軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

235.悪役令嬢、奮い立つ 2(アリシア視点)

お昼だけは成果報告で一緒に食べる。

それ以外はそれぞれで食べる。そんな決まり事を自分たちに課した私たちは、さっそく声をかけるべく動き始めた。

まあね。わかってた。わかってました。

貴族家の子たちは挨拶をして、返してはくれるがその先が続かない。

私たちが朝と夕、別々に食べるようになったことに気がついているけれど遠巻きに見ているだけ。

ひそひそ、そわそわ。そんな印象を受ける。

だけど近寄ってこない。まるで珍獣にでもなった気分だ。

そんな中でも、ルティア様は平民の子とお話をしているのだからコミュ強だと思う。

身分なんて関係ない。お話したい人と話す。それがルティア様なのだ。それってとても大事なことだと思う。

それに平民の子と王女が仲良く話しているのだ。

自分も、と話に混ざろうとする子は出てくるだろう。貴族家の子たちは、自分たちから話しかけて良いのかチラチラとルティア様を見て様子見中といった具合。

そのついでに私にも話しかけてくれないかなぁ……チラリとルティア様の方に視線を向け、他力本願な考えが思い浮かぶ。

だけど自分から話しかけないとダメなんだよね。なにせ侯爵令嬢なんだもの。

身分的に考えるなら、自分からドンドン話しかけないとダメなのよね……それが社交ってものでもあるし。

こう考えると、ヒロインって得だ。

悪役令嬢は高位貴族なばかりに、みんなに話しかけるタイミングが難しい。

だけどヒロインは下位貴族。上の人たちからも話しかけやすい。それに貧乏な男爵家、という設定もだ。

商家の子たちの方が良い暮らしをしている可能性だってある。

天真爛漫、自由奔放、生来の性格と家格も相まって親しみやすくなるのも当然と言えば、当然だろう。ここがヒロインのための世界であるならば、だけど……

「私も……頑張らないと……」

シャンテ君のアドバイスから、商家の子たちをピックアップしていく。

商家の子で、尚且つフィルタード派ではない子。いや、商家の子ならフィルタード派でも仲良くなれる??

フィルタード派の貴族子息子女たちは、どちらかといえば選民気質。

下手すると裕福な商家の子は、彼らに目をつけられるといじめられたりとかしないだろうか? それともそれを逆手にとって自分を売り込む??

商家の子って、商売っ気の強い子もいればそこまででもない子もいるし……

向上心の塊の子を探すべきなのか、それとも控えめな子にすべきなのか。

色々と考えていたら何をしたいのかわからなくなってきた。

お友達。お友達がほしいのよ。私は。

商売相手ではなく。いや、運良く商売に繋がれば万々歳だけど!

「いや、違う……ちがうな……」

深いため息を吐く。本当はわかっているのだ。

今の狭い世界で満足してる自分を、お友達なんて増やさなくて良いと思っている自分を。

それじゃ断罪のときに誰も味方してくれない。ルティア様やロイ様たちは味方してくれるけれど、それだけじゃ偽りの証言を事実だと受け止められかねない。

断罪は大勢の人の前で決行される。

たとえ私に非がなく、断罪が失敗に終わったとしても噂まではどうにもできない。瑕疵ありの侯爵令嬢、そんな娘を有する侯爵家、と誹りを受けるかもしれない。

だってどう足掻いてもフィルタード派を100%いない状態にはできないだろう。

派閥割れするかもしれないけど、フィルタード派にはカナン侯爵家もついている。彼らがどう動くかもわからない。

私の断罪が失敗に終わったとしても、そこで終わり。ではないのだ。

断罪後も――――この世界は続いていく。

物語やゲームの世界なら、悪人は退治されました。めでたしめでたし。で、すむかもしれない。だけど私はこの世界で生き続けるはず。

家のために、け、結婚だってしなきゃならない。

そのときに瑕疵のあるなしは、影響あるだろう。相手に。そう、だって、私は王太子妃になりたいわけじゃないもの……

パッと顔が思い浮かび、私は慌ててその姿を打ち消す。

いやいやいやいや。それこそ無理よ! 無理無理!!

さすがに無理だよ……うん。

「……おトイレ、いこう」

どうにもならない。顔でも洗ってスッキリさせるべきかも。そんなことを考えながら、私は席を立つ。すると机の角に足を引っかけてしまった。

「うひゃっ……!!」

「あ……」

「にぎゃっ!」

べしょっとそのまま転んでしまう。うううっ……恥ずかしい。恥ずかしすぎて今すぐ埋まりたい気分だ。すると私の前に、手が差しだされる。

顔を上げれば、勝ち気そうな表情の女の子が私に手を差しだしてくれていた。

私は素直にその手を借り、お礼を述べる。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。お怪我はないですか?」

「はい。大丈夫です……えっと」

「ああ、私はカスティエラ・カナンと申します」

「カナン……ではカナン侯爵家の……?」

「傍流です」

「傍流……でもカナンを名乗っていらっしゃるなら、ご商売をなさっているのでしょう?」

さすがに傍流の家までカナンを名乗れるわけではない、はず。

カナン侯爵家はファティシア王国内の物流を担うほど大きな商いをしている。

しかし彼女はムッとした表情をした。何か悪いことを言ってしまったようだ。

「ご、ごめんなさい。私、他の侯爵家のことまで詳しく知らなくて……機嫌を悪くされたのなら申し訳なかったです」

「……いえ、まあ……カナンの姓を名乗るのなら、そう思うのが普通なので」

「そ、うなのね?」

「貴女様が悪いわけではないので、お気になさらず」

「えっ……でもそんなこと言われたら気になってしまうのだけど!?」

思わずそういうと、彼女はキョトンとした表情になる。だって中途半端な情報は気になるでしょう!? そうでしょう!?

あわあわしていると、彼女は「あー……」と小さく声を上げる。

「その、カナンの血を引く商才のある人間がカナンを名乗れるのです。それがカナンの流儀だから。でも自分たちがやったこと全部、『カナン』の功績になるので……」

「カナンの名前を名乗るなら、そうなる……わね?」

「でも失敗の責任は取らない。失敗した人間が全部背負わされる」

「カナンの名前でやっているのに?」

「そう。だから私たち傍流の者にとってカナンを名乗れることは必ずしも良いことではないのよ」

部下の失敗は上司の責任。何か問題があれば会社が責任を負うことになる。

だからこそ、報告・連絡・相談のホウレンソウが大事になるのだ。なんてことを新卒のときにいわれた気がする。

だけどカナン侯爵家では成功はカナン家のもの、失敗は個人の責任。そう切り分けているのだろう。それが良いか悪いか、そこの判断は微妙な問題だ。

単純なヒューマンエラーなら次があるよね、といえるけど……横領とか、粉飾決算とかになると個人の問題(組織的な場合もあるが)ともいえる。

「……難しい問題ね。カナンの名前があるからこそ、商売相手として信用してもらえることもあるでしょう?」

「それは、まあ……」

「成功がカナン家のものとして広まるとしても、それに見あうリターン……つまり利益還元があれば気にならなかったりするのかな?」

「それは、あるかも?」

「そこは交渉の余地があるかもしれないですね」

「本家と交渉? そんなの無理に決まってるわ」

「そうかしら? だってカナン家はそもそも商家から侯爵家になったのよ? 自分たちの利益になるから、名前だって名乗らせる。今後も定期的な利益を生み出すなら、交渉の余地はあるわよ!」

むしろ今まで交渉してくる人がいなかったから、そのままなのでは? と問いかける。

確かに侯爵家は大きな家だけど、不満を持つ人たちが集まれば……そしてその人たちが別の貴族をバックにつけて仕事を始めたら? それは無視できなくなる。

一種の労働組合みたいなものかな。と、考える。

商業ギルドは商業全体のまとめ役だから、個別の家の問題にまで口は出せないのよね。

「……なんか、変なこと考えるんですね?」

「え、そ、そうかな!?」

「変ですよ。普通はそんなこと考えませんもん」

「そう、なのかな? こう、自分でも領地で色々手伝っているからかも?」

「領地で……?」

「え、ええ……だって私は一人娘だもの。あ、そうだ。そうよね。私、名乗ってなかった。アリシア・ファーマンです」

そういって手を差しだすと、彼女――――カスティエラ・カナンは苦笑いを浮かべながら私の手を握り返してくれた。