作品タイトル不明
第242話 接近
2031年11月6日
エリーの容態が回復してから4人で闘技場を出ると、リーガン公爵がレッカとディバルと一緒に俺たちを待っていた。
「エリーは大丈夫ですか?マルスとアイクは申し訳ないのですが、一緒に話を聞いてもらいたいのですがよろしいですか?」
この状況でエリーから離れたくはなかったが、クラリスもいるし、寮には他の仲間たちもいる。クラリスに目配せをするとクラリスが頷いたのでエリーにハグをして
「エリー、何かあったらすぐにクラリスに言うんだぞ? クラリス、エリーを頼む。1人でなんとかしようと思わないでカレン、ミーシャ、アリスにソフィア、それに義姉さんも頼って欲しい。お願いできるか?」
エリーとクラリスにそれぞれ言うとエリーは黙って頷き、クラリスは
「任せておいて。マルスとお義兄様はエリーの事を気にせずに行ってらっしゃい」
俺の背中を押してくれた。エリーをクラリスに預け、俺とアイクはリーガン公爵と一緒に校長室に向かった。
「エリー大丈夫なのか? あんなエリーは初めて見たんだが……」
「大丈夫です。アイク兄もエリーの前でなるべくミリオルド公爵と言う名前を出さないようにしてください。どうやら2人の間には何かあったらしくて……」
校長室に向かう途中でアイクがエリーの事を心配して、色々と俺に質問してきた。
俺の知っている限りの事は答えたが、アイクが本当に知りたいこと、つまりエリーとミリオルド公爵との関係は俺にも分からない。
校長室に着くとそこにはセレアンス公爵とカエサル公爵がすでに待っていた。カエサル公爵はエリー以上に怯えているようで、ソファに腰を掛けてずっと貧乏ゆすりをしながら、頭を抱えていた。この光景前にも見たな。
「早速ですが今からミリオルド公爵が来るにあたってどうするかを決めましょう。ミリオルド公爵は関所で少し足止めをしております。リーガンに着くのはリスター祭の最終日、11月10日になると思います。先ほどフレスバルド公爵にリーガンに至急来て欲しいと早馬を飛ばしました。恐らく前日の11月9日にはここに到着しているかと思われます」
フレスバルド公爵を呼んだのか。まぁそれが一番無難だよな。
「言うまでもない事ですが、当然リスター祭を楽しみたいというのは嘘でしょう。恐らくミリオルド公爵の狙いはカエサル公爵だと思われます。カエサル公爵、フレスバルド公爵領に行くことも可能ですがどうしますか?」
頭を抱えているカエサル公爵にリーガン公爵が聞くと
「……ここに留まらせてくれ。ここが一番安全な気がする……」
確かにここには戦力が集まっている。だがあのフレイヤより安全かと聞かれれば答えはNoだ。まぁカエサル公爵が決断した事だからな。
「メイド喫茶と闘技場は11月9日までの営業とします。正直メイド喫茶を1日休むとかなりの損失になりますがそれは来年取り戻すと致しましょう。Sクラスの生徒たちは全員警備にあたる様に。そしてBクラスの生徒達は騎士団の補助や情報伝達をお願いすると思います」
リーガン公爵は俺の方をじっと見つめながら力強く言った。
「リーガン公爵、僕からも質問させてください。ミリオルド公爵と言う人物の特徴とかあれば教えて頂きたいのですが?」
アイクがリーガン公爵に質問すると
「残念ながらカエサル公爵もミリオルド公爵と直接会ったことはあっても素顔を見たことは無いらしいのです。ただでさえ、姿を現さないミリオルド公爵は毎回仮面をかぶっているらしいので」
この言葉にカエサル公爵が付け加える。
「今リーガン卿が言ったようにミリオルド公爵はいつも仮面をかぶっている。昔鑑定したことがあったが、ステータスは普通なのだが、いつも何か異様な雰囲気を漂わせている。前にも言ったがミリオルド公爵は何かがおかしい……」
カエサル公爵が鑑定できたという事はミリオルド公爵自身はそんなに強くないのであろう。
何故かって? カエサル公爵の感情眼は自分よりも弱い人間しか鑑定できないって言っていたからな。
だが昔ドアーホが気になる事を言っていたな。俺と同じ偽装の腕輪をミリオルド公爵とあと2人の人物が……ってミリオルド公爵と実際に会ったやつがもう1人いたじゃないか!? 最近あまりにも空気のような存在だったので忘れていた。
「リーガン公爵、前にドアーホ殿下がミリオルド公爵と会ったことがあると仰っていたような気がするのですが?」
俺の言葉にリーガン公爵は大きく目を見開いて
「そうですね! 考えてみればザルカム王国の王子であれば公爵と会う機会もあったでしょう! 明日詳しい話をドアーホに聞いてみましょう!」
その後は警備体制とかを3人の公爵が話し合って決めていたのだが、結局はフレスバルド公爵が来ないと具体的な事は決められないという事で今日は解散となった。
アイクは最終日メイド喫茶をやらないという事を男子たちに伝えるために2年生の男子寮に向かった。
俺はというとやはりエリーの事が気になったので2年生の女子寮の前に向かった。
いくら女子寮に入っていいと言われていても勝手に1人で入るのは嫌がるかもしれないし、失礼かなと思い、女子寮の前で知っている人が通りかからないかフラフラしていると、眼鏡っ子先輩が偶然にも通りかかった。
「あら、マルス、こんなところで……え……? もしかしてナンパしようとしているの?」
まぁ女子寮の前でフラフラしているとそりゃあ疑われるよな……下着泥棒とか言われなくてまだマシだと思ってしまった。
「義姉さん。【黎明】部屋に行って誰でもいいので……いやクラリス、エリー、アリス以外で誰か呼んできてくれませんか? メイド喫茶の事で リ(・) ー(・) ガ(・) ン(・) 公(・) 爵(・) よ(・) り(・) 伝言を預かっているので」
眼鏡っ子先輩はリーガン公爵の名前を聞くと素直に従ってくれた。すぐに眼鏡っ子先輩がカレンを連れて降りてきた。
「カレン、部屋に入っていいか? みんなに伝えたいことがあるんだ。義姉さんも一緒にいいですか?」
俺の言葉に2人は頷き【黎明】部屋に着いた。カレンはある程度の事情は知っているのかもしれない。レッカがカレンにミリオルドの事を言わないなんてありえないからな。
久しぶりの【黎明】部屋は相変わらず綺麗でいい匂いがした。リビングに入るとソフィア含めて全員が揃っていた。まだ誰もお風呂に入っていないらしく制服姿だった。
少し残念だったが賢者様を連れてきていないから良かったのかもしれない。俺はクラリスに手招きをされていつのもクラリスとエリーの間に座ると、クラリスが移動をし、エリーの左側に移動したのだ。
俺とクラリスでエリーを挟むように座ったのだ。真ん中にいるエリーはとてもリラックスした表情をしていた。クラリスの気配りに満足したのだろう。
早速俺はミリオルド公爵が来ることをみんなに伝えた。全員もう知っている事だったらしいのだが、メイド喫茶と闘技場を閉めるという事は知らなかったらしい。ここにいる全員が警備に回される事を伝えると
「エリーはどうするの? 流石にエリーを警備に連れていけないわよ?」
クラリスが心配そうに言ってきた。しかしこのクラリスの言葉にエリーが
「……ありがとう……でも大丈夫……私が……」
そこまで言うとエリーがクラリスの方を向いて無言で何かを訴えている。恐らく私は大丈夫だから気にしないでという事だろう。
「分かった。エリーの意志を尊重しよう。正直エリーがいると心強いしな。だがエリーは必ずクラリスと行動を共にする事。クラリスもそれでいいか? 俺も余裕がある時はなるべくエリーの側にいるから」
俺とエリーの言葉にクラリスが
「分かったわよ……2人がそこまで言うのであれば反対はしないけれども……エリー、本当に無理をしてはダメよ?」
クラリスがエリーの頭を優しく手で包み、エリーの顔を胸の所に持っていき抱きしめた。美女が美女の胸に埋もれる姿ってなんかいいな……
「マルス、涎が垂れているわよ。なんだったら私の胸に飛び込んでくる?」
やべ、眼鏡っ子先輩がいたんだった。急いで涎を拭こうとするが涎は垂れていなかった。くそ……またいいように遊ばれた……
「そう言えばマルス? ドミニクから返してもらった?」
急にソフィアが俺に問いかけてきた。
「ん? 何を? なんも貸してなんてないし、返されてもないけど?」
俺の言葉にソフィアが
「ドミニクったらよっぽどここが楽しいのね。もう忘れてしまったのかしら……? 明日ドミニクに言っておくからしっかり返してもらって」
何の事だろうか? まぁ貰える物であれば貰っておこう。その後少し談笑したが、長居はしなかった。
まだみんな風呂に入っていないから長居すると、みんなの夜のルーティーンが崩れて朝練がきつくなるからな。本当はクラリスの手料理を食べたかったのだが、それは次の機会にしよう。
2031年11月7日
残念殿下はミリオルド公爵の事をあまり知らなかった。相変わらず残念なやつだ。1年に1回会うか会わないかくらいの関係だった為、たまに会ってなんか違和感があるなと思った事があると言っていたが、そりゃあ1年も会わなければ、人間変わるからな……
それよりも有用な物が俺の手元に来た。それはソニックブームだ。残念殿下の取り巻きだったオリゴが持っていた風属性の剣だ。
そう言えばドミニクに渡したままだったのか……ドミニクはクラレントを装備しているからもう使わないらしく、エルハガンの冒険者にはもったいない代物という事で俺に返してくれたのだ。
ちょうどアイクにどちらかを使ってみないかと聞いてみたら 火精霊の剣(サラマンダーソード) を使いたいとの事だったので俺がソニックブームを装備することになったのだが、この会話を聞いていたリーガン公爵が
「マルス、待ちなさい。ちょうどいい機会です。マルスには後で渡したいものがありますので、その剣を装備するのはおやめなさい」
お? いい武器をくれるのかな?と思っていたら 水精霊の剣(ウィンデーネソード) という 火精霊の剣(サラマンダーソード) の水属性版をくれた。
「ありがとうございます! リーガン公爵! こんないい品を頂いて!」
俺はまだ幼かった。何故リーガン公爵がこれを俺に渡したのかを次の言葉を聞くまで分からなかった。
「これでマルスが水魔法を使えるようになっても、誰も不思議とは思わないはずです。来年のリスター祭はマルスにも聖水を売ってもらいますから、皆の前では 水精霊の剣(ウィンデーネソード) を使う様にしてください」
そ、そういう事か……来年を見越しての……結局ソニックブームは俺が保管しておくことになった。
そして11月10日を迎えた。