作品タイトル不明
第296話 15人目
「すまなかったな。まさかクロムの魔法の師匠だとは思わなかった」
西リムルガルドの街の東方面に向かっている最中にスザクが謝ってきた。
ワルツはどうやら俺たちの屋敷の近くでクロムの警備をしているところをまたスザクに捕えられてしまったらしい。
ちなみにワルツはあのあとすぐに解放され、野に放たれて、また俺たちの後をコソコソとついて来ている。
スザク以外にもワルツの尾行に気づいている者がおり、エリーとミーシャが誰かに見られていると俺に伝えに来た。もしかしたら他の者も気づいているかもしれない。
東門から外に出て少し東に行った所で
「よし! 今日は俺にみんなの実力を見せてくれ! やる事は俺と組み手をするだけだ! マルスとエリー、カレンの実力は把握しているからまずはクラリスからだ!」
スザクに指名されたクラリスは弓を構えると
「いや、クラリスの遠距離攻撃の強さはもう知っている。リーガン公爵を圧倒するほどだからな。今日は近距離戦闘を見てみたいんだ。リーガン公爵も仰っていたが、クラリスは前衛としての能力も相当高いと聞いているからな」
クラリスはスザクの言葉に頷き剣を構えてスザクに正対すると
「よし、クラリス来い!」
この言葉にクラリスが反応しスザクに向かって走り出す。
2人の剣戟は何合にも渡り、クラリスの剣を受けるたびにスザクが驚いている。
「遠距離攻撃が主体のクラリスがここまでやれるのか。ほぼ俺と互角じゃないか。前衛としても十分やっていける強さだし、まだ12歳、これからもっともっと伸びるのか……よし! 次はアイクだ」
スザクとアイクの試合は一方的な展開となった。途中でアイクが槍を緩めたりしてスザクにダメージを与えないようにしていたのだが、アイクの刺突で短剣が何度も弾き飛ばされていた。
「くっ! さすがリスター帝国学校史上最高傑作と呼ばれるだけの事はあるな。全く接近戦では歯が立たない」
スザクは完璧にアイクに封じ込められたが、その表情と声はとても明るかった。やはり自分が認めた者が強くて嬉しいのだろう。
「よし! リムルガルド城へ潜る者たちの実力は分かった! 予想以上に強くて嬉しい限りだ! 5人は今から各自訓練をしておいてくれ! 次は城下町に残る者たちだ! まずは……ミーシャから来い!」
俺がアイク、クラリスと、ビャッコがエリーと訓練をしながらスザクの組み手を見る。スザクの組み手が終わったのは日が傾いてきた時だった。
「お前たち本当に凄いな! 普通Sクラスの下位はそこまで強くないのだが、ミネルバまできっちり強いのには驚いた。間違いなくこの世代がリスター帝国学校史上最強だろうな。
明日は連携確認をする。連携確認が終わった後にリムルガルド城下町のパーティ編成をするから、誰と組むのがやりやすいとか明日までに考えておいてくれ。
ちなみに明日以降はお前たちが俺たちを迎えに来てくれ。朝9時頃にいつもの場所にいるから」
屋敷に戻り風呂に入り、ご飯を食べながら連携の話をすることにした。
「相性で言ったら俺と姐さんが一番の相性だろ!」
ブラッドの言葉を皮切りにいつものようにコディと罵りあっている。
「ブラコは相性が抜群だから2人はもう同じパーティだね!」
ミーシャが早々に2人を話題から切り離す。この2人は本当に相性が良すぎて俺の方が心配になる。今回も同じ部屋で寝ているからな。
「俺は長年一緒にやってきたブラムがいいな。あとこの前アルメリア迷宮の時にアリスと組んでいて思ったのだが、一緒に組めれば戦線の維持がしやすいと思う」
ライナーの言葉にブラムも頷く。まぁこの2人もそうだよな。そしてアリスも認められたのが嬉しいのか、満足そうに首を縦に振る。
「俺はミネルバと一緒がいいのだがダメか?」
「2人はずっと一緒だから今更切り離そうとは思わない。スザク様にも俺から言っておくよ」
バロンの言葉に俺が答えると、バロンとミネルバが嬉しそうに「ありがとう」と感謝の意を示してくれた。
「私はさ、実はお母さんとはあまり組んだことなくて、カレンが一番多いんだよね。今回はカレンがいいかなと思っているんだけど、どうかな?」
ミーシャがみんなに意見を求めるとカレンも
「そうね、ミーシャとはもう2年弱も一緒に組んでいるから何をして欲しいとか分かるわね。じゃあ私とミーシャでいいかしら?」
誰も反対と言う声は出なかったのでこの2人に決まった。
「じゃあ残った私とエーディンが一緒ね。私たちは2人共後衛だからライナーたち前衛3枚と組んだ方がいいと思うのだけれども」
「確かにそうですね。一応僕たちの希望を明日スザク様に伝えましょう」
連携を確認していたら自ずとパーティまで決まってしまった。
サーシャたちがライナーたちと組むともう5人だから必然的にここにレッカが入る事になる。前衛3枚、後衛3枚。前衛の火力は低いが戦線維持能力はかなり高いのでその間に後衛がガンガン魔法攻撃で敵の数を減らせる。
そしてもう1つのパーティが
カレン、ミーシャ、バロン、ミネルバ、ブラッド、コディの6人だ。
ここも前衛がミーシャ、バロン、ブラッドの3人と後衛のカレン、ミネルバ、コディの3人でちょうどいいバランスだ。ミネルバは後衛と言うよりかは中衛の様な気もするがまぁバランスがいい事は確かだ。
各々連携の話をしているとクロムが
「皆さん本当に強くてびっくりしました! ただアリスやブラッドもその人たちと一緒に戦っており、また戦力として期待されていると思うと、随分離されてしまったなと……先ほどスザク様と2人が戦っているのを見た時に、凄いな俺も頑張らなきゃと思ったのと同時に悔しいとも思ってしまいました」
クロムが俯きながら話すとブラコを除くみんなが話をするのをやめて俺の事を見る。
みんな俺次第という事か。
同情して【暁】に入れというのは簡単だが、リスクがどれほどあるかが分からない。そのせいでクラリスたちに危険が及ぶという事は絶対に避けなければならない。
クロムには酷な話だが俺はクロムを【暁】に誘う事はしなかった。ジオルグも【暁】にいれてくれとは言ったものの、その理由はクロムを外敵から守るためだから、クロムさえ無事であれば入っても入らなくてもどちらでもいいだろう。
夕食を食べ終え、ベッドに入るとクラリスが
「クロムをパーティに入れてあげないの?」
と俺の耳元で囁く。
「ああ、殿下が入ると色々と危険な事に巻き込まれる可能性があるしな。間違ったメッセージと受け取られる可能性もある。クラリスはどう思う?」
「私はクロムを入れてあげたいな。クロムはいつも一生懸命1人で色々な事に抗っていると思うの。クロムからは絶対に仲間に入れて欲しいなんて言えないはずよ? マルスに迷惑をかけるかもしれないからね」
クラリスはそこまで言うと俺の首に手をまわし、
「危険がせまったとしても私たちは15人も仲間がいるのよ? その他にもドミニクやソフィアもいる。ガルさんだって助けてと言えばきっと助けてくれるわ。それにクロムを仲間にしておくと絶対にいい事があるわよ?」
「いい事? なんだいそれは?」
「リムルガルドの領主になりやすくなるんじゃない? ジオルグ殿下かクロム。どちらが王になるかは分からないけど貸しは作れるわけでしょう? ワルツがジオルグ殿下にクロムの事を護衛するように言われていたように、きっとマルスもジオルグ殿下からクロムの事を頼まれているんでしょう?」
「なんでそう思うんだ?」
「だってマルスが何の理由もなしに、仲間でもない 男(クロム) を私たちと同じ家で寝食を共にさせるわけないじゃない。ちなみにこれに気づいているのは私だけではないわよ。多分【黎明】の女性たちは全員気づいているはずよ」
完全にバレているのか。まぁクロムにバレなきゃいい話なんだが。
「やっぱクラリスは凄いな。分かった真剣に考えてみる」
俺の言葉にクラリスが微笑み、唇を交え抱きしめながら眠りについた。
2032年1月16日3時
アイクと2人でクロムの寝ている部屋を訪問するとクロムはすでに準備を終えていて、すぐに屋敷を出てマラソンを始める。
当然俺たち2人のペースにクロムがついて来られるわけがなく
「せ、先輩……もう無理です……ついていけません」
クロムが大汗をかき、悔しそうに言ってくる。
「 ク(・) ロ(・) ム(・) 、遠征中女性陣は走らないが、学校に戻ると【暁】のメンバーは先生以外全員走る。クロムもしっかりと走れるようにしないとな」
俺の言葉にクロムはポカーンとしている。酸欠状態だから頭が回らないのかもしれない。
アイクはというと嬉しそうな顔で俺の事を見ている。
「もう一度言う。クラン【暁】のメンバーなら走れるようにならないとな。それと他のメンバーがクロムの事を呼び捨てにしているのに俺がメンバーであるクロムを殿下と呼ぶのはおかしいと言われたので、これからはクロムと呼ばせてもらう。そしてこれはクランマスターからの命令だ。俺の事をマルスと呼び捨てにしてくれ。いいなクロム?」
クロムは汗か涙か分からないものを垂れ流し
「はい! マルス!」
クロムの吹きこぼれる喜びに満ちた声が西リムルガルドの夜明けの街に響いた。