軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第108話 黒幕

「………」

「どうした? カレン? キザールさんの事で考え事か?」

俺は宿に戻ってからだんまりしているカレンに向かって聞いてみた。

「えぇ。キザールの件、私なら何が出来るのかって考えていたのよ。あんな最低な奴どうなっても構わないんだけど……マルスはそう思ってはいないようだから私も真剣に考えたんだけど……」

「変なことに巻き込んでごめんな。でもカレンがそう考えてくれるのは嬉しいよ」

「1つ確実な解決策は見つけたのよ……だけどこんな政治色の強いやり方をみんなが納得するか……」

政治色? 何のことだ?

「メサリウス伯爵はもうカレンしか頼める人が居ないと言っていたから、少しでも道があるのであれば、提示してあげた方がいいかもしれない。もしよければどういう解決策なのか教えてくれないか?」

「ええ。ちょっと驚くかもしれないけど……キザールを私の奴隷にする……別に私じゃなくてもいいけど……とにかくフレスバルド公爵家の奴隷にするの。フレスバルド家の奴隷って言うのは実はかなりの地位なのよ。まぁ所詮奴隷と言えば奴隷なんだけど平民が就ける職業よりは圧倒的にフレスバルド公爵家の奴隷の方がなるのが難しいわ」

「奴隷にするって……でも奴隷にして何かあるのか?」

「サンマリーナ侯爵のこと覚えている? あんなにサンマリーナが大変な事態に陥っているのに他の貴族に助けを求めなかったじゃない? あれで助けを求めて解決していたらどうなっていたと思う?」

「多額のお金なり、物なりを渡すのではないか?」

「それもあるんだけど、一番は助けてもらった貴族から代官が送られてくるのよ。代官が送られてくると領地の財政とか見られてしまうのはもちろんだし、何より領地統治にも口を出してくるの。もうこうなったらいくら上級貴族とは言え、1人で何も決められなくなってしまうわ」

だからサンマリーナ侯爵は他の貴族に助けを求めなかったのか……統治権をめぐって平民の生活を犠牲に……

「メサリウス伯爵は覚悟の上だと思うよ……さっきも言ったけどもうカレンしか頼れないって言っていたし……でもそれだったら奴隷にする必要はないのでは? 素直にフレスバルド家の傘下に入りました的なことを言えばいいのでは?」

「結局次期メサリウス伯爵はキザールでしょ? あれじゃあ必ずフレスバルド家に乗っ取られるわ……乗っ取られるだけならまだマシかもしれないわね……それに乗っ取る公爵家がセレアンス公爵家とかだったらもっと酷い事が起きる。

メサリウス家の事を考えるのであればキザールが変わらないといけない。であれば厳しいフレスバルド家の奴隷になって再教育でも受ければと思ったの……もちろん伯爵位を相続するときは奴隷契約を解除するわ」

かなり考えていたのか……もう一つ疑問がある。

「再教育するってどこで再教育するのかい? カレンの奴隷であればカレンの近くにいるべきだろうし」

「それは私の実家から奴隷の教育担当を呼ぶわ。そしてさっきマルスも言ったようにダメーズにも協力してもらう。さすがにこれでキザールが治らなかったらもうメサリウス伯爵家はアイクに任せるか、フレスバルド家が吸収するかね」

かなりいい案な気がしてきた……が問題がある。

「問題はこれをキザールが飲むかどうか……だな」

カレンと話し合いが終わり俺はMPを枯渇させてから寝た。

2030年8月19日

メサリウス伯爵に昨日の夜カレンと話し合ったことを伝えると、驚いたことにあっさり受け入れた。キザールは相変わらず抵抗しているがメサリウス伯爵が強引に取りまとめた。

まずキザールの子爵位を返上させて平民にし、メサリウス伯爵も俺らと一緒に学術都市リーガンへ行く事になった。もちろんキザールも一緒である。

カレンの案はあくまでもカレン自身が勝手に考えたことで、フレスバルド公爵家に承認はもらっていないので、了承されたらそこでキザールをカレンの奴隷にする契約をする事になった。

早速俺たちは学術都市リーガンに向けて帰ることにした。今回は大所帯でヒールを使って馬たちを走らせることは出来ないので急がないと間に合わないのだ。

リーガンに帰る道中はメサリウス領を抜けてから魔物が出現し始めたが、ミーシャを中心に魔物を倒した。紅蓮のメンバーもミーシャがこんなに強いとは思ってもみなかったらしく、目を丸くしてミーシャの戦闘を見ていた。

2030年8月29日

なんとか学術都市リーガンに辿り着いた。かなり強行軍だったがやれば出来るものだ。

早速俺たちはリスター帝国学校に入るが、メサリウス伯爵とキザール、ダメーズは門をくぐることは出来なかった。さすがのセキュリティだ。上級貴族とはいえ学校内に入らせないとは。

俺たちはリーガン公爵のもとに行き事情を説明するとリーガン公爵が門番の所まで一緒に来てくれた。

リーガン公爵がメサリウス伯爵の所まで行くとメサリウス伯爵が片膝をつき

「お久しぶりです。リーガン公爵。このようなことに巻き込んでしまい……」

メサリウス伯爵の言葉をリーガン公爵が遮る。

「事情はマルスから聞きました。詳しいことは校長室で聞きます。あまりここで話したくないような事もあるでしょうし」

そう言ってリーガン公爵が外部者の3人を学校内に入れた。

「で、結局キザールはカレンの奴隷になるという事でいいのですね?」

詳しく説明を受けたリーガン公爵がメサリウス伯爵に聞くと

「はい。そのようにして頂ければと思います。がフレスバルド公爵にはまだ何も伝えていないので……」

メサリウス伯爵がそこまで言うとリーガン公爵が

「大丈夫です。私が確約致します。カレンの案は必ずフレスバルド公爵は承認するので奴隷契約を結びなさい。私が見届けてからフレスバルド公爵に報告します」

全員がキョトンとした顔をしている。こんなにもあっさりと決めていいものなのか?

これだと【幻影】を雇ったのはフレスバルド公爵とリーガン公爵って疑ってしまうが……

「それでは明日奴隷商を連れて参りま……」

「もう既に呼んであります。入ってきなさい」

またメサリウス伯爵の言葉をリーガン公爵が遮って言った。事前に知っていたな……ダメーズが早馬でも飛ばしたかな?

キザールがリーガン公爵の前に連れてこられると

「助けてください。リーガン公爵! 俺は何も悪くないのです! 話を聞いてください! あいつが……あのガキが!」

キザールが俺の方を見ながらリーガン公爵に泣きつくと

「そうですか……まだ自分が如何に愚か者か分かりませんか? マルスにあなたを嵌める動機はありません。この学校を卒業して少しは変わればと思ったのですが……私たちの教育のせいでもあります。ごめんなさい。キザール」

最初は語気が強かったが、徐々に憐れむような声になり、リーガン公爵はキザールを見つめた。魅了眼を使ったのだ。

「さぁカレン。こちらに来てください。キザールは抵抗ができません。今のうちに奴隷契約を結んでください」

カレンは奴隷商を通じてキザールを奴隷にした。

どうやらカレンも途中からリーガン公爵の意図に気づいたようだ。

「さて、これで一件落着ですかね? これより【紅蓮】と【黎明】の帰還パーティをします。みんな疲れていると思いますがあともう少し頑張ってください。クエストの完了報告もその時に受け付けます」

メサリウス伯爵とダメーズ、キザールの3人は参加不可のようだ。リーガン公爵がサーシャを呼び3人を別の所に案内させた。サーシャを見つけたダメーズの顔は完全に逝っていた。

俺たちはリーガン公爵のあとをついて行って、リスター帝国学校で初めて足を踏み入れる場所に来た。

いつも遠目では見てはいたけれどリーガン公爵の屋敷だ。

リーガン公爵の屋敷はリスター帝国学校内にあり遠目で見る限りはセキュリティがザルだと思っていた。

しかしそんな事はなかった。

確かに警備している人は少ないのだが、リーガン公爵の屋敷の敷地に入ると違和感があった。

これ結界魔法か?……いや結界魔法はクラリスしか使えないはずだ……魔力眼で周囲を見渡しても特に何も異変はない……俺が不思議そうにしていると

「やはりマルスはこれに気づくのですね」

どうやらリーガン公爵はずっと俺を観察していたようだ。他の人たちはリーガン公爵が何を言っているのか分かっていないっぽい。

「いえ……なんか違和感があっただけで……」

「違和感があるという事が分かれば十分ですよ」

と笑って答えてくれた。結局何だったのかは教えてくれなかったが。

リーガン公爵の屋敷に入るとなぜか安心できた。恐らく他の貴族の屋敷とは違い、装飾品や骨董品等の高級品が無かったからかもしれない。

リビングダイニングのようなところに通されると、続々と料理やお酒が運ばれてきが、サンマリーナ侯爵邸やメサリウス伯爵邸で出てきた料理よりも家庭的だった。

だけど一応ここってリーガン公爵の屋敷とは言え学校内だよな……学校内でお酒を飲むとなんか不良って気が……

「それでは【紅蓮】と【黎明】の帰還とクエスト完了を祝って乾杯!」

もう何度も紅蓮のメンバーと一緒に宴会をしているので、アイクと眼鏡っ子先輩以外のメンバーとも大分仲良くなってきた。俺たちが盛り上がっているとまず最初にカレンがリーガン公爵に呼ばれた。

カレンは時折難しい顔をしながら、しかしいい雰囲気でリーガン公爵と話している。

リーガン公爵はカレンとの会話を終えると次に俺とアイクを呼んだ。

「あなた達は本当によくやってくれたわ。【紅蓮】は迷宮の間引きをしてくれて、【黎明】はサンマリーナの窮地を救ってくれた。サンマリーナ侯爵から驚くほどの寄付金が届いたわ」

リーガン公爵がそう言うとアイクが

「僕たち紅蓮が迷宮に潜ったのは半日だけです。ダンジョンコアを壊したのはマルスたち【黎明】です。僕たちは【幻影】というパーティに手痛くやられてしまった所にマルスたち【黎明】が来てくれて助かりました」

アイクはわざと【幻影】というパーティ名を出したな……

「え? あなた達が【幻影】に襲われた?どうして?」

「メサリウス領の物流と人流の妨害の為だと思いますけど、リーガン公爵は何か心当たりがあるのですか? ちなみに僕たち【紅蓮】だけではなくマルスたち【黎明】も襲われたのですが……」

アイクは俺の方を見ながら言うと俺も

「僕はお腹を刺されました。ガスターという男にです。あのままだと死んでしまったかもしれませんが、フレスバルド家とリーガン家の名前を出すとリュゼという神聖魔法使いを呼んで何故か僕の傷を治してくれました」

リーガン公爵はずっと信じられないという顔をしていた。

「……申し訳ございませんでした。【幻影】にクエストを出した人物は知っております。その者はあなた達を傷つけるつもりは一切なかったと思います」

「誰が【幻影】にクエストを出したのですか? キザールがカレンの奴隷になる事でメサリウス伯爵領への妨害は収まるのですか?」

俺の質問にリーガン公爵が

「【幻影】にクエストを出した人物は言えませんが、私とフレスバルド公爵の息のかかった者という事はお分かりでしょう。メサリウス伯爵領への妨害は一旦終わりです。キザール次第で【幻影】にはもっと仕事をしてもらわないといけませんが」

まぁ黒幕はほぼリーガン公爵とフレスバルド公爵で決まりだな。特にリーガン公爵も隠すつもりはないらしいし。

「ところで、私への報告が少し違っており確認をさせてほしいのですが、迷宮の間引きは【紅蓮】ではなく本当に【黎明】が行ったのですか? ダンジョンコアを壊したとアイクが言っておりましたが?」

「はい。僕たち【黎明】がダンジョンコアを破壊しました。証拠にキマイラの魔石とオークキングの魔石を持って参りました」

俺がキマイラの魔石とオークキングの魔石をリーガン公爵に渡すと

「本物のようね……これは【黎明】だけで倒したのかしら?」

「はい。かなり苦戦はしましたがなんとか倒せました」

するとリーガン公爵は俺が魔石を取り出した袋を凝視し始めた。

あ……魔石袋を鑑定しているんだ……

「……そう……苦戦ね? 一度に何匹も出たという事でいいかしら?」

魔石の数をカウントしたらしい……

「い、いえ……修行もかねて何度か倒していると楽しくなってしまって」

「まぁいいでしょう。あなた達のやった事は褒められることはあっても責められる事はないのですから」

リーガン公爵はそう言って見逃してくれた。

俺とアイクとの話が終わると今度はリーガン公爵がみんなの場所に行って労った。

「みんな今回の遠征クエストお疲れさまでした。終わり良ければ総て良しというわけではないですが、本当に満足のいく結果となりました。エーディンにはとても申し訳ないことをしたけれど、これはリスター連合国の為、ひいてはメサリウス伯爵家の為でもあります。エーディン。今度ゆっくり話をしましょう。あなたにしか話せないことがありますから」

みんなの前でも自分が黒幕と言うんだな。潔いというか傲慢というか……少し場の空気が怪しくなったが

「ご配慮いただきありがとうございます。私もメサリウス家にいる限りは精一杯メサリウス家のために尽くします」

眼鏡っ子先輩が頭を下げると少し場の空気が軽くなった。

「それにしても【黎明】がダンジョンコアを壊せるほどとはのう……今年の武神祭が楽しみじゃな」

小人族(ドワーフ) のガルが蓄えている顎髭を触りながら言う。

「武神祭?」

俺は声に出したつもりはなかったのだが声に出てしまったのであろう。

「武神祭というのは10月に行われる全校生徒での闘技大会だ。武術も魔法も全てありのリスター帝国学校の最強を決める大会だ」

アイクがちゃんと説明をしてくれた。全校生徒って……2500人での闘技大会ってどんな規模だよ。

「それって一日で終わるのですか?」

俺がアイクに聞くとリーガン公爵が俺の質問に答えてくれた。

「9月から予選をします。ベスト8だけ武神祭当日にやります。武神祭での優勝はこの世代の最強と言っても過言ではありません。武神祭で優勝した何十、何百人かはA級冒険者になっています。そして上位に残った者で1位になれなくてもA級冒険者になっております。マルス君。楽勝と思っているかもしれませんが侮ってはいけませんよ。アイクも1年生から出場し続けていまだに優勝したことはないのですから」

え? この学校にアイクよりも強い人間が【黎明】以外にいるのか? するとアイクが苦笑いをしながら

「マルスこの学校の5年生のAクラスの人間を見たことあるか?」

そう聞かれたので俺は素直に

「……いえ……ありません」

「5年生になるとな基本的にクエストを受けにリスター連合国内を飛び回るんだ。特にSクラスとAクラスはな。しかもSクラスとAクラスに回されるクエストはお使いクエストではない。しっかりとした魔物の討伐や迷宮の間引きだ。それを10月までやられてみろ。4年生とのレベル差は歴然だ。今年も5年生の上位陣はレベル30を軽く超えてくるだろう。凄い先輩は40を超える人もいる。だから油断は出来ないぞ。マルスもしっかり仕上げて来いよ」

アイクが力を込めて言うと【紅蓮】のメンバーも頷いていた。

「どうやって組み合わせが決まるんですか? 僕は5年生と当たるよりも【黎明】と義姉さんとは当たりたくないです」

俺の言葉に敏感に反応したのはリーガン公爵だった。

「マルス君! 義姉ってどういう事!?」

あれ? 報告に上がっていないのか? そういえば俺ら【黎明】が迷宮に入ったことも知らなかったな。もしからしたら間者は早い段階でリーガン公爵の元に戻ったのか?

「僕とエーデは将来を誓った仲なのです。今回【幻影】の襲撃を受けてエーデが重傷を負ってしまった時に、自分にとって何が大切なのか考える時間がありまして……」

アイクが眼鏡っ子先輩の手を握りながら言うと眼鏡っ子先輩も頬を赤らめて頷く。

「そ、そうですか……少しは貢献できたようで何よりです……2人ともおめでとう」

リーガン公爵がびっくりというか残念そうに言った。

うん? リーガン公爵ってもしかしてアイクの事を……思い当たる節が無い訳ではないが……

「私の目標はベスト8!」

いきなり暴走エルフが叫んだ。すると続々とベスト16とかベスト4とかみんなが目標を叫び始めた。その後も楽しく宴は続き深夜まで及んだ。明日はゆっくりして明後日から学校だ。

こうして俺たちの長い夏休み? は終わったのである。