軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第336話 口約束

ヨハンは俺が雷鳴剣と氷紋剣を抜き、構えるまで襲い掛かっては来なかった。油断して襲い掛かってきたところにウィンドカッターで首を刎ねてやろうと思ったのだが。

ヨハンの構えている鎌の形状もかなり特徴的だった。まずは予想以上に長い。そしてその棒の先端部分は槍の穂先のように鋭くなっていて、鎌の部分の両刃となっている。

これが意味するのは刺突を躱す際、両刃の鎌の部分も気を付けなければならなく、またそれを躱しきった後も今度は鎌を引かれるときも注意をしなければならない。

俺は運がいい。なぜならこの形状の武器とは過去に戦ったことがあるからだ。得物は槍だがヒュージの銀雪の槍が鎌を出した時と同じような形状をしているのだ。鎌が両刃の分、死神の鎌の方がきつそうだが。

当然ヨハン相手に雷魔法を使う気はない。俺とクラリスと一緒に雷に撃たれて死んだこいつは、俺たちと同じく雷魔法は通じないだろう。

「ラースを一緒に殺せだと? ラースとは誰だ!? お前の目的はなんだ!?」

ヨハンは俺の質問に答えることなく、俺が剣を抜いたのを見てから、大きい鎌を構えて突っ込んできた。こいつ完全に俺の実力を計る気だ。

ヨハンは一直線に俺に向かってくるがとにかく速い! 過去戦った中で1番速い! 風纏衣(シルフィード) と 未来視(ビジョン) を常時展開させてヨハンの攻撃に備える。

俺とヨハンのファーストコンタクトは、ただ力任せにヨハンが真横に振りぬいた鎌を、俺が雷鳴剣で受け止める……が、勢いを乗せたあまりの膂力の前に雷鳴剣だけでは威力を殺しきれず、氷紋剣も使い、ヨハンの一振りを受けきる事から始まった。

「なにっ!?」

ヨハンは剣で受けきられたのが余程意外だったのか思わず声を発するが、凶悪な顔が歪む。この表情は嬉しいという事だよな?

俺に鎌を受けられたヨハンはすぐに距離を取るが、今度は左右ジグザグに走りながら先ほどと同じように鎌を振りぬいてくると、俺も同じように雷鳴剣と氷紋剣をクロスさせて受けきる。

この鎌での攻撃は 未来視(ビジョン) を使って避ける方がリスクが高そうなので敢えて剣で受けている。

俺が2度目の攻撃をしっかりと受けきるとまたもやヨハンが驚きの表情を見せる。確かに強烈な一撃だがさっきと変わらないと思う……もしかしたら今の攻撃に何か仕掛けがあって無意識のうちに防いでいたのか?

考えていても仕方ない……今度は俺の番だ! ヨハンが俺から距離を取ろうとまた下がろうとするが、ヨハンに張り付き、距離を取るのも、鎌での攻撃を許さない。

鎌の弱点はずばり接近戦だ! 鎌と柄の間に入ってしまえば俺のターンだ!

「ウィンド!」

ヨハンが懐に入ってこようとする俺に対してウィンドを唱えてくる。俺は敢えてそれをレジストせずにウィンドを受けた。

さすがに俺の方が魔力も高く 風纏衣(シルフィード) も展開しているので吹っ飛ばされることは無かったが、少し押し戻されてしまう。

今はこれでいい……俺とヨハンは接近戦での実力は今の所だがほぼ互角。魔法戦は本来であれば俺の方が有利なはずなのだが、ヨハンは暗黒魔法使いだ。どんな攻撃をしてくるか分からない。

だから魔法はここぞという時の為にとっておくことにしたのだ。何度も同じ手札を見せると対応されそうだ。特にヨハンの耐久値は高い。完全に首を刎ねられる……必殺のタイミングで使う方がいいだろう。

しかしそんな俺の考えとは裏腹にヨハンが距離を取ると

「合格だよマルス君。想像以上だ」

たった一言、凶悪な顔を歪めながら俺に話しかけてくる。いきなり襲い掛かってきて合格とは許しがたい。それでも俺は我慢をするしかなかった。とにかく隙を窺いたいからな。

「お前は何を言っている!? ラースとは誰だ!? 合格とは何だ!?」

俺の質問に今まで見たことのない表情でヨハンが応える。

「ラースというのが 未来視(ビジョン) の持ち主で、ミリオルド公爵を陰で操る者。そして僕に暗黒魔法をねじ込んだ張本人だ」

ヨハンの表情からははっきりとした激しい怒り、憎しみ、恨みの負の感情が取って分かる。それは俺やクラリスの事を語っている時よりも明らかに強い。

それに暗黒魔法をねじ込むとはどういうことだ? ヨハンの暗黒魔法は後天的に覚えたものなのか? 俺はヨハンが暗黒魔法という言葉を口にした瞬間、ヨハンにも分かるように驚いた表情を作った。使えることを知ってはいたが、リアクションを取らないと知っていたことを疑われるからな。

「僕はね。ラースをこの手で殺すのが1番の目的、そして2番目が黒目黒髪の男と女を殺す事。この2つが達成できればもうどうでもいいんだ」

「ラースという奴が 未来視(ビジョン) の持ち主という事は、ラースが獣人たちを攫えと? そして俺たちの誰かを殺せと言ったのか?」

俺の言葉に悪びれる様子もなく

「ああ、その通りさ。ただしエリーさんだけは絶対に殺すなと。いくら聞いても理由は教えてくれなかったけどね。まぁエリーさんは僕から見ても獣には見えない……それどころかそこらの女性たちよりかは魅力的に映るほどだ。ラースが欲しがるのも分かるけどね」

ここでエリーの名前が出てくるのか!? エリーはミリオルド公爵を恐れているようだったが、実際目にした時は「あいつ違う」と言っていた。もしかしてエリーにとってのミリオルド公爵とは……

1つの答えを胸に別の質問をする。

「俺にラースを一緒に殺そうと言ったのは何故だ? ヨハンは十分に強いと思うが?」

あまりにも俺の言葉が滑稽だったのか声を上げて笑いながら

「さすがに1人でラースに挑もうなんて思わないよ。ただでさえ強いのに 未来視(ビジョン) があるからね」

俺と同じくらいのステータスのヨハンでもそう思わされるのか。

「言っておくけどさっき僕は全力で鎌を振りぬいたけど、本気ではない。まさかこの法衣の特殊能力、明滅状態での攻撃を受け止められるとは思わなかったけど、まだこっちの鎌には仕掛けがあるからね」

明滅状態?……明滅って点灯したり消えたりということだから、もしかしたら2撃目の攻撃は自身の姿をステルスのように透明にしたり、解除したりを繰り返していたのかもしれない。

もしもそうであれば、瞬間移動を繰り返しているように見えただろう。 未来視(ビジョン) で視ていたから気づかなかったが、もしかしたらレベルは上がっていないが、天眼の性能も上がっているのかもしれない。

それにヨハンには暗黒魔法があるからな。ヨハンが本気で戦っていないというのは本当だろう。

「なぜヨハンはラースの事がそんなに憎いんだ?」

疑問に思ったことを口にすると

「それは僕にこんな苦痛を与えてくれたからね。暗黒魔法は本来悪魔族しか覚える事が出来ない。それを人間が覚えるには……思い出したくもない。他にも色々あるんだけどね」

ヨハンはラースに何かをされたという事か。やはり暗黒魔法は後天的に覚えたという事だな。耐久値が異常に高いのもそれのせいかもしれないな。

「協力した時の見返りは何だ?」

ヨハンは俺の質問に少し考えた素振りを見せてから

「君の大切な者には一切手を出さないし出させない。といってもラースとラースの手駒で自由に外を出歩けるのは僕だけだからね」

これは最高の条件だ。まぁヨハンの場合、俺の協力を得られなかったらラースを倒せる可能性が限りなく低くなってしまうと考えているようだからな。俺の顔色を窺うに決まっているよな。

ここでヨハンの隙を窺ってヨハンを仕留めきれない方がリスクは高い可能性もある。

「ラースの手駒というのは誰がいる? それにラースとラースの手駒が外に出歩けないのはなぜだ?」

「主要なのはヴァンパイアのカミラ魔公爵とザルカム王国のディクソン辺境伯、それに僕だ。カエサル公爵は寝返ったと言っていたからもう操ることは出来ないのだと思う。ラースは【剣神】が怖いらしく最近屋敷からも出ることがない。最後に屋敷を出たのは去年僕と一緒にギルバーン迷宮に潜った時だけだ」

それほどまでに【剣神】の力は圧倒的なのか……待てよ? これはとても簡単なことではないか? リーガン公爵に頼んで【剣神】を呼んでもらえば……いやこの世界に電話やネットがないから安易に考えるのはダメか。

「ちょっと喋り過ぎたようだ。もう一度聞く。僕に協力してくれるかな? 今すぐ返事をくれ」

ヨハンをここで殺すべきか……ただ全力戦闘の場合必ず勝てるとは限らない。天災と暗黒魔法が未知数すぎるし、何よりも協力すれば、こいつの……こいつらからの脅威を当分回避することが出来る。

だがここでヨハンを殺せたとしたら……いや、殺せなかった時の事を考えるとさすがに危険すぎるか。

協力したほうがいいのだが、こいつと組むのだけは……クラリスを襲ったやつと組むのだけはという気持ちがかなり残っている。だがあの時はクラリスであってクラリスではない……くそ! まだ決心がつかない。

「もう一度聞く。絶対に俺たちに手を出さないんだよな!?」

「ああ……リスター帝国学校の生徒には手を出さないと誓おう。もちろんマルス君の家族にもね。ただ君たちがミリオルド公爵領に入ってきた場合はその限りではない」

そうか……考えてみれば俺には守りたいものが多すぎるのか。クラリスたちだけではない。当然アイクやジーク、マリアにリーナ、ついでにカインもか。

ヨハンの言葉を全て鵜呑みするのは危険だが、ここで戦って取り逃がした時よりは確実に状況はいいはずだ。

「最後に、ヨハンの装備している偽装の腕輪を外して鑑定させてくれ」

天災を鑑定したかったのだが、俺の言葉に初めてヨハンが難色を示した。このままの状態でも鑑定は出来るのだが、それをヨハンに知られたくはないからな。

「マルス君。それだけは出来ない。だけど僕が強いという事はわかっただろう? ラースから何か月か前に鑑定してもらった時は全てのステータスが120前後と言っていた。ラースが言うにはこの年でこれだけ強いのは絶対にいないとの事だ」

断られはしたが、これも嘘を言っている感じはしない。事実ヨハンのステータスは今もそのくらいだ。

「どうやらエリーさん達が向かってきているようだね。本当にこれが最後だ。僕に協力してくれるかい? 10秒後答えが無ければ敵とみなす」

ここまで話して俺の心は決まっていた。ヨハンと共闘する。しかしラースを倒した後はすぐにでも俺がヨハンを……そこだけは絶対に躊躇わない!

「分かった。協力しよう。だが俺たちは仲間ではない。あくまでも対ラース戦のパートナーだ」

俺の言葉にヨハンが初めて素直に笑ったような表情を見せ頷くと、俺に一言かけ、ジグザクにバックステップを踏みながら東へ消えていった。