軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第209話 幻妖花

2031年7月1日 8時

「よし!準備はいいか?」

ヒュージの声に俺たちは頷いた。

「いよいよだな」

ヒュージの言葉を受けてアイクが少しワクワクした雰囲気で話しかけてくる。

アイクはかなりこの1か月で成長したからな。自分を試したくて仕方ないのだろう。

【名前】アイク・ブライアント

【称号】-

【身分】人族・ブライアント伯爵家嫡男

【状態】良好

【年齢】14歳

【レベル】38

【HP】116/116

【MP】1201/1201

【筋力】85

【敏捷】71

【魔力】47

【器用】49

【耐久】77

【運】10

【特殊能力】剣術(Lv6/C)

【特殊能力】槍術(Lv8/B)

【特殊能力】火魔法(Lv6/C)

【特殊能力】風魔法(Lv2/G)

【装備】 火精霊の槍(サラマンダーランス)

【装備】 火幻獣の鎧(イフリートメイル)

【装備】 火の腕輪(フレイムブレスレット)

【装備】守護の指輪

最近はずっとヒュージに槍の稽古をつけてもらっているからアイクはとても充実した毎日を過ごしていた。

魔物が居るときは魔物を倒し、魔物が居ない時はヒュージとの訓練。かなりハードスケジュールだが自分から率先してやっているのが凄い。

もちろん、俺もクラリスもエリーもしっかりレベルは上がっていた。魔の森に入るメンバーはこの前ヒュージが言ったように、俺、クラリス、エリー、アイク、サーシャ、ヒュージの6名だ。

ちなみに出発前、ヒュージにクラリスも神聖魔法が使えることを教えた。リアクションはみんなも想像はつくよな? なぜ教えたかというと、魔の森は相当手強い魔物がたくさんいるから、命の危険を鑑みて決断したのだ。

早速魔の森のカーテンをみんなでくぐる。

この感覚……どこかで……そうだ! イルグシア迷宮の壁の中に入ってしまった時の感覚とほぼ同じだ。

テリトリーの中に入ると魔物たちから熱烈な歓迎を受けた。

地獄の蛇(ヘルスネーク) 、アサルトドッグが構ってくれと涎を垂らしながら近づいてくる。アイクがアサルトドッグを可愛がってやり、クラリスが 地獄の蛇(ヘルスネーク) を嬉しそうに倒す。

後ろを振り返ってみるとテリトリー内からは砦を見ることが出来た。砦からはテリトリー内を見られなかったからこの魔力のカーテンはマジックミラーの役割も果たしているようだ。

「ここにいるとずっと魔物達の標的になるだけだ。森まで一気に走るぞ!そして魔の森に入る前に注意事項がある。決して勝手に奥まで入らないように!」

ヒュージが走ると俺達もヒュージの後を追った。

「魔物が襲ってくるが立ち止まるな! 森まで行くと魔物たちからの視線が切れるからそれまでの辛抱だ!」

ヒュージに言われた通り魔物が襲ってきても立ち止まる事無く森まで走り、森に辿り着いてから迫ってきていた魔物を倒した。

「よし! これから魔の森に入るが、まずはお前たち4人にこの魔の森の最大の敵である幻妖花に慣れてもらう必要がある」

幻妖花? なんだそれ?

「幻妖花というのは魔の森に生えている虹色の植物だ。この幻妖花の香りを嗅いだものは幻覚症状や興奮状態になる。特に異性と一緒に行動すると匂いに当てられて……幻妖花対策をしていないがためにBランクパーティが全滅という事もよく聞く話だから絶対に油断はしないように」

「どうやって幻妖花の対策をするのですか?」

俺がヒュージに聞くととんでもない答えが返ってきた。

「とにかく慣れることだ。幸いにも幻妖花の症状はエルフには出ない。そして俺も散々嗅いだから克服している。まずは幻妖花を見つけることが最優先だ。幻妖花はこの魔の森でしかその特殊な匂いを発しない。摘んで持って帰ってから対策という事が出来ないからそのつもりでな」

え……? 幻妖花って、むやみやたらに嗅いだらダメなやつでは? ヒュージはもしかして中毒者なのか?

「ねぇこれって慣れていい物なのかしら?」

クラリスは俺と同じ不安を抱えているようだ。

「本当は良くないと思うが……多分キュアで治るとは思う……」

俺がクラリスに答えるとこの話を聞いていたサーシャが

「大丈夫よ。幻妖花の匂いには中毒症状はないから。そんな強い物だったら私たちエルフや魔族だけ効かないという訳がないから」

慣れない事には魔の森で命を落とすと言われてしまったら慣れるしかないのだが……森の入り口付近で植物を探しているとすぐに幻妖花を見つけた。

「よし! このあたりでしばらく待機するぞ! 俺とサーシャがこのあたりの警戒をしているからお前たち4人は少しずつ幻妖花の匂いに慣れておけ」

匂いに慣れろってそんなに近づいていないから匂いが届くわけが……あれ……? なんかいい匂いだ……このいい匂いは……クラリスの匂いだ! もっとこのいい匂いを嗅ぎたい……

気が付くと俺はいつの間にかクラリスを押し倒していた。そして今の俺はアイクとエリーに両腕をがっしりと抑えられていた。俺の左腕を抑えているエリーが悲しそうな顔をしている。

「あれ……? いつのまに……?」

「マルス、たった今の行動を覚えていないのか? クラリスに急に抱きついて何事かと思ったぞ。クラリス、お前もお前で受け入れるな。キュアでマルスを治すことが出来るだろう?」

幻妖花に俺は早速やられていたのか。

「う、受け入れてなんかいませんよ。急だったから驚いてしまっただけで……今度からはしっかりとやりますから」

クラリスは顔を真っ赤に染め、俺の目をずっと見つめている……これはもしかしたら……クラリスの目にどんどん引き込まれていく。

「おい、正気を保て! なんでマルスだけ……?」

また俺は幻妖花の匂いに当てられていたらしい。今度は首根っこをアイクに捕まえられていた。

「クラリスはどうしてもマルスを拒絶できないのか?」

またクラリスの顔が赤く染まっている。

「そ、そんなことはありません。少しキュアを唱えるタイミングが遅れただけです」

これはもしかして無限に続くのではないのだろうか? 幻妖花とはもしかして幻覚症状や興奮作用ではなくて別の効能? があるのではないだろうか?

結局この日は俺だけが幻妖花の匂いにやられて、他の5名はなんともなかったらしい。

俺が幻妖花の匂いにやられた回数は数えきれなかった。ヒュージやサーシャはともかく、クラリス、エリー、アイクの3人はなぜ幻妖花の匂いに当てられないのだろうか……?

魔の森から帰るとずっとそればかりを考え、風呂、ご飯を食べて寝室に行くとエリーが珍しくベッドの中で俺に囁いた。

「マルス……私の事も……求めて……毎回クラリス……お願い……」

昼間の魔の森でのことを言っているのであろう。エリーの声が涙声になっている。俺自身そんなつもりはないのだが……

「ごめんな。エリー。だが幻妖花に当てられてしまうと全く記憶が無くなってしまうんだ。だから俺がもしも昼みたいな行動に出たらエリーは俺の事を殴って俺を正気に戻してくれ」

「私……マルスを叩けない……大切だから……」

俺とエリーの会話を聞いていたクラリスが

「ねぇ、じゃあさ、明日マルスはエリーと手をずっと繋いでいるというのはどう? マルスがおかしくなったらすぐにキュアをかけるから」

「うん、そうしてくれ。エリーもそれでいいか?」

俺がクラリスの提案に賛成し、エリーに聞くとエリーは頷いたが

「キュアいらない……そのままマルスの好きなように……」

と小さな声で呟き、俺の首に顔を埋めて寝息を立てた。エリーの言葉を想像してしまった……素早く枕もとの賢者の杖(偽)と手を握る。

クラリスにはエリーの言葉は届いていないらしい。明日こそはしっかりと克服できるように頑張ろう。

2031年7月2日

今日も昨日と同じメンバーで魔の森に入る。

今日こそは絶対に幻妖花を克服するぞ! 魔の森の中に入り魔物を倒すと幻妖花が咲いている付近で待機する。

昨日クラリスに言われた通り今俺はエリーと手を繋いでいる。エリーはちらちら俺の事を見てくる。ショートカットの金髪からはいい匂いが漂ってくる。

クラリスの匂いは甘い匂いだが、エリーの匂いはさっぱりとした匂いだ。もっと匂いを……

「キュア!」

クラリスのキュアの声で正気に戻った。エリーを押し倒す前で良かった。それにエリーも喜んでいた。

「ありがとう……私でも……嬉しい」

なんて健気なんだ。エリーがとても愛おしい。エリーを抱きしめようとすると

「キュア!」

どうやらクラリスは何でも幻妖花のせいだと思っているらしい。今はしっかりと正気を保っていたと思うのだが……

「まだマルスは慣れないのか?」

ヒュージが心配そうに尋ねてきた。

「ええ、クラリスとエリーに囲まれたら仕方ないとは思いますが」

ヒュージの質問にアイクが答える。

「まさかマルスにこんな弱点があったとはな。全て完璧にこなしているから弱点なんてないと思っていたのだが。人間らしくていいじゃないか。この辺の警戒は俺とサーシャに任せて今はしっかりマルスの事を頼む。この先絶対にマルスは必要な戦力だからな」

ヒュージが俺をフォローしてくれた。あんた本当にいい人だよ。結局この日も俺だけずっと幻妖花の匂いに当てられ続けた。

砦に帰る時は昨日と違ってエリーはご機嫌だった。ずっとニコニコして俺の事を見ている。

「はぁ……神聖魔法のいい訓練になるわね。まさかキュアだけでMPが枯渇しそうになるとは……」

まぁクラリスは俺の一挙手一投足に全てキュアをかけていたからな。だがこんな事ではいつかは聖者ではなく性者と言われてしまう。

いや、ミーシャにでもバレたら今日にでも間違いなく言われてしまうだろう。

「ごめん……なんで俺だけなんだろう……魔眼は効かないのに……状態異常は……」

自分で言いながらある事に気づいた。急いでクラリスとエリー、アイクを鑑定する。

「分かった! なんで俺だけ幻妖花の匂いにやられるのかが!」

急に大きな声を出した俺に5人が驚いた。

「装備だ! 3人の装備には状態異常耐性がある! 俺だけ状態異常耐性UPの装備がないんだ!」

クラリスの装備している 聖女の法衣(セイントローブ)

【名前】 聖女の法衣(セイントローブ)

【防御】14

【特殊】魔力+3 耐久+2

【価値】A

【詳細】神聖魔法と結界魔法の消費MP軽減、効果増。状態異常無効。自動修復。

エリーの装備している 戦乙女軽鎧(ヴァルキリーアーマー)

【名前】 戦乙女軽鎧(ヴァルキリーアーマー)

【防御】24

【特殊】筋力+1 敏捷+2 魔力+2

【価値】A

【詳細】装備者のHP自動回復。状態異常耐性UP。火魔法耐性UP

そしてアイクの装備している守護の指輪

【名前】守護の指輪

【特殊】-

【価値】C

【詳細】状態異常耐性UP

俺の言葉にヒュージが

「お前たち凄い物を装備していたんだな。A級冒険者顔負けの装備だぞ? すぐに対策の装備を揃える事はできないから明日からもこれまで通りの方法で慣れてもらうがいいか?」

「はい! もちろんです! ただどうして俺だけ? とずっと思っていたので、疑問が解消されてスッキリしました。明日からもよろしくお願いします」

結局俺が幻妖花に慣れるのに計7日もかかった。