軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4章6話 ロッテのはじめてのランジュ

「ふむ、大体の事情は分かった。よくぞ報告してくれた」

女帝は大きく頷く。サロモンは、女帝にこれまでのあらましを話した。

ファルマとサロモンが一緒に馬車で宮殿に赴けば神殿にサロモンを発見されてしまうかもしれないので、別々に馬車を出し、別々に宮殿にやってきたのだ。

先に来たファルマが報告し、後から来たサロモンが詳しい事情を話した。

ファルマは薬局の営業に戻っていった。

「神聖国がファルマを大神殿に封印しようと画策している、そういうことでいいのだな」

「はい、おそれながら」

サロモンはファルマの居場所を吐かず、彼を庇ったがために投獄されたのである。ちなみにサロモンの配下の神官たちは特に咎めはなかったが、他国の神殿に異動になり、監視をされていた。

「ファルマは薬神なのか」

エリザベートは改めて尋ねる。

元神官長の口から、どう言うのか聞きたかった。

「薬神の化身あるいは、薬神憑きであらせられるかは分かりませんが、間違いありません。御身は否定しておられますが」

「ああ、ファルマは少し変わっておる」

女帝は口元を緩める。

「人の世に必死に馴染もうとしておられて、人間に近付こうとしておられる神様です。あのお方には世界を創り変える力すらありますが、ご自分の真の力も、発揮したことがないのでご存じない。それもお人柄でしょう、今までの守護神様とはまったく違います」

危険を冒しながらも、私のような男を二度も助けて下さいました、そう語るサロモンの言葉には熱がこもっていた。

「神殿は今もファルマを狙っておるのかの?」

「おそらくは……ファルマ様の神力は無限、歴代の守護神と比しても類なきものでございます。誘拐してでも、人質を取ってでも、ファルマ様を大神殿に迎えようとしております。現在においても神官によってファルマ様の尾行はされているでしょう。薬局もお屋敷もまったく安全ではありません、ファルマ様のご家族も危険です」

手段を択ばない神殿のことだ、そのうち強硬な手段をとるのではないかとサロモンは懸念している。

「それは由々しきことだ。神殿はファルマを捕らえてどうするのだ」

「表向きには守護神を大神殿に封じ、お祀りすると言われています」

「封じるというのはどうやる」

神殿の機密にかかわる話だった。神官としてそれを俗世間の女帝に話すなどもってのほかだ。

彼は神殿を裏切った。だが、彼に後悔はない。

「至聖所と呼ばれる場所で監禁状態です。一度入ったら神封じの術が敷かれているので、守護神様は神力を失い二度と出られません。至聖所は神力を吸収する空間ですので、ファルマ様の神力は常時搾取されることになります。至聖所の暮らしは宮殿のように快適で、大勢の神官に崇められ衣食住にも不自由はしませんが、自由は奪われます」

ファルマに神封じの術が効けば、とサロモンは注釈した。

強い神には神封じが効かないということも、過去に例があるにはあった。サロモンは、ファルマならば大神殿に囚われても難なく脱出できるのではとも考えた。

女帝は神殿の計略を聞いて不快感をあらわにした。

「守護神を囚えるなど、神殿が聞いてあきれる。神官どもに信仰はないのか」

「仰せの通りです」

サロモンは畏まって頭を下げた。

「あれだけ薬学と患者に執着しておるファルマが、神殿に閉じ込められ患者を癒せなくなったら、どうなるかわからんぞ」

発狂するのでは、とエリザベートはいたましく思う。

彼にはやりたいようにやらせたい。ファルマには封土の授与や資金援助こそすれ、女帝であっても薬局への介入は最小限にしてきた。

あの薬局は聖域なのだ。人間が土足で踏んではならない場所、そうであるべきだとエリザベートは考えていた。

「神殿はそうまでしてファルマの神力を搾取し、一体何に使おうとしておる」

「私めは一介の神官長。真相は枢機神官のみが知りえます」

「ふむ……よくぞ打ち明けてくれた」

次、神殿に捕らえられたら、サロモンの命はないだろう。しかしサロモンは屈託なくこう言い切った。

「私は神様に仕えるものでございます、神殿に仕えるものではございません」

つまり、サロモンは何よりもファルマに信仰を捧げているということだった。

そしてサロモンは、実力と権力からしてファルマを守れるのは皇帝しかいない、そう考えたのだ。

「して、そなたはどうするのだ。還俗させるには惜しい」

「ド・メディシス家の客人として滞在させていただいておりますが、ご迷惑となりますので頃合いを見て出て行くつもりです。私には探したいものがあります」

その後は、サロモンは放浪の旅に出るつもりだった。

ファルマのために”聖なる泉”の伝説を辿って、それを探しに行こうと考えていた。

「その、探したいものとやらは余が探させるから、そなたは廷臣となるつもりはないか」

女帝がそんなことを言った。サロモンはかしこまる。

「神殿が監視しているのであれば、一時的にでも尊爵家でそなたを匿うには人目につきすぎる。その点、余の宮殿ならば、招かざれば帝都の神官は立ち入ることはできん。人を匿うにはうってつけの場所なのだ。元神官長であるそなたの知識は有用だ。余や帝国の神術顧問としても大いに力を貸してほしい。特に、神脈の開閉の秘儀は、神聖国に対抗するための切り札となるであろう。さらに、ここにいればそなたの信仰するファルマも宮廷薬師としてやってくる」

「仰せのままに。ご高配を賜り、感謝にたえません」

それは身の安全に加え、サロモンにとっては申しぶんのない条件だった。

…━━…━━…━━…

その頃。ファルマは一足先に薬局に戻って、休憩時間を迎えていた。

「謎だなぁ……」

(俺の職員証なのに、どうしてこうなっちゃったんだ)

数日が経っても、大神殿の地下に大秘宝として祀られてしまっていた職員証に一体どんな効力があるものか、ファルマは手がかりすらつかめなかった。

「ファルマ君でも使用法がわからないのね」

エレンが、宝石のように美しく輝く職員証を透かし見る。

勿論これも、秘宝であるためエレンには手に取ることすらできない。

秘宝は有機物を貫通しポケットに入れることはできないので、アルミ箔で包んで持っている。

とりあえず、使い方を思いついた時のためにお守りにして肌身離さず持っておこう。ファルマはそんな事を考えもした。

そんなファルマたちの横で、ロッテがひそかに大きなため息をついていた。

「はああっ……どうしよう、もうだめだぁ……」

聞こえないほどの音量だったが、ファルマは聞き逃さなかった。

「どうしたのロッテ? どうしようって聞こえたけど。困ったことがあったら何でも言ってよ」

エレンが優しくロッテの肩を叩く。

「血が止まらないんです……」

消え入りそうな声で、ロッテが白状した。

「切り傷かなんか? どこ? 診てみようか?」

ファルマが素で尋ねると、やけにロッテが逃げ腰になる。診眼を使っても、どこにも異常はない。

「いえ、やめてくださいっ!」

ファルマは迂闊に聞いてしまってから、後悔した。

(ロッテぐらいの歳で、診眼で病気が検出できなくて血が止まらないっていったら)

あれだろうか、とファルマは想像する。

「ははん、もしかして」

エレンが咳払いをして、ロッテに耳打ちをする。

「……、でしょ?」

エレンの問いかけに、ロッテは俯いてこくんと首肯した。どうやら図星だったらしい。

「ロッテちゃん、それはね。大人の女性への仲間入りを果たしたのよ」

ロッテは初潮を迎えたのだった。

「大人ですか」

エレンは、ロッテの身体に起こった変化を説明する。

「知らなかったです……こんなことになるなんて!」

「あらら、ロッテちゃん。お母さんから聞いたことなかった? いつからなったの?」

「昨日からです。どんどん量が増えてきて、私もうこのまま死ぬかもと思って……」

「二日目なのね。二日目は誰でも多くなるのよ」

この世界で、庶民の女性の体についての教育は遅れているといったものではなかった。性について語ることは恥ずかしいことだとされていた。そんな背景もあってか、ロッテの母カトリーヌもロッテにまだ初潮のことを教えていなかったという。

ロッテが腰を気にしながらそわそわとしている。ロッテは自己流の慣れない処置をしているものだから、経血が漏れていないか、気になって仕方がないのだ。

特に、薬局の制服は白いエプロンドレスでよく目立つ。

「どうしましょう」

「どうって、おめでたいと思うけど」

ファルマは祝福する。

「めでたくはないわ」

エレンが苦笑した。赤飯を炊いたりして成長を祝う日本とは文化が違うためか、初潮でおめでたいという感覚は、この世界にはないようだ。

「気になるなら、赤いドレスでも買ってきて着る? 私は月のものが来た日は、私服では黒を着て目立たないようにしているわ」

エレンが冗談めかす。

(そうだったのか)

ファルマは余計な情報を仕入れてしまった。

「で、ロッテちゃんの一番の心配ごとは何?」

エレンはファルマの冷たい視線を感じたのか、脱線しかけた話題をもとに戻す。

「とりあえず、腰がとっても痛いです。それから、服が汚れるのが心配です」

「腰が痛いのはリラキシンのせいだな」

ファルマが口を挟む。卵巣ホルモンの一種、リラキシンは全身の関節を緩める働きをする。恥骨あたりのけんが緩められると、特に腰回りが痛く感じるだろう。

ファルマはその痛みを想像することすらできないので、尋ねてみた。

「痛み止め、欲しい? 出してあげられる薬はあるけど」

「我慢できないほどじゃないです」

ロッテは首を振った。

「今からちょっと踏み込んだ話をするけど、やらしい話じゃないからな」

若干居心地の悪い思いをしながら、ファルマは尋ねてみる。

「わ、私は席をはずしましょう、銀行にお金を預けに行ってまいります」

何やら女性の性に関する話題になりそうだと知ったセドリックが、あわてふためきながら退場した。

「決して変な目的で聞いてるんじゃないから」

ファルマは念を押す。

「そんなに予防線張り巡らさなくてもいいわ」

あまりにももって回った言い方をするので、エレンはくすっとほほ笑んで眼鏡をかけなおした。ロッテはエレンの後ろに隠れた。

「女性の性教育って、どうなってるんだっけ。俺、男だから女性の実情を聞いてみたいんだ」

ファルマに対してもだが、メディシス家では男性側の性教育は全くといって行われなかった。

それはブリュノがファルマに知識を教えることを躊躇しているからかもしれないし、ずっと以前に教えたのかもしれない、あるいは、まだファルマに教えるのは早いので教えていないという判断かもしれない。

パッレに関しては、かなり性に奔放だったといえるが、彼女を作っても避妊はしていると言っていた。パッレは医学校で学んだのだろう。

「じゃ、下着や生理用品はどんなものをつけてる?」

ちなみに、ファルマの下着はシャツとパンツが一体化したものだ。これは男女共用で、王侯貴族であっても同じだ。

そして、現代日本での女性の生理用品というと、

ナプキン(Sanitary towel)

綿を円筒状にして、アプリケーターで膣に挿入するタンポン(Tampon)、

これに加えて、海外では直接膣に挿入する月経カップ(Menstrual cup)というものもある。ヨーロッパ圏では、現在でもタンポンが主流だ。

「下着なんて穿いてないわ」

エレンはノーパンだった。それはエレンだけではなく、老いも若きも皆がそうなのだという。

「生理用品って何ですか?」

ロッテはエレンの後ろにますます隠れながら、ちょこんと首だけ出している。

話を聞いてみると、どうやらタンポンに近い詰め物をしているようだった。材質は、貴族は絹や動物の毛。庶民は木綿などを詰める。

「その詰め物は、どのくらいの時間つけてるの?」

ファルマは、気まずさからなるべく二人と目を合わさないようにメモ取りに集中する。

「その人が自分が交換した方がいいと思うまでよ、一般的にはね。人によるわ」

血液が漏れなければ気にしないので、庶民は一日以上つけていることも稀ではないという。生理用品も、売っていないことはないが高いのでできるだけ交換しないようにするらしい。

「エレンならもう分かると思うけど、長時間それをつけていると雑菌の温床になったり、感染症の原因になったり、最悪敗血症につながったりもするよ。それから、清潔でないものを詰めるのも危ない」

「怖いこと言わないでよ、じゃあどうすればいいの? ファルマ君の求める清潔レベルは高すぎるわ、庶民には無理よ。どうせ捨てるものなんだし」

エレンはのけぞる。メモをまとめて、ファルマは言った。

「安価で清潔で使いやすい生理用品を開発して、MEDIQUEと調剤薬局ギルドで取り扱うようにしてもらおう」

ファルマが提案したのは、より安全に管理できると思われる下着とナプキンのセットだ。

清潔な製法で作り衛生的なものを。それから、それが軌道に乗り始めたら、タンポンも作るといい。

「その……できたら試着してもらってもいいかな。自分でも試着してみるけど」

「いや――!!」

ロッテは悲鳴を上げて薬局の外に走り去っていった。

恥ずかしさが極まったのだろうな、とファルマは申し訳なく思う。

「もう、ファルマ君が変なこと言うから、ロッテちゃーん、とりあえず間に合わせに脱脂綿をあげるから戻っておいでー」

「変なこと言ったか……? 言ったかもな」

(確かに、男薬師が踏み込むべき問題じゃないよな)

こういうことは、男が立ち入るとうまくいかなくなる。

「ロッテのためにも、ちょっとナプキンの試作品作ってくる。エレンも協力してくれないか? 俺一人だとその、こういうのはやりづらい。開発もそうだけど、普及は特に女性薬師にやってほしい」

エレンは恥ずかしがるかもしれないが、ファルマにはできない、必要なことだ。

「デリケートな問題だものねえ。ファルマ君は子供だからまだギリギリ許されるけど、大人の男がそんな事言い出したらぶっ飛ばされるわ」

「はは……」

(中身、大人の男だなんて言えないな……)

ファルマは内心怯えながら、エレンと共に四階の研究室に入る。

生理ナプキンの構造は、下着に接する部分から、防水フィルム、吸水体、そして表面素材という順に積層状になっている。ファルマはエレンに、アイデアスケッチを描いて渡す。

「いいわね、これ。試してみたくなるわ」

吸水力の高いナプキンには、吸水体として親水性の高吸水ポリマー(SAP)が欠かせない。

「そういうことで、吸水体となる高吸水ポリマーから合成するか」

高吸水ポリマーは重さの10倍以上もの吸水力を持ち、一度水を吸うと押しても水が出ない。これで経血漏れを防ぐことができる。ロッテも安心できるだろう。

吸水ポリマーは高分子化合物なので、ファルマのイメージのできないものはいきなり化合物を作ることはできない。なので、アクリル酸、アクリル酸塩、架橋性モノマー(重合剤)を別々に作り、それを加えて、重合、正確には共重合させる。

重合を終えると、それはポリアクリル酸ナトリウムとなる。と説明しながらファルマが作業を続けていたところで、

「なあに、重合って」

重合の作業を見ながら、エレンが聞きなれない言葉に戸惑っていた。

「同じ構造の物質がつながるように化学反応させることだよ」

「真珠のネックレスみたいに?」

「そんな感じの直線的な重合もある。これは格子の網目状に重合させるんだ」

ジャングルジム状というと分かりやすいだろうか、とファルマが説明しようとして、ジャングルジムがエレンに通じないのでやめておいた。

「できた。これが、吸水ポリマーだ」

「ただの白い粉だわ」

「まあそう言うなよ」

研究室から降りてきた二人。ファルマは薬局のテーブルにコップ一杯の水を勢いよくこぼす。

「ちょっと、何するのファルマ君」

「あっ、こぼれましたね。タオル取ってきますね」

ロッテがタオルを取ってくる前に、ファルマはポリマーをほんのひとつまみ、水たまりの上にかけた。すると、白い粉はみるみる水を吸収してゆくではないか。

「ええっ、コップ1杯の水を、ちょっとの粉が吸い尽くしてしまったわ」

エレンとロッテは目を見張った。見ていて気持ちよいほど、水分を吸収してしまったのだ。

「それを押してみて」

ファルマが促す。ロッテがゼリー状になったポリマーを、ぎゅっと押してみた。

「水が出てきません!」

「これを挟み込んだ布をあてておけば、服が汚れるのを気にしなくていいよ。これができたからには、赤ちゃん用や老人用のおむつもナプキンと同時に開発できる筈だ」

用途はナプキンにとどまらない。

「おむつを作って、セルストさんの赤ちゃんにも試着をしてもらおうかな」

肝っ玉母さん薬師のセルストにも協力を仰ぎたいと申し出たところ、セルストは快諾した。

「ところでファルマ君、ナプキンはできたけど、それをつけるショーツってどんなものなの? 絵に描いてくれないと分からないわ」

「うん、じゃあ明日までにデザインしてくるよ」

その夜、徹夜でロッテのショーツをはじめ、数パターンの下着デザインを描き上げたファルマは、過去最高に”薬師としてどうかと思う残業”をしているな、と、何とも言えない気分になったのだった。

翌々日、高級仕立て屋に急遽作らせたレース付きの可愛らしいショーツと、ファルマ謹製のナプキンが完成した。それらはファルマの手でプレゼント用の箱に入れられ、ロッテに手渡された。奇しくもそれは、3月15日。ロッテの11歳の誕生日だったので、誕生日のケーキと共にプレゼントになった。

「誕生日おめでとう、ロッテ! それから、これも受け取ってくれないかな。下着だから今じゃなくて、あとで開けてね」

「あっ、ありがとうございます!」

ロッテはその言葉を聞き、恥ずかしそうに下着セットを受け取った。

「ファルマ君って、間が悪いわよね」

何とも微妙な空気になりながら手渡した後で、エレンが嘆く。

「俺だって誕生日プレゼントにしたつもりはないよ。たまたまそうなったんだよ」

とはいえ、当のロッテ本人は、その頃にはロッテの月経は終わりに近づきつつあったが、これで来月からも安心ですと言って喜んだ。

「どうやら赤いドレスを着なくてよさそうです、付け心地も最高です!」

「私も試してみたいわ」

ロッテの評判を聞いて、エレンがほほ笑む。その後、薬局の女性職員、エレン、バイトの女性二級薬師セルストとレベッカにも試供品が支給された。ファルマにナプキンを手渡しされた恥ずかしがり屋のレベッカは、恥ずかしすぎて卒倒した。そして、

「はああっ、店主様があーーーーっ!」

そう言って帰ったきり、翌日熱を出して薬局を休んだ。

「私が渡せばよかったわ」

エレンが後で、ファルマにわびた。

「俺もそう思うよ」

変態だと思われたのではないか、とファルマは胸がいたい。

小さなおむつを、バイト薬師のセルストの赤ちゃんを連れてきてもらって試着してもらった。

六か月になるという赤ん坊バジルは、紙おむつを履かせても嫌がりはせず、機嫌よく過ごした。

「バジルも快適のようです。育児が楽になります! うんちをすると、全部着替えさせなくてはいけなくて、大変なんです」

母親のセルストは喜んだ。

「たくさん作るから、使ってよ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

セルストは、給料袋を受け取る時よりもうれしそうだった。

その後、清潔なナプキン、赤ちゃん用と老人用おむつに加え、男性用、女性用下着が MEDIQUE(メディーク) や調剤薬局各店で取り扱えるように、マーセイル工場では下着の量産体制が敷かれることになった。ポリマーの原料に関しては、ファルマが合成したものを提供した。

また、ポリマーにかぶれる敏感肌の人用に、ナプキン素材としてコットン製のものも併売した。ポリマー製のものはゴミ処理がしにくいものであるので、専用ゴミ袋を配布し、薬局や調剤ギルド各店にゴミ回収ボックスを設け、火炎神術使いを雇って、ダイオキシンを出さないようフィルターを通し、環境に配慮しつつ処分させた。

「ふう、俺の下半身もようやく落ち着いたな」

ファルマもついでにブリーフらしきものを作ってもらって、ようやく下半身のおさまりの悪さを解消した。ブリュノやセドリック、バイトの一級薬師ロジェにも配ったが、穿いたかどうかは聞いていない。パッレは「これはいいな」、と洗い替えを追加注文をしてきた。母親のベアトリスは、早速MEDIQUEに新作を買い付けに走った。ブランシュは、お気に入りのショーツを仕立ててもらって履くと、スカートをまくりあげて無邪気にファルマに見せにくる。ファルマとしては勘弁してほしかった。

これは間違いなく女帝に報告すべき発明に当たると考えたファルマは、躊躇しつつも下着と生理用品のセットを女帝に献上に行くのを忘れなかった。

さすがにデリケートすぎる問題なので、エレンが代役をつとめたが。

「あの薬神は自分の身が危ないというときに、いったい何をバカなことをやっとるんだ」

そう言って呆れた女帝も、試着してみるといたく気に入って愛用し、帝都にlinge(ランジュ:下着)専門店を作るよう命じ、常に新作を取り寄せるようになったという。

そして女帝愛用ということで、流行に敏感な貴婦人や庶民たちの間で、これらはひそかなブームとなるのだった。