軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第42話:お忍びの祭日 中編

屋台の軽食でお腹を満たした私とユフィは、今度は魔道具が販売されている区画へと向かった。こちらも食べ物を販売している屋台の区画にも負けず劣らずの賑わいがあった。

あちらの子供連れや恋人といった客層に対して、こちらは冒険者であることがわかる装いの人が多い。

「魔道具を販売している出張店舗ですね」

「本店に客を呼び込むための屋台での実演販売か。やっぱり賑わってるね」

魔学降誕祭に人が溢れかえるのは企画の段階で予想できていた。そんなに人がいきなり店に押しかければ、流石に店も大変だろうと考えた。

特に冒険者であれば自分が使う道具は実際、手に取って確かめたいという人がほとんどの筈。だけど訪れた客全員に、実際に手に取って貰うのは混雑が予想され、トラブルの種になりかねない。

だから国から提案したのが、実演販売のスペースは別に作ること。それが屋台での出張店舗だった。こちらは実演が本命であって、購入を希望するひとがいれば改めて店舗の方へと誘導する。

逆に店舗側は、実際に手に取って確かめたい場合は屋台の方へと誘導して貰う。これでトラブルが起きる確率を減らすことが出来るんじゃないか、と。

「あ、マナ・ブレイドだ」

「こうして見るとマナ・ブレイドの型も随分と増えましたね」

私にとっては、セレスティアルを手に入れてから予備の武器になったマナ・ブレイド。でも冒険者の間でも人気の商品となりつつあるマナ・ブレイドは、私の手を離れて開発が拡大している商品の一つだ。

かつて私が使っていたホルダーで吊るして隠し武器として携帯するものから、セレスティアルのように普通の刃が付いて併用するものまで、様々な種類のマナ・ブレイドが販売されるようになっている。

「一番多いのは短剣型かな?」

「護身用、予備の武器として持ちやすいですからね」

私が使っていたのも一応分類としては短剣型かな、あれは完全に刃が無かったけど。

「あ、オーダーメイドの受付もあるよ。槍とか斧も作れるみたい」

「槍はともかく、斧を使う冒険者もいるのですか?」

「たまにいるよ。木こり出身の人とかもいるから。冒険者稼業と兼任でやってる人はいるよ」

「詳しいな、お嬢さん……って、アニスフィア王姉殿下じゃないですか!」

屋台で店番をしていた青年が声をかけてきてくれたけれど、すぐに私が誰なのか気付いて、後半は声を小さくしながらも驚きに目を見開いた。

私は人差し指を一本立てて、声を潜めるようにジェスチャーする。店番の青年も私の意図をすぐに察したのか、ウィンクをしながら私と同じように指を一本立てた。ノリが良い。

「今日はお忍びですか? じゃあ、そっちの隣のは……」

「……察して」

「マジかよ……いや、マジですか……」

絶句したように乾いた笑いを浮かべる青年にユフィは帽子を目深に被りながら頭を下げた。青年の顔が更に引き攣っていったので、長居するのも悪いと思ってそそくさとユフィと一緒に移動する。

その間にも売られている魔道具を眺めていたけど、前世で言う所の家電のような魔道具や武器を除けばアクセサリーなどが多い。恐らくマナ・シールドの腕輪とかと系統は同じだと思う。中には気になったものもあったので足を止めてしまう。

「こちらは光の精霊石を使ったアクセサリーです。魔力を通すと少しの間、ちょっとした回復魔法の効果がありまして、疲労軽減に良いんですよ」

「なるほど……じゃあ、闇の精霊石を使ったアクセサリーもあるの?」

「そちらは安眠用ですね。どちらも質が良いものほど高価になっちゃいますけど」

あと、実際に目で見てわかる効果ではないから購入には二の足を踏む人も多いので、病人や怪我人に使って効果を実感して貰うことが多いと聞いた。

この世界ではまだ医学は発展していないので、平民が怪我や病気になった時には薬師を頼ることが多い。その薬師が、薬と合わせて光と闇の精霊石のアクセサリーを貸し与えることが増えてるのだとか。

「……これは是非、国でも導入したいですね」

「効果の実証が必要だけど、騎士団にも協力して貰えれば良いかな」

「今度、議会で提案してみましょう」

「またハルフィスが発狂するかもしれないね……」

「……いっそハルフィスに試してもらった方が良いかもしれませんね」

日々、忙しそうにしているハルフィスの顔を思い出して私達は苦笑してしまった。たまには労ってあげないと本当に申し訳ないんだよね、ハルフィスに対しては。

そんな収穫もありながら、私達は魔道具が販売されている区画から移動する。その途中、不意に視界に入ってきたのは白い花の髪飾りを籠に入れて販売している少女の姿だった。

(あの花飾り、昔はよく見たなぁ)

少女たちのちょっとしたお洒落、特別な日に一輪の花を。昔からパレッティア王国にある風習だ。こういった祭りの日には少女達はこの付近に生える白い花を髪飾り代わりにしていた。

でも、少女の花を買ってくれるような人はいない。誰もが騒がしい祭りの喧噪に夢中で、花売りの少女も風景に溶け込んでしまっているかのようだった。

新しい変化に置き去りにされてしまうものもある。ちょっとした風習もこんな風に消えていってしまうのかもしれない。そう思うと少しだけ切ない気持ちになる。

すると、ユフィが花売りの少女に向かって歩き出した。そして、少女と目線を合わせるように膝を折る。

「こんにちは、お花を売ってるのですか?」

「え? あ、は、はい。一輪、どうですか……?」

「では、二つ頂きましょう」

ユフィが優しく声をかけて、花売りの少女から花を買う。少女は驚きと緊張で少し顔を強張らせていたけれども、ユフィからお金を受け取ったことで笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます! お姉さん!」

「いえ。――はい、それでは少し失礼します」

そっとユフィが受け取った花を花売りの少女の髪に挿した。突然のことで少女が目を丸くしながらユフィを見つめる。

「折角可愛いのですから、売るなら自分もつけて売った方がいいですよ」

「え、あ、でも、これ、売り物だから……」

「はい。だから私が買って、貴方にプレゼントです。お似合いです」

「は、はわ……」

ユフィが笑顔を浮かべたのか、花売りの少女は目を潤ませて頬を真っ赤に染めてしまった。そんなやりとりを見ていた私は思わず苦笑してしまった。

すると、今度はユフィが立ち上がって私の方へと距離を詰めてきた。そして私の耳元にもう一つの花飾りを挿してきた。

「はい、アニスもどうぞ」

「……はいはい、どうも」

花を落とさないように、そっと指でズレないかどうか確認してみる。まさか私がつけることになるなんてね、昔は遠目で見てただけなのに。

アニス、とユフィが私を呼ぶと花売りの少女が訝しげな表情を浮かべた。そして少し沈黙した後、弾かれたように私の顔を見た。

「あっ、あれ? アニスって……ま、まさかアニスフィア様……? じゃ、じゃあお姉さんは、じ、じょ、女王様……!」

目をグルグル回してしまいそうな花売りの少女。今にも叫びだしてしまいそうだった彼女の唇にユフィが人差し指を当てる。

そして、もう片方の自分の手は自分の口元に。人差し指を自分の唇の前に立てて、しぃっと叫ばないように注意する。

ユフィの人差し指を唇に当てられた花売りの少女は、自分の口元を両手で押さえて何度も頷く。

「お花、ありがとうございました。貴方もお祭りを楽しんでくださいね」

「ひゃ、ひゃい……」

「行きましょう、アニス」

「うん。お花、ありがとね。悪い人に絡まれたりしないように気をつけてね、お嬢さん」

ぽんぽん、と少女の頭を軽く撫でながらユフィと並んで歩き出す。背中に視線を感じるけれども、振り返らないで進んで行く。

耳元にユフィに買ってもらった花の髪飾りの感触を感じる。本当、そういう事するんだもんなぁ。

「……こういうのも悪くないですね」

「ユフィはいつからそんな人たらしになったのかな?」

「アニスには言われたくないですね、それ」

思わず互いの顔を見合わせてしまう。それから、どちらからともなく笑い合ってしまった。

* * *

屋台がある区画でなくても騒がしい区画はある。私達が次に足を向けた場所、冒険者ギルドも当然の如く、祭りの喧噪に合わせて騒がしさを増していた。

普段から賑やかな冒険者ギルドではあるけれど、この祭りに合わせて更に人が入っているのがよくわかる。

「いやぁ、凄い賑やかだなぁ」

「そうですね」

ユフィと並んで冒険者ギルドの中へと入ると、注文をしている男の声や、忙しなく駆け回っている店員の姿が見える。食事に酒、いつも以上に飲んで食べている人が見られる。

ここは相変わらずなようで、私の口元が自然と綻んでしまった。入り口で様子を窺っていると、お酒が回っているのか顔を赤くした男が近づいて来た。

「おうおう、お嬢ちゃん! 扉の前で立ち止まってると危ねぇぞ!」

「あ、うん。ごめんなさい」

「おうおう、良く見れば可愛い顔してるじゃねぇか。どうだ、奢ってやるから俺に酌でも……」

『ワーーーーッ!?』

ニヤニヤとした笑みを浮かべた男が私に手を伸ばそうとした所で、中にいた何人かが矢の如く飛び出して来た。

飛び出して来た冒険者達は男の左右の腕をそれぞれ押さえ、ずるずると引き摺って私達から距離を取らせる。

酔っていた男は何が起きたのかと目を丸くしているけれど、男を取り押さえる他の人達の顔色は蒼白になっている。それが対照的で、思わず吹き出しそうになる。

「な、なんだよ! お前等! 何しやがる!」

「ば、ばばば、馬鹿野郎! それはこっちの台詞だ!」

「お、おおお、お前! この人が誰だと思ってやがるんだ!」

「こいつ、見ない顔だから王都の冒険者じゃねぇよ……いや、仕方ないって……」

「あぁ? このガキがなんだってんだ!」

「ガキ……」

あの、これでも成人してるんだけどね? まだ子供に見られるのか、私。おのれ、母上譲りの童顔が憎い……!

ちなみに私をガキと酔った男が呼んだ瞬間、取り押さえていた冒険者達の顔色が青から真っ白になっていた。いや、なんか、ごめんね?

「す、すすすす、すいません! 王姉殿下! こいつ、王都の外から来た奴で! 悪気は多分ないと思うんです!」

「いや、私もお忍びで来てるからね。王都の外から来たならわからなくても仕方ないかな?」

「は……? お、王姉殿下……? ま、まさか、あの、〝 狩猟の略奪姫(マローダー・プリンセス) 〟……?」

「――あ゛ぁ?」

「ヒィッ!?」

思わずドスが利いた声が出てしまった。うわ、凄い久しぶりにその名前で呼ばれたんだけど。マローダーじゃなくて、せめてマッドって呼びなさい! 誰が略奪姫よ! 今はそんなに魔物狩りしてないわよ!

酔っていた男は酔いが覚めたのか、真っ赤にしていた顔を悪くしていってしまう。今にも死人になりそうな顔色で、ぷるぷると全身が震えてしまっている。いや、脅かすつもりはなかったんだけど。納得してない名前で呼ばれちゃって、ついね?

「祭りを楽しまれるのは結構ですが、横暴な振る舞いは下手をすれば己の首を絞めますので程々にしてくださいね?」

「……ま、まさか、こっちの御方は……?」

「お忍びですので、どうぞご内密に。わかりますね?」

ユフィが一歩進み出て、酔っていた男と取り押さえていた他の人達に向けて微笑む。全員が動きを揃えたように首を何度も頷かせ、失礼しました! と叫びながら下がっていってしまう。

祭りの賑わいもあって普段以上に陽気に飲んでいた人達も入り口の騒ぎに気付いたのか、私達を畏怖したような視線で見つめている。

(冒険者の様子を聞こうと思ってきたんだけど、失敗したかなぁ……?)

静まり返ってしまった人達を見て、私はそんな事を思いながら肩を落としてしまった。