軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

239.女の子たちの集い 2

翌日から、キャスを中心に商家の子たちからレクチャーを受けることにした。

好きを見つけるにしても、偽物とか粗悪品を掴まされては不味いもの。

それに王族だからと値段をやたら高く設定したりとかね。

商家の子たちはその辺の審美眼がやはり凄かった。あと知識量も凄い。

「私……野菜の収穫時期とか、作付け方法なら答えられるのに……」

「それはそれで大事だと思う、ますが……淑女的にここを押さえておけば、というのもあるんですよ」

「なるほど」

「流行ってほーんとはやいですものねぇ」

ぽやっとした話し方の子は、キャスの友達。ルナーレ・モンテール。彼女の家は小さな宝石やレースやリボン、ボタン、刺繍糸といった小物系を扱っている。

「高ければ良い物、というわけではないというのは知っているけど……でも見分けるのはちょっと難しいわね」

「宝石なら石の透明度も大事ですが、インクルージョンの入り方とかもぉあったり?」

「いんくるーじょん?」

「インクルージョンは内包物、という意味ですー。普通はぁ欠点なんですけど、でもインクルージョンの入り方によって美的な効果を生み出すものもあるんですよ」

「えーっと、透明度も大事だけど内包してる物によってそれも大事になる??」

「そんな感じでーす」

ルナーレはニコニコしながら教えてくれるが、すでに私の中ではいっぱいいっぱいだ。

みんな、みんなこんなことを普通に覚えているのだろうか?? アリシアに視線を向ければ、小さく首を振る。そのことにちょっとだけホッとした。

「これを押さえておけば、とはいうけど……流行もあるわけで……それはどうするの?」

「んーと……定番商品。というものがあるんですぅ。でもこの定番商品が難しくてぇ」

「て、定番なのに?」

「定番こそ入れ替わりが早いんですよねぇ。もちろん、一粒石で本当にシンプルなデザインは一〇年経っても使えますけどぉ」

定番商品だからと、気を抜いていると野暮ったくなってしまうのだとルナーレはいう。

それは服にも通じるらしい。なるほど奥が深い。

「一粒石の方が買うのは安全?」

「基本的には……でも、シンプルなデザインってオシャレ上級者なんですよねぇ」

「お、お洒落上級者……」

「そうなんです。その辺も見極めるには~やっぱりお茶会とかでるのが良いですよ? マダムコレスタや、ファスティール伯爵夫人のお茶会はオシャレな方が多いです」

「で、できれば徐々に段階を上げていきたいわ……そもそもお洒落もだけど、好きな物ってどうやって見つければいいのかわからないのよ」

そう話すと、キャスもルナーレも顔を見あわせる。そして普段の私の生活を聞いてきた。

私は普段なにをしているかを彼女たちに伝える。とはいっても、難しいことはしていない。

学園にいるときは勉強が中心だし、休みの日は王城に戻ってリュージュ様からの作法の手ほどき。それに自分の畑の様子を見に行ったり、読書をしたりとそれぐらいだ。

「……作法の手ほどきはともかく、畑はやめたりとかは難しいんですかぁ?」

「土いじりがストレス解消なのよ。これだけは絶対に無理ね」

それは仕方ない、とその場にいた全員が頷く。これには少し驚いた。

てっきりもうやめればいいのに、といわれると思ったからだ。

「みんな止めないのね」

「うーん……畑って、薬草とか育ててらっしゃるんですよね?」

「ええ、そうよ。よく知ってるわね……?」

「えっと、フィルタード派の子息子女の間でちょっとした噂になってて……」

「私の畑いじりが?」

「『さすが三番目、やることが貧乏じみている』ってぇ言ってたんですよねぇ」

「なるほど?」

ルナーレは正直に話してくれる。私がそれに頷くと、アリシアがぷくっと頬を膨らませた。普段は私がする方だからちょっと珍しい。

どちらかというと、普段のアリシアって私のお姉さんみたいだものね。

「貧乏じみているだなんて失礼な! ルティア様が薬草畑を作ったからこそ、ポーションがファティシア国内で流通するようになったのに!!」

「え、そうなの!?」

「そうなんです!」

「なんかー聞いている話と違いますねぇ」

キャスとルナーレはそういうと首をかしげた。

私もその噂を聞いたことがあり、「ライルが発案したっていわれてるのでしょう?」と二人に聞き返す。すると違うと首を振ったのだ。

「違うの?」

「その噂も聞いたことはあるんですけど……私たちが聞いてるのは、『聖なる乙女』がライル殿下へ進言したって話かな」

「聖なる乙女……? でも今、神殿から『聖なる乙女』として認定された人はいないはずよ?」

「そうなんだよな。でもカナン侯爵は『聖なる乙女』に会って、祝福をもらったって……」

「祝福??」

祝福、とはなんだろうか? アリシアをチラリと見るが、アリシアも不思議そうな顔をしている。つまり知らない??

そうなると神殿の人に聞かないとダメなのか、それともカーバニル先生なら知っているのか?? さっぱりわからない。これは一端戻ったときに、先生に確認しなければならないだろう。そしてロイ兄様にも情報を共有しないと……

「祝福をしてもらうと、体調が良くなるんだって」

「体調が良くなる?」

「そう。そんで、活力が湧いてくるから何でもできるって。やることなすこと成功するって……ま、そんな上手い話があるわけないんだけどね」

「商家の人間としてはぁー眉唾ものかなって。でも、カナン侯爵がいっていることなので、信憑性が増しちゃったというかぁ……」

「『聖なる乙女』なら教会の承認が必要だし、勝手に名乗るのはできないの。もちろん聖属性の力を使えるなら、候補としては名乗れるのだけど……新しく神殿に登録された人がいるのかしら?」

「その辺はさっぱり。ただカナン侯爵とフィルタード派の貴族たちが持ち上げてるのだけはわかるけど」

カナン侯爵はフィルタード派の貴族。商家からの成り上がりで、他の古参の侯爵家よりもずっと新しい。そのカナン侯爵がフィルタード派にいるのは、自分たちに利益があるから。

つまり『聖なる乙女』の噂を広げることは、カナン侯爵にとって利益があるということ?

でも祝福の内容って、聖属性で体の不調を取り除いただけのような気もするのよね。それぐらいなら私や神殿の聖属性持ちの人たちでもできる。もちろんポーションでも代用可能だ。

ただ「やることなすこと成功する」って何だろう? 聖属性にそんな力はないはず、よね? それとも私が知らないだけであるのかしら??

もしくはヒロインには何か別の力があるとか…… うーん。考えてもなにもわからない。

でもライルに会ったこともないはずなのに、ライルに助言をしたとかは見過ごせないわね。ただ絶対は言い切れない。何かの拍子に会ってる可能性もあるし。

「一応、ライルにも確認はするけど……たぶんあの子も『聖なる乙女』を名乗る人に会ったことはないと思うわ」

「なんかこう、アレだな。なんでも良いことはライル殿下がやったーとか言ってる感じなんだよな」

「そうなのね……まあでも、ライルが私の畑を手伝ってくれているのは本当のことよ。ポーションを作ろうとしたのは、魔術師団長が私の畑を見て作れるって思ったからだし」

「完全に嘘でないところがぁ悪質なんですねぇ」

「悪質?」

「畑は手伝っていたんですよね?」

「そうよ。今も手伝ってくれてる。私が学園に通っている間は面倒見てやる!って」

「そしたら、ある意味でポーションはライル殿下が作ってるともいえますよね」

「そうね。私だって私一人で完成させたとは思ってないわ」

「そうなるとー嘘ついてる人には、それは違う! といっても、自分はこう聞いていただけって言い逃れできちゃうんですよぉ」

ルナーレは悪い人はなんでも自分に都合良く解釈するし、説明する。といった。

たしかにそうかもしれない……そもそも『聖なる乙女』がライルに進言した、だって「そう聞いていた。伝聞だから途中で話が変わってしまったのかもしれない」ということもできる。

……ライル自身は、作るのを手伝っただけと言って回ってるみたいだけど……それもライルが「功績をあげているのに、主張しないなんて素晴らしい殿下だ」って思われる一端になるかもしれない。

レシピ自体はラステア国からもらったものだし、研究をしていたのは魔術師団長なのだけど。その辺は考慮されないのだろう。

私は大きな吐息をもらす。

お友達作り、とは―――― 私に新たなものをもたらしていくのだな。