軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209.後悔する人 3

まだ術を解除するわけにはいかないから、サティ嬢は拘束されたまま。

顔色は真っ青なままで、このまま死んでしまったらどうしようと心配になる。

「うーん……かすかに、息……は、ある」

「ポーションならあるわ」

「ありがとう」

ちょっとだけ残念そうな物言いだが、気のせいだと思いたい。

カーバニル先生が腰に付けていたポーチから、ポーションを取りだしカティア将軍に手渡した。

意識のないままで飲めるのかな?そんな心配をしていると、カティア将軍はポーションを口にする。そしてそのまま、サティ嬢に自分の口を重ねた。

それを何度か繰り返すと、ほんの少しだけサティ嬢の顔に赤みがさしてきたのだ。ポーションがちゃんと効いている証拠だろう。

カーバニル先生はまだいるか?とカティア将軍に声をかける。

「うーん……胸元の傷はこれで確実に治ったけど、折れた骨に関してはまだ足りないかなぁ」

「やっぱりさっきのは骨の音なのね」

「そう。無理矢理動かされてたから、動きに体が追いつかなくて折れたのよ」

「ゾッとしちゃうわね。そんなことまでできるなんて」

二人の会話に私も背筋が寒くなった。私も……そうなる可能性があるのだ。

アイゼンによって印を付けられてしまったから。もっとも、まだサティ嬢に印が付いているかはわからないけれど。

「そうだ……カティア将軍。サティ嬢に印はついてますか?」

「印?」

「あの、こんな印……です」

そういって私は自分の右手首を見せる。あまり心配させるのもなと、さっきお礼を言いに行ったときは言わなかったのよね。

カティア将軍は私が手首を見せると、柳眉を逆立てた。将軍が怒るとそれだけで迫力が増す。

「これ、あの男が付けたのね?」

「えっと、え……?男?女の人じゃないんですか??」

「男だったわ。アレは、男」

「私……サティ嬢の視点で、彼女とアイゼンと呼ばれていた侍女?のやりとりを見ていたんです。だからてっきり女の人かと」

「アイゼン、というのね……」

なるほどと、カティア将軍は頷く。私が首をかしげると、側にいたオルフェさんが説明してくれた。

名前はとても重要なものなのだと。

「名前……それはレイランの術者だからですか?」

「正確には古の術が使える者にとっては、かな」

「古の術……」

「持ち主そっくりの人形を形代にすることは、古の術の流れの一つだ。だからこそ、ルティア姫の夢の中へリオンが入り込めた」

「私そっくりな人形にカティア将軍の髪を使っているから?」

「そう。そっくりな人形。そして人形に本人の名を使って呼びかける。それが長く続けば続くほど、術は強度を増す」

悪いものから守ってもらうように願いを込めて。でもその人形を使えば、逆のこともできる。だからこそ、持ち主は生涯大事にするのだとオルフェさんはいう。

それを知っていながら、サリュー様の人形をサティ嬢に渡した。父親なのに、なんて酷いことをするのだろう。

サリュー様だけでなく、サティ嬢も可哀想になってくる。

もしかしたらサリュー様の人形を持っていたから、サティ嬢はウィズ殿下への恋心を利用されたのかもしれない。

それにサリュー様が人形を持っていたら、こんなことにはならなかっただろう。

「まあ、今時の人は古の術の存在を知らないからね」

「でも……」

「古の術は良いことも、悪いこともどちらにも通じている。扱いの難しいものなんだよ」

オルフェさんはそういってチラリとオルヘスタル魔術師長を見た。

オルヘスタル魔術師長は項垂れる。自分がしたことが、どういったことを引き起こしたのか目の当たりにしたからだろう。

「あ、あったわ。ルーちゃん」

その声にカティア将軍の方を見ると、サティ嬢の正面に立っている。私の位置からは見える場所に印はない。

手招きされ、カティア将軍の側にいく。すると将軍がサティ嬢の胸元を少しだけ寛げた。胸元に私の手首に付いている印と同じ印。

ということは、私も同じようにアイゼンに操られる可能性がある。

聖属性だけで対抗することは難しいのではなかろうか?拘束の手伝いはできても、操られた状態は変わらないようだし。だけど、私の印よりちょっと薄い気がする。

「このまま、サティ嬢は拘束していないとダメなんですよね」

「そうね。印が消えてないってことはアイゼンってやつと繋がってるわけだし」

「消えたら……」

「消すには、術者が解除しないと……」

オルヘスタル魔術師長の言葉に、カティア将軍がムッとした表情になった。

「捕まえれば良いんでしょー?名前もわかったし、捕まえられるわよ」

「そう、簡単にいくでしょうか?その名前が本当の名前とは限りませんし」

「一時的にでも使っていたのなら縁ができてる。追うのは難しくないよ」

「だ、そうよ?」

オルフェさんの言葉に、オルヘスタル魔術師長は危険だという。しかしカティア将軍は譲らなかった。

「夢の中でアイツに怪我を負わせたわ。ルーちゃんの手首に印が残せるなら、同じ場所で怪我を負ったアイツにも影響がある」

「本調子でないなら、我々に分があるよ。僕も人形師の端くれだ。君の知らない古の術を知っている」

「そ、れは……ですが……」

カティア将軍やオルフェさんの言い分もわかるし、オルヘスタル魔術師長の言い分もわかる。だがこのままでは先に進まない。たとえオルヘスタル魔術師長に、私を傷つける意図がなかったとしても今の私は危険人物だ。

このまま王城に置いておくのだって危ない。かといってファティシア王国にそのまま帰れるかといわれると、そうでもないのだけど。

「オルヘスタル。どのみちお前は、サティ嬢を拘束し続けなければいけない。探索に加わることはできないぞ」

「それはもちろん。この命つきようとも、彼女を拘束し続けます」

「ならばわかるだろ?」

コンラッド様の言葉に、オルヘスタル魔術師長は渋々ながら頷いた。

「そもそもカティア将軍にやめろと言って、止まるわけないでしょう?」

「そーよ。そーよ。ルーちゃんの一大事なのよ!?」

「夢の中で対峙した人形を持ってるのは我々ですからね。我がカティア家が総力をあげて術者を捕まえて見せますよ」

なので口をだすな。と、カティア将軍もオルフェさんも表情が物語っている。

それに神妙な顔でネイトさんが頷いていた。

コンラッド様は深いため息をつき、両手をあげて肩を竦めてみせる。お手上げだと言わんばかりに。

「仕方ない。カティア将軍に全権を預けよう。必ず、捕らえてくれ」

「言われなくても」

「将軍、そこは素直に「承知しました」だけで良いんですよ」

ネイトさんが深いため息をつく。その様子がおかしくてちょっと笑ってしまった。

ほんの少し、緊迫した空気が緩む。ふと、その瞬間に頭を何かがよぎった。

「あれ……?」

「どうしたのルーちゃん」

「なにか、頭の中をフッとよぎったの」

「なに?なにがよぎったの??」

「なんか、ここまで出かかってて……すごく、もやって……」

頑張れ!と、カティア将軍に応援されながら必死に思い出そうとする。

そう。最近のことだった。あれは、あれは……

「そうだ!シュゲール・ハッサン!!」

「シュゲール・ハッサンがどうしたの?」

「シュゲール・ハッサンも同じ印がついてたんじゃないかなって……」

「印……うーんでも、シュゲール・ハッサンはあのとき以来ピンピンしてるわよ?」

シュゲール・ハッサンは一度死にかけた。しかしデュシスの鱗によって救われている。

もしかしてシュゲール・ハッサンが死にかけたのは印によって術が発動したからではないだろうか?そう説明をする。

今だってサティ嬢の動きを、デュシスの鱗が止めているのだ。

もしもう少し鱗があったら?術が解けたりしないだろうか??

「うーん……シュゲール・ハッサンが操られていたのか?と言う部分が不明だけど、印があったから殺せたというのは、ありなの?」

カーバニル先生はオルヘスタル魔術師長を見る。少し考えてから、オルヘスタル魔術師長は可能かもしれないと、こたえた。

「シュゲール・ハッサンは憲兵隊長です。下手に操るわけにはいかないでしょう。彼の仕事内容をつぶさに把握してなければ不審がられます」

「でも一令嬢の行動なら把握しやすい」

「ええ。ですが……サティ嬢はまだ印が消えていません」

「でも私のより薄いわ」

オルヘスタル魔術師長に自分の印を見せる。カティア将軍もオルヘスタル魔術師長だけが見れるように、サティ嬢の胸元を少しだけ寛げた。

私とサティ嬢の印を交互に見比べる。

「これは……支配力が弱まっている……??」

「で、どうなの?」

「はいはい。威嚇しない。威嚇しない。つまり、鱗がもっとあれば良いと?」

「鱗なら、ユリアナたちがまだ持っているわ」

そういうとネイトさんは取りに行ってきますね~とのんびりした口調で、その場から消えた。消えたのだ!

私が驚いてカティア将軍を見上げると、カティア将軍はニヤリと笑った。