軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3章7話 工場労働者と集合写真

「新規採用工場労働者200人うち199名、予定通り招集しております」

マーセイル領の工場を訪れていたファルマに、アダムが新規採用された工場労働者の名簿を見せた。一人は体調不良で来れなかった労働者だ。

労働者の内訳は8割が男性、2割が女性だという。

職別には、事務職、技術職、製造職だ。つまり一般の工場労働者だ。

生産管理職は、医薬知識がなければならないので、帝都で採用しファルマが教育した一級薬師、もしくは帝国薬学校から人員を回すことになっている。

「ありがとう、よく集まったな」

「こんなに大量に一斉雇用する雇い主ってファルマ君ぐらいしかいないわよ。普通は雇えないもの」

エレンがファルマの豪快さと財力に感心する。

「よくわからないですけど、ファルマ様ってすごいですねぇ」

ファルマがやろうと決めたことには不可能なことは何もないのではないかと、ロッテは尊敬する。ロッテのリアクションは大げさだが、彼女は本気なのだ。

「読み書き計算のできる健康な者をということでしたので、ご希望に沿うようにいたしました。いずれも優秀な労働者です。ワイン工場でのノウハウを持った技術者もいます」

アダムが名簿を見せながら説明する。

マーセイル領で募集をかけたところ、賃金がよいので応募が殺到したようだ。アダムが適性試験を行い、厳しい目でかなり絞ったという。

「皆に挨拶に行くよ」

ざわざわとした大勢の人々の声の聞こえる、新規採用者たちの集まった真新しい講堂に、アダムはファルマらを案内した。講堂は小学校の体育館ほどの広さで、講習会や朝礼と終礼、会議などを行う場だ。

「創業者がいらっしゃいました」

そんな先ぶれとともにアダムが扉を開けると、講堂は静まり返った。

講堂の前方にはステージが備え付けられていたので、アダムはファルマとエレンを登壇させ、そして簡単な紹介をする。ロッテとセドリックは、薬師ではないので講堂の後ろで彼らを見守っている。

「こちらにいらっしゃいましたのは、異世界薬局店主にして宮廷薬師、本工場の創業者でもあるファルマ・ド・メディシス様、そして同薬局の一級薬師のエレオノール・ボヌフォア様でございます」

アダムの紹介に、エレンもファルマから少し距離を取って会釈をする。

「よろしくお願いします」

ファルマも彼らに会釈をした。

(ん? 何だこの感じ)

ざわっとした、値踏みするような視線と空気をファルマは感じる。彼らはそれなりの教育を受けアダムの試験をパスした優秀な人材で、無知な労働者ではない。それなりにプライドも高いのだ。

子供じゃないか、という迂闊な一言が聞こえてきた。

アダムがきっとそちらをにらみつけるが、誰が言ったのかは分からない。

(まあ、子供だしな)

当然、強メンタルのファルマはどう言われようと全く気にしていない。

外見が子供なので、見くびられて当然だと思っている。

アダムは、子供とはいえ主人を蔑ろにされカチンときたのだろう、ごほんと仰々しく咳払いをして、

「なお、ファルマ様におかれましては来年より、帝国薬学校教授への就任が決まっております」

よい笑顔で、非礼な言葉の聞こえた方へ向けそう述べた。

アダムはどうやら煽り耐性が低かったようだ。

労働者たちはそれを聞いてしんと静まりかえり、口を閉ざした。

大学教授というのは、 知識階級(インテリ) の中でも最上級の名誉職だ。いくら尊爵の息子でも、裏金を積んだとしても業績と能力がなければ就任できるものではない。

形ばかりの凡くらでなく、薬学校も認める本物の天才少年だったのかという空気に変わる。

ファルマの資質を問う者は一人もいなくなった。

(皆、肩書きに弱いんだな)

「えーと、紹介に与りました、異世界薬局店主にして経営者のファルマです」

多少やりづらさを感じながら、ファルマが改めて挨拶をしようとすると、

「薬神様!」

驚きを含んだ声が、ある一団から突然に上がった。

「うわーっ!?」

それを聞いたファルマは思わず悲鳴を上げる。声の上がった方を見ると、エスターク村の村民たちが採用されていた。誰か一人が気付いて騒ぎ、それで全員が気付いたようだ。

エスターク村を訪れた時、ファルマはマスクをしていたので容姿は隠していたが、声を発したのでバレてしまったのだ。

そのまま彼らは壇上まで押しかけてきて、ファルマを胴上げでもしそうな勢いだった。

「どうして皆さんエスターク村から出稼ぎに来たんですか!? 結構遠いですよここ!」

ファルマのやりづらさはここに極まる。

「薬神様に黒死病を癒していただいたあの日以来、薬の重要さというものが身に染みてわかりまして、製薬を通して社会貢献をしたいと思った次第でございます」

村人の一人が鼻息を荒くしている。

村に黒死病が押し寄せたことにより、公衆衛生に対する意識改革になったらしい。

とはいえ、エスターク村は漁業の村なので、出稼ぎに来すぎて主力産業である漁業が寂れないようにしてほしい、と思うファルマである。

「いやぁ、まさか再び薬神様に出会えるとは! 握手してください!」

「バカ、握手なんて恐れ多い!」

「奇遇だなあ。あの、黒死病の薬もこの工場でおつくりになるご予定で?」

彼らは壇の前に集まってやあやあ言いながら大声でファルマの功績を吹聴しはじめたので、マーセイル港周辺の村人たちも、何だ、何だとざわつき始めた。

「いや、ちょ、やめてください。まず挨拶をさせてください、そういうのは後で」

エスターク村の連中の熱気にあてられたじたじになるファルマを、エレンが生温かい笑顔で微笑ましそうに見ている。セドリックは穏やかに微笑み、ロッテは相変わらず意味が分からず、会話も部分的にしか聞こえなくて、指をくわえて眺めていた。

「わがエスターク村にお越しください、急ぎ黄金の神像を造りました。気に入っていただけるかと」

満面の笑みで誘う彼らにファルマは、

(それ、もう見ました)

とは言い出せなかった。

「おーい、エスターク村の連中。薬神ってどういうことなんだ? 何で店主をそう呼んでいるんだ? 何かの渾名か?」

事情を知らない地元労働者が話題についていきたそうに尋ねる。

「いやあ、聞いてくださいよ。実はですね!」

「こうこうこうでして!」

そして彼らエスターク村の面々により、一瞬にしてファルマの素性がばらされてしまったのである。人の口に戸は立てられないというのは本当だ、とファルマは頭が痛くなった。

「というわけでして、黒死病から救っていただいたんですよ」

「見てくださいこのグッズを! いいでしょう」

エスターク村の人々は、グッズとやらをファルマに見せる。金の神像がミニチュアとなってキャラクター化して、全員がそれを持っていた。

「なんですかそれ!」

おひとつどうぞ、とチャームをつかんだ手をファルマに向けて一生懸命伸ばす者も。

「薬神さまチャームです。これが、売れに売れまして」

村民たちはお守りとしてたくさん神像のチャームを作ってバッグにつけたり、ネックレスにしていたりした。ファルマは顎が外れそうになった。どうみても大量生産をはじめているようだ。

「お願いしますからやめてくださいそういうの!」

エスターク村は薬神伝説で村おこしをはじめたようだ。

「やかましいぞ! 番号順に整列ーっ!」

ぐだぐだになってきたところでアダムが彼らをもとのように並ばせて、仕切り直しだ。

「私はただの経営者で、私が薬神などというのはまったくの勘違いですので、誤解のないようにお願いします」

面倒になるので、最初ぐらいはっきり否定しておこう、とファルマは思う。

うやむやにしているから尾ひれはひれがついて大変なことになるのだ。エスターク村の村民は納得しなかったが。

ファルマは気を取り直して挨拶をし、企業理念を述べ、長ったらしい訓示を述べる。ファルマの挨拶は薬学への熱意に溢れ、丁寧すぎるほど丁寧で、一切端折らないので長かった。野外での夏場の挨拶だったら、一人や二人倒れる労働者が出ただろう。小学校の校長に向かない人材ランキングがあるとすれば、かなりの上位に食い込むに違いない、そんなことを前世では学生たちに囁かれたほどだ。

「というわけで、異世界薬局は、創薬を通じて世界の人々の生命を守ります」

話が長かったのだろう、エレンも目をこすっていた。

それを見たファルマは欠伸や居眠りをしはじめた不届きな労働者たちの目をさますために、

「元気ですかーっ!」

と、大声で叫んでみた。

はーい、という威勢の良い声が労働者たちから返ってきた。

「では、健康ですかーっ!?」

はーい、と先ほどと同じだけの声が上がった。

「私は健康です!」

ファルマは手を胸にあてて断言した。

「ではあなたがたに聞きます。自分が健康だと思う人は、手を挙げてください」

一本調子の返事で、相変わらず全員が勢いよく手を上げた。

「よろしい! わかりました!」

ファルマは約200人の労働者全員を見渡した。診眼を発動しながらだ。労働者はみな、職員番号と名前の書かれた名札をつけている。

ファルマは彼らをじっと見渡すと、おもむろに壇上の掲示板に貼られた大判紙に、怒涛の勢いで番号を書きつけはじめた。

「何の番号だ?」

「ゲームかな」

「成績優秀者かもしれないぞ」

「監督者候補かも。昇給もありか?」

労働者たちは互いに首をかしげながら、思い思いの楽観的な妄想を広げる。ファルマは番号を書き終えると、掲示板を背負うようにして立った。

「はい、ではここに番号のある人は前に出てきてください」

労働者たちは社員番号と黒板の番号を見比べ、適合したものは前に出される。

「ひっ、落ちた!」

「合格だ!」

受験生の合格発表じゃないんだから、とファルマは内心つっこむ。

「今、前に出てもらった人が、健康な体を持った人です」

「えっ!?」

彼らはどよめく。前に出てきたのは、わずか3割弱だった。

ファルマに言わせると、大多数が健康ではない、ということになる。労働者はみな、大なり小なりの健康問題を抱えていた。小さいところは虫歯から、生活習慣病までだ。

前に出られなかった労働者たちは青ざめた。

「そんなバカな、俺は健康です! どこも悪いところなんてありません!」

勢い余って抗議した男を、ファルマは冷静に見下ろす。

「あなたは肝炎ですね、肝臓が炎症を起こしています」

ぴしゃりと、ファルマは残酷な事実を伝える。

肝臓は沈黙の臓器。病状の進行に気付かないのだ。

「肝臓って何ですか?」

男は尋ねた。労働者に基本的な解剖学、生理学、薬学などの知識をざっとでも教えるところから始めないといけないのか、とファルマは今後の課題を思い知る。男に肝炎というものが何なのかを丁寧に説明した後、

「このように、たとえ自分で健康だと思っていても、病は知らぬ間に忍び寄ってくるものです。ですから、自分の体の状態を知り、健康になろうとする努力を日々怠らないでください。そのうえで、患者さんを救うお薬を私と一緒に創ろうではありませんか」

ファルマは挨拶を締めくくった。

早速操業開始までに、全員が健康になっておくことが宿題となった。

「それはそれとして」

どんよりムードになってしまったところで、彼らの気分を変える。

全員講堂の外に出てください、とファルマが言うので、彼らは職員番号順に外へと出る。

「いい天気ですね、リラックスしていてください」

ファルマは彼らに声をかけ、馬車に戻り、アダムと共に荷物を抱えて戻ってくる。

彼が屋敷でこしらえて、用意してきていた木箱を取り出した。

「ファルマ君それなに?」

「これは写真機(Caméra)だよ」

「なにそれ?」

エレンはもう一度同じことを尋ねた。

「この世界の風景を紙に写し取る方法だ」

ファルマはエレンとロッテ、セドリックに小さな紙を見せた。お試し用に撮ったファルマの自分撮りのセルフポートレートだ。窓際で満面の笑みである。白黒写真だった。

「これ、絵ですか?」

白黒とはいえ、何てうまい画家なんだとロッテがくいつく。そしてそれに筆のあとがないことに驚く。

「絵じゃないよ、写真だ」

「って?」

ファルマは写真の原理を手短に説明する。

彼が採用したのはピンホールカメラ。完全に光の入らない箱に針穴をあけ、黒く中を塗りつぶした箱の中に、ガラスの写真乾板をセットする。写真乾板には、ガラスに臭化カリウムや硝酸銀などを含む感光材料をゼラチンと混ぜたものを塗ってある。

「もー、そういうの作ってたならどうして私たちを撮ってくれなかったのよー」

エレンが冗談交じりにファルマに尋ねる。

「いや、その。うまくいくか分からなかったし、今日はいい具合の日射量だから、きれいな写真が撮れるんじゃないかと思って。というわけで、写真を撮ろう。ここがいいな」

工場の正面から、工場の全景が見える場所をファルマは選んだ。

場所が定まると、様々な場所の距離を測って三脚スタンドに木箱を取り付ける。ファルマは約200人の工場労働者を40人ずつ5グループに分けた。何をするのかと労働者たちが不審に思っていると、第一グループから10人ずつ4列に並ばされる。

「前列は地べたに座って。中2列は中腰、後列は立ったままでお願いします」

ファルマは木箱のあたりに立って、全体を眺めながら彼らに指示を出す。

日照から露光時間を概算する。ピンホールは露光量が少ないが、写真乾板は感光がよいので、露光時間は数秒でいい。

「今から、それぞれのグループの集合写真を撮ります。この箱を見て、指定された秒数動かないでください」

動くなと言われたものだから、彼らの顔はひきつる。

露光と撮影はアダムに任せて、ファルマ、エレン、ロッテとセドリックが画面中央におさまった。

「皆、笑顔で」

多少不自然な写り方になったが、それでも写真は撮れた。写真乾板をたくさん用意していないので、二枚ずつ。動いたとしてもやり直しはなしだ。

それらしく、集合写真が撮影できた。彼らは全てのグループを無事に撮影し終えた。

「ありがとうございました。ではこれで解散です」

ファルマは謄写機でコピーした異世界薬局版の養生訓を、アダムに配布してもらう。

「その資料をよく読んでおいてください」

病気と診断された人々は後ほど改めて診察と治療をするので、アダムからの呼び出しと指示を待つように、と言って解散した。

労働者はアダムから新しい職員証を受け取ると、三々五々、家に帰ってゆく。

エスターク村の村民に囲まれたりしながら写真を片付けるファルマを、ロッテとセドリックが手伝う。

「さっき撮れたの見せて! どんな風に映っているのかしら」

エレンはファルマに尋ねる。

「楽しみですね!」

ロッテはわくわくしている。木箱相手におすましのポーズをして映ったのだから、どんな状態になっているのか、誰もが気になるようだった。

「まだみえないよ、現像しないと」

これからの作業工程を指折り説明するファルマに、エレンはげんなりする。

「ファルマ君、そのゲンゾーという作業に加えて大量に労働者の診察なんてして。あなたまた仕事が増えたじゃない、大丈夫なの?」

エレンが苦笑しつつ、どうしていつもこうなっちゃうのかしらねぇ、と嘆く。

「労働者の健康管理は必要なことだよ、工場労働者が感染症にかかってると工場の製品ごとやられてしまうからね。それに、従業員の写真を撮っておかないと、不審者が入ってきたときにだれがうちの労働者か分からないだろう」

「そんなの、身分証明を発行すればよいのだわ」

「写真つきのね」

ファルマは集合写真を一枚ずつ切り取って、写真つき身分証を発行するようだった。工場では、毒物も可燃物も多く扱う。不審者の侵入を許すわけにはいかない。セキュリティは徹底しておかなければならなかった。

ファルマたちがそんなやり取りをしていると、

「お久しぶりでございます、薬神様」

どこかで聞いたことのある声がファルマの耳を打った。

火属性の女神官キアラだ。彼女は、エスターク村を出て帝都を目指していたときに馬に載せてくれ、ファルマに食料をめぐんでくれた神官だった。

「あっ、キアラさん。そのせつは、お世話になりました」

「いっ、いえ、とんでもない」

ファルマがぺこりと頭を下げると、キアラはコメツキバッタのようにぺこぺこと頭を下げた。

「こんなところでお会いするとは。あなたは神官なのでは」

ファルマは再会を嬉しく思うと同時に、彼女が神官をクビになったのでは、などと余計な心配をする。

「私もエスターク村の人々と同じく、製薬工場で修行をしたいと思って労働者に応募しました。あっ、修行と勉強になりますのでお給料はいらないです、ご奉仕させていただきます」

キアラは医療神官で、もともと施療院で慈善奉仕をしているものだ。

医療神官といっても治癒能力の特殊技能があったりするわけではないが、看護職といってよかった。神殿の許可を取っての修行なので、クビになったわけではないという。

「修行ですか!」

「あら、ファルマ君の知り合い?」

エレンが口を挟んだ。

キアラが畏まりすぎているので、エレンは不思議そうだ。

「あ、キアラさんて火属性の神官さんですよね」

「さようにございます」

キアラはすっと胸に手をあててひかえる。

「ほかにも医療神官さんって来てます?」

全属性の医療神官が修行に来ているという。

「それはよかった! 神技で手伝ってほしいことがあるんですけど」

ファルマは閃いた。

神術使いがいれば、かなり製薬の工程が捗り、コストも節約できそうだと。

火の神術使いは原薬の加熱や滅菌処理をすることもできるだろうし、風の神術使いは薬の乾燥を担当したり、水の神術使いが水を冷却しパイプに通すことによって冷却したり、氷の神術で製品を低温で保管することもできるだろう。ファルマはこれまで製薬工程に神術を使うという発想がなかったのだが、考えてもみれば神術のある世界だ。

それらは電力のない前近代的な工場の欠点を補うことができる。

「はいっ、ぜひお手伝いさせていただきます」

キアラは嬉しそうだった。

「よろしくお願いいたします。シフト制にできるように神術使いの雇用枠を拡大しましょう」

数日後、異世界薬局マーセイル工場の玄関には、職員全員が映った白黒の大集合写真が額に入れられて掲示され、

工場労働者たちは自分の写真の入った身分証を受け取り、家族に大自慢したという。

「写真って楽しいですね、エレオノール様!」

「現像してみるまでわからないっていうのが、わくわくするわよね」

「ファルマ君ももっと撮ったらいいのに。せっかく美少年なんだから」

「俺、写真苦手なんだよ」

「えー、発明者なのに!?」

エレンとロッテはカメラがいたく気に入り、ポーズを変え場所を変え撮影しあい、大量の写真を撮った。セドリックは毎日のように撮影に付き合わされたからか、かなり写真撮影の腕が向上したという。しかし撮ったはいいものの、現像が間に合わない。ファルマに現像の手間をかけさせるわけにはいかないと考えたのか、彼らは現像技術を習得し、せっせとプリントをはじめたのだ。

いつの時代も、女子は自撮り写真が好きなんだな、とファルマは感心する。

「世界初の写真集ができるんじゃないか」

もう謄写板と組み合わせて、写真雑誌にして売れば買う人もいるんじゃないかな。二人の写真のあまりの溜まりっぷりに、そんな冗談とともに笑いながらファルマが提案すると、

「その前に、陛下の写真集じゃないの?」

エレンの言葉に、ファルマは青くなった。

「あっ」

「忘れてたの? 恐れ多くも陛下より先に写真集を出す、なんてありえないわ」

「陛下のことは忘れてないって!」

マーセイルから戻ったら忘れずにカメラを女帝に献上しなければ、と肝に銘じるファルマであった。