軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第398話 ポロン

悔しそうに地面を叩いているポコラスの首筋に雷鳴剣を当てると、ポコラスが最後の抵抗をする。

「俺を殺したら、解毒薬は手に入らないぞ! ビラキシル侯爵はもちろん、狐族の者たちも全員助からないと思え!」

殺すつもりはないが、暴れられては困るので雷魔法を 付与(エンチャント) し、ポコラスを気絶させると、それを見ていた姫が口元を綻ばせながら近づいてくる。

「さすがマルスじゃ! どうなることかとヒヤヒヤしておったが杞憂じゃったな!」

姫の後ろを警戒しながら歩くエリーの表情も明るい。

「……マルスなら当然……でも良かった……」

「2人ともありがとう。ただポコラスをどうしようか……内壁にポコラスを連れて行きたいんだけど、ここから離れるわけにもいかないし……」

俺がここから離れるとビラキシル侯爵に何かあったら援護できないからな。

エリーにはポコラスに触れてほしくもないし、姫に頼むわけにもいかない。どうしようかと困っていたところに、クラリスがブラッドを連れて、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

ポコラスを倒した今、もう隠れている必要はないと思ったのかもしれない。

「エリー!? 大丈夫!? 何もされなかった!?」

すぐにクラリスが心配そうにエリーに駆け寄ると、エリーは大丈夫といった表情を見せるだけで何も言わなかったので、代わりに俺が答える。

「大丈夫だよ。俺もずっと警戒していたし、クラリスの必殺の一撃でポコラスに止めを刺したからね」

「うん。それは分かっているんだけど、ポコラスにあんな風に迫られたら、もしかしたら心に傷を負ってしまっているかなと思って」

そうか。無傷とはいえ、その可能性もあるのか。最悪PTSDにも……。

「ごめん。配慮が足りなかった。エリー、大丈夫か?」

クラリスに体中を触られているエリーに聞くと、

「……うん……何もされてない……マルスもいる……大丈夫……」

なんでそんなに心配しているの? といった表情でエリーが答える。

「まぁそうよね。マルスがいれば安心よね……私が考えすぎちゃったみたい」

エリーの言葉にようやくクラリスが安堵の表情を見せると、気絶しているポコラスの方に向かったブラッドが、大きな声を上げた。

「うわ! こいつ姐さんの必殺の一撃を食らってもまだ生きてやがる! コディよりもコディだとこういうメリットがあるのか!?」

生きているというのはきっとあれのことだろう。

それにしてもコディよりコディって……まぁそのおかげでクラリスに変な称号がつかなくて済んだのだが。もっともそういう称号があるのであれば、カストロ公爵についているはずだから、そのような称号はないのかもしれない。

「ブラッド、お前の持っているその布切れをポコラスに被せて内壁まで連れて行ってくれないか?」

「おう! もとよりそのつもりだ! こんな状態の奴を姐さんやエリーに担がせるわけにはいかねぇからな!」

ブラッドがそう言うとポコラスを担いで内壁に走っていく。

「クラリス、ここに来ても良かったのか?」

ブラッドが内壁の方に消えていくのを見届けてから聞くと、

「ええ。実はもうすぐそこまでビサン男爵や狐族の人たちも来ているの。今は内壁の中で様子を窺っているわ。私はエリーのことが心配になったから来ちゃったけど、ビサン男爵の許可は貰っているから大丈夫よ」

予想通りの答えが返ってきた。

俺がポコラスを倒したことにより、狸族が潜んでいると思われる北東、北西の内壁は先ほどよりも更に混乱している。

どうやら姫のことを偽物と言い張っていた中の一部の者たちも、姫の真偽はともかく投降したほうがいいと言い始めているようだ。

ビラキシル侯爵の方を見ると、すでにコンザの肩を借りることなく、ポロンに何かを必死に問いかけている。ビラキシル侯爵ももう毒に侵されている演技の必要はないと思っているのかもしれない。

そのビラキシル侯爵の下にゆっくりと歩いてくと、ポロンが俺に気づいた。

「そこで止まれ! お前は誰だ!?」

ポロンに言われるとすぐに立ち止まり、自己紹介をする。

「僕はマルスと申します。リスター連合国リーガン公爵の命を受け、兄のメサリウス伯爵と共にグランザムとヘルメスの和解のためにここに参りました。もう争うのはやめませんか?」

刺激しないようにゆっくり、丁寧に答えると、視線はビラキシル侯爵に向けたまま俺の質問に答える。

「そうはいかない。このままだとヘルメスは滅びる。オイラはこの街の住民のためにも、一刻も早くグランザムも攻め滅ぼさないといけない!」

ポロンのこの言葉にビラキシル侯爵が問う。

「だから何故だ!? 何故グランザムに拘る!? 我ら狐族とポロンたち狸族、そしてビサン男爵たちの魔人がいれば、今までのようにこのヘルメスを守り切れる!」

どうやら先ほどからビラキシル侯爵は同じことを何度も問いかけているようで、その言葉からは苛立ちが伝わってくる。

するとポロンは深呼吸をしてから、一言ぼそりと呟く。

「天啓」

天啓!? どういうことだ?

当然同じことをビラキシル侯爵も思い、質問しようとするが、ビラキシル侯爵よりも先にポロンに問いかけた者がいた。

「ポロン! 天啓とはなんじゃ!? 妾にも分かるようにちゃんと説明せぇ!」

俺の後をついてきた姫が俺の隣に立ち、ポロンに対して説明を求める。ちなみにクラリスとエリーも俺の後ろで警戒している。

ポロンは姫の方に視線を移すが、姫を見つめるポロンの表情はどこか悲しげだった。

そして姫の問いかけに何も言わずにただ姫を見つめている……だけだと思ったら、俺の魔力眼がポロンの右手に魔力が流れていくのを捉えた。

それを見て咄嗟に雷鳴剣を抜き、姫の前に立とうとするが、ポロンが右手を姫に向けて前に出すと、驚くべき速さで魔法が発現した。

「 石壁(ストーンウォール) 」

「なっ!?」

てっきり 土弾(アースバレット) や 石弾(ストーンバレット) が飛んでくるものと思っていたのだが、ポロンが唱えてきたのはまさかの 石壁(ストーンウォール) で、姫の前に出た俺と、クラリス、エリー、姫の間に大きな石の壁が発現し、俺たちは分断されてしまった。

「「マルス!」」

壁の向こうからクラリスとエリーが叫ぶ声が聞こえる。

「俺は大丈夫だ! クラリスとエリーはそこで姫の護衛をしておいてくれ!」

「分かったわ! マルスも気を付けて!」

クラリスがすぐに返答してくれるが、エリーはひたすら俺の名前を叫び続ける。

「マルス! マルス!」

もしかしたらエリーは、俺がアルメリア迷宮のボス部屋で取り残された時のことをフラッシュバックしてしまったのかもしれない。

「エリー! マルスは大丈夫だから! 落ち着いて!」

壁の向こうからは、クラリスがエリーを必死に宥める声が聞こえる。さすがにこのままでは俺も気が気でない。

「クラリス! エリーを一旦壁から遠ざけてくれ! ウィンドカッターで穴を空ける!」

そうは言ったものの、 石壁(ストーンウォール) はやはり厚く、また 石壁(ストーンウォール) の向こう側にクラリスたちがいるから威力が高すぎると、クラリスたちを傷つけてしまうから、内壁の鉄砲狭間のような穴を作るのに予想以上に時間がかかってしまった。

ようやくポロンの創った 石壁(ストーンウォール) に穴を空けると、エリーがすぐに覗き込んできて、俺の顔を見ると安堵の表情を浮かべる。

「これでいつでもカルンウェナンの効果でこっちに来られるから安心したな? クラリス、任せたぞ! エリーもいつ誰が襲ってくるか分からないから頼むな!」

そう言い残し、ポロンの方に視線を戻すと、ポロンが俺に思いもよらぬ言葉を投げかけてきた。

「よく今の魔法に反応できたな。もしかしたらお前も視たのか?」

お前 も(・) 視たのかだと? まさかポロンまで 未来視(ビジョン) が使えるのか?

「視たとは何のことですか?」

少し饒舌になったポロンから情報を引き出そうと、鑑定せずに敢えて会話をしようとすると、意外な言葉が返ってきた。

「夢」