軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78.モブ王女と悪役令嬢のデビュタント 1

あれから————早いもので五年の月日が流れた。

お父様たちが頑張ってくれたおかげで国中の神殿でポーションが作られている。

神官たちから反発があるかもしれないと予想していたが、意外なことにあっさりと受け入れられた。

きっと、助けられない命が多いことを彼らも憂いていたのだろう。

ポーションは中級、上級は神殿で、初級のみ薬を扱う店での販売を許可した。

初級は誰でも買える値段にしたかったからだ。

体調を崩した時に即使えば初級でも問題ない。何事も始まりが肝心なのだ。

魔力過多の畑を作るのは最初こそ大変だったけど、魔術式の改良により魔力量の負担が軽くなったことでなんとかなっている。

もちろん神官や花師たちが少ない場所には、魔術式研究機関から人を派遣して畑を作る手助けをしていた。

それでも、不安というのは無くならない。

「……今年は、疫病が流行る年よね」

今のところその兆候はないが、ポーションが疫病を流行らせるのを止める助けとなればいい。

手軽に買える。それだけで、きっと病が広がるのを防いでくれるはずだ。

そんなことを考えながら、私は目の前のティーカップを手にする。

口をつけて、小さくため息を吐くと目の前のテーブルにうつ伏せている、令嬢らしからぬ所作の彼女に声をかけた。

「アリシア、もう諦めなさいよ」

「そ、そんなこと言われましても!!断罪への一歩かと考えたら、デビュタントなんて出たくありません!!」

五年前よりも大人びた容姿に育った彼女は、くしゃくしゃっと顔を歪める。

自称、悪役令嬢であり、私の友人のアリシア・ファーマン侯爵令嬢だ。

「仕方ないじゃない?私たちとライルは一歳しか違わないのだし……それに貴女の予定よりも三年遅いのよ?」

本来なら十歳の時に婚約者としてお披露目があったはずだと告げれば、アリシアはノロノロと顔を上げた。

「そ、そうですよね……三年も……でも、怖いものは怖いんですよー!!」

「どのみち婚約してないんだから良いのよ」

ライルがデビュタントの時にアリシアを伴って周れば、周りは勝手に彼女を婚約者だと勘違いするだろう。

そう、ライル本人すらも————

「腹を括りなさい。そんなんじゃ、当日笑われてしまうわよ?」

「笑われたら……婚約者候補から外れますかね?」

「無理じゃないかしら?」

「ど、どうしてですか!?」

「貴女がファーマン侯爵の娘だからよ」

サックリと告げると、ですよね……と彼女はまたテーブルにうつ伏せる。

ライルと同じぐらいの年頃で、一番身分の釣り合う女の子はアリシアぐらいだろう。

もちろん、他にいないわけではないが……ライル本人が他の令嬢と会うことを拒否しているのだ。必要ない、と言って。

五年前のあの超生意気な暴君少年は、今やロイ兄様と同じぐらい真面目でしっかりとした男の子に育っている。

リーン、シャンテ、ジル、彼らと共に研鑽を積み、たまに畑仕事をしつつ王族として相応しい行動を心がけ、どこから見ても立派な王子様だ。

何がそこまで彼を変えたのだろう?

お父様はもちろんお元気だ。

リュージュ妃も、お母様も、兄様も、双子の弟妹たちも、みんな元気で……アリシアの話からするとかなりズレが生じている。

だからもう少し、昔の面影を残したまま成長するのではなかろうかと思っていた。

王族として正しい振る舞いをする姿を見る度に、アリシアの話の中のライルと同じ様に見えてきてしまう。

お父様の死や、兄様が病に倒れないと決まったわけではないと言われているようで……

だから未だに不安が付き纏う。

昔のライルが少しでも見えれば……安心材料になるかもしれないが、王族として正しい振る舞いをしているライルに文句を言うのは筋違いというもの。

「まあ、例えお父様とロイ兄様が病に倒れたとしても私が治せば大丈夫よね」

それにラステア国とも何かあればポーションを融通し合う条約ができている。

この五年で出来ることはやった。

これ以上何か起こるのであれば、それはもう神のみぞ知るということだ。

「……ルティア様」

「なあに?」

「ルティア様はデビュタントの日はどうされるんですか?」

「私は普通に兄様にエスコートしてもらうわよ?」

「ラステア国のコンラッド様ではなく?」

「……そこでなんでコンラッド様が出てくるの?」

少しだけ低くなってしまった声に、アリシアがバッとテーブルから顔をあげる。

「結局のところ、どうなんですか!?」

「どう、って?」

「コンラッド様と婚約されるんですか!?」

「どうしてそんなことになるのよ!!」

ラステア国のランカナ女王陛下の王弟コンラッド様は、五年前に協定を結んでからファティシアに良く訪ねてきてくれる様になった。

優しくて、とても良い方だ。子供の私でもちゃんとレディーとして扱ってくれる。畑仕事だって手伝ってくれるし……

未だに女王様からコンラッド様と結婚するつもりはないか?と手紙をもらうけれど、私とコンラッド様とでは十二も歳が違う。

歳の差だけの話なら、確かによくあることだから……可能性としてはなくはないけど……向こうはきっと妹のように思っているだけ。

変に期待してはいけないのだ。

「いっそのこと、ルティア様がコンラッド様と一緒になってくださればトラット帝国に嫁がなくてもよくなると思うんですよね」

「ロイ兄様とライルのルートだと嫁ぐのだったかしら?」

「そうです」

「でもお父様が健在だし、国力が弱まったどころかラステアと強い同盟関係を結んでいるから……私がトラット帝国に行くことはないと思うのよね」

魔力過多の畑の作り方は、他の国でも作れるように公表している。

つまりトラット帝国も作り方は知っているのだ。

どうやって作るかわかっているのに、それでも作らないのは魔力量が多い人間が高位貴族に集中しているから。

もしかしたら皇族用に作っているかもしれないが、それだけでは足りないだろう。

だからと言ってポーションを理由に戦争を仕掛けるのもリスクが高い。

「トラット帝国でもポーションは作れるのに作らないのは高位貴族の怠慢でしょう?それで別の国に戦争を仕掛けるのは周りの国からの反発を強めるもの」

「やっぱりコンラッド様と結婚ですかね?」

「……しないわよ」

「でもでもっ!良く訪ねてきてくださるんですよね?」

「訪ねて来てくださるからと言って、結婚するわけじゃないのよ?」

「そうですけどぉ……」

アリシアはぷくっと頬を膨らませて、殺伐とした話よりもロマンスが聞きたいんです!と無茶振りをしてくる。

「姫様、お話中、申し訳ございません」

アリシアといる時はなるべく周りに人がいない様に、そして話を取り次がない様にしているがそれにも関わらず侍女のユリアナが声をかけてきた。

「どうしたの?」

「ロイ殿下、ライル殿下がいらしてますが……」

「えっ!?」

「ああ、明日のチェックかしら?」

「その様です。どういたしますか?」

ユリアナがアリシアに視線を移す。

今の彼女は少々、化粧を施さねばならないだろう。

「私が先に相手をしているから、アリシアの顔を何とかしてあげて?」

「かしこまりました」

「あのう……会わないって選択は……」

「明日、ドレスを踏んづけてもいいなら良いけど?」

「……ユリアナさん、お願いします」

「承りました」

そう言うとアリシアはユリアナに連れられて化粧室へと向かった。