軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

251.王子と王女と悪役令嬢の密談 4-2

私はシュルツ卿からの情報、と前置きした上で旧トラット王国で起きた「聖なる乙女一行」の話を伝えた。その話の内容に、ロイ兄様は難しい表情を見せる。

「その話は……僕も聞いたことないな」

「私もです。でも……」

「そうか、アリシア嬢の見ていないゲームの真相――――になるのかな」

「旧トラット王国の内情が?」

「そう。そして、アリシア嬢がその……死ぬ前に情報を見たと言った話があったよね?」

「あ、もしかして続編、ですか?」

「うん。もしかしたら三部作だったりしたのかなって」

三部作、といわれて私とアリシアは首を傾げた。ロイ兄様はゲームの内容は、一作目がファティシア王国の問題、二作目がラステア国の問題であると推測できると話す。

「ああ、そうか。一作品で一つの国ってこと?」

「うん。ラステア国でのことは、最終的な引きとしてトラット帝国に続く……とかになるんじゃないかな? だってほら、実際にトラット帝国が裏で糸を引いていたわけだし」

「そうですよね。希少な聖属性の……聖なる乙女なら、問題のあるところへ行くはずですものね」

「それ、引っかき回すの間違いだと思うのだけど……」

「でも……一〇〇〇年前の聖なる乙女一行も、同じことしてますよね? いろんな国に赴いて、沢山の人を助けてる」

ゲームのヒロインと、一〇〇〇年前の聖なる乙女一行ではだいぶ状況が異なるんじゃないかしら? と考えたけれど、客観的に見れば頷ける部分もある。

私たちの視点だと引っかき回しているように見えるが、人助けは人助けだ。だってヒロインが攻略対象たちに対して攻略行動を取らなければ……困ってる人を助けたに過ぎない。

ロイ兄様も同じことを思ったのか、アリシアに問いかける。

「一〇〇〇年前の聖なる乙女一行をなぞってるわけではないんだよね?」

「そこまでは……」

「そもそも三部作かもわからないもの……アリシアだってわからないわよ」

「まあ、そこはね。僕の推論だからね。でもあながち間違っていない気はするな」

「そうですね。攻略対象になりそうな人たちがいますし」

アリシアは、攻略対象は大体五~六人くらいいる。と教えてくれた。

ラステア国なら、ウィズ殿下、コンラッド様、ウィズ殿下の学友のフリュー卿、コンラッド様の側近のリトゥルさん、それにオルヘスタル元魔術師長。

「でもみんな、年が離れてない?」

「ファティシア王国では年が近かったですからね。大人の魅力、と言うコンセプトにしたのかもしれません。あと……アイゼンは隠しキャラだったのかも」

「隠しキャラ……?」

「そういえば、ファティシア王国の隠しキャラが誰かわかっていなかったね」

「そんな話を前にしてたことあったわね……すっかり忘れてたわ」

全部のルートというのをクリア? すると、隠しキャラのルートが開くとかなんとか……そんな話を昔した覚えがある。ただアリシアはふるこんぷ? というのをしていないから知らないって言ってたのよね。

「私なら、ラステア国編はアイゼンを隠しキャラにすると思います。残忍な性格だけど、ヒロインに近づくうちに心引かれて……みたいな?」

「それで改心するとか?」

「はい。でもバッドエンドだとヒロインを拉致監禁しそうですよね……そこも乙女ゲームっぽいです」

レイランの術者、アイゼンはとてもじゃないけど攻略対象といえるような人物ではない。人の国を遊び場と称して、実験を繰り返していたのだから。

でもそんな人物が心を入れ替えるからこそ、ヒロインの力が試される的な? そんな話になるのかしら?? そんな簡単に心を入れ替えるのなら、初めからしないでもらいたい。

自分の手首に現れた印を思いだし、ゾッとしてしまう。そんな些細な変化に気がついたのか、ロビンが私の前にケーキを新しく取り分けてくれた。

「……ありがとう」

「いえいえ。お茶のおかわりはどうしますか?」

「もらうわ。ロビンの入れるお茶、美味しいもの」

「そりゃあ、俺はできる従者ですからね」

ニッ、と笑うとロビンは優雅な仕草で紅茶を新しく注いでくれる。

淹れてもらった紅茶の香りは、爽やかなレモンの香りがした。口に含めばほんのり酸味も感じるような?

「レモンいれていないのにレモンティーのような味がするわ」

「レモンの皮を乾燥させていれてるんですよ。風味付けですね。ちなみにファーマン侯爵領の新作です」

「すごい! 新しい紅茶までできたのね!?」

「フレバーティーです。レモンが豊作だったんですけど、ジャムにするのに皮の苦みが苦手な人もいるので……皮を乾燥させて使えないかなって」

「アリシアは本当に色々思いつくのね」

「思いつくだけです。思いつくと、お父様が何故か形にしてしまうんですよねぇ」

相変わらずのチートなんです。とアリシアはふへへと小さな笑い声を上げた。ファーマン侯爵の溺愛ぶりに、アリシアのお婿さんになる人はちょっと大変かも……そんな感想を抱いてしまう。でもロイ兄様なら平気かしら? チラリと見る。

「……姫さん、馬に蹴られるから余計なことはしないんですよ」

「別に何もしてないわよ?」

ひそりと耳元に囁かれ、私も同じようにロビンの耳に囁く。

ロイ兄様とアリシアは私たちの顔を見て同じように首を傾げた。

「どうかしたの?」

「いいえ。なんでもないですよ。ねぇ?」

「そ、そうね。大丈夫。話の続きをしましょう?」

「……え、あ、はい! そうですね!?」

急にアリシアが変な表情をして見せたが、一瞬固まった後、一度咳払いをしてみせた。そして第三部があるとして―――― と前置きをしてから話しだす。

「トラット帝国だとレナルド殿下を初めとした、側近の方々。あとは……他の皇族の方とか? ですかね。ラステア国の大人の色気から、トラット帝国だとお兄さんタイプの攻略キャラになりそうです」

「お兄さんタイプ……」

「年齢的な話ですよ? 性格的な問題ではなく。でも……トラット帝国に向かうなら、それなりの理由が必要ですよね。ラステア国の問題の地続きで、今回のようにシュルツ卿が関わっていたとか?」

「それはありえそうだね。彼はレナルド殿下の密偵も兼ねている。聖なる乙女に接触してもおかしくない」

「でもそれでトラット帝国に行くのは理由が弱くない?」

私がそう言うと、アリシアは考え込む仕草をする。そして私の顔を見て、小さな声で「あっ……」と呟いた。アリシアの顔はみるみるうちに青ざめていく。

「ど、どうしたのアリシア!?」

「そ、その……理由。理由なんですが……レナルド殿下が攻略対象になるのは確定だと思うんです」

「そうね。見た目の問題かしら?」

「はい。ですが……その時点でレナルド殿下は 既(・) 婚(・) 者(・) のはずです。でも基本的に既婚者が攻略対象になることは、ありえません。乙女ゲームの設定上、不誠実ですから」

「――――それは、私が……死ぬかもしれないということ?」

「可能性はあります」

そうか。そうよね。ラステア国でも、悪役令嬢はサリュー様。ウィズ殿下のルートなら悪役令嬢は断罪されて、ウィズ殿下は何の憂いもなくヒロインと一緒になれる。

もちろんこれは現実問題としては難しい。なにせサリュー様はウィズ殿下の番だもの。でも……それすらも超える何かをヒロインがするとか? そんなことがあれば話は別だ。

王族との婚姻は成される。

ただここでラステア国でも誰ともくっつかない。ファティシア王国での状態と同じになるなら、トラット帝国へ舞台がうつる。トラット帝国で一番、皇位に近いのは皇太子であるレナルド殿下。そしてその時点で私はレナルド殿下に嫁いでいるのだ。

一夫一婦制ではないから、側室をとることは問題ないだろう。だが……あのレナルド殿下だ。ただのモブ王女。有益ではない他国の姫は、聖属性を使える聖なる乙女と比べたら価値は限りなく低い。

しかもトラット帝国は一〇〇〇年もの間、聖なる乙女を探している。今の皇帝陛下も喉から手が出るほどほしい存在。それが聖なる乙女。もしかして私、トラット帝国で悪役になってしまうのかしら? そうじゃないと、私を排除する理由がないもの。一応、レナルド殿下と私の婚姻は政略のはずだし。

そんなことを考えていると、ロイ兄様がぽつりと呟いた。

「……トラット帝国に行く理由は、ルティアの死、かもね」

「え?」

「ルティアを悪役にするには無理があるから」

「そ、そうかしら?」

「たしかにモブの王女としか表記の出てこない姫さんが悪役はちょっと……」

「そんなことないかもしれないわよ!?」

「いや無理っすよ。それよりも、姫さんがあの皇太子に殺された。とかなら聖なる乙女が動く理由になるんじゃないんですかね? ロイ様なら絶対に動くはずです」

ロビンの言葉にロイ兄様とアリシアが小さく頷く。

そんなに無理だろうか、悪役……

いや悪役をやりたいわけじゃないけどね。そうなると私は、どこまでいってもただのモブとして話に関わることもなく死んでいくことになりそうだわ。

実際には起きないことを強く願うばかりだ。