軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2章5話 銀と、青の伯爵

マーセイルの尊爵領内の視察は続く。

昼はブリュノのあとについて熱心に領民たちの話を聞き、ときにブリュノが神術で力を貸すのを見学し、夜は領民から貢がれた各地の特産品を食べ、食っちゃ視察食っちゃ視察の充実した逗留生活をしながら数日が経った。

そんなある日。

午後になって、領主館で過ごすファルマ達にブリュノから急な通達があった。ブリュノが言うには、

「急遽、今宵シヨン伯爵の屋敷に招かれた。家族と従者も一緒に来ていいそうだ」

シヨン伯爵とは、マーセイル領のすぐ隣の領地シヨンを支配している若い領主だ。

ブリュノは食事を兼ねて、領主代行である執事アダムを紹介するために顔合わせをしておきたいという。

「いってらっしゃいませ!」

ロッテはお出かけと聞いて、笑顔で送り出そうとする。

「ロッテちゃんも行くのよ」

エレンに苦笑される。

「ええっ、私も行っていいんですか? 召使ですけど! いいんですか?」

「こういうときは、誰であろうが従者も全員招かれるものなのよ。さあ、おめかししましょうね」

晩餐会というのは、どれだけ領主の懐が広く羽振りがよいかを試される社交の場でもある。

どんなお料理とデザートが食べられるんだろうと、ロッテはおなかをすかせ、妄想を膨らませている。思わずよだれが垂れそうになっていて、じゅるりと口を押さえていた。

「はわわわ! 私ったら。どうしましょう、晩餐会に着ていく服がありませんっ」

「ではこれを着ていきなさい。ブランシュに買ったのだけど、まだ大きいのよ」

「いいんですか!?」

ロッテは、ファルマの母ベアトリスからプレゼントされた一張羅のドレスを身に纏い、有頂天になっていた。

「わあっ、奥方様、ありがとうございます!」

「でも……行ってもいいのかしら」

今度は、エレンが眼鏡をずらし、鏡に顔を近づけてMEDIQUEの化粧品でメイクをしながら、ぽつりと、不穏な言葉を漏らした。

「ん? 何で? エレンも来ていいと思うよ」

怯えた様子のエレンに、ロッテに服装を整えてもらったファルマが振り返る。

「あの伯爵、よい噂を聞かないのよ。毒を盛られたりしないかしら」

「ええっ!?」

ロッテがひいっ、と頬を押さえて肩をすくめているので、ファルマは安心をさせるように、

「毒は盛られたら分かるから、心配しなくていいよ」

一級薬師、宮廷薬師一行に毒を盛るなど、下策にもほどがある。

若きシヨン伯は、青の伯爵(Comte bleu)という異名がある。何度も結婚しながら、妻たちはひと月もたたないうちに失踪してしまうのだ。それだけではないのよ、とエレンはファルマに顔を近づけて、メガネをくいっとやる。彼女が、発言を強調したいときにやる癖だった。

「噂では、城内には開かずの間があるらしいの。そこに殺された妻たちの……人影が見えたっていう使用人の話もあるのよ」

「詳しいんだなぁ、エレン」

どう考えてもデマだとファルマは思うのだが。

「そりゃあ、もう。エレンさんはお役立ち情報からつまらない情報まで、色んな情報を仕入れているわよ~」

大人の淑女ぶりたい年頃のエレン。エレンも一級薬師とはいえ淑女だ。定期的に開催される舞踏会などの上流貴族の社交の場で、情報交換をしているようだった。今日も、夜会用の露出度の高いドレスで胸元がばっちり強調されている。

殺された妻たちの人影……と聞いてファルマは冷や汗をかいた。というのも、

(エピソードが青ひげっぽいな……妻がいなくなったり、地下の小部屋とか)

聞いた事がある話だな、とファルマは微妙な心境である。グリム童話の(La Barbe Bleue)に似ているのだ、偶然だと思いたいが。

「それにね、伯はものすごく肌が青いという噂なのよ」

エレンがオシャレ眼鏡をかけて、反対側の手で髪をかきあげヘアアレンジを作る。そのしぐさは、妙に色っぽく見えた。

「血の気がないということ?」

「誰が色気がないよ」

むきー、としかめつらをするエレン。

「血の気って言ったよ、俺!?」

冤罪もいいところである。

「あら、空耳だったのね。顔色が青いの、青ざめているとかそんなんじゃなくて、青」

「まさか! 噂だよ」

などと、ファルマはあまり気にしていなかった。

ド・メディシス家の12台の馬車と騎士たちが、湖の中の伯爵の城に着いたのは、夕暮れのころだった。湖を利用した壕、高い石の城壁に砦、城門に高い塔などを備えた、シンプルだが機能的な城である。

大広間で催された晩餐会は、贅を尽くしたものとなった。形の揃った銀の食器が出され、高級なワインがいくつもあけられ、牛や羊、豚などのロースト肉が気前よくふるまわれ、次々と凝った料理が運ばれてくる。曲芸師やハープ奏者、踊り子などがファルマたちの目や耳を楽しませる。

それだけであれば豪勢な晩餐会、なのだが。

エレンの言う事は正しかった。

伯爵の顔色は、それほど明るくない照明でもわかるほどに青かった。ロッテはあまり気にならないらしく、一番隅の席で、ものすごいスピードで料理を平らげてゆく。テーブルマナーはしっかりと叩き込まれているが、食べるペースが速すぎた。普段口には入らないおもてなし料理は美味というほかになかった、と大きなおなかをさすりながら、後にロッテは語る。

宴の席に、伯爵の妻はいなかった。

「ほら……やっぱり。新しい奥さんも殺されたのよ」

エレンが小声でファルマに耳打ちをする。

ブリュノは素知らぬ顔で、ワインや料理を嗜みながら伯爵と会話をする。領主代任のアダムを紹介し、マーセイル領経営の段取りを話す。薬草生産に力を入れてゆくこと。マーセイル港の貿易黒字を堅調に維持してゆきたいこと。まだ計画段階ではあるが、創薬研究拠点を造る予定があるということを、言葉たくみに伝えた。

「ほう、創薬研究所を、マーセイル領に? 大学の研究施設があるのでは」

「薬草園も研究所も、帝都ではやや手狭ですのでな」

ファルマの提案でそうするのだ、とはブリュノは言わなかった。ファルマが画策しているというより、尊爵であるブリュノに表に立ってもらった方が、なにかと丸く収まる。それを、ブリュノはファルマと話してよく心得ていた。その後は雑談などを交わし、ブリュノと伯爵も楽団の音楽鑑賞などを楽しんでいたが、酒の酔いも回って、ついに伯爵はブリュノに健康相談をしはじめた。

「尊爵閣下に、折り入ってご相談があるのですが」

「診察の話ですかな」

ブリュノは診察を依頼されない限り、王侯貴族だろうが診ないことにしている。

「年々、肌が青くなってきていて、困っております」

「確かに、青いようですな。医者にはかかっておられるのですか」

ブリュノは断定する。社交辞令を言っても患者のためにならない。

「医者にはかかっているのです」

(青いというより、銀色だ……銀でも飲んだか)

ファルマは彼らのやり取りを注視しながら、少し離れた場所から診眼で伯爵を診る。そっと眼に手を添える。伯爵は全身が青い光を放っていた。予想したとおりだ。

「”銀皮症”」

青色光は消えたが、ぼうっと薄赤い光がともった。

通常、診断後は白い光が残るのだが、今日は様子が違う。

(赤!?)

ファルマは身構える。銀皮症には特効薬というものがない。だが、少しでも有効と思われる、ありったけの薬剤の名を言ってみる。それに加え、溶媒にはファルマがこれまで極力避けてきた、神術で生成した水も加えてみる。それでも赤い光は少し薄くはなるものの、ほぼ変化しなかった。

(治療できる薬が、ない? 生成水で溶かしてもだめか! くそっ、レーザーが使えれば)

この場に治療薬が存在しない。そういうときに赤い光になるのだと、ファルマは知った。無慈悲な宣告である。現代医学でも治せなかった病気はいくらでもある。そういう疾患を駆逐してゆくのが生前のファルマの仕事であり、ライフワークだった。

一度体内に入り込んでしまった銀は、体内に蓄積して、そう簡単には外に出てゆかない。

「私はどうなってしまうのでしょう。領民からも恐れられ、私は外へでることもままなりません。この外見のためか、あらぬ噂も立てられて……医者には外に出て日光を浴びろと言われるのですが」

伯爵はとうとうブリュノに泣きごとを言っていた。

「私の知見によりますと、全身が青くなった人は過去にもいました。が、それ自体はそこまで害を及ぼさない。それで寿命が縮んだというものでもありません。長生きした人もいます。あくまで、美容の問題です。美容のためには、日光にはあまり長く当たらないほうがよろしい、青みが増すので」

(すごいな、ブリュノさんの知見。俺とほぼ同じ見たてだ)

ファルマは以前にもまして感心する。ファルマは、このブリュノのもとに転生して恵まれていた、と心の底から感謝する。ブリュノは、観察した事象の中から真実を見抜く目と、野生的なカンを持っているようだった。

「よい化粧品があるので、それでごまかすこともできましょう」

そしてちゃっかり、MEDIQUEの化粧品を薦めていた。

(まてよ……あのときの能力でいけるんじゃないか)

ファルマは”正”の能力は検証し知見を積み重ねてきたが、”負”の能力についてそれほど能力を試したわけではない。先日、ファルマが海水を一定領域ごと消したということは、塩分もミネラルもそして水も、すべて消したということに他ならない。それは何だったのか。

ファルマは確かめたくなった。そっと、大広間の隅に置かれていた桶へ近づく。中に水を張り、左手で創出した塩と砂鉄を沈める。

水に溶ける塩と、溶けない鉄の実験系を作ったのだ。

塩は水溶させ、砂鉄は不溶なので沈む。モデルと構造式は単純な方がいい。簡易的に実験を行う。

「ファルマ君、隅っこで何やってるの? 食べ過ぎて吐きそうなの?」

ほろ酔いのエレンが近づいてきたので、「おえっ」と言って手を振って遠ざける。

「実験してみるか」

ファルマは検証シナリオを脳内で作り上げ、それにしたがって順々に検証してゆく。

対照区(Control)1: 桶を削除 → 失敗。

対照区(Control)2: 水のみを削除→ 成功。桶の中には塩と砂鉄が残った。

試験区(Test)1: 塩水に手をつけ、塩水を削除→ 成功。桶の中には砂鉄が残る。

ここまでは分かる。だが、

試験区(Test)2: 塩水に手をつけ、砂鉄に触れず全てを削除→成功。桶の中には残留物なし。

「じゃ、これはどうだ」

ファルマは実験の総括に入る。

試験区(Test)3: 塩水に手をつけ、砂鉄に触れず砂鉄だけ削除→成功! 桶の中には塩水のみが残留。

そして考察。

(水、いや流体を通して”負”の力は伝わるのか)

となれば、空気もまた流体。対象に触れなくても念じた構造式のものを消せるわけで。正確には、遮蔽物の中に対象を置いてみなければ分からないが、今回は用意できる条件が限られているので後に回す。

仮説。

「化合物を念じれば、望んだものを、触れなくても消せる!?」

そして、恐ろしいことに気づいてしまった。右手の”負”の能力を使うとき、ファルマの手は幽霊のように透けて、通そうと思えば物体を透過するのだ。

ファルマの作業は、部屋の隅であまりにも地味~に行われたため、ファルマが吐いていると思って皆が気を使って近づいてこなかった。ロッテが時折、「大丈夫ですか? 背中さすりましょうか」と声をかけてきたので、ファルマは大丈夫、と返事をしておいた。

「それにしても……」

(ああ、俺、ますます人間から遠ざかっていく)

ファルマはほとほと困り果てたが、未練を残して死に、再びこの世に転生できたのだから文句も言えない。それに、死んだファルマ少年の人生を請け負っている。

「影もないし、透けるし。皆に見える幽霊、ぐらいに思えば気が楽になるのかな」

一度死んだのだし、幽霊だと思えば精神的にも楽かもしれない。とファルマは気の持ちようを変えることにした。

ブリュノはまだ、MEDIQUEの化粧品を伯爵に勧めていた。ファルマは身なりを整えて、ハンカチで口を拭き、伯爵に近づく。そして、二人に声をかけた。

「失礼。私が伯爵にお気に入りいただける化粧品を見繕いましょう」

「そうですな、せがれのほうが詳しい」

調合したのはファルマだと聞き、伯爵はファルマの話をくいいるようにして聞く。

「その前に、伯爵は現在服用されている薬をお見せいただけますか。それらとの相性もありますので」

「健康のために医師に処方させて飲んでいる薬がいくつかある」

伯爵は従者に、薬箱を持ってこさせた。

宝石のちりばめられた薬箱の中は、薬で埋め尽くされていた。伯爵はまだ若いのに相当な健康志向だとみえる。健康食品やエナジードリンクのようなものが、これでもかと入っていた。ファルマはひとつずつ薬瓶をあけて、中身をあらためてゆく。

「これは……」

ある薬瓶を持ったファルマの手がとまった。

「ああ、やはり気になりますかな。これは高級な丸薬で、体液の循環を整え、病魔を遠ざけるのです」

銀箔に包まれた、大き目のサイズの丸薬が入っていた。丸薬の名前を聞けば、中に入っているものは問題のないハーブだとわかるが、それを、健康志向の伯爵が、毎日こつこつと10粒ずつ、何年にもわたって飲んできたという。

「この丸薬を飲むのを、今日からやめてください」

ファルマは伯爵に、真剣な顔つきで言った。

「なぜ、これを飲んでいると調子がいいのだ。手放せない」

「銀は微量なら、健康に害はありません、ですがこれは大量すぎます」

「何だと……!?」

ブリュノも目を見張る。ブリュノも、丸薬を処方するときに銀箔を使うことがある。銀でコーティングした丸薬は腐りにくく、長持ちをするのと、見た目に美しいことから、宮廷医師、薬師の間では流行していた。

「そういえば、貴族にしかない症例だな」

ブリュノは思い起こしたようだった。平民がこの、全身が青くなる症状を患っている例を見たことがない。平民は銀を飲まないからだという。

「この銀箔を毎日少しずつ摂取し続けたことが、あなたの皮膚が青くなった原因です」

「なぜ青くなる」

ブリュノが質問をし、ファルマが即答する。

「銀は日光に当たると、黒ずみます」

「ど、どうやったら治るんです。毎日一粒ならどうです?」

「まず、一旦これを飲むのをやめてください」

ファルマは少し語調を強めた。

「わ、わかりました。しかし、私の肌はもう治らないのか……!」

伯爵はますます青ざめたように見える。それを哀れに思ったのだろうか、ブリュノがある提案をした。

「治るかは分かりませんが……立ってください。体液のバランスを整えておきましょう」

「ぜ、ぜひお願いします。治療代はお支払いします!」

「お食事をいただいたので無料でかまいません」

ブリュノは杖を持ち、伯爵の後ろに立ち、何らかの発動詠唱を唱え伯爵の背中に杖を押し付けてゆく。ツボでも刺激しているかのようだ。伯爵は気持ちよさそうな顔で施術を受けていた。

(あ、今のドサクサの間にやればいいんだ)

ぼんやりと見ていたファルマは、傍観している場合ではないと、慌てて右腕の服の袖をたくりあげる。脳内で銀を認識し、「”負”」の能力を発現する。

「ちょっと、ファルマ君何をしてるの……!」

エレンはファルマの右腕が発光していることに気づき、何をするつもりかとハラハラしながら見ていた。それは神術の発動の光であると、はっきり分かった。

ファルマは集中して、伯爵を睨み据えるように見つめていた。

”Ag、Ag+消去”

彼はさきほどの実験と同じように、伯爵一人分ほどの空間を仮想して、ほかのすべての微量元素をいじらず、水分も塩分にも触れず、銀(Ag, Ag+)のみを標的として消去した。

ファルマの杖は銀製なので、近くにあれば消えてしまうところだったが、ブリュノの持っている杖は金でできている。

だが、伯爵の指輪のひとつは消えてしまった。コロン、と指輪についていた宝石が床に落ちた。

ブリュノの施術が終わったころには、シヨン伯爵の顔色にはすっかり赤みが差した。青黒い、宇宙人のような表皮は、美肌に戻っていった。誰も知らなかったが、まじまじと見るとシヨン伯爵は美青年だった。

「おや……顔色がもとに戻りましたぞ」

伯爵家の家令の言葉を聞いたシヨン伯は、

「か、鏡を持ってまいれ!」

と家令に命じる。家令は、久しく使っていなかった伯爵の鏡を持って戻ってきた。鏡を見ることは、伯爵にとって辛い行為になっていた。それで、彼は恐る恐る鏡を見る。

「肌が……もどった!」

伯爵はその場で飛び上がって喜び、そのままの勢いで家令とダンスをした。

「さすが尊爵閣下の神術でございます!」

「は?」

合点がいかないのが、ブリュノである。彼は、彼が伯爵に施した術の効能をよく知り尽くしている。体調を整え、気分を高揚させるぐらいの効力しかないはずだ。

「これで安心しました。いくらお支払いすればよいのか。実は、妻に愛想をつかされて出て行かれたのです……」

それを聞いたファルマは、

(よかった、青髭みたいに殺された妻はいなかったんだ)

と、胸をなでおろした。

でも、エレンの聞いた小部屋の噂は何だったんだろう? という疑問が残る。

一段落した後で、ブリュノがファルマに近づいてきた。

「お前の仕業だな」

と、確認するようにそう一言発して、ワインを取りにいった。

その後、気をよくした伯爵は、さらにワインをあけ、盛大な夜会を続行した。快癒パーティといった趣になってきた。宴会は終わらない。これに痺れを切らしたのが子供たちだ。

「お先に失礼します、おやすみなさい」

ファルマたち子供組が眠気に襲われ、先に寝室に行こうとすると、伯爵は呼び止めた。

「そうだ、きみたちが気に入りそうな場所がある。ぜひついてきてくれ」

「いや、でも、私たちはもう寝なければいけませんので」

「いいから、すぐだから」

そう言われて、ファルマとブランシュ、ロッテはある場所へと連れて行かれた。地下の石階段を降り、不気味な廊下の突き当たりの小部屋に招き入れられる。

「さあ、遠慮せず」

(まさか……これがエレンの言っていた、殺された妻の死体のある部屋……!?)

いざとなれば神術でどうとでもなるが、ファルマはブランシュとロッテを庇うように伯爵の前に身をおいて部屋の中へ入った。

部屋の中から、無数の視線を感じた。ファルマは思わず身構える。

「お前たち、お客さんだよ」

伯爵が話しかけていた相手。それは無数の等身大美少女ドール。地下の小部屋は、ドールコレクションルームだった。きれいに衣装を着せられた等身大美少女ドールたちが、さまざまなシチュエーションでセットされていた。

(うわー!)

ファルマはその迫力にやられ、思わず絶叫しそうになった。人形がリアルすぎるのだ。伯爵は上機嫌で、ファルマたちに等身大ドールを勧めてくる。

「いやあ、今日は気分がいい。どれでも好きなものを持っていってくれ。どれも高価なものだが、気に入ったなら惜しくない」

等身大美少女ドールに、伯爵は頬ずりをしてハグをする。

「このアリスちゃんなんて、見たまえ、お勧めだ。肌もしっとりとしていて。何より生きているかのようだろう! ああ、嫁にしたいぐらいだ。添い寝にお勧めだ、今夜から添い寝してもいいぞ」

「は、はあ……」

ロッテとブランシュも、大きすぎるドールは怖いようだった。

「この嫁も悪くない、この嫁も添い寝に。これなんて、前の妻にそっくりに作らせたんだ」

などと説明を続ける伯爵には申し訳ないが、ファルマとロッテは口をそろえた。添い寝用のドールもいるらしい。

「遠慮しておきます」

(伯爵の妻が失踪したのって、これに愛想をつかして出ていったのかもな)

添い寝用ドールにベッドスペースを占拠されていたとか……と想像がつく。

青髭伝説はなかった。

伯爵に殺された妻たちはいなかったよ、「俺の嫁」ならたくさんいたけど、とファルマは翌日、エレンに伝えたという。