軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第244話 宿敵

「エリー、馬車の中から何か気配がするよな?」

誰にも聞こえないようにエリーに聞くと

「……ん? ……気配? ……しない……」

え? 流石にエリーの方が俺よりも気配の察知とかは優れている。そのエリーが言うのだから間違いないのか……? するとエリーの隣にいたクラリスが

「マルスも感じた? 私だけの違和感かと思ったんだけど違うのね。でもエリーが感じないなんておかしいわね……」

クラリスも馬車に違和感を覚えている。もしかしたらエリーはミリオルド公爵の件で少し混乱しているのかもしれない。

俺は馬車をしっかりと警戒しつつもリーガン公爵たちとミリオルド公爵の話に耳を傾ける。

「では、早速中に入らせてもらう」

ミリオルド公爵の抑揚のない言葉にリーガン公爵も

「申し訳ないのですが、ミリオルド公爵をもてなす準備が整いませんでした。来年招待させて頂きますので、今回の所はお引き取り下さい」

昨日フレスバルド公爵が来た時に話したのだが、ガスターを殺せるほどの実力がある者を学校内に入れるのはリスクが高いからやめるべきだとフレスバルド公爵が言ったのだ。

まぁ生徒もいるし、一般の客もいるからな。当然と言えば当然かもしれない。

「何を言うか。であれば我々を関所で足止めしている時にでも言えばよかろうに」

ミリオルド公爵は少しだけイラっとしたのか早口になった気がした。

「本当に申し訳ないです。昨日までは警備をしっかりできると思っていたのですが、やはり今日になって警備がどうしても手薄だという事が判明しまして。ここだけの話なのですが私が贔屓にしていたA級冒険者が死体となって届けられましてね。他国の上級貴族を迎え入れるにはさすがに不安だという事でこのような判断となってしまいました。リーガン公爵領を出るまではフレスバルド騎士団の精鋭中の精鋭、朱雀騎士団がミリオルド公爵を警備致しますので今日の所はお引き取りを」

「くっくっく……とんだ茶番だな……」

ミリオルド公爵が初めて感情を含んだ声を出した。そして声の質が明らかに変わった。俺がかすかに覚えている声にだ。

「では、カエサル公爵に用がある。ここに居ることは分かっている。早い話が借金の取り立てだ。呼んできてもらおう」

ミリオルド公爵の言葉にフレスバルド公爵が

「確かにカエサル公爵は昨日までここにいた。しかし今はこの世界で一番安全な場所にいる。何せA級冒険者を殺すことが出来る相手だからな」

まるでミリオルド公爵がガスターを殺したと言わんばかりだ。

「ほう、それは物騒だな。それでは私が力を貸そうか?」

自分が疑われている事を百も承知でミリオルド公爵が平然と言った。

それにしてもミリオルド公爵は怖くないのか? ここはミリオルド公爵からしたら他国……いや、敵地だというのに。本来であればリーガン公爵が交渉を有利に進める立場だと思うのだが、一歩も引かない。むしろ挑発しているように見えるのだが……

「私たちの問題ですから私たちで解決致します。それよりも私がカエサル公爵よりお金を預かっております。もしもミリオルド公爵がおいでになったら返しておいて欲しいと」

「そうかカエサル公爵に白金貨にして6枚貸しているからな。今回の件を含めて白金貨10枚を返してもらおう」

法外だよな……? その証拠にリーガン公爵の顔が明らかに引き攣った。カエサル公爵からは白金貨6枚借りたことは教えられていたが、獣人を攫う事によって返済していたから多くても白金貨3枚くらいで済むのではないか……そこから利子をつけて白金貨5枚と言われるくらいかと言っていたがまさかの10枚だ……

「もしも高いと思うのであればここにカエサル公爵を連れてくるといい。きっと彼ならば分かってくれると思うのだが?」

「分かりました。用意させますのでしばらくお待ちください」

リーガン公爵が平静を装いながら答えたが、内心穏やかではないだろう。

なんかクラリスといい、リーガン公爵といい、綺麗な女性が怒りを隠しているのは普通の人以上に怖いな…… ミリオルド公爵は絶対に後で後悔する気がすると思っているのは俺だけじゃないよな?

「金を用意している間少し話をさせてくれ。ミリオルド公爵は幼い子供が好きと聞いたが本当か?」

セレアンス公爵が両拳を固く握ったまま質問する。

「どこでそんな噂を? 確かに恵まれない子供を買い取る事は何度かしたが決して子供が好きという訳ではない」

「そうか。風のうわさでな。最近では人間、獣人だけでは飽き足らず、魔族の子供にも興味を示していると聞いたのでな。まぁあくまでも噂だからな」

2人の腹の探り合いが続き10分くらいするとようやくお金の準備が出来たらしい。

「白金貨10枚です。これでカエサル公爵の借金は無くなったという事でよろしいですね?」

「確かに。それでは最後に私からのお願いがある。私の息子を是非 復(・) 学(・) させて欲しい。今その馬車にいるから呼んでもいいか?」

復学? リスター帝国学校にミリオルド公爵の子供がいたのか!?

「復学と言われましてもミリオルド公爵のご子息は預かったことがありませんが?」

「ミリオルド公爵家は代々子供に恵まれなくてな。だから子供を引き取って優秀な子供は養子縁組するのだ。今日一緒に来ている子はその中でもとびきり優秀でな。残念ながらミリオルド公爵家を継ぐことは出来ないが、折角だから復学してもらおうと思って。出てきなさい」

ミリオルド公爵がそう言って右手に持っていた杖を馬車の方にかざし、馬車の中にいる人物に声をかけた。

ミリオルド公爵が杖をかざすと馬車の中からの圧がなくなり、白に金色の刺繍が入った制服を着た見覚えのある顔が馬車のワゴンの扉を開き、降りてきた。

その顔は去年と全く変わっていなかった。馬車から降りてきたその男は以前と変わらぬ笑顔でこちらを向いて微笑む。

「息子のヨハンだ」

ヨハンはミリオルド公爵に紹介されるとリーガン公爵の下へゆっくりと歩いてきた。そしてミリオルド公爵の隣に立つと

「お久しぶりです。リーガン公爵。勝手にいなくなってしまい、誠に申し訳ございませんでした。今日からまたリスター帝国学校の生徒として学ばせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

リーガン公爵は相当驚いているようだが

「ヨハン、無事で何よりです。ヨハンとヨーゼフが失踪してから色々ありました。ヨーゼフは今どうしていますか?」

復学の事は何も言わずにまずヨーゼフの事を聞いた。もちろんヨーゼフはリーガン公爵が屋敷でずっと経過観察をしている。

「ヨーゼフはこの間まで一緒に居たのですが急に姿を見かけなくなってしまいまして……ヨーゼフは体が小さいから心配なのですが……」

本当に心配しているという感じで話した。

「で? ヨハンの復学を認めてくれるのか?」

ミリオルド公爵の言葉にリーガン公爵が

「大変申し訳ないのですが2人はもう退学処分となっております。入学するには再度入学試験をして頂かないといけません」

この言葉にヨハンは残念そうにうつむいたが、ミリオルド公爵はある程度予想はしていたらしく

「そうか……ではヨハン、馬車の中に戻りなさい」

何も反論することなくヨハンをワゴンの中に戻した。予め分かっていたのであれば何故ヨハンをここに呼んだんだ?

ここである事に気づいた。ミリオルド公爵は右手に持っている杖の先端を常にヨハンに向けてかざしているのだ。

ヨハンが下を向きながら残念そうに馬車に戻りワゴンの扉を閉めるとミリオルド公爵は杖の先端を馬車の方から外した。

「今回はお金を回収できただけでも良しとしよう。また今度来させてもらう」

このままではミリオルド公爵も馬車に乗って帰ってしまう。馬車の中に何があるのか、何が起きているのかを絶対に今確かめないといけないと思った俺は

「クラリス、エリーを頼む。俺はこのマントを使って馬車の中を見てくる」

「分かったわ。でも気を付けて。あの言葉忘れていないわよね?」

俺はクラリスの言葉に頷くと先ほどまでいたテントまで戻り、誰も人目が付かないところで透明になった。

よし、誰にも透明になったところを見られていないな。物音で気づかれないようにヨハンが乗った馬車の方へ走る。

ミリオルド公爵もリーガン公爵と2、3言葉を交わすと馬車の方に戻っていく。

息をひそめてチャコールグレーの鎧を着た者たちが守る馬車に近づくと、ミリオルド公爵も馬車のワゴンの前にちょうど着き、そしてワゴンの扉を開けた。

ワゴンの中には先ほどまでいたヨハンが……いなかった。

中に居たのは2年Sクラスの制服を着た黒い髪の毛の男1人だけ。

絶対に忘れることがないであろうその凶悪な顔は日本で会ったあいつそのものだった。

黒髪の男はワゴンの中で座り、透明なはずの俺をまるで見えているかのように凝視している。

ミリオルド公爵がワゴンの中に入るとすぐに扉を閉めようとしたので、閉める直前に黒髪の男を鑑定した。

【名前】ヨハン・グランツ

【称号】死神・暗黒王

【身分】人族・ミリオルド公爵家四男

【状態】良好

【年齢】11

【レベル】60

一瞬しか鑑定できなかったため、ここまでしか鑑定できなかった。馬車のワゴンの扉が閉まりリスター帝国学校から離れていく。

人目につかない所まで行きステルスを解くと、俺は去っていく馬車をずっと見つめた。

ヨーゼフの言葉が頭を過る。

「ヨハンはもう助からない! ヨハンを殺してくれ!」

なんとも後味の悪い2年目のリスター祭だった。