作品タイトル不明
第400話 化物
何が起こっている!?
なぜポロンはこんなにも強くなった!? 少なくとも数年前までは私の方が強かったはずだ。
石扇弾(ストーンブラスター) !? 歩きながら魔法を唱える!? そしてそれ以上に目の前では信じられない光景が広がっている。
「ビラキシル侯爵……ポロンの奴、魔法を詠唱していないですよね……」
信じられないという表情をしながらコンザが私に聞いてくる。
「……ああ、詠唱破棄というべきか、無詠唱というべきか……とにかくとんでもない早さで 土弾(アースバレット) が発現しているのは間違いない」
詠唱しなくても魔法は発現するのか!? なぜそんなことを思いつく!?
私がポロンに負けた時点で、狸族の奴らは皆ポロンについてしまうかと思った。もしかしたらビサン男爵たちですらポロンについてしまうのではないかとも考えた。いくらヒメリがいてもだ。
なぜならこの街には強者が必要だからだ。いや、この街だけではない。イセリア大陸のすべての街に言えることだ。強い者がいる街は魔物からの脅威が減るということだからな。
だから私が負けた時点ですべてが終わったと思ったのだが……今、狸族がいる北東、北西の内壁は静まり返っている。
理由は簡単だ。
私に勝ったポロンをまるで赤子の手をひねるかのように、圧倒している人物がいるからだ。
ポンゴを倒したと聞いた時は人数差で勝ったのだろうと思った。ポコラスに関しては、弱点を突けば1人でも勝てるだろう。ポコラスは持久力がないからな。
しかしそうではなかった。
いつ発現してくるか分からない魔法に対し、2本の剣で目にも止まらぬ剣速で切り伏せる。
まるで悪い夢でも見ているかのようだった。
それくらいのことが目の前で行われている。
「父上! 怪我は大丈夫なのか!?」
呆然と2人の戦いを見ていると、ヒメリが慌てた様子で近づいてくる。その後ろにはクラリスとエリーが周囲を警戒しながらついてきている。
「ああ……致命傷ではないから……え?」
ここでも信じられないことが起きた。
ヒメリの後をついてきたクラリスが私の左肩に触れただけで、ポロンから受けた傷が治ったのだ。
クラリスが神聖魔法使いということは分かっている。だが触れただけで治るのか!?
「今のはクラリスが!? 触れるだけで治るのか!?」
思わずバカみたいな質問をしてしまうと、クラリスが慌てた様子で答える。
「も、申し訳ございません。無詠唱でヒールを唱えましたが、決して手を抜いたとかそういうわけではございませんので」
「い、いやそうじゃない。治してくれたことには当然感謝をしている。ただ無詠唱と言ったな? 言葉を発しなくても魔法を発現させることができるのか?」
クラリスを勘違いさせてしまったようなので、しっかりと説明すると、クラリスがホッとした表情で答える。
「はい。私は神聖魔法しか無詠唱で発現させる事はできませんが」
―—動きながら魔法は発現しない。魔法は言葉にしないと発現しない。ずっとそうやって教えられてきたから試したこともなかったが……。
視線をマルスとポロンの方に移すと、相変わらずマルスがポロンの土魔法を剣で捌いている。
これはもう大勢決しただろう。そう思った時だった。
マルスが両手に持っていた剣を鞘に収めたのだ。
「なっ!? まだポロンは戦意を失っていないぞ!?」
思わず声を上げると、クラリスが手を体の前で合わせ、祈るようなポーズを取りながら答える。
「きっとマルスはポロンの心を……内壁の向こう側にいるポロンに付こうとしている狸族たちの心を完全に折ろうとしているのです」
何を言っている!? このまま凌げればポロンに勝ち目がないと分からせることができるだろう!?
私の表情を読み取ったクラリスが信じられないことを口にする。
「大丈夫です。元々マルスは風魔法使いですから。きっと魔法戦でも格が違うというのを見せつけようとしているのです」
「風魔法使い!? あの剣捌きで!?」
魔族に剣を扱えるものは少なく、マルスがどのくらいの剣の使い手かは正確には分からないが、きっと【剣王】クラスのレベルだろう。そうでなれければポロンの猛攻をしのげるわけがない。
「なぜそんなことを?」
私の質問にヒメリが答える。
「それはきっとグランザムがマルスにとって特別な街……クラリスの生まれ故郷だからじゃ」
マルスも私と同じことをしようとしているのか……2対1、もしくは3対1で戦おうとしていたマルスからは考えらないことだが、狸族の奴らの反応を見て方針を変えたのかもしれない。
ヒメリが私にそう告げると、クラリスと同じように祈るようなポーズを取り、マルスとポロンの戦いを見届ける。
マルスを見つめるヒメリの顔は、私が知らない顔だった。
そんなヒメリの視線の先を追うと、剣を収めたマルスに対してポロンが激昂し、がむしゃらに 土弾(アースバレット) や 石弾(ストーンバレット) を連射している。
だがそれらが発現すると同時に明後日の方向に飛んでいったり、真っ二つになったりし、一向に前には飛ばない。ポロンにとってはマルスが剣を握っている時よりも明らかに今の方が絶望的な状況だ。
信じがたいことだが、ポロンよりも早く魔法を発現させ、その威力もポロンを圧倒しているのだろう。
魔法を発現させることが無駄だと悟ったポロンは、ついに魔法を唱えるのをやめてしまった。もしかしたらMPが枯渇したのかもしれない。
完全に万策尽きたはずのポロンだが、その目はまだ諦めていなかった。
そして胸の内ポケットから何かを取り出し、それを飲み込むとポロンの様子が一変したのだった。
☆☆☆
くっ!? 無詠唱魔法がこんなにも厄介だとは思わなかった。
さすが土魔法レベル10で【土王】の魔法だ。発現速度、威力共に予想以上だ。
だが俺はそれを表情に出さないようにしている。
誰から見ても圧倒的だと思われるように立ち振る舞うためだ。
それが功を制したのか、ビラキシル侯爵を退けた時、向こうの内壁の中がどっと沸いたのだが、今は完全に沈黙している。
ビラキシル侯爵の言葉を借りるが、今後絶対にグランザムに手を出させないように心を折る……最悪、恐怖心を植え付けてもいいと思っている。
ポロンもまだ戦意を失ってはいないようだが、徐々に諦めかけてきているようだ。
その証拠にもう 未来視(ビジョン) を使わずとも、この至近距離での魔法を2本の剣だけで捌けるようになった。
俺が単純に慣れたというのもあるかもしれないが、確実に魔法の発現速度が遅くなっている。
仕掛けるなら今だな。
そう思い、俺は雷鳴剣と氷紋剣を背中の鞘に収める。
「な、何を!? まだオイラは負けを認めていない!」
ポロンがそう言いながら無詠唱で 石弾(ストーンバレット) を発現させ、飛ばしてくる。
(ウィンドカッター)
対する俺は、無詠唱でウィンドカッターを唱え、 石弾(ストーンバレット) を真っ二つにすると、ポロンの顔からツーっと血が流れる。
ウィンドカッターが 石弾(ストーンバレット) を真っ二つにした際、ポロンの頬も切ったのだ。
「な、何をした!?」
ポロンの顔からは焦りと恐怖心が読み取れた。
「ポロンさんと同じことをしただけですよ。無詠唱で風魔法を唱えただけです。これからポロンさんが発現させる魔法が前に飛ぶことはありません」
挑発ともとれる俺の発言にポロンが怒りを露わにする。
「ふざけるな!」
ポロンが残りわずかとなったMPをがむしゃらに消費してくるが、ウィンドとウィンドカッターで軽くいなす。
やはり剣で捌くよりも魔法で捌いた方が楽だな。剣でもこれくらい楽に捌けるようにもっと努力しなければ。
そんなことを思っていると、ついにポロンのMPが一桁になり、 土弾(アースバレット) すら撃てなくなった。
内壁の向こうからは「もう勝ち目がない」「化物」といった言葉が聞こえてくる。
化物と言われたのは少し傷ついたが、狸族の心を折る事には成功した。
「く、くそ……オイラは負けるわけにはいかないんだ……このままだとこの街が飲み込まれる。街のみんなが……姫様が……こうなったら……」
上手く聞き取れなかったが、ポロンは何かを決意した表情となり、小さな黒い物を胸ポケットから取り出す。
なんだあれは……? 目を凝らしよく見てみると、大きさこそ違うが俺も過去に見たことがあるものだった。
あればヤバい! そう思いウィンドで吹き飛ばそうとした時にはすでにポロンの体内に取り込まれていた。