軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80.モブ王女と悪役令嬢のデビュタント 3

デビュタントに参加する女の子は床まである長さの純白のドレスを着る。

そして白い靴と肘まで覆う長い手袋も。

デビュタントにおけるドレスコードである。

デビュタント当日————

私はロイ兄様にエスコートされ、純白のドレスを身にまとっている。

白い靴に、肘までの長い手袋。

正直に言うと汚しそうでとても怖い。真っ白ってキレイだけど、汚れが付いたら落とすのが大変そうだ。

小さい頃、泥だらけになって怒られた記憶が未だにそんな気持ちにさせる。

汚れを落とすの大変なんですよ!と……

「ルティア、緊張してる?」

「そうね。ちょっと……いや、結構?緊張しているかも?」

「かも、なの?」

私の言葉に兄様がクスクスと笑いだす。

そうは言ってもパーティー自体が初めてなのでよくわからない。

ラステア国でも昼のガーデンパーティーに呼ばれたことはあっても、ダンスを踊るような夜会に招かれたことはまだないのだ。

「まあ、ルティアは気楽にしていればいいよ。今日の一番の注目は前の二人だろうからね」

「それは確かに……」

ひそりと耳元で囁かれ、私は小さく頷く。

ホールへ入るのに順番を待っているのだが、私たちの前にはアリシアとライルがいるのだ。

アリシアとライルの金髪が並んでいると、キラキラしてとても目立つ。

私と兄様は茶色い髪なので二人に比べるとかなり控えめだろう。

さらに言えば、今日、ライルがアリシアをエスコートして入ると言うことは事前に通達されていない。

これはもう100%目立つこと間違いなしだ!

そう思うと少しだけ気が楽になる。

「ライル・フィル・ファティシア殿下、アリシア・ファーマン侯爵令嬢、入場でございます!」

ホールの扉が開き、中のざわめきが徐々に大きくなり外まで聞こえてくる。

その中をライルにエスコートされたアリシアが進んで行った。顔は見えないが、ライルはきっと顔を引きつらせているに違いない。

アリシアは……たぶん、内心で焦っているだろうが表情には出さないだろう。

この辺が令嬢力の高さなのかもしれない。

「さ、ルティア、次は君だよ」

「わ、わかってるわ!」

深呼吸をして、真っ直ぐに前を見る。

侍従が扉を開き、私たちの名前を告げた。

「ロイ・レイル・ファティシア殿下、ルティア・レイル・ファティシア殿下、入場でございます!」

ホールの中にゆっくりと進んで行く。

裾を踏まないように、そして笑顔を忘れずに。しかし、私たちの前に入場したアリシアとライルのインパクトが強いのか、全く視線は感じない。

「これなら大丈夫そうだね」

ひそりと兄様に言われ、私は小さく頷く。

これならヘマをせずに済みそうだ。私は内心で二人に感謝する。

注目されないとはこれほどまでに楽なのか!!

「ルティア、気を緩めると失敗するよ」

「うっ……」

私の気の緩みを察したのか……またひそりと言われ気を引き締め直す。

そうだ。確かに下手に気を抜くと失敗してしまう!

頭の中で進行予定を思い出し、お父様たちに挨拶をするとワルツを踊るべく、ホールの真ん中に向かう。

アリシアとライルに注ぐ視線。

それを横目で見ながら、私は兄様に手を取られ踊り始めた。

***

くるり、くるりとホール中に真っ白な花が咲く。

管弦楽の音に合わせ、みんなが踊る。それは壮観な眺めだ。

できることなら周りから眺めていたいけれど、デビューした私がそれをするわけにはいかない。

一曲目が終わると、今度は相手を変えてまた踊る。

ちなみに二曲目はライルとだ。三曲目はシャンテと。お父様とも踊ったし、他の貴族の男の子とも踊った。

踊り疲れてそろそろ端へ寄ろうかと考えていた時、兄様と同じぐらいの年頃の男の子に声をかけられる。

「ルティア王女殿下、ぜひ一曲踊っていただけませんか?」

ライルと同じ金髪だが、瞳の色がアイスグレーだからか、どこか冷たい印象を受けた。

しかし断るのも悪いので、私は差し出された手に自分の手を預ける。

またホールの中央に誘導され、くるりくるりと踊りだす。

「受けていただいてありがとうございます」

踊っている時にそう言われ、どう返したものかと一瞬考えてしまった。

いやいや、ここはにこりと笑っておけば平気だろう。そう思い直し、彼に笑いかける。すると彼も小さく笑った。

彼と一緒に踊っていると、なぜか周りから視線が集まり始める。一体どうしたのだろう?

アリシアはライルと一緒に端で他の子たちと話をしているし、シャンテと兄様もデビューしたての女の子たちに囲まれている。

今日の注目の的はアリシアとライル。私に視線が集まる理由がわからない。

いや、私ではなくもしかして彼に注目が集まっているのか?

チラリと顔を見上げると、彼の服の襟章にトラット帝国の紋章を見つけた。

トラット帝国は、もし未来が変わらなければ私が嫁ぐかもしれない国。

紋章を身につけていると言うことは、彼は皇族の一人なのだろう。通りで周りから視線を集めるわけだ。

「……不勉強でごめんなさい。あなたはトラット帝国の皇族の方ですね」

「ええそうです。トラット帝国の第三皇子になります。あなたと同じ三番目……ですね」

「私と同じ……?でもトラット帝国は実力主義なはず。第三皇子であっても、実力があれば上に立てるのでは?」

以前教わったことをフル回転で思い出し、彼にそう告げてみる。

すると彼はまた小さく笑った。

「そうですね。ええ、確かに上に立つ力があれば順番は関係ない」

くるりと体が回転する。

「ところで……まだ王女殿下には婚約者がいらっしゃらないとか?」

「そうですね。まだ、いませんが?」

「候補もですか?」

「さあ、それはお父様の胸の内にあるのでは?」

何が言いたいのだろう?同じ三番目だから婚約でも持ちかけてくるのだろうか?

しかし私自身はファティシア王国に影響を与えるほどの力を持ち合わせてはいない。 そ(・) う(・) な(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 。

くるり、とまた回り曲が終わる。

お互いにお辞儀をすると、彼がひそりと耳元で囁いた。

「俺と婚約するつもりはありませんか?」

「……私と婚約しても、何のメリットもありませんよ?」

「ありますよ。あなたが嫁いでくれば、ポーションが手に入る」

もちろんあなたが作ってくれてもいい、と言われる。

「————お断りします」

「あなたの待遇は保証しますよ?」

「別に高待遇になりたくて作ってるわけではありません。みんなのために作っているのです」

その中にトラット帝国は入っていない。いや、そりゃもちろん目の前で苦しんでいるのであれば助けるだろうけど、それとこれとは別の問題だ。

彼は私を手に入れればポーションが手に入ると思っている。ファティシア王国から輸入できると考えているのだろう。

その考えにイラッとしてしまったのだ。トラット帝国がポーションを手に入れたら……どう考えても、周辺諸国に戦争を仕掛けるだろう。

小さな国なら兎も角、ファティシア王国やラステア国、レイラン王国のようなある程度の国力を兼ね備えた国に戦争を仕掛けるのは骨が折れる。

しかしポーションがあれば、一定の兵力があるだけで戦争は続けられるのだ。

「なるほど。残念ですね」

「私も、残念です。ポーションを戦争の道具にしようとする方がいるとは」

「それだけ魅力的なものですからね」

彼はそう言うと私の手を取り、甲にキスをすると名前も告げずに人混みに紛れてしまった。

私はため息を吐きたいのをグッと堪えて、バルコニーに向かう。

そして、誰もいないバルコニーの手すりに寄りかかり、はあと盛大にため息を吐いた。思い出しても腹が立つ。

直接手の甲にキスされていたら、手を洗いに行かねばならなかっただろう。

「どうせなら足を踏んづけてやれば良かったわ!」

そこまでのヒールではないから大した威力はないかもしれないけど、踏まれたらたぶん痛い。

政治の道具にできそうだからと声をかけてくるなんて、社交界デビューしたばかりのレディーに失礼だ。

「まあ、正しくもあるけどね……」

「なにがだい?」

呟いた言葉に返事が返ってくるとは思わず、驚いて顔を上げるとそこにはコンラッド様がいた。

確か……予定が合わないから来られないとか言ってなかっただろうか?

「コンラッド様……?」

「うん。来ちゃった」

「来ちゃったって……え?」

「カッツェに頑張ってもらったんだ」

「えっと……カッツェには、ご褒美をたくさん……あげないと、ですね?」

「うん」

頭が上手く回らず、そう告げるとコンラッド様はクスクスと笑いだす。そして私に向かって手を差し出すと一曲踊ってくれませんか?と言ってきたのだ。

差し出された手に自分の手を乗せると、コンラッド様はホールには向かわずにそのままバルコニーで踊りだす。

「ああ、足を踏まれてもルティア姫なら軽いから平気だよ?」

「……いつから聞いていたんです?」

「盛大なため息を吐いたあたりからかな?」

それはもう最初からではないか……ジトリと睨むと、コンラッド様はごめんと謝る。

「いいんです。ちょっと、その……嫌なことがあっただけなので」

「ああ、トラット帝国の皇太子だね」

「皇太子……?では、もう彼で決まりなのですか?」

「上を押し退けて、最近なったみたいだよ。確か名前は…… レナルド・マッカファーティ・トラットだったかな」

「名前すら名乗りませんでしたよ。あの人」

ぷくっと頬を膨らませると、それはまた失礼だねと宥めるように言われた。

「わかっているんです。社交界デビューするってことは、そう言うこともあるって。王族の一員なら尚更です」

「そうだね」

「でもデビューした日ぐらいは気持ちよく終わりたいじゃないですか!」

「それで良いと思うよ?」

コンラッド様はにこにこと笑いながらリードしてくれる。

「次からは、その……もうちょっと頑張ります」

「ルティア姫はそのままでいいと思うな」

「そんなこと言うのはコンラッド様ぐらいですよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

きっと、コンラッド様にとってみれば私は妹のような存在だろう。

それでもこうして気にかけてもらえるのは嬉しい。

コンラッド様のおかげで、私の社交界デビューは嬉しいような恥ずかしいような、ちょっとだけ不思議な気持ちで終われたのだった。