葉に目を擦りながら答えようとすると、部屋の扉が破壊されんばかりの勢いで開いた。

「ポロン! 目が覚めたのか!?」

今度入ってきたのは姫だった。

ポロンは姫が来て一瞬嬉しそうな表情を見せたが、すぐに表情が曇る。

そしてその姫の後からビラキシル侯爵も入ってくるが、表情は硬かった。

「ポロン、無事で何より……後で話そう。その前にマルス、クラリスちょっといいか?」

ビラキシル侯爵がそう言うと、部屋の外に出たので、俺たちも続く。

部屋の前に立っていた狐族の2人に席を外してもらい、ビラキシル侯爵が小声で話し始める。

「今回は本当に助かった。個人として、この街の代表としてお礼を言わせてもらう」

「いえ、僕は兄の命令に従っているだけですので」

こう言えば、少しでもアイクに恩義を感じ、和解もスムーズに進むかと思ったが、そこはさすがビラキシル侯爵。お見通しだった。

「そんなにメサリウス伯爵の顔を立てなくても、元々私は和解には前向きだぞ?」

ニヤッと笑いながら言うビラキシル侯爵にただただ頭を掻くので精一杯だった。

そんな俺を見たビラキシル侯爵が優しい笑顔を見せながら言葉を続ける。

「先に私とポロンの2人だけで話をさせてもらってもいいか?」

「ええ、でも僕からもポロンに聞きたいことがあるのですがいいですか?」

「もちろんだ。だが私の話はかなり長くなると思う。だから2人は先に温泉にでも浸かっておいてくれ」

この言葉に反応したのはやはりクラリスだった。

「温泉!? もう入れるのですか!?」

クラリスのテンションの上がり方に驚いたビラキシル侯爵が、

「貴族街の方の温泉を最優先で修理させた。確認はしていないが、ちゃんと直したと報告が入ったので、まずは2人にと思ってな」

まさかの温泉一番風呂に俺も心が躍るが、その後のビラキシル侯爵の言葉で一気に萎える。

「2人には簡単にだが、先に話しておこうと思う。ポロンの件なんだが……」