軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第276話 サーシャの決意

2031年12月22日7時

「じゃあ、クラリス、エリーみんなを頼んだぞ。明日には戻ってくるから」

「早く戻ってきてよね。私が居ないからって変なところ行ったら承知しないからね!」

「……今日……戻ってきて……」

みんなに別れを告げて安全地帯を出発した。

どこに行くのかって? 【鬼哭】とゲドーの身柄をジークに渡しに行くのだ。

さすがに迷宮でずっと捕縛している訳にもいかないからな。

メンバーは俺とアイク、眼鏡っ子先輩、サーシャとミーシャの5人だ。

予定ではサーシャとミーシャではなくてエリーを連れて行くつもりだったのだが、サーシャがどうしてもゲドーの身柄が欲しいからジークに直談判させてくれとの事でサーシャを連れていく事となった。

ミーシャも俺とサーシャが行くのであれば、一緒に行きたいとの事なので連れていくことにした。

クラリスも行くと言ってくれていたのだが、俺とクラリスがアルメリア迷宮から出てしまうと、神聖魔法使いがアリス1人になってしまうので泣く泣くクラリスには残ってもらうことにしたのだ。

俺とアイクが6人分の鎖を持ち、ミーシャとサーシャ、そして眼鏡っ子先輩が魔物たちを倒す。

ミーシャの戦いを見たツルピカハゲマルが口をそろえて

「あんな強い子を俺たちは捕えようとしていたのか? 俺たちより強いじゃないか……」

と目を丸くしていた。

ズルタンだけは全く興味がないらしく、頭の装備がなくなったことで大切な資源が直に晒されて絶滅しないか心配している。

みんなこの頭を国民的お化けのヘアスタイルだと思っているかもしれないが、ズルタンの髪の毛はあんなに生き生きとしていない。 萎(しな) びており、今にも今生の別れを迎えてしまいそうなのだ。

「ねぇ、これ少し吹けば飛んでいきそうじゃない?」

眼鏡っ子先輩が追い打ちをかけるようにズルタンの頭を見て言うと

「そんなわけない! これは神が私に授けてくれた……」

「じゃあ試してみる?」

大きく息を吸い込もうとすると、ズルタンはジャラジャラと鎖を鳴らしながら慌てて逃げ回り、それを見て眼鏡っ子先輩が満足そうに笑っている。

ズルタンよ……俺の代わりにおもちゃになってくれてありがとう。

順調に進み夕方近くに迷宮を出ると、迷宮の前で警備していた黒い三狼星が驚いた様子で俺たちの所に走ってきた。

「マルス様! どうされたのですか? 捕えているのは【鬼哭】ですよね?」

歩きながら3人に事情を話すと

「その者たちは騎士館へ連れて行くようにお願いできますか? 私たちはジーク様を連れて参りますので」

確かに考えてみれば、こいつらを屋敷に連れて行くのは危ないよな。

黒い3狼星に言われるがまま6人を騎士館に連れて行くと、今度はバンに出迎えられた。

「アイク様! マルス様! お待ちしておりました。【鬼哭】たちの身柄は私たちが責任をもって預かりますのでどうぞこちらへ」

騎士団員に【鬼哭】たちの手綱を渡し、会議室のような場所に通されるとすぐにジークも部屋に駆け込んできて

「アイク、マルス! よくやってくれた! まさかリーナを標的にしているとは! リーナの事をどこで聞いたか等、これから騎士団が聴取するからお前たちはもう屋敷で休め」

「お父様、その前に僕とサーシャ先生からお願いがございます。最後まで聞いて頂いてもよろしいですか?」

「ああ……問題ない。言ってみろ」

ジークの言葉に俺は頷き、サーシャに目配せをして発言を促すと

「ジーク様、実はゲドーの身柄を私に譲っていただきたいのです」

サーシャの言葉にジークが何かを言おうとするが

「お父様、どうか最後まで聞いてください」

俺が機先を制して言うとジークが納得しない様子だが押し黙った。

「実は5年前、私の娘、ミーシャはゲドーに攫われているのです。今回もまたミーシャを見つけたゲドーが攫おうとしておりました」

「っっっ!!!???」

ジークはサーシャの言葉に相当驚いており、すぐに先ほどまでのどこか納得しない様子の表情から、同じ親としての表情に変わった。

俺の方を見て発言の許可をジークが求めてきたので当然頷く。

この顔のジークであればもう大丈夫だろう。

「まさかそのような事が……だがゲドーを許すことは出来ない……伯爵家の娘を攫おうとしたのだ。ここで軽い罪だと我々ブライアント家が軽んじられるし、また同じようにリーナを攫おうとする者が現れるかもしれない。最低でも死罪、いや公開処刑にしようと思っていたのだが、ミーシャもマルスの婚約者だしな。どうすれば……」

ジークのいう事は尤もだ。ここでしっかりとした刑に処さないとずっとリーナが狙われることになるかもしれない。

だがサーシャの気持ちも汲んであげたいのだろう。眉間にしわを寄せて、必死に打開策を考えている。

「お父様、ゲドーを断罪するまであとどのくらい時間がありますか?」

「そうだな。絶対にどのルートでリーナの事を知ったのかだけは聞かないといけないからな。それに人身売買の事でも聞かなければならない事がたくさんある。だから相当先になるかもしれない」

まぁ予想していた通りの回答だな。

「サーシャ先生はゲドーを実際どうしたいのですか?」

「一番は私がゲドーに最後の一撃を与える事。最低でもゲドーの死はこの目で見届けたい。あとはジーク様と同じように人身売買のルートは絶対に突き止めたいと思っているわ」

「ではお父様、刑を執行する時にサーシャ先生を呼んではダメですか? サーシャ先生がリスター帝国学校にいる時は1か月ほどで来られると思います。いない時はもっと時間がかかってしまうと思いますが、待っては頂けないでしょうか? それと人身売買のルートを聞きだしたらサーシャ先生にも情報共有することは可能でしょうか?」

「ああ、そうだな。それくらいであれば問題ない。サーシャ さ(・) ん(・) もそれでよろしいか?」

「多大なご配慮、ありがとうございます」

納得した様子で2人が頷くと、ずっと不安そうにしていたミーシャにも笑顔が戻る。

みんなでジークに一礼をし屋敷に帰った。

2031年12月22日20時

屋敷に戻り風呂と飯を済ませた俺は1人で大きな部屋に籠っていると扉がノックされる。

「どうぞ」

入ってきたのは俺のワイシャツとショートパンツ姿のミーシャとTシャツっぽい服にショートパンツ姿のサーシャだ。

「ちょっと! マルス! お母さんの脚ばっかりずっと見ないでよ!」

そ、そんなことは無い。ただいつもロングパンツ姿だからサーシャの細くて白い生足が珍しいだけで決して踏まれたいとか蹴られたいとかは思っていない。

「ど、どうしたんだよミーシャ。サーシャ先生まで……」

「うん。今日は3人で一緒に寝ようと思って。マルスとお母さんも親子になるんだから一緒でもいいかなって。お母さんもいいって言ってくれたし」

ま、マジか……

「マルスは私と一緒はやっぱり嫌かしら? 嫌だったら私は戻るけど?」

「嫌じゃないです!」

思わず大声で否定してしまった。むしろいて欲しいと言っているようなもんだ。

「そ、そう。ありがとう」

ミーシャを中心に3人でベッドに入り話をする。ミーシャとサーシャの旅の話が中心だ。

しばらく話を聞いているとミーシャが欠伸をして

「うーん、さすがにもう眠いや……今日は迷宮でマルスにこき使われたから」

そう言うとミーシャが徐にMPを消費し枯渇して寝てしまった。

ミーシャが寝るのをサーシャと一緒に見届けると

「マルス、今日はありがとう。きっとマルスがいなかったら私の望みは叶わなかったでしょう」

寝ているミーシャの頭を撫でながら、サーシャが優しい声でお礼を言う。

「いえ、そんなことありませんよ。僕がいなくても同じ答えになったと思いますよ。もしかしたらその答えにたどり着くまでに時間はかかったかもしれませんが」

もしもジークがアイクと眼鏡っ子先輩の時のように意固地になってしまうとややこしくなると思ったので、そうならないように仲を取り持っただけだ。

「私ね。ずっと考えていたの。マルスに何のお返しが出来るのだろうって」

何回も言われているが、特にお礼なんてする必要ないんだが。

「そして、ようやく見つけたの……ううん、前からそれしかないと思っていたのだけれども、ようやく決心がついたの」

「はぁ……でも僕は本当に何も……」

俺がそこまで言うとサーシャは俺の口にサーシャの人差し指を当て

「お礼は絶対にするわ。でもこれは私だけでは決められないから、明日クラリスやライナーたちに話してみるわ。クラリスたちが私を受け入れてくれるかが心配だけど……」

え? クラリスの承諾が必要な事って……もしかして?

サーシャは俺のそんな気も知らないで

「それではマルス。おやすみなさい」

サーシャもミーシャに続きMPを枯渇させ、やさしくミーシャを包み込むように寝てしまった。

俺はサーシャの言葉に悶々としながらMPを枯渇させ2人の親子の美しく、幸せそうな顔を見ながら眠りについた。